砂漠世界から去った二人――ギーゼルベルトと茶髪の少女はとある通路を歩く。

管理局やらアースラやらのと似た通路を片方は足音アリ、もう片方は足音一切なしで。

 

「では、この『スキルブラズニル』を移動させるというのか?」

 

「ええ、そうみたいですわね。シェリスも目覚めたようですし、『闇の書』の完成もそんなに先にはならない現状。備えは必然的に必要となるということですわね」

 

「ふむ……」

 

少女が語ることは納得できることではあるが、どうしても彼は解せない部分があった。

それは『闇の書』の完成が近い現状で、どうして備えだからと自分たちがここまで動かなければならないかということ。

所詮『闇の書』の一件はあくまで管理局の問題。シェリスが関わっていても、完成すればどの道引き上げさせるだろう。

娘の身の安全が第一優先であるジェドならそうすると考え、そうなると関わる理由が一切なくなることも分かる。

だからこそ分からない。関わる理由が一切なくなるはずなのに、自分たちが『闇の書』の一件にここまでする理由が。

 

「それは……ジェド氏の意向か? それとも――」

 

「アルの考えですわ。どの道、『闇の書』が完成してからシェリスを引き上げさせても、安全圏内に移動するまでの時間で私たちに多少なりと被害が出うる可能性もある。ですからアレが私たちに災厄を齎そうとし、尚且つ管理局が手に負えないのであれば……いっそのこと私たちの手で処分したほうがいいという考えらしいですわね」

 

それでギーゼルベルトの疑問はある程度解けることになる。

つまるところ、『闇の書』が齎すであろう災厄が自分たちに被害を出さぬよう備えるということだ。

アレで管理局やらがどうなろうと知ったことではない。自分たちに何も被害が出なければ一切の手出しはしない。

裏を返せばそういう風にも聞こえ、少し冷たいような感じさえもするが、彼もそこを気にすることはなかった。

 

「しかし、もし俺たちが手を下す羽目になったとして、その後はどうする気だ? 管理局とて馬鹿ではない……『闇の書』の一件が解決し、俺たちの存在が公になったのであれば、次はこちらに牙を向いてくる可能性が十分にあるぞ?」

 

「そうなったとしても、彼らが私たちを捕らえることなど出来ませんわ。だって――」

 

 

 

 

 

「彼らの持ちうる技術でここを捕捉することなど、出来るはずがありませんもの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第二十二話 重き罪を背負う者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

端的に言えば、今回の戦闘は惨敗だったと言える結果だった。

フェイトは魔力を奪われ、恭也たちとなのはたちは対象に逃げられるという結果。

魔力を奪われただけでフェイトの命に別状はないが、それでも痛い結果に変わりはなかった。

そしてその結果の報告を兼ねたミーティングにて、司令部を再びアースラへと戻す形となる。

それはこの結果故の決定ということもあるが、一番は突然にして不自然に起こった仮司令部のシステムダウン故。

下手をすればこれが原因でフェイトの救助が遅れていた可能性もあったため、戻したほうがいいと考えたのだ。

幸い、アースラは武装の取り付けが完了して試験運用が出来る段階……それ故、戻すことに何の不都合もなかった。

だからこれに関しては何ら問題はないのだが、別の問題がまだまだ山積み状態で残っていた。

 

「仮面の男に謎の集団……この二つは、やはり関係があるんでしょうか?」

 

「どちらも謎が多いから、一概にそうだと断言は出来ない。だけど、その可能性も十分にあるのは確かだね」

 

今回、フェイト側となのは側の両方に出現した仮面の男。

これは以前も出現こそしたが、そのときはその者の映像を取ることすら出来なかった。

しかし今回は違う。両方の側に於いて、仮面の男の行動を映像に残すことに成功している。

それを見ながら皆はこの男の正体について考えるが、当然と言うか……依然として明確な答えは出ない。

そしてそれに加えて今回フェイト側に出現した謎の魔導師のこともある故、謎が謎を呼ぶ状態となっている。

 

