室内にアラームが響いたのは、本当に突然のことだった。

フェイトが泣き止み、少しだけ落ち着く時間を置いて再び話し出そうとした矢先。

管理局が目的とする人物の出現を表す警報。それはそんなときに響き渡った。

そしてそれが響き渡ると同時に皆は今までの空気を払い、すぐに行動へと移した。

行動を起こして数分後、モニタールームの前へと移動した一同はエイミィがパネルを操作することによって映し出された映像を見ていた。

 

「三人、か……シグナムとこの男は以前もいたから分かるが、こちらは見たことが無いな」

 

「判明していない守護騎士の存在があったっていう可能性は?」

 

「ないとは言い切れないですけど、たぶん限りなくゼロに近いと思います」

 

映像に映し出された人物は計三人。その内、二人ほどは誰もが見たことがある。

烈火の将と名乗ったシグナム。そして獣耳と尻尾を生やしているガタイのいい男。

この二人ならば守護騎士だと断定出来るのだが、問題なのはその中に存在するもう一人。

灰色の短髪に長袖長ズボンの蒼白い衣服、そして手にはシグナムのものよりも大きな剣を握る男。

そんな男はデータにも記載されてはいない。故に、守護騎士であるという可能性は非常に薄い。

 

「だとすれば……先日のと同じ組織に属してる奴かもしれないねぇ。まあ、それだとなんで守護騎士と共にいるのかが疑問だけど」

 

「単純な答えだと、手を組んだということになるんですけど……」

 

「そうだと非常に厄介だな。彼らは俺たちを抑制する手段を持っているから、迂闊に打っては出れないぞ」

 

恭也の述べた自身らを抑制する手段。それは先日カルラという少女が告げた脅しの言葉。

自分たちやシェリスに何かしらの危害を加えれば、自分たちの大切なものを容赦なく破壊しつくす。

そしてそれをすぐにでも行える位置に自分たちはいる。だから、下手なことはしないほうがいい。

真実味を帯びるには若干力不足には感じるが、本当ならばこれ以上に恭也たちを抑制する手段はない。

 

「でも出撃しないといけないのも事実だろ? アイツらをこれ以上好きにさせるわけにもいかないわけだし」

 

アイラの言うことももっとも。脅しが怖くて迷っていては後手に回ったままになる。

しかし脅しが本当ならば最悪なことになる。だからこそ、出撃しないといけないのは分かっていても迷う。

そんな中、おずおずといった感じでなのはが挙手をしたことで皆の視線はそちらへ向けられた。

 

「え、えっと……戦わないで説得するっていうのは駄目なの、かな?」

 

「説得? この男をかい?」

 

「う、うん。あの人たちにももしかしたら、守護騎士の人たちと組んでまで戦わないといけない理由があるのかもしれないし……だったら、戦わないで分かり合う方法もあるんじゃないかなって」

 

確かにそうなれば良いのは事実だが、この状況では非常に甘い考えと言える。

そもそも、なのはが以前交戦したヴィータも説得に応じず、問答無用で襲い掛かってきた。

加えてああいう脅しを口にする連中だ……説得したとしても、受け入れる可能性など皆無に近い。

だけど、大概の者が甘いと思うその考えにも、ちゃんと支持する者は存在した。

 

「私も、なのはの意見に賛成です。分かり合えるなら、そのほうがどちらも良い方向に歩めると思いますし」

 

「アタシもなのはやフェイトと同意見だね。話し合いが通じるならそれに越したことはないよ」

 

フェイトとアルフ。なのはの意見に支持する者とはこの二人だった。

いや、むしろ二人が支持するのは当然のこと。なぜなら、なのはの説得によって二人の今があるのだから。

しかし、なのはに続けて二人までもが賛成したことに残りの者は困らざるを得ない。

確かに出来るならば恭也たちもそれに賛同したい。だが、話し合いが通じない可能性のほうが非常に高い。

だとすれば説得をするという意識のみで出るのは危険だと言え、だからこそ困ってしまうのだ。

 

「はぁ……どうしたもんかねぇ」

 

「むぅ……」

 

