リース・アグエイアス……人の身ながら、自律意志としてデバイスに組み込まれた少女。

シェリスのことを調べ上げたときにはそんな名前は検索に引っ掛からなかった。だからこそ誰もが驚く事実。

しかし事実を聞いた今となっては検索に引っ掛からないのも納得できる。いや、むしろ記載されているわけがない。

どのような方法を用いたのかは知らないが、自分の娘であってもそんな非人道的な行為は許されることじゃない。

故に管理局にこの事実が伝われば当然ジェドはその場で指名手配が掛かることとなっただろう。

だけどその情報が外に漏洩されなかったことで手配は掛けられず、事件の犯人としての容疑で手配されるまでの時間を稼いだ。

情報が管理局にさえも知れ渡らなかったのは、そういう理由からジェドが隠したためであろう。

 

「自分の子供なのに……なんで、そんなこと」

 

「自分の子供だからこそだよ、なのは。さっきも言ったとおり、アイツはエティーナの忘れ形見を失うのを恐れた……だからその恐れがアイツを追い詰め、想いが生む願いを大いに歪めたものにしてしまったんだよ」

 

強い想いが生む願いが必ずしも良い方向のものとは限らない。

悪人と呼ばれる者であっても、一部では強い想いから生まれた願い故の行動ということもある。

だからと言って納得できるものではないのも確か。だから発言したなのはを含め、誰もが同じ気持ち。

 

「だからといって、娘の命を弄ぶ行為が許されるわけがない。親としても、人としても……」

 

それらを代表してクロノが静かに告げる。事の事実に多少の怒りを抱きながら。

抱いている気持ちが同じだから、怒りとは言わないまでも誰もが似たような感情を内に灯す。

そんな全員の抱く感情を表情から読み取り、アイラは僅かに頬を掻きながら困り顔をする。

 

「まあ、アイツのやったことが許せないことなのは確かだけど、もう済んだことだから怒るだけ無意味だよ。それよりももっと考えるべきことがあるんじゃないかい?」

 

「そんなっ! 現にオリウス……ううん、リースがこんな目に合ってるのに――っ!」

 

オリウスに関しての話をその一言で打ち切ろうとするアイラに、フェイトが反発する。

これは非常に珍しいことだ。何であれ、フェイトは今まででも感情的になったことが少ないから。

しかし、だからこそ分かる……フェイト自身、この話題に対して誰よりも思うことがあるのだということが。

だけど、そんな彼女に意外にも話の中心たる人物、オリウスから静止の声が掛かった。

 

《いいよ、フェイト。私はこんな姿になったこと、もうそんなに気にしてないし》

 

「っ――――で、でも……」

 

《だからいいんだってば……こうなってからじゃもう元の姿には戻れないんだから、アイラの言うとおり議論するだけ無駄だしね。というか、そんなことよりも……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《私をリースって呼ぶのは止めて。このことについて話されるよりも、そっちのほうが私には辛いから……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第十五話 人で在るための条件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて聞く、辛そうなオリウスの一言。

ある程度マイナス思考ではあるが、基本的に彼女は弱音など吐かない。

それはいつも一緒にいたアイラも、会ってから半年以上も一緒にいる恭也でさえも聞いたことがない。

そもそも彼女はデバイスにされた事実をアイラに知らされたときも、泣き言一つ言わずに事実を受け止めた。

まだ子供でしかない少女が容易に出来ることではない。泣き言だけでは済まず、事実を受け止められないのが大概だ。

だけどリースという少女は性格面で父親譲りな部分があったから、事実を現実として受け止めているというような様子だった。

 

「リースちゃん……」

 

《だから止めてってば。私はオリウス……ジェド・アグエイアスの手によって生み出されたインテリジェントデバイスだよ。リースなんて女の子はここには存在しない。ううん……この世界のどこにも、もう存在しない子なんだよ》

 

いや……もしかしたらそう振舞っているだけで、彼女は今だ受け止められてはいないのかもしれない。

リースという少女はどの世界にも存在しない。自分は魔導師に使われるデバイスという道具でしかない。

そう考えることで彼女は人間だったという現実を否定し、今の自分こそが本来あるべき姿と考えているのかもしれない。

だとすれば現実を受け止めることとは違う意味で、酷く悲しいことであると言えるだろう。

 