「そういえば、エイミィ。以前出没した集団の一人……確か、カルラ・クラムニーだったかな。彼女の情報は局のデータベースには?」

 

「調べてはみたんだけど、これが一切情報なし。指名手配をされているわけでもないし、それどころか個人データすら記載もされていない状態だね」

 

「そうか……まあ、そんなことだろうとは思ったよ。でなければ、あそこで不用意に自分の名前なんて出さないだろうしね」

 

当然と言えば当然の結果。しかし落胆の色は隠せないのも事実。

カルラの情報が局のデータベースに一切ないということは、今回の男と少女も可能性は極めて低い。

だとすれば本当に分からなくなる。謎の集団の素性も、その目的とすることも。

 

「以前の脅しの件は偽り……というよりも、彼女の独断だから気にしなくてもいいと言っていたみたいだけど、それも不用意には信じられないな」

 

「そうね……彼らの言動がどこまで本当でどこまで偽りなのかすら、私たちは分からない状態だから」

 

カルラの告げた脅しの発言を否定したギーゼルベルトの言葉すら俄には信じられない。

それは彼らのことが一切の謎に包まれている故、信じていいのかどうかすら分からないからだ。

せめて集団の誰かしらの素性でも判明すれば、そこから分かることも出てくる可能性はある。

しかし、現在までで出没した集団を構成する面子はたったの三人……しかも、これらは全てが情報なしと断定。

これでは分かるものも分からないため、皆は揃って溜息をつく他なかった。しかし――

 

 

《面子かどうかは分からないけど……それっぽい人をあと一人なら私、知ってるよ?》

 

――同席していた恭也のデバイス、オリウスの発言で空気は一変した。

 

 

謎の集団の構成メンバーである一人を知っている……これは非常に魅力的な発言だった。

もしかしたらそれで何かが分かるかもしれない。そんな可能性を含んだ発言だったのだから。

それ故に皆の視線はオリウス……というか恭也に集中し、一体誰だと尋ねるような視線を一様に向ける。

その視線に僅かではありつつも彼女は尻込みしつつ、ちょっと自信なさげに言葉を続けた。

 

《えっと確か、名前は……アドルファ・ブランデス、だったかな。薄紫の短い髪してて、いっつも白い服着てる女の人なんだけど……》

 

「知らない名前ね……その人は、ジェドさんの助手か何かだったの?」

 

《ん〜、そこんとこはよく分かんないけど……アイツの研究の手伝いをしてたのはよく見かけたかな。ちなみにだけど、私やアイラがあの場所から逃げ出した後に追い回してきたのもこの人だね》

 

「追い回してきたって……アイラさんの性格なら撃退しようとか考えそうなものだけど」

 

《あ〜、それは無理でしょ。大体私はそのとき主がいなかったし、アイラが単独で勝てるほど弱くないもん》

 

そこまで言い切ることに皆は驚きを隠すことは出来なかった。

そもそもアイラとて決して弱くはなく、どちらかといえば強いほうだと言える魔導師だ。

そのアイラが単独で出ても勝てないと断言する辺り、相当な力を有している魔導師なのだと推測できる。

 

《ま、私が知ってるのはこの程度が限界かな。アイラならともかく、私はあんまりあの人と話したことなかったしね》

 

「アイラちゃんならともかくってことは……彼女ならもっと詳しく知っているってことなの?」

 

《知ってると思うよ? そもそも、私が物心つく前からいた人だから、必然的にアイラのほうが詳しくないとおかしいでしょ》

 

「なるほどね……でも、聞こうにも当のアイラさんがこの場にいないからなぁ」

 

「ていうか……どこ行ったの、アイラは?」

 

同席しているリーゼロッテの言葉に誰もが首を横に振るかしなかった。

というのも、アースラに収容されてからすぐにアイラはどこかへと消えてしまっていたのだ。

去るときの様子を見た者からすると、引き止めるのが躊躇われるくらい怖い顔をしていたらしい。

それ故に声も掛けられず、引き止めることなど出来ず……結果として現在は行方不明中であった。

 