そういう考えのみで出るのは危険だと言いたい。しかし言ったところで無駄なのは分かる。

それほどまでになのは、フェイト、アルフの瞳から感じる意思は強いものだと感じられた。

だが、ここで下手に悩んで時間を浪費するわけにもいかず、結果として恭也たちが折れる形となった。

しかし当然の如く、その際には条件を提示する。説得するという意思を汲み取る代わりの条件を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第十九話 戦火は再び…… 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

青白い服の男――ギーゼルベルトは手に持つ剣を軽く振い、声を漏らす。

それに呼応するように先ほどまで相手をしていた魔獣が雄叫びを上げ、地面へと倒れた。

魔獣が倒れると共に近場を飛んでいるシグナムから睨むような視線が向けられる。

その視線は警戒しているというよりも、非難しているといったほうが正しいものだった。

 

「殺すな、と言ったはずなのだが……?」

 

「すまないな。強き者との戦に慣れてしまっている故か、加減の仕方をどうにも間違えてしまう」

 

「だとしても、こう何度も失敗されては邪魔しているという不信感しか出てこない」

 

シグナムの言うことももっともであるため、ギーゼルベルトはもう一度だけすまないと口にする。

それに彼女は深い溜息を一度だけつき、次は気をつけろとだけ告げて次の反応がある場所へと飛び立つ。

飛び立つシグナムに遅れまいと彼も続き、二人は魔獣の死骸を後にしていく。

 

(確かに腕は立つが……こうも失敗ばかりでは蒐集の邪魔にしかならないぞ)

 

ギーゼルベルトの持ちうる力は確かにシグナムも認めるほどのもの。

しかし、加減を間違えたからと失敗されたのは言動通り、先ほどのが初めてではない。

蒐集を開始してからほとんど全部で止めを刺してしまう。これではページなど溜まるわけもない。

こちらを支援するために派遣されたはずなのに、こういったことばかりでは返って邪魔でしかない。

しかし協力体制ということで帰れと言うわけにもいかず、少しばかりシグナムも手を拱いていた。

 

(はぁ……どうしたものか)

 

非常に頭の痛くなること故、シグナムは内心で溜息をつくしかなかった。

そんな中、突如後ろをついてきていたギーゼルベルトが足を止めてしまった。

今度は一体何なんだと半ば呆れ気味でシグナムも足を止め、彼のほうへと向こうとする。

 

「馬鹿者が……敵を前に目を逸らすな」

 

視線を向けようとした行為はその一言で止まり、すぐに正面へと向けられる。

するとそこには彼の言ったとおり、以前も交戦したことのある二人の姿があった。

 

「テスタロッサ、それに高町恭也……か」

 

眼前に敵がいたことにも気づけないほど思考に没頭していたこと。それをシグナムは恥じる。

これが問答無用で仕掛けてこられたのならば、自分は間違いなく負けていただろうと。

しかし現実にそういうことがなかったのは幸いとも言え、自身を恥じた後にデバイスを構える。

 

「ま、待って、シグナム。私たちはあなたたちと戦いに来たわけじゃない……話し合いに来たの」

 

「話し合い、だと……?」

 

「そういうことだ。俺たちに戦う意思はない……そちらも、話し合いに応じるならば剣を納めて欲しい」

 

確かにバリアジャケットこそ展開しているが、二人とも武器は手に持ってはいない。

これを見る限りでは話し合いに来たというのは本当だと取れる。しかし、シグナムはそれでも構えを解かない。

相手の意思が本当だとしても、話し合うことなど何もない……そう、告げるかのように。

 

「話し合う意思はない、ということか……」

 

「そうだ。私たちの成すべきことは、話し合いで解決するようなことではないからな」

 

「そ、それでも、話し合うことで別の良い方法が浮かぶことだって」

 

「それは甘い考えだ、テスタロッサ。世の中は、それで解決するほど優しくなどない」

 

優しい世界だったのなら、はやてがあんなことになるのもなかったはず。

口に出しこそしないが、シグナムは内心ではやての笑顔とその言葉を思い浮かべる。

そしてそれにて更に決意を固め、剣を取れと言わんばかりに剣気を漂わせる。

 

《右の方面へ向かえ、シグナム……敵を分散させるぞ》

 

