緑髪の女性―リンディと分かれた後、恭也はユーノとアルフに連れられて休憩室へやってきた。
そして休憩室にある自販機でユーノが買った飲み物を受け取り、横長の椅子に腰掛ける。
それに合わせてユーノとアルフも腰掛け、手に持った缶の蓋を開けて一口飲み、離すと共に口を開いた。
「にしても、なのはにお兄さんがいるってのは聞いてたけど……まさか魔導師だとは思わなかったよ」
「僕もですよ……それに、まさかあの猫が人間だったなんて」
「まあ、なのはも含めた誰にも知られないように隠してたからな……気づかないのも無理はない」
苦笑と共に返された言葉に、二人は納得するように頷く。
だが、その内ユーノのみは納得すると同時に疑問が浮かび、不思議そうに首を傾げる。
そして、自分で考えても答えが出ないのか、再び恭也へと口を開いた。
「あの……なのはの家にいた猫がさっきの人だっていうのは納得したんですけど、アイラさんは僕のことに気づいてたんでしょうか?」
「ふむ、さっきの言動からして一応気づいていたんじゃないかとは思うが……実際はどうなんだ?」
《もちろん、ちゃんと気づいてたよ〜。 アイラも、当然私もね♪》
「え、えっと……じゃあ、僕の姿を見るたびに追っかけてくるのは?」
《ああ、あれはただ単に面白いからだよ。 ほら、アイラが追っかけると決まってユーノは逃げるから》
つまりは、アイラにとってユーノは格好の遊び相手だったということだ。
まあ、それ自体は別に困ることではないのだが、遊ぶ手段が手段だけにユーノは困り果てていた。
普通に考えて、フェレットを追っかける猫という図は、捕食者と被捕食者という光景にしか見えない。
そしてそれをアイラが人間だと知らないユーノからしたら、食われるという恐怖しか沸いてはこない。
しかし、オリウスの語ったことから察すると、そういう恐怖を抱いて逃げ惑うユーノでアイラは遊んでいたとのこと。
これはもう、性質が悪いことこの上ない、という一言に尽きることであった。
それ故にユーノが知らされた事実に深いため息をつく中で、アルフはふと気づいたことを口にする。
「ところで、自然な流れの如く会話に参入してきたアンタが恭也のデバイスかい?」
《あ、二人は知らないんだっけ? 改めて、インテリジェントデバイス【オリウス】の自律意志、オリウスだよ♪》
《Likewise, the LEASE will autonomous. Sincerely.》
アルフの言葉に答えた声は二つ……そのことにユーノも交えて驚く。
ありえないとは言わないが、二つの人工意思が組み込まれるデバイスというのは凄く珍しい。
というのも、一つの意思だけで十分に使用者の補助が出来る故、もう一つあったところで正直なところ無意味。
そのため、意思を二つ組み込んだデバイスは二人にとってオリウスが初めて……驚くのも当然と言えることだった。
そしてその二人が浮かべた驚きを見て、オリウスは僅かな笑い声を上げるのだった。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第一章】第五話 遠かりし過去の罪 後編
そうして自身の紹介を述べた後、オリウスは二人から来る質問の受け答えをしていた。
答えられるもの、答えられないもの……それらの判別をしつつ、話してもいいものは話す。
逆に事情により話すことが出来ないものは、かなり暈して話すか、全く話さないかという対応。
しかし、そんな対応をされると気になってしまうのが自然であるため、場合によっては二人も詳しく聞こうとする。
だが、それでもオリウスは細部を詳しく話すことはなく、巧みな手腕で煙に巻いていた。
それ故に……かどうかは分からないが、オリウスのそんな対応にアルフは……
「なんていうか……デバイスっぽくないねぇ、オリウスは」
という一言をポツリと漏らした。
知らないとはいえ、アルフの口にしたこの言葉はオリウスにとって非常にNGな言葉。