「…………」

 

そんな意図があるかもしれない言葉が放たれても、恭也は口出しをしなかった。

なぜなら、その意図があるのなら今はそう思わせておくことこそが彼女の精神を安定させる術だと思うから。

もしこの言葉を否定して、オリウスがリースという少女だということを現実として認めさせることになったらどうなるか。

そんなことは考えなくとも分かる。子供の精神がこんな酷い現実に耐えられるわけがないということぐらい。

だから意図があろうとなかろうと恭也は口を挟まない。心の内では違うことを思っていても、口には出せない。

いつか彼女が現実を受け入れれるほど強くなるまで……アイラと同様にそのことは決して語らない。

 

「ま、こいつがこう言うんだからそうしてやんなよ。事実を知った今となっては難しいかもしれないけど……オリウスは人間じゃない、ただ人と同じような言動や考えを取るデバイスだって考え続ければ自ずとそう思えてくるようになる」

 

口を挟まない恭也とは反して、全員に対してアイラはそう告げる。

しかし恭也が口を挟まないことでオリウスを追い詰めないようにしているのと同じでアイラの言動にも似た意味合いがある。

本人がそう言っているからいいだろう、これ以上彼女を追い詰めるな……告げられた言葉は言外にこう言っている。

違うのはそれが自分に対してか全員に対してかという対象の違い。言葉自体はオリウスを庇護するためのもの。

アイラにとって口にはせずとも彼女は大切な存在だから、悲しいことだとは分かっていても心が壊れてしまうよりはまだマシ。

受け入れさせることが何でも正しいわけじゃない。時にはこういった手段を取ることが已む無い場合だって存在する。

だから恭也は自分に、アイラはその場にいる全員に……彼女への追求をこれ以上するなと告げたのだ。

 

「そんな……そんなの、無理だよ」

 

だけどそれでも全員は納得しない。中でも、フェイトは特に。

なぜフェイトがここまで言っても納得してくれないのか、言うことを聞いてくれないのか。

それがアイラには分からない……だから、視線をフェイトだけに向けて尋ねる。

 

「どうしてそこまで頑なになるんだい? アンタにとってこいつは所詮他人……だったらそう考えて納得するほうが楽だとは思わないのかい?」

 

「思わない……ううん、思えないよ。だってそんな姿になっていても、私よりもリースのほうがずっと人間らしいから……」

 

人間らしいというのは当たり前だ。オリウスは元々人間だったのだから。

だが、その前に繋がる言葉……「私よりも」という部分の意味がアイラにもオリウスにもよく分からなかった。

言葉だけで取れば自分が人間ではないような言い方。だけど二人から見てもフェイトは人間以外の何者でもない。

ただの慰めから言葉とも取れるが、語るフェイトの悲しげに俯いた様子を見ればそうでないのは一目瞭然であった。

 

《……それ、どういう意味?》

 

だから彼女は聞いた。どういった意図で、どういった意味合いでその言葉を告げたのかを。

しかしフェイトは尋ねられた言葉に答えを返さない。ただ、ずっと俯いたまま黙りこくってしまっている。

これではフェイトから聞き出すのは無理だと判断したアイラは、他の者へと視線で説明を求める。

フェイトとある程度関わっているのなら、彼女のこの発言について何か知っているだろうと思ったから。

故にそんな意味合いを持たせて巡らせた視線がクロノとリンディに向けられたとき、二人は顔を見合わせた後に詳細を話した。

PT事件の詳細、フェイトがプレシアの目的のために生み出されたこと、そんな生まれだから人間ではないと思っていること。

今でこそリンディやクロノ、なのはやアルフによって多少なりと拭い去れてはいるが、それでも疑念は心の内に残っているとのこと。

その説明で事件をある程度は影で見てはいたが、詳細に関しては知る術がなかったアイラとオリウスはその説明で理解した。

 

《なるほどね……自分と私が似たような境遇だから、そんなこと言ったんだ》

 

片や人ではないかもしれない少女、片や過去は人であった少女。

似ているといえばそうであると言えるし、似ていないと言われれば納得も出来る二つの境遇。

だけど二人に共通するのは、今存在し続ける自身は親の手によるものだということ。

だから同じだと思ってしまうのだろう。人ではないという思いを持ち、今も存在し続けている者同士として。

 