《……なぜだ? 二対二の戦いならば、条件はどちらも同じのはず》

 

《二対二でも一対一の状況になるとは限らない。連携を取られ、一人ずつ狙われる可能性もある……ただでさえこちらは魔獣との戦闘で多少なりと消耗しているのだから、確実に一対一へ持ち込めるほうが最良だろう?》

 

《……わかった》

 

一対一になればベルカの騎士は負けない。故に彼の提案を了承した。

そして互いに念話で三秒を数え、ゼロと同時にシグナムは右、ギーゼルベルトは左へと飛び立った。

突然の行動故にフェイトと恭也は僅かに戸惑うも、目で合図して立つ位置から一番近いほうを追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左の方面、ギーゼルベルトを追っていった恭也は彼が止まると同時に足を止める。

しかし未だ武器は手に持たず、ただ相手の視線と自身の視線を交わらせるだけで動きはない。

それは出撃前、なのはとフェイト、そしてアルフの意思を汲み取っての行動であった。

 

「なぜ武器を取らない? 敵が眼前にいるというのに、無防備にも程があるぞ?」

 

「先ほども言ったが、俺は戦いに来たわけではない。あくまでお前たちと話し合いをするために来たんだ」

 

「なるほど……ならば――」

 

言葉を途中で切り、ギーゼルベルトは大剣を両手で持ち、中段で構える。

そして恭也に向ける視線を更に鋭くし、先ほど切った言葉の続きを口にした。

 

「これが俺の答え、と言えば分かるな?」

 

「シグナムと同じで話し合いの意思はないということか。なら仕方ない……と言いたいところだが、それでもお前と戦うわけにはいかない」

 

「む、なぜだ?」

 

「お前の仲間にカルラという女の子がいるだろう? 俺たちは彼女に脅しを掛けられていてな……だから、お前たちと戦うことが出来ないんだ」

 

目の前の男がカルラの仲間と断定出来たわけではない。しかし、そういえば自ずとどうかが分かる。

仲間でないのなら違うと否定するだろうし、仲間であるのなら納得するような仕草を見せるだろう。

しかし、恭也の思い描いていた予想とは全く異なった方向へと現実が動いた。

 

 

 

「カルラが脅しを掛けた、だと……」

 

――あろうことか、仲間の行動に驚きを示したのだ。

 

 

 

驚きを表情にて表した後、ギーゼルベルトは構えを解き、放した右手を顎に当てる。

そして何やら考え始めてしまう。その様子は、先ほど本人が言ったとおり無防備な姿。

しかしこれは恭也が攻めてこないと踏んでいるからこそ、出来る行動でもあった。

 

「一つ聞こう……あの子が掛けた脅しというのは、一体どのようなものだったのだ?」

 

「シェリス、もしくはお前たちに危害を加えるようならば俺たちの大切なものを壊す……端的に言えばそんな内容だ」

 

告げられた内容に彼はふむと短く漏らし、もうしばし考え込んだ後に顎から手を退ける。

そして恭也の視線から自身の目を逸らすことなく、僅かに申し訳なさそうな声で言った。

 

「それはすまなかった……まさか、あの子がそんな手を使うとは思っていなかったのでな。元々、戦やそういった脅しの類は嫌う子故、もっと穏便に済ませると考えていたのだが……」

 

「つまり、彼女の言っていたことはお前たちの総意によるものではないということか?」

 

「そうだ。あくまでその脅しはカルラの独断……おそらくは戦いたくない故に仕方なくやったことなのだろう」

 

そもそも、カルラをシェリスの迎えに送り出した以降の状況は見てはいない。

だからこそそんな脅しが成されていたことに驚いたのだし、今もおそらくなどと言って私的な見解を述べている。

しかし彼女の仲間である彼が総意による脅しではないと言っている以上、確かにそれが本当の可能性はある。

故に恭也は僅かばかり安心し掛けてしまうのだが、それを打ち砕く一言が続けて放たれた。

 

「だが、実際に行う気がないにしても俺たちがその位置に立っているということは事実だ。俺たちの意思が一致さえすれば、いつでもお前たちの大切なものとやらを奪うことが出来る」

 