故に、事情を二人から聞いているためそれが分かる恭也は僅かに口を開き、言葉を発しようとする。
しかし、それよりも早く、先ほどのような僅かな笑いを上げつつオリウスがそれに返した。
《あははは、まあ確かにそうかもね〜。 より人間に近い思考を……ってコンセプトで作られた人格が私だし》
「ああ、なるほど。 だから妙に人間っぽい感じがするわけだね」
オリウスの返しにアルフも、そしてユーノも納得したような顔をする。
だが、それに反して恭也はオリウスの様子と返した言葉に内心で僅かな驚きを浮かべていた。
それもそうだろう……二人から事情を聞いたとき、同時にオリウス誕生の過程を恭也は聞いているのだから。
そして、そのことを考えるとそれはオリウスにとって禁句に近い言葉でしかないことが分かるのだ。
だからこそ、そんな言葉を口にされて尚笑って返せるということが、恭也には驚きでしかなかった。
「お兄ちゃん!」
そんな驚きを浮かべる中、聞きなれた声が休憩所に響き渡った。
その声に三人が一斉に入り口付近に顔を向けると、そこには先ほど分かれたリンディとフェイトの姿。
そして、その間には今回の一件で負傷し、医療班に運ばれたはずのなのはの姿があった。
なのはは恭也の姿を見つけ、そう叫ぶや否や恭也の近場へと駆け寄っていった。
対して、近場にて足を止め、自分を僅かな困惑を浮かべて見上げてくるなのはに恭也は微笑を浮かべて頭に手を置き、優しく撫でる。
「身体はもう大丈夫なのか、なのは?」
「う、うん、なのはは大丈夫。 だけど、お兄ちゃんも魔法使いだったんだね……」
「まあ、一応な……」
なのはの言葉にそう返し、恭也は撫でていた手をゆっくりと下ろす。
それにちょっとだけ名残惜しそうな顔をしつつも、更になのははいろいろと尋ねようとする。
だが、ある程度時間が押しているのだろうか、それはリンディによって止められることとなった。
言及を止められたことになのははちょっとだけ不満そうな顔をするが、多少なりと事情は分かるため口を閉ざす。
そしてそれを見届けた後、リンディは恭也へと向き直って口を開いた。
「それでは、あの方の聴取もそろそろ終わる頃ですので、二人のいる部屋へ向かいましょう」
そう言って案内するかのように歩き出すリンディに、恭也は一度だけ頷いて後に続く。
そしてその更に後を追うようにして、なのはとフェイトまでもが二人についてきてしまう。
さすがにこれから話すことをその二人に聞かせるのは憚られるため、恭也は足を止めて二人に待つよう言おうとする。
だが、そんな恭也の心境を察したのか、同じく足を止めたリンディがそれを止め、二人が一緒に行く理由を簡単に説明した。
なんでも、フェイトの保護監察官になる人物との謁見が今から約一時間半後、同じ部屋であるらしいのだ。
そのため、後でもう一度戻ってきて呼びに来るよりも、一緒に行ったほうが何かと手間が省けるとのこと。
まあ、今から話す話題が話題だけに本来なら待っていて欲しいところだが、そういった理由では致し方ない。
その説明にそう考えた恭也は納得するように頷き、再びリンディと共に聴取が行われている部屋へと歩き出した。
休憩室から聴取が行われている部屋―応接室へは大した距離はない。
ものの数分も歩けば辿り着く……言ってしまえばその程度の距離でしかないのだ。
しかし、他の面々はともかくとして、オリウスのみは妙に距離的に短い道のりが長く感じられた。
そう感じる原因というのは、聴取を受けているのがアイラという一点に尽きるもの。
長く一緒にいるからこその信頼というものもあるが、同時に長くいればいるほど相手の悪いところも多々分かる。
そしてその例に漏れず、オリウスはアイラの悪いところを熟知しているため、正直不安で仕方なかった。
《はぁ〜……ほんと、下手なことしなきゃいいけど》
《さっきも言ったが、さすがに大丈夫じゃないか? 口は……確かに若干軽いところがあるが、相手が相手だけにちゃんと考えて喋る……と思うぞ?》