「理解は出来たけど、納得は出来ないねぇ……生まれがどうであれ、どう見たってフェイトは人間にしか見えないじゃないか」

 

《そうだね。元となったのも人間なわけだし、自分がクローンだからって人じゃないって理由にはならないんじゃないかな?》

 

受けた説明に対しての答えはもっともであり、誰もが言ってきたものでもある。

だけど、いくらもっともなことであっても受け入れられるかどうかは別。現にフェイトの表情は晴れぬまま。

だからこそ今までも誰もが慰め、説得し続けてはいたのだが、フェイトの考えが完全に拭い去れることはない。

 

「はぁ……なんていうか、難儀な子だねぇ」

 

右手で無造作に頭をボリボリ掻きながら、アイラは溜息と共に呟いた。

周りの者からもそうであると断言され、検査でも人間だと出ているにも関わらずこの様子。

アイラからしたら難儀な奴と見えてしまう。故にか、これ以上の慰めは掛ける気が起きない。

慰めを掛けても無駄、説得しても無駄……思い込んでいる者には口でそうだと語るだけ無駄だと考える。

だから――――

 

「じゃあさ、一つだけ聞くけど……」

 

 

 

 

 

 

 

「人間だと定義付ける決定的なものって、何さね?」

 

――彼女はフェイトを見据えながら、そう尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にフェイトはようやく顔を上げた。しかし口を開くことはなかった。

なぜなら、答えられないから。今まで考えたこともないことだったため、答えを口に出来ないから。

 

「まあ、本来ならアンタみたいなガキんちょには難しい質問かもなんだけど……自分は人じゃないって言い張るなら、これが分かってるんだろ?」

 

人間じゃないと言い張るのなら、人間だと決定付けるものは一体何なのか。

生まれが特殊というものは先ほども言ったとおり人によってあったりする。だから決定付ける要素にはならない。

外見的なもの、つまりは身体があるかどうかなどと言えば、それは先ほどの自身の言葉を否定することになる。

なら何が人間だと言うのに必要な要素なのか……それがいくら考えても、フェイトには分からなかった。

 

「なんだ、分からないのに人じゃないとか言ってたのかい…………まったく、呆れた子だねぇ」

 

本当に呆れたように呟く。聞き方によっては責めているようにも聞こえる言葉を。

今のフェイトには言いすぎだと皆も思うが、アイラに視線で制されて口には出せなかった。

 

「オリウスが人間だと言う、自分が人間ではないと言う……どっちもそれが分からないと言えないことなんだけどねぇ。まさか、本当に生まれが特殊なだけで人間じゃないとか言ってたとは思わなかったよ」

 

「…………」

 

静まり返った部屋の中で、アイラの声のみが嫌というほど響き渡る。

響く呆れ混じりの責め句は子供には厳しいもの。だけどそれが分かっていてアイラは口を止めない。

フェイトにとって必要なことだと思うから、こうでも言わないとフェイトは前に進めないと思うから。

しかし、答えられず無言で再び俯いてしまうフェイトを前にすると、このまま続けても無駄だと悟るしかない。

だからアイラはもう一度背中を深々とソファーに預けながら視線を天井へと移し、その後に恭也へと横目で視線を向ける。

 

「恭也……確か、近々フェイトと模擬戦するとか言ってたよね?」

 

「ん? あ、ああ、確かに言ったな」

 

「じゃあさ、その模擬戦はいつするんだい? 近々ってことは、数日中にはするんだろ?」

 

「ふむ……一応、予定では明日の午後ということで話そうと考えていたんだが」

 

「明日の午後、か……ちょっち早すぎるかなぁ」

 

フェイトと模擬戦ということ自体、この面子以外では知りえないこと。

だから知らなかったほとんどの者が驚きを浮かべ、どういうことかと追求したい気持ちになる。

しかしマイペースに二人だけで話がどんどん進んでいき、誰もが口を挟めることはなかった。

 

「ん〜…………三日後の午後とかはどうだい?」

 

「模擬戦の日にちか? まあ、俺はそれでもいいが……フェイトはどうだ?」

 

「え……あ、はい。私もそれで大丈夫です」

 