「まあ、彼女に関してはとりあえず後で放送を掛けて呼び出してみることにしよう。今は今後について話すほうが先決だからね」

 

話し合っていたことがこと故に本来ならば今呼び出したほうがいいのだが、クロノはそう言わない。

その理由がなぜなのかというのは非常に簡単。去り際のアイラの様子を聞く限り、今呼び出すのは得策じゃないからだ。

彼らからしたら出会った間もないが、アイラの性格は非常に分かりやすい。そのため、不機嫌なときに呼び出せばどうなるかも予測がつく。

呼び出しを完全無視する、不機嫌な顔で質問を適当に答える、呼び出した奴を来るや否や殴りつける。

怒っているときのアイラがする行動などこんなものだろう。だから、呼び出しの意味がない上に人的被害が出るのは勘弁願いたい。

それ故にクロノは敢えて今呼び出そうとは言わないし、付き合いの長い他の面々も反論なく全員頷いていた。

 

 

 

 

 

話し合いの時刻から僅かにずれた時間、アースラの一室にて話題の本人たるアイラの姿はあった。

誰もいないそこで大型のモニタを前にキーをカタカタと操作し、画面に映し出される映像を見ている。

本来ならば管理局員でもない彼女がこんなことをしてはいけない。しかし、現在のアイラにはそんなこと頭にはない。

それほどまでにアイラの頭を怒りという感情が占めており、それを一片も隠すことなく表情にも出していた。

 

「……やっぱりロックが掛けられてるか」

 

画面へと最終的に映し出された警告。それにアイラは僅かに舌打ちをする。

管理局に部外者がいること自体が稀だが、その少ないケースでもデータベースを勝手に弄られたら問題。

そのためコンピュータのその部分にはセキュリティが掛けてあり、部外者には見られないようにしている。

アイラ自身も協力者とはいえ、部外者であることに変わりはない故にこれに該当するため、そこでストップせざるを得ない。

 

「自分のを持ってきとけば解析も出来たんだけど、アイツんとこに置きっぱだしなぁ……」

 

正直なところ、アイラにとっては本当ならこの程度のセキュリティはあってないもの。

というのも、自身の愛用する機器があればパスワード解析を行い、突破することが出来るからだ。

ジェドの手伝いというのにはそういうことをする機会も多々あるため、自然と身についた技能である。

しかし、その愛用する機器というのも彼の元に置いたまま……これでは解析しようにも出来なかった。

 

「適当に入れてみる……ってのは止めといたほうがいいしなぁ」

 

適当に入れ続け、偶然でも起きればセキュリティが外れる場合とてあるだろう。

だが管理局も馬鹿ではない。パスワードを入れ間違えた場合に関する対策は何かしら打っているだろう。

そのためそういった策も除外。だけど、それを抜かしたら他に手はないために八方塞であった。

 

「かといって他に策があるわけでも――――っ!?」

 

モニタの前で策を考えるべく唸っていた矢先、部屋の扉が不意に開かれた。

その瞬間にアイラは驚きつつも画面を消し、コンソールから手を離して扉の方面へと振り向く。

するとそこには扉を開けて部屋に入ってきた三人……クロノ、エイミィ、ロッテの姿があった。

 

「およ……こんなところにいたんだ、アイラ」

 

「ああ……」

 

ロッテの言葉にアイラは素っ気無く返して歩き出し、三人の間を通って部屋から退室しようとする。

だが、退室する寸前でクロノに引き止められ、僅かに溜息をつきながらももう一度そちらへと振り向いた。

 

「一体、アタシに何の用だい?」

 

「えっと……オリウスが言っていたんですけど、アイラさんはアドルファ・ブランデスという人物とは長い付き合いになるんですよね?」

 

「……なんでその名前がいきなり出るのかは疑問だけど、まあ長いといえば長いわな」

 

「では、彼女について知っていることを教えていただけませんか?」

 