《いやね、確かに喋り過ぎないかっていうのもあるんだけど……それよりもっと心配なことがあるんだよね〜》
そう返した後に再びため息をつくオリウスに、恭也は僅かに疑問を浮かべる。
時間にして九ヶ月……その長いのか短いのか分からない期間でも、恭也はある程度はアイラの性格等を掴んでいるつもりだった。
しかし、オリウスの言葉を聞く限りでは、まだ自分も知らないアイラの一面があるという風に聞こえてくる。
普段は怠け者な怠慢猫、しかし一度戦い始めると酷く負けず嫌い……これだけでも十分個性的なのに、他に何があるというのか。
少々聞くのが怖い気もするが、聞きたい欲求のほうが強いため、恭也は僅かに間を置いてオリウスにそれを尋ねようとする。
だが、その尋ねるための言葉は、突如先のほうから聞こえてきた物音によって遮られることとなった。
その物音とは……まるで何かが勢いよく壁にぶつかったかのような、そんな音。
それが皆の進む通路の先、目的の部屋のある方面から聞こえてきたため、その場にいる全員が驚き顔を見合わせる。
その後、すぐさま駆け足気味で目的の部屋となる応接室前へと辿り着き、部屋の扉を開け放つ。
「――っざけんな!!」
開け放ったと共に聞こえてきたのは、怒りに満ち溢れた声。
そして同時に目に入ったのは、アイラに胸倉を掴まれたクロノが壁に叩きつけられている光景。
胸倉を掴むアイラの顔は響き渡った声と同様に怒りに満ちており、更に締め上げるように力を込める。
対してクロノは胸倉を強く掴まれているせいか、呼吸がうまく出来ずに苦しそうな表情を浮かべている。
そんな相反した二人が扉を開けた瞬間に目に入り、誰もが例外なく絶句してしまう。
「クソガキが……ずいぶん知った風な口聞くじゃねえか、ああ!?」
「あ、ぐっ……」
だが、再び響いた怒声と呻き声で、皆は瞬時に我に返る。
そしてそれと同時に急いで駆け出し、いち早く駆け寄った恭也がアイラをクロノから引き剥がした。
アイラが離れたことによって拘束から解かれ、クロノは地面に落ちると共に荒く咳き込む。
そんなクロノに対し、引き剥がされたアイラはまだ怒りが収まらないのか、恭也の拘束を振り払ってでも飛び掛ろうとする。
「くそ、離せっ!! このガキ、ぜってえ許さねぇ!!」
「っ……落ち着け、アイラ。 何があったかは知らんが、ここで問題を起こすのは――」
「んなもん知るか!! てめえらのことを棚に上げて好き放題言いやがって……いっぺん殴らねえと気がすまねえ!!」
言葉で言っても、怒り心頭のアイラには全く届くことはなかった。
それどころか、恭也をも振り払いそうな勢いで前へ、前へと進もうとさえする始末。
故に、さすがに説得は無理かと判断した恭也は、悪いとは思いつつもアイラの首筋に手刀を入れる。
それにより、アイラは小さな呻きを上げて意識を闇に落とし、恭也に支えられる形でガクリとうな垂れる。
アイラが気絶したことによって急に周りは静寂に包まれ、皆の疲れたような安著するようなため息のみが響いた。
その後、応接室付近の部屋のベッドにアイラを寝かせ、戻ってくると部屋のソファーに恭也、なのは、フェイトといった順序で座る。
そしてそれに向かい合うように、まだ僅かに咳き込むクロノの背中を擦りながらリンディが腰を下ろし向かい合った。
「アイラが大変なご迷惑を掛けたようで、ほんとにすみませんでした……」
「い、いえ、こちらこそ……息子が何か失礼をしてしまったようで」
向かい合った矢先、恭也とリンディは互いに自分たちの非を詫びるように頭を下げる。
そしてその後、早速話に入ろうとしたが、先ほどあんなことがあった手前、それが少し憚られる。
そんな二人の様子にオリウスは僅かなため息をつき、ようやく息を整えたクロノのほうへと声を掛けた。
《ていうかさ……一体何を言ったわけ? アイラがあんなに怒るのってほんと久しぶりなんだけど》
「いや、こちらとしては普通のことしか聞いていないんだが……」