突然振られたためにフェイトは驚き、後に少し落ち込んだ声色で答える。

それによって模擬戦の予定が決まり、アイラは小さく頷いて背中をソファーから離す。

 

「じゃ三日後の模擬戦後、もう一度さっきの質問をアンタにぶつける。それまでに答えを用意しておくんだね……アンタなりの答えをさ」

 

「……はい」

 

三日でもこの質問の答えを出すのは難しいかもしれない。

だが、何度も言うように状況が状況だけにフェイトばかりに感けてなどいられない。

だからなるべく多くと考えた三日という時間を設け、フェイトに答えを考えることを強要する。

 

「楽しみにしてるよ……アンタがどんな答えを出すのか。どんな定義を出して自分を否定するのかをね」

 

最後まで厳しい一言で締めくくり、アイラは再び背凭れに背を預けて視線をクロノとリンディに向ける。

向けられた視線に一連の会話の流れを聞くだけで呆然としていた二人は僅かに慌てて次の話へと移った。

そして次の話をしている最中も誰もがフェイトのことを心配する。さっきのアイラとの会話で落ち込んだ様子を見せる彼女を。

だけどそんな皆の心配にも関わらず、フェイトは話が成され始めて終わるゆくまでの間中、俯いて口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、闇の書のページはすでに半分以上にまで到達しているということっスね?」

 

『そうだ。故に彼のロストロギアが起こした以前の記録を見る限り、完成される前に何か手を打つべきだと思うぞ?』

 

「ん〜、そう言われてもっスねぇ……正直こっちも一杯一杯なんっスよ」

 

『どこがだ。ジェド氏の働きぶり、先の映像で見た『剣』の完成度……何を見ても不安要素はないだろう?』

 

実際に目の前にいたとしたらジト目を向けている。そのくらい相手の声には呆れが混じっていた。

対してそんな声色と放たれた言葉にアドルファは通信機を持っていない方の手で頭を掻きながら困り顔。

確かに会話相手の男が口にすることはもっともなことであり、そう思っても不思議ではないこと。

だがそれはあくまであちら側の見解……実際にあれやこれやと模索している彼女からしたら別の不安要素があった。

 

「いや〜、なんと言いますか……シェリスちゃんがあっち側に入れ込んでるみたいで」

 

『シェリス嬢が? まあ、闇の書の守護騎士と行動を共にしていたようだから予想はしていたが…………なぜ、そんなことに?』

 

「実はっスねぇ、さっきの件が起こるより少し前にシェリスちゃんと闇の書の主が知り合っちゃったみたいなんスよ。加えてその子と友達になっちゃったみたいで……」

 

『それで守護騎士とも関わりを持ち、挙句の果てには戦の現場に鉢合わせしてしまったということか』

 

「そういうわけっス。だから、たぶん明日ぐらいにはまた彼らと接触しようとするんじゃないっスかねぇ……で、現状を知った上で手助けをしようと考えると思うっスよ、あの子なら」

 

『ふむぅ…………どうにかして止められないのか? これ以上彼らと親交を深めさせれば不味いことになりかねんぞ』

 

「それが出来たら苦労しないっスよ。シェリスちゃんは言い出したら聞かない子だし、博士も親馬鹿だからこっちがグチグチ言っても無視されると思うし……」

 

マイペースな親子……だからこそ、協力者たる彼らは日々手を拱いている。

彼らがこの親子と共通する目的のために考えた策も、高確率で打ち崩される場合が多々ある。

協力者として彼らを受け入れているにも関わらず、彼らの考えたことを受け入れた側が崩すのはどうかと彼ら全員が思う。

しかし人の話をまるで聞かない二人である故に、言うだけ無駄ということで最近では面子のほとんどが諦め気味だった。

 

『……カルラに説得させるのはどうだ? ジェド氏もあの子になら強くはでんだろうし、シェリス嬢も――』

 

「あ〜、あの子は駄目っスよ。博士に関してはともかく、シェリスちゃんの場合はあの子の押しに負ける可能性大っスから」

 

『むぅ……』

 