その言葉にアイラはどうしてと尋ねるような視線を向け、それにクロノは簡単に事情を説明した。

アドルファがもしかしたら謎の集団の一人かもしれないこと、彼女のことが詳しく分かれば集団の素性を知る糸口になるかもしれないこと。

説明されたことは情報が薄い現状では考えても不思議ではなく、アイラも面倒くさそうながらも分かったと頷いた。

そして一度は近づいた扉付近から再び遠退き、コンソール前の椅子に図々しくドカッと座った後、口を開いた。

 

「アドルファとは……そうだね、もうかれこれ約十二年くらいの付き合いだよ。出会った当初から得体の知れない奴でねぇ……自分のと個人情報とかはその他諸々を一切話そうとしない。こちらが尋ねたにしても、ヘラヘラとムカつく笑いを張り付かせてはぐらかすだけだったよ」

 

「つまり、アイラさんでもその人の素性とかは知らないということですか?」

 

「ん〜、知っている部分もあるにはあるんだけど……」

 

そこで言葉を一度切り、アイラはもう一度モニタを開いてコンソールを操作し始める。

先ほどもそうだったが無断でこんなことをするのはあまり感心は出来ない。だが、説明途中故に今は黙することにした。

そしてコンソールを操作する音が響き始めて少し経ち、画面がセキュリティの部分に入るとアイラはエイミィに目で合図する。

それはつまり、エイミィにセキュリティを外せと言っているわけであり、彼女も了解と頷いて近づき、すぐにそれを解除した。

そうしてモニタの画面がセキュリティの先へと移り変わったところで再びアイラと交代する。

交代してからまたしばしして検索画面を開き、アイラは事もあろうにアドルファとそこに打ち込んだ。

さすがに得体の知れない人物の情報がここに載っているとは思えず、検索しても何も引っ掛からないだろうなと誰もが思った。

 

 

――該当情報、一件

 

 

だからモニタにその文字が映し出されたとき、アイラ以外の誰もが驚くしかなかった。

なぜ管理局のデータベースにてその人物の名前で検索して、該当する情報が存在するのか。

考えても一向に分からないことを頭に巡らせ驚くしかない一同を後に、アイラはその情報をモニタに映し出した。

 

 

 

――重要指名手配人物、アドルファ・ブランデス

――性別:女、魔導師ランク:不明

――罪状:管理局員、または民間人の誘拐及び殺害。ロストロギアの無断所持及び使用。

――概要:○○年に起こった局員や民間人の誘拐及び大量殺人の折、難を逃れた局員の証言にて存在が発覚。

       逃れた局員以外の目撃者は全て殺害されており、その中には高ランクの魔導師も含まれていることから、

       この人物の魔導師としての実力は高いものだと推測される。

       尚、本人名に関してはその際に同時目撃された仲間と思わしき人物が呼んでいたことから判明。

       挙げている罪状以外にも多数犯罪を行っているため、この人物の手配ランクを特Sとする。

 

 

 

記載されていた年に起きたその事件はクロノが担当していた事件と酷似していた。

いや、酷似というより全く同じ……しかし、だとすれば妙であるとも言えることであった。

ジェド・アグエイアスの関わる事件で彼は情報が公開されていることはおろか、人づてに聞いてすらもいない。

誘拐及び大量殺人というのだから事は大きく、局員全体に行き渡らなければならないような情報なのに。

 

「エイミィは、知ってたか……?」

 

「う、ううん、私も全然知らなかったよ……」

 

エイミィの返答後にロッテにも視線を送るが、同じく知らないとばかりに首を横に振る。

ここにいる誰もが知らない情報の公開。加えてこの様子だと、局員の中で知っている人間が限られてくるのは明白。

なぜそのようなことになっているのか、なぜ知らなければならない情報が広まっていないのか。

アイラにより提示された情報はそんな新たなる疑問を生み、更なる困惑の渦へと落していく。

 