《ふ〜ん……じゃあ、その普通のことっていうのを教えて。 そしたらアイラがなんで怒ったのかが分かると思うから》
オリウスのそう言われ、クロノは行った聴取での会話を詳しく語った。
語られる内容に、始めのほうこそはうんうんと頷くような声を上げるが、内容が続く内にそれはなくなっていく。
そして最終的には完全に無言となり、漂わせる空気すらも最初とはまるで異なっていた。
「――というものだったんだけど……やっぱり何か不味いところでもあったのか?」
《あ〜……それなら分からないでも不思議はないかな。 なんていうか、アイラにとっての禁句って分かりにくいし》
「禁句?」
《そう、禁句。 察するに、会話の節々にあった「あんなこと」っていう言葉……たぶんアイラはこれが気に食わなかったんだと思うよ》
その言葉に分からないとばかりに首を傾げるクロノ、そしてリンディ。
そんな二人に、オリウスは自身の告げた発言の詳しいことを二人に説明した。
なんでも、アイラは事件が今に至る経緯を全て知っているため、ジェドが事件を引き起こす切っ掛けも知っているらしい。
つまり簡単に言えば、事件の真相を知るが故にアイラはジェドの成したことを「あんなこと」と言われるのを嫌うらしいのだ。
だが、事件の真相を知らない限りはそれを嫌う明確な理由は分からない。
しかし、その理由もオリウスが生まれる前に該当するらしく、オリウス自身もジェドが事件を起こした切っ掛けを知らなかった。
《まあ、結局は本人に聞く以外に知る術がないんだけど……アイラは昔を話してくれないしねぇ〜》
「そうなの……じゃあ、本人に聞くのは止めたほうがいいかしらね」
《さあ? あくまで私が聞いたときは話さなかっただけだから、案外お姉さんたちが聞いたら話してくれるかもしれないよ? ま、場合によってはさっきみたいに怒り出すかもっていうリスクはあるけどね》
裏を返せば、それは聞かないほうが身のためだと言っているようなもの。
先ほどにしても、駆け込むのが少しでも遅れていれば非常に危ない状況だったと言える。
それを再び招く可能性がある行動など、クロノはもちろん、リンディもしようと思うはずもなかった。
「にしても……あの人に聴取が出来ないとなると、こちらとしても結構困ったことになるな」
《だろうね〜。 さっきの話を聞く限り、私の話せる部分は話しちゃってるみたいだから……私が話そうにも無理だしね》
そうオリウスは相槌を打つが、実際のところオリウスが話せることはあったりする。
しかし、それを話すと自分たちにとって不味いことにはなっても、良いことにはなりはしない。
だから、情報があるにも関わらず、オリウスはもう情報はないとばかりにそう返した。
そしてそれを知らない故に、クロノとリンディは本当に困ったように悩み顔を浮かべていた。
「あの……一つ、聞いていいですか?」
そんな中で、事件のことを知らぬために話題に入れなかったなのはが発言をする。
そして聞きたいことがあるというのは隣にいるフェイトも同様なのか、口にこそせずとも二人へと視線を向けている。
その言葉、その視線に対して、悩み顔をしていた二人は元の表情へと戻り、何かと尋ねるように視線を交わす。
といっても、実際のところは二人が何を聞きたいのかということは二人ともなんとなく分かっていた。
というか、この話題を話している最中に、事情を知らぬ二人が浮かべる疑問など一つしかないだろう。
「えっと……今話してるその事件っていうのは、どんなものなんですか?」
案の定二人の予想に違わず、なのはは考えたとおりの疑問をぶつけてきた。
その予想通りの言葉にクロノは自分だけでは話していいのか判断し辛いため、リンディへと視線を向ける。
向けられた視線にリンディは了承するように僅かに頷き、それに頷き返した後にクロノは詳細を話し始めた。