《……そこが意味わかんないんだよね。そもそも私やアイラとかならともかく、なんで恭也とか他の人たちの大切なものが分かるわけ? それにいつでも奪える位置にいるって、一体どういうことなの?》

 

「詳しくは語れんが……一言言うなれば、俺たちの情報網を甘く見るなということだな」

 

オリウスの言葉に詳しく答えるでもなく、本当に簡単な一言だけを告げる。

そして話は終わりだと言うように再び大剣を構え直し、視線を射抜くようなものへと返る。

 

「これで蟠りは消えたな……さあ、剣を取れ」

 

「…………」

 

どうあっても話し合いに応じる気はない。それが見て取れる故、恭也はデバイスを顕現する。

そして腰に出現したそれの柄に手を添え、抜刀の構えを取りつつ彼と視線を交わらせる。

これこそが恭也たちが話し合いという提案を受け入れた際に出した条件。

話し合いに相手が一切応じないとき、もしくは襲い掛かってきたときはこちらも戦う覚悟を決めろ。

それを条件として提示して三人が分かったと頷いた後に出撃する面子として選ばれたのがおよそ三人。

恭也、フェイト、そしてアルフ……この三人を各自目標がいる地点へと転送し、対峙させたというわけだった。

 

《オリウス……システムはいつでも起動できるよう、準備しておいてくれ》

 

《ん、了解》

 

念話にてオリウスへとそう指示を出し、柄を持つ手に更に力を加える。

そして対峙すること僅か数秒間、風一つ吹かない辺りには無音の世界が広がる。

たかが数秒、しかし彼らにとっては長く感じてしまう時間の中、視線が逸らされることはない。

互いに隙を窺うような射抜く視線を中央で交わらせ、剣を持つ力を徐々に強めていき――

 

 

 

――瞬間、どちらともなく駆け出した。

 

 

 

抜刀からの一撃が、横薙ぎの一撃が二人のちょうど中央で交差する。

片手でということと武器の大きさに違いにより、恭也の一撃は軽く彼の剣に弾かれる。

しかし弾かれた勢いを利用して一回り回転し、横一閃を相手の胴体向けて放つ。

だがそれすらも先ほどとは反対方向へ振るわれた薙ぎで受け止められる。

 

「くっ……」

 

先ほどのように薙ぎ払う気がなかったのか、受け止められるだけで済んだ一撃。

それでもそこからの動作に困るのは事実。武器の差と力の差で押し返すのは到底無理。

かといってこの状態を保たせてくれるなど相手がさせてくれるとは思えない。

ならばどうするか……そのことを瞬時に考えて答えを導き出し、恭也は即行動へと出た。

 

「ふっ!」

 

受け止められた状態から左足による腹部への蹴り。

無論、隠し持っている八景を用いて意表をつくという手段もあるが、それはとっておくに越したことはない。

相手の手の内がある程度判明する前に自分の手の内を簡単に晒してしまうわけにはいかないのだ。

だからこそ敢えて一刀しか持っていないと捉えさせるため、蹴りという手段を用いた。

放たれた蹴りに大してギーゼルベルトは剣を引き、身を反らせることでギリギリの回避を見せる。

しかしそこで剣を引かせることが恭也の狙いでもある。それを示すかのように彼は追い討ちの斬撃を放つ。

身を反らした状態からギーゼルベルトは器用にも大剣で受けるが、たった一撃だけで済ます気など恭也には毛頭無い。

斬撃から斬撃へ、切れ目無く繋げる連撃を繰り出し、相手を受けの体勢へと完全に持ち込もうとする。

 

(速いな……加えて、一撃一撃が中々に重い)

 

斬撃に於いても動きに於いても最速と知らしめる速さ、それが御神流という流派だ。

かといって一撃が軽いものであるというわけでもなく、気を抜けば武器の違いあれど弾かれてしまう。

たかが小太刀、されど小太刀……小さいからと言って非力な斬撃しか生まないというわけではないのだ。

力強さも十分、その上凄まじい剣速で反撃を許さない。これでは速さの点で大きく劣る大剣という武器では不利に陥る。

 

(だがそれは剣のみでの戦いに於いての話……魔導師となれば別物だ)

 