唯一アドルファ以外でシェリスと面識があり、彼女と同じ年に近い容姿のカルラなら。

そう相手は考えるが、アドルファはカルラの性格等を考えた上でその策を真っ先に否定した。

そもそもカルラは俗に言う酷い事というのを好まず、目的のため仕方なくという以外では絶対にしようとしない。

そんな面子の中で優しい部類に入る性格の彼女は非常に押しに弱いという一面がある。

自分の意見を真っ直ぐに言えはしても、押しの強い相手なら最終的には相手の意見を受け入れてしまう……カルラとはそんな子だ。

だから無邪気故に押しが強いとはっきり分かっているシェリスの説得役にするには心もとなかった。

 

『なら、正直なところどうする気だ? 闇の書がページを埋め尽くしたときの起こす事の事例はほぼ全てが記録に残るほど不味いもの……これを見る限り、現状で放置しておくのは何かと問題だぞ?』

 

「そりゃもう……問題が起こったらウチら全員で止めるしか――」

 

『却下だ』

 

「……いや、さすがに冗談っスけどね。まあ、もしものことがあった場合はウチがどうにかするっスよ……どうにかなるかは別っスけどね」

 

実際記録にある事柄を見ても個人でどうにかなるレベルのものではない。

だからなるべくは問題が起こる前にどうにかするほうがいい。だけどあの二人のことを考えるとそれも難しい。

まあ、結局のところ危険度が違うだけで苦労することには変わりなく、溜息をつくのも仕方ない現状だった。

 

「そんなわけで心配ない、とは言えないっスけど……問題が起こらないように努力はしてみるっス」

 

『そうか。まあ、先ほどああは言ったが、本当に不味いときは呼ぶといい。個々で動いてなければ誰かが駆けつけるだろう』

 

あれこれ言いはしても、最終的には駆けつけて助けてくれる。

それが仲間であるという思いを深めさせ、彼女に自然と笑みを浮かべさせた。

 

「ありがとっス……んじゃ、そういうわけで通信終了するっスよ。こっちもしなきゃいけないことが多いもんで」

 

『ああ……いや、ちょっと待て――』

 

待てと告げられてアドルファは通信機を耳につけたまましばし待つ。

すると通信先のほうからガタガタと騒がしい音がし、先ほどの相手が何かを言っている声が聞こえる。

さすがに通信機から口が離れている故か聞こえはしないが、明らかにただごとではないのは分かる。

故に何が起こったのかと心配になり、浮かべていた笑みが崩れかける。

 

『はぁ〜い、お久しぶりで〜す♪ 元気してましたか、アル♪』

 

しかし、次に聞こえてきた声にアドルファは別の意味で笑みが崩れた。

続けて浮かべるのは呆れ、そして疲れ。明らかに嫌そうな感じバリバリな表情だった。

 

「ヒルデっスか……一体何のようっス? こっちは忙しいから早々に切り――」

 

『あ〜! 久しぶりに話した仲間にそんな冷たい態度……ヒルデ、悲しみのあまりに泣いちゃいますよ?』

 

「いや、ウザイから泣かなくていいっスよ。ていうか、本当に用件を早く言ってもらえないっスかねぇ?」

 

『あ、そうでしたそうでした! じゃあ、泣くのは通信終わってからカルちゃんの前でにしますね』

 

「勘弁してくださいっス……それでウチが文句言われるんスから、あの子に」

 

それはもう切実に、通信機越しに土下座でもしそうなくらい願うアドルファ。

その様子はやりすぎだとも思うのだが、実際通信相手の女性はやると言ったらやる人。

だからこうでもしないと本当にカルラの前で泣かれ、後にアドルファのところに来て苦情を言われるのだ。

やると言ったらやるという実行力は大したものと言えるが、それが良い事とは限らないのが痛いところ。

故に彼女はこの女性に対しては何かと手を拱き、いつもいつもいろんな理由で苦労させられていた。

しかしこれも毎回のことではあるが、彼女のそんな願いを素でスルーして相手はマイペースに話を始めた。

 

『それで用件ですけど〜……ついさっきですね、どこぞのお馬鹿さんがデバイス持って飛び出て行っちゃったんですよぉ〜』

 

「へ〜、そうっスか…………って、はあ!?」

 

『ですから〜、お馬鹿さんが飛び出ちゃったんですよ〜』

 

二度目はずいぶん省略されて告げられた。だけどアドルファはそこにツッコムほど余裕がない。

なぜなら告げられたことが非常に頭の痛くなることだったから……だから片方の手を額に当てて深い溜息をつく。

 