「ちょうど僕が執務官になったばかりの時期くらいかな……何人かの人間が相次いで失踪したっていう事件が発生してたんだ。 まあ、ただ失踪したというだけだし、この時点ではある程度の対処だけで管理局もあまり重要視はしなかったんだけど……それが起こってから一年して、事態が急変したんだ」
「急変? 一体どんなことが起こったの?」
首を傾げつつ、不思議そうな顔でフェイトは聞いてくる。
対して、クロノはこれから話すことを頭に浮かべ、僅かばかりため息をついた。
そして息を吐き切ると同時に、フェイトの疑問についての答えを口にした。
「最初に報告された失踪者が、遺体で発見されたんだ……」
「遺体……死んでたって、こと?」
「ああ……しかも、見た目で死因が分からないほど綺麗な状態でね。 後に医療班が調べてリンカーコアが見当たらなかったことから、死因はリンカーコアを抜き取られたことによるショック死と断定された。 加えて、局内の魔導師からも失踪者が出てね……さすがに無視できる事態じゃなくなったんだ。 それで僕を初めとする数名の局員が事件を追ったんだけど、ある三人の名前以外で手がかりとなるものは見つからなかったよ」
《三人? ジェドとアイラは分かるけど、もう一人は誰なわけ?》
「ジェド・アグエイアスの娘、シェリス・アグエイアスだ。 助手を務めていたアイラさんもそうだけど、娘であるこの子も有力な情報を持っていることは間違いない……だから必死に捜索して、九ヶ月くらい前にようやく接触することに成功したんだけど……」
そこで言葉を一旦切り、クロノは再び僅かばかりのため息をついた。
その様子から、オリウスはその後に繋がる言葉に想像がつき、どこか納得するような声を漏らす。
そして、クロノが答えを言うよりも前に、自分の抱いた答えを口にした。
《同行してもらうことを拒否するばかりか、話すら聞かずに襲ってきて……挙句の果てには逃げられた、でしょ?》
「……全くその通りだ。 あの時点で彼女は局員に対する傷害、及び民間人への魔法攻撃……他にも多数の疑いが掛けられている。 でもどちらかと言えば連行するよりも自主的に同行してもらうほうが良いと思って話し掛けたんだが、彼女はこちらの話をまるで聞かなかった。 だから、やむを得ずにこちらも応戦し、無力化をしてから連行しようと思ったんだけど……結果としては隙を突かれて逃げられてしまった」
《ふ〜ん……まあ確かに、シェリスには説得なんて方法は通用しないかな。 私とアイラがあいつから逃げて約二年経つから、その間のあの子は分からないけど……それまでだけでも十分すぎるほどファザコンだったし》
それは別の言い方をすれば、父親を信じて疑わないということ。
そしてそれが意味するのは、シェリスという少女は自分の意思で父を手伝い、管理局と敵対しているということだった。
とはいっても、実際のところ自分の意思で行動しているというのは父親が成していることを理解しているということではない。
「君は彼女をよく知っているようだから聞くけど、君から見て彼女はどんな子だったんだ?」
だからこそ、クロノはまずはシェリスという子の人柄を知るためにそう尋ねた。
シェリスが父親のしていることを知らずに手伝っているのならば、その状況はPT事件のときのフェイトと酷似する。
そしてもしそうなのであれば、フェイトと同様に弁護の余地はまだあると言ってもいい。
しかし、シェリス本人は話を聞いても答えてはくれなかった……だから、シェリスのことを知っているオリウスにそう尋ねたのだ。
対して尋ねられたオリウスは、何となく聞いてくるだろうと予想がついていたのか、僅かな間を置いてからそれを語った。
《そうだね〜……物事の善悪を区別せずに行動する子、かな? さっきも言ったけどすっごいファザコンだから、あいつの望むことは何でもするっていう感じだね……それが良い事でも、悪いことでもね》
「なるほど……ということは、彼女自身は事を理解していない可能性もあるということか」
《まあ、可能性はあるだろうね〜……あ、ちなみにだけど、シェリスと戦うならいろいろと覚悟しといたほうがいいよ》