自身の考えを自身で否定し、ギーゼルベルトは状況を打破するための行動に出る。

本来切れ目の見つからない連撃、しかし探せば僅かであれど切れ目となるべき場所は存在する。

それは斬撃と斬撃の繋ぎ目となる部分。斬撃を受けさせた後に続けて放つまでの動作には僅かなラグがある。

そこを狙うかのように彼は恭也の斬撃を受け止めた瞬間――

 

 

Ice subvencion》

 

――魔法による氷にて、柄から放した自身の手を瞬時に覆う。

 

 

本当に僅かしかない斬撃の切れ目で覆った右手を同時に相手に向けて放つ。

斬撃を繋げるための動作に移ろうとしていた体勢からは本来それを避けることは難しい。

加えて受けるという体勢を取るのも困難。それ故に驚き混じりながらも恭也は神速を用いようとする。

発動に魔法のような術式行使を必要としない神速ならば、この状況下でそれを避けることは可能だ。

 

《アイギス!!》

 

だが、恭也が神速を用いるよりも早く、デバイスより声が響き渡る。

その声に呼応して拳の進行上に盾型の障壁が展開し、拳が到達する前に遮る。

 

「む……」

 

障壁へとぶつかった瞬間に僅かな声を漏らし、すぐに拳を引いて後ろへと距離を取る。

その行動と同時に拳を覆っていた氷が砕け散り、元通りの手へと戻った。

そして軽く右手を見ながら握ったり開いたりを数度繰り返した後、視線を正面に戻す。

 

「捉えたと思ったが……中々に障壁の展開が速いな。さすがはジェド氏の、そしてエティーナ氏の娘というだけのことはある」

 

《そりゃどうも……ていうかアンタ、お母さんのこと知ってるの?》

 

「データで見ただけだがな。ジェド氏の助手にして、一度だけ管理局で受けた適正検査でSS−というランクを叩き出した魔導師。しかし幾多もの管理局からのスカウトを蹴ってまで助手であることを貫き通し、そして短くもその生涯を閉じた……まあ、その程度か」

 

《ふ〜ん……でも、お母さんが死んじゃったのってただの事故だったんでしょ? なんかリンディとかが凄く気にしてるみたいだったけど、それなら仕方ないじゃん》

 

「ふむ……確かに表向きはそう報道されているな」

 

《……その言い方、すっごい含みを感じるんだけど?》

 

「表向きのものが必ずしも真実とは限らんということだ……そこからはまあ、自分で調べてみることだな」

 

そう言って話を切り、ギーゼルベルトは大剣を片手で軽く左右に一度振る。

そして右にて停止した後に放していた右手を再び添え、尋常ではない殺気を放ち始める。

彼から漂い始めた殺気に恭也は目を細めて警戒を深め、デバイスを正面にて構える。

 

「さて、高町恭也……貴殿の力はおおよそ分かった。その歳にしてそれほどまでの剣技を持ちうること、賞賛に値する」

 

「そちらも、武器の違いを感じさせないほどの俊敏さは凄まじいという他ないな」

 

互いに互いを褒めあうも、どちらも一切隙を見せることはない。

剣を握る手に篭る力を緩めることなく、ただ相手の隙を窺うような視線を向ける。

 

「だが、魔導師としての戦いに於いて剣技だけでは意味を成さない。貴殿はその部分での力不足が否めない……それでこの先の戦、果たして生き残れるかな?」

 

「……確かに、俺はまだまだ未熟な身だ。だが――」

 

言葉を一度切ると同時に正面へと構えたデバイスを少しだけ上に上げる。

まるで相手に対して掲げるように、自身の握るそれを自慢するかのように。

 

「俺にはコイツが、オリウスがいる。半人前の身だとしても信頼の置ける相棒がいるからこそ、俺は決して諦めることなく戦い抜ける」

 

《そうだよ! 恭也が魔法面で劣るなら、それを私が……ううん、私たちが補えばいいもん!》

 

That's right!》

 

全く揺らぐことのない自信を持って告げられた一言。それに彼は驚きを示した。

だが、驚きはすぐに収まりを見せ、一変して僅かばかりの笑みを口元へと浮かべる。

 