「何考えてるんっスか、ライの馬鹿は。ていうか、ヒルデもなんで止めなかったんスか!?」

 

『えっと〜……かよわいヒルデには大の男の行動は止められないです、きゃは♪』

 

「きゃは、じゃないっスよ!!」

 

アドルファがここまで怒るのももっともなことであった。

そもそも彼女たちはジェドに協力こそしているものの、存在自体は秘密の方向で動いている。

数時間前にカルラが表に出たことによって裏で動くものがいるということはもうバレてはいるが、少なくとも人物構成は知られていない。

ならば秘密裏で動くこと自体は現状でも難しくはないはずだった。しかし、通信相手の報告はその考えを打ち崩す。

独断で出て行って、何をしようとしているのかは知らないが勝手なことをしようとしている者がいる。

それは明らかに彼女の予想を遥かに外れる行動であり、彼女を苛立たせ焦らせるには十分すぎる内容だった。

 

『えっと……カルちゃんに連れ戻させるよう言っておきます? カルちゃんの言うことだけなら彼も聞きますし』

 

「打てる手なんでもいいっス!! とにかくあの馬鹿が何か問題を起こす前に早急に連れ戻すっスよ!!」

 

『りょうか〜い♪ じゃあ、カルちゃんにそう言っておきますね〜…………まあ、嫌がるとは思いますけど』

 

最後に小さな声でそう付け加え、通信が切れる音がアドルファの耳に響く。

その音を耳に当てたまま数秒ほど呆然と聞いた後、怒った後の反動故か溜息と共に腕を下ろす。

そして、近場の椅子にドカッと深く腰掛け――

 

 

「なんで、ウチの仲間はこうもクセ者揃いなんっスかねぇ……」

 

――意味なく天井を眺めながら、力なく呟くのだった。

 

 


あとがき

 

 

ん、今回は少しばかり物語を改変させていただきました。

【咲】 正直どうなのかしらね、これ。

まあ、フェイトが人じゃないという発言をする部分が変わるというだけで別段問題はない……と思いたい。

【咲】 自信なさげねぇ……。

むぅ……まあ、過ぎてしまったものはしょうがないということで。

【咲】 ま、そこを判断するのは読者であって作者じゃないしね。

そういうことだ。てなわけで話を変えて……今回の題目は「人であるのに必要なもの」だ。

【咲】 正直なところ、今のフェイトには難しい質問よね。生まれが特殊なのは先に否定されたし。

ふむ、加えて姿形がどうのっていうのはオリウスを人だと言った言葉を否定することになるからNG。

つまりはそれ以外で答えを出さなければならないから、まだ子供なフェイトには難問だわな。

【咲】 どんな答えを出すのかしらねぇ……。

それは少し後になれば分かる……子供なりに、フェイトなりに出した答えがどんなものかが。

【咲】 それによってフェイトは吹っ切ることが出来るわけ?

すぐにとは無理だが、少なくとも負い目を感じることは少なくなるわな。

【咲】 ふ〜ん……で、後半は謎の集団サイドだったわね。

だな。彼女らも彼女らで問題発生……仲間の一人が逸った行動に出てしまったというね。

【咲】 デバイス持って飛び出ていったとのことだけど、何でそんな行動に出たわけ?

それはまた次回以降になれば分かるよ……でもまあ、ヒントを出すとしたら、とある一人の者のためにかな?

【咲】 とある一人って言うと、いろんな人物が浮かんでくるんだけど?

今回の話をちゃんと見たのなら誰かが分かる。ま、これ以上はネタバレだからこの辺でな。

【咲】 そ……じゃあ、今回はこの辺りにしときましょう。

うい……では皆様、また次回お会いしましょう!!

【咲】 またね〜♪




うーん、謎の集団でちょろちょろtキャラが出てきたけれど、全員でどれだけいるのかな。
目的とかもまだ不明状態だし。
美姫 「気になるわね」
ああ。闇の書事件に関わってくるのかどうか。
美姫 「一人、暴走というか何か飛び出した子がいるみたいだし」
こっちはこっちでどうなるんだろう。
そして、フェイトの出す答えって何だろうか。
美姫 「それは次回ね」
楽しみに待つとしますか。
美姫 「ええ、そうね。それじゃあ、次回を待ってます」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る