「管理局内部でどうこうは興味ないんだけど……アイツ、結構な重犯罪者だったんだねぇ」

 

「あれ? もしかして、アイラさんもこの情報を見るのは初めてなんですか?」

 

「まあねぇ……アタシは本人から公開されていると聞いただけさね。その頃は逃げ出すなんて考えなかったから、別に見ることもなかったんだけど……」

 

そこでもう一度表示されている情報に目を通し、僅かばかり溜息をついた。

そして息をついた後に再びコンソールを操作してモニタを消し、椅子からゆっくりと立ち上がる。

 

「ま、さっき書かれていたことがアタシの知る全てってことだよ。それ以外はアタシもよくは知らない……悪いけどね」

 

「いえ、十分ですよ。ありがとうございます、アイラさん」

 

頭を下げるクロノにアイラは返事を返すでもなく、出入り口方面へと歩んでいく。

だが、出入り口一歩手前のところで一度歩みを止め、再び彼らのほうへと振り向いた。

振り向いた後の視線はロッテのほうへとまっすぐに向けられており、視線に対して彼女は首を傾げるしかない。

そんな彼女にアイラは怒気のようなものが垣間見える瞳を向け、静かに口を開いた。

 

「ロッテ……後で隣の部屋に来な。ちょいと話があるから」

 

「は? でも、この後って言ったら私も用事があるんだけど……」

 

「なに、時間は取らせないさね……じゃ、待ってるから必ず来いよ?」

 

有無を言わさずそう告げ、アイラは早々と室内から出て行った。

ロッテを含め、残された一同はアイラの様子に顔を見合わせ、首を傾げるしかない。

彼女が怒るというのはここ数日でよく見掛けることではあるが、今回のはいつもと違う様子が見られる。

加えて昔からの知り合いと言っても最近では接点の薄いロッテに対して抱く怒りというのにも予想がつかない。

 

「というか、そもそもアイラは何でこんなところにいたんだろうねぇ」

 

本来なら一番最初に疑問に思うことをロッテは呟くが、これにも返す者はいなかった。

結局のところ彼女が何をしていたのか、なぜ怒っているのか……その全てが何も分からないままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしゅんっ!!」

 

《わ……大きなクシャミだね、アル》

 

とある一室にて、非常に盛大なクシャミをするアドルファに隣にいたカルラが呟く。

その一言に対して誰か噂でもしてるのかと聞くように返した後、答えを待つでもなくコンソールを操作する。

カルラ自身もアドルファの呟きに返すことはなく、移り変わるモニタへとその視線を向けていた。

 

《大分、研究のほうも進んできたね》

 

「そうっスねぇ……でも、今のままでは『盾』はもちろんのこと、『剣』も未完成状態。完全なる自立型デバイスを求めたこの研究を完全なものにするにはまだまだ時間が掛かりそうっスよ」

 

《じゃあ、研究の犠牲はまだ増え続けるの……?》

 

そこで向けられている視線に気づき、アドルファは手を止めて彼女のほうへと振り向く。

すると彼女が感じたとおり、カルラが向ける視線はどことなく不安そうな、それでいて悲しそうなものだった。

これはアドルファも含めた他の面子にはない部分……赤の他人に対して、優しくなれる部分。

だが、だからこそカルラは今行っていることに対しての抵抗が強く、酷い罪悪感に苛まれる羽目となる。

つまりこれは彼女の良い部分であると同時に、この状況下では一番辛くなるであろう部分でもあった。

 

「大丈夫っスよ、カルラ……ウチも、他の面々も、これ以上犠牲が増えないように努力するっスから」

 

《うん……》

 

諭すように告げて頭を撫でてあげるも、カルラの表情はやはり完全には晴れない。

性格を考えると当然だろうとは思ってしまうが、それでも仲間と思っている身としては辛いものがある。

しかしそれ以上の慰める術を知らないアドルファはもう何も言えず、ただ若干気まずい空気が流れる。

 

 

 

「はいは〜い♪ お邪魔しますよ〜、お二人とも♪」

 