「相棒、か…………近年ではデバイスを道具としてしか扱わない魔導師もいるというのに、おかしな奴らだ」

 

相手に聞こえないくらいの声で呟き、ギーゼルベルトはあろうことか構えを解いた。

本来ならばそれは隙……だが、目の前であからさまにそうされると逆に警戒してしまう。

それ故に攻め込むことなく、しかし構えを解くことも無く視線を相手から一切外さない。

警戒の一心で向けられる視線に対して、彼も同じく攻め込むことなく大剣から添えた右手を放す。

そして大きく左へと振るったところで停止し、その体勢にて足元に蒼白い色の魔法陣を展開する。

 

「ならば見せてみよ。人とデバイスが信頼し合い、それによって生み出される力の可能性を……そして――」

 

魔法陣が展開され、それに呼応して拳大ほどの氷塊が彼の周りに顕現する。

顕現した氷塊は大きくなるごとにその形を変え、最終的には恭也の小太刀ほどもの大きさをした氷柱へとなる。

大きさ故に数はそこまで多いものではない。しかし、身に受ければ傷を負う程度では済まないのは確実。

それ故、恭也もシステムの起動をオリウスに言い渡し、同時に回避用として高速移動魔法を練る。

その恭也に対してギーゼルベルトは左で固定した大剣を大きく右へと振るい――

 

 

 

 

 

「この俺を、『氷界鬼』を討ち取ってみせよ、高町恭也!! そしてリース・アグエイアス!!」

 

――叫びと共に、周りに顕現した氷柱を目標へと飛来させた。

 

 


あとがき

 

 

さて、今回の主な部分は恭也VSギーゼルベルトなわけだが。

【咲】 ま、戦いに於いては話だけどね。

まあな。他のに関しては守護騎士や彼らを説得しようとしたりなどだ。

【咲】 らしいといえばらしいけど……考え的にはほんとに甘いものよね。

それがなのはたちの良い所でもあり、悪いところでもあるということだな。

【咲】 でまあ、当然の如くシグナムには話し合いを蹴られたし、ギーゼのほうは眼中にもないわね。

シグナムたちの目的上は管理局と手を取り合えんからね、現状では。

そしてギーゼたちに関してはそれよりももっと無理。ていうか、博士と違って彼らは管理局を完全に敵視してるし。

【咲】 それは守護騎士側も同じことじゃないの?

度合いが違うかな。守護騎士側は後々手を取り合える可能性だってあるけど、彼らに関しては絶対にない。

目的そのものが管理局にとって重度の犯罪になるし、加えて彼らは時空管理局という組織を一切信用しないから。

【咲】 ふ〜ん……ていうか、その目的とやらが判明してないわよね。

それはまだまだ先の話。今は闇の書事件、そしてジェド・アグエイアスの事件が優先事項なのだよ。

【咲】 それもそうね。で、最後のほうでギーゼが自分のことを『氷界鬼』って言ってるけど、これってカルラとかライと同じ?

うむ、二つ名だ。彼ら集団の中で時折使われる呼び名でもある。

【咲】 ふ〜ん。氷って付くくらいなんだから、魔法の属性は基本的に氷なわけ?

ていうか、ぶっちゃけると彼は氷の変換資質を持った魔導師なのだよ。だから拳に氷を纏わせたりも出来た。

【咲】 ていうか、それは言っちゃってもいいわけ?

これは別に構わんよ。話に大きな支障が出るわけでもないしな。

【咲】 そう。で、今回は恭也VSギーゼルベルトだったわけだけど、次回はフェイトVSシグナム?

そういうことになるな。原作とは少し違った展開を見せつつも、やはり戦いは行われることとなる。

【咲】 こっちもこっちでどうなることやら。

ま、それは次回のお楽しみにだな。では、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

では〜ノシ




今回は恭也と騎士たちに味方する一人、キーゼルベルト。
どちらも剣という武器を手にしているけれど。
美姫 「魔法に関しては向こうの方が上よね」
だろうな。果たしてその差をどう埋めるか。
やっぱり鍵はリースだよな。
で、フェイトの方もシグナムと戦う事になるみたいだけれど。
美姫 「こっちはこっちでどんな展開が待っているのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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