――しかし、その人物の入室によって、その空気は取り払われることとなった。

 

 

 

アドルファたちの面子の中で一番扱い辛く、非常に空気を読まない人物。

肩下ほどの薄い赤髪と黒い瞳、アドルファと同じように上下白の半袖長ズボンといった服装。

顔立ちや体格を見る限り二十歳相当のその女性は室内に入るや否や、明るい声で二人に挨拶をする。

それにカルラはともかく、いつもなら彼女の登場に顔を顰めるアドルファも今日ばかりは助かったと内心で息をついた。

そんな中でその女性はつかつかと二人へと歩み寄り、そこでようやく空気を読み取ってその根源に目を向ける。

 

「あやや、何やらカルちゃんが沈んじゃってますね〜……何か悲しいことでもあったんですかぁ?」

 

《え……あ、ううん、別に何でも、ないよ?》

 

「ぶ〜……馬鹿にしてますね、カルちゃん。さすがのヒルデちゃんでも今のカルちゃんがいつもと違うくらい分かります!」

 

プンプンと口に出して怒っていると表現するが、明らかに迫力というものが欠けている。

見た目の年齢を見るとこの女性――ヒルデのほうが上であるはずなのに、この状況下でも彼女が下に見える。

それは面子の中で一番精神的に幼いと言える故、今に至っては誰も疑問にも思わないことであった。

 

《で、でも本当に何も……》

 

「ない、ですか? 本当に本当ですか?」

 

《う、うん……》

 

ズイズイと顔を近づけながら問いただしてくるヒルデに一歩引きながらも、彼女は小さく頷いた。

すると彼女の表情は一転して笑顔になり、その途端にカルラの両頬を抓まんで軽く引っ張り出す。

 

「何もないならほら、笑って笑って♪ カルちゃんは笑ってるほうが可愛いんですから♪」

 

《い、痛いよ、ヒルデ……》

 

語るのが念話である故に抓まれても言葉に影響はないが、それでもちょっとだけの痛みがある。

だからカルラは無理矢理逃げることはしないも、抗議の言葉を彼女へとぶつけた。

しかしヒルデはその言葉にさらりとスルーし、尚も笑ってと告げながら頬を引っ張り続ける。

それ故に仕方なくといった感じで少し引き攣り気味の僅かな笑みを浮かべると、彼女はパッとその手を離した。

 

《ヒルデ、強引過ぎ……》

 

「だって〜、こうでもしないとカルちゃんは笑ってくれませんもん。だ・か・ら、これは仕方のないことなんです」

 

《そ、そうなの……?》

 

自信満々に言われてカルラとしてもそうなのかと思い、アドルファへと顔を向けて尋ねる。

それに尋ねられた彼女は苦笑するのみで何も言わず、ポンポンとカルラの頭を軽く叩くだけだった。

そしてカルラから手を離した後、再びヒルデのほうへと向いてその口を開いた。

 

「で、今日は一体どうしたんスか、ヒルデ。いつもは詰まらないからってここには近づかないのに」

 

「ふえ? あ、ああ、危うく忘れるところでした!」

 

本気で今まで忘れていたのか平手を拳でポンと叩きつつ、またも強引にアドルファの座っていた席をぶんどる。

ぶんどられてさすがにこけたりはしなかったが、相変わらずのその強引さに彼女も溜息をつくしかなかった。

しかし、アドルファの溜息を気づきもしない彼女はぶんどった席に座って黙々とコンソールを操作し、とある画面を表示した。

 

「これって、この間の戦闘っスよねぇ?」

 

《うん。私があの人たちに脅しを掛けたときのだね》

 

そう返すカルラはなぜか自分の頭を擦るように撫で始める。

だが、不可思議な行動も理由を知るアドルファとしては苦笑するしかなかった。

 

「痛かったっスか、ギーゼのお仕置きは?」

 

《痛かった……アルのよりもずっと》

 

時間的にはつい先ほどのことなのだが、つまりはそういうことであった。

脅しを掛けたという事実は掛けた本人以外は知らず、事実を知ったギーゼルベルトにお仕置きされた。

といっても簡易なもので拳骨一発だったのだが、これがまたアドルファがするのよりも断然痛い。

なまじお仕置きされることがほぼないカルラはその痛みを受けた後、涙目になってしまったのを覚えている。

それにやりすぎだとは思わないながらも、さすがに気の毒に思ったアドルファはもう一度彼女の頭を撫でつつ視線を戻した。

 

「それで……なんで今更この映像を見てるんスかね?」

 

《さ、さあ? それはさすがに本人に聞いてみないと……》

 

返された言葉は非常に最もなことではあるのだが、実際問題それは難しいことでもあった。

なぜなら、映像を眺めるヒルデは先ほどからの二人の会話が耳に入っておらず、うっとりとした表情で眺めるだけ。

戦闘の映像をうっとりしながら眺める意味も分からないが、どの道聞いたところで答えは返ってこないだろうと分かる。

それ故に流れる映像から推測するしかなく、二人も映像へと視線を移して考え始める。

すると映像を眺める内、二人は一つだけ妙だと思えることに気がついた。

 

「さっきから、一部の映像だけが繰り返し再生されてるっスね……」

 

《しかも、決まって全部が同じ人の映ってる部分だよ……》

 

同じ部分の繰り返し、加えて繰り返される全ての映像に同じ人物が映し出される。

このことから二人はヒルデが映像をうっとりしながら見る理由が分かり、溜息をつくしかなかった。

 

「まあ……好みや趣味は人それぞれだから、ウチは何も言わないっスけどねぇ」

 

《でも、さすがにこれはどうかと思うよ……》

 

ヒルデに聞こえるように口に出し言うも、やはり彼女が返事を返してくることはなかった。

そうしてしばらくの間、モニタを独占するヒルデのせいもあり、その間の作業は一切進まないのであった。

 

 


あとがき

 

 

判明することに加え、新たな伏線を増やしてみました。

【咲】 あんたはほんとそればっかりね……ちゃんと回収出来るの?

回収しますさね。そもそも、出してるものは回収しないと話が進まないものばかりだし。

【咲】 ふ〜ん……ところで、アイラもまた大胆な行動に出たわねぇ。

行動派だからね。証拠とか集めるよりも、本人に直接聞けば済むだけの話と考えてるわけだよ。

【咲】 知り合いだから出来る芸当よね。

んにゃ、全く知らない相手でも彼女はこういった行動に出るね。

【咲】 ……行動派にしてもそれはどうかと思うけど。

仕方ないよ、それがアイラの性格なんだから。

【咲】 ふ〜ん。それでさ、最後のほうに出てたけど……ヒルデが見てた人物って誰?

さあ、誰だろうね?

【咲】 秘密ってことね……。

ま、今はね。でも、予測は出来ると思うよ?

【咲】 ん〜……見てた映像がカルラが脅しを掛けたときのもの。つまり、あのときいた面子の中の人ってことよね?

まあ、そうだな。それでも結構人数は多かったけど。

【咲】 で、アドルファが好みや趣味は人それぞれって言ってたから……。

言ってたから?

【咲】 ……ああもう、分からん!!

げばっ!! うぅ……イラついたからって殴らんでもええやん。

【咲】 私に考えさせるという行動をさせたあんたが悪いのよ。

り、理不尽だ……。

【咲】 はぁ……ま、結局のところ、いずれは分かることなのよね?

そういうことだな。

【咲】 そう。じゃ、そのときまで待つことにしましょう。

うぃ。では、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

では〜ノシ




アイラが行き成りの直球勝負に出たな。
美姫 「出たわね」
ロッテの反応が楽しみだ。
しかし、誰にも言わないのはまだ確信というか、確認をしていないからなのかな。
美姫 「そこまで考えている余裕がなかったんじゃない?」
どちらにせよ、どんな反応が待っているのか。
何が起こるのか。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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