「? それはどういう意味だ?」
《ん〜……なんていうか、直接戦ったお兄さんなら分かると思うけど、あの子の魔導師としての実力は結構なものなの。 加えて、一般的な魔導師とはかなり異なった戦い方をするから、下手にあの子のペースに乗せられるとヤバイんだよね。 アイラなんか、それで負けかけたことが多々あるしね》
アイラの実力を知らないクロノとリンディには分からないが、実際に目にしている残りの面々は驚きを浮かべる。
赤髪三つ編みの少女―ヴィータとの戦いを見る限りでは、決してアイラの実力が弱いものではないということが分かる。
しかし、そのアイラが負けかけたとなると、シェリスという少女の実力はかなりのものがあるということになる。
そしてこれまでの話を考えるとそれは一年前のこと……一年前でそれなら、更に魔導師としての腕が上がっていてもおかしくはない。
総合して、オリウスの告げる言葉どおり、戦うのであればそれなりに気を引き締めなければならないということであった。
だが、オリウスの話はそこでは終わらず、まだあるというように続けて言葉を放った。
《それともう一つ……あの子を相手にする場合は、複数で相手にしないことがお勧めかな》
「複数では駄目? 普通はそちらのほうが有利に戦況を運べるものじゃないのか?」
《まあ、普通の奴相手ならね……でも、さっきも言ったとおりシェリスは変わった戦い方をするから、人数を多くしても有利にはならないの。 ううん、それどころか……》
《こちらの数が多ければ多いほど、あの子を有利な状況にするだけになるね》
あとがき
さて、今回はアイラのこととシェリスのことが若干明らかにされたわけだが。
【咲】 ていうか、アイラってキレると言葉遣いがすっごい悪くなるわね。
まあな。 というか、キレたときの口調がアイラの素だったりするのだよ。
【咲】 あれが素? じゃあ、なんで普段は素の状態で話さないわけ?
それはアイラの過去に関係してる。 まあ、それほど重要じゃないと言えばそうだけどな。
【咲】 ふ〜ん……いずれ明らかにするわけ?
まあ、本編では無理そうだから、外伝という形でいずれ出てくると思うぞ。
【咲】 外伝を作るの好きねぇ……ま、いいけど。 で、今回はシェリスのことも出たけど、複数相手だと有利になるってどういうこと?
ふむ、要するにシェリスは多対一という状況に長けた魔導師ということだよ。 前の話の冒頭でも出ただろ?
【咲】 ああ、武装局員数人を一瞬で沈めたあれね。
そうそう。 まあ、それを可能にするのはシェリスの独特な戦い方にあるわけだけど、たぶんこれはもうすぐ出てくると思う。
【咲】 次回くらい?
かもしれんし、その次かもしれん。 結局のところはまだ未定ということだ。
【咲】 ふ〜ん。 でもさ、それが出るって事はシェリスが誰かと戦うってことよね? 一体誰と戦うわけ?
それはそのときになってのお楽しみだな。 まあ一つ言えるのは、現状で誰がシェリスと戦っても苦戦は必至ということだな。
【咲】 誰が戦ってもって……それ強すぎない?
そういうわけでもない。 確かに魔導師としては強い部類に入るけど、それだけなら他の面々でも言えることだしな。
【咲】 じゃあ何で苦戦するのよ? 相手によっては相性が良くて苦戦せずに勝てるかもしれないじゃない。
ん〜、なんというか……さっきも言ったシェリスの戦い方が独特っていうのもあるけど、加えてシェリスのデバイスは若干特殊だからね。
【咲】 特殊?
そう、特殊。 名前のほうは、もう出てるから分かるだろ?
【咲】 確か、アリウスよね? この名前からすると、オリウスと何かしらの関係があるように思えるわね。
確かに関係はあるな。 まあ、詳しいことは以降に明かすのだけど……あえて一つだけ。
【咲】 何よ?
オリウスとアリウス……この二つのデバイスは別名として『蒼天の○○○と○○』と呼ばれていたりする。
【咲】 肝心なところが伏字ねぇ……ついでに、蒼天と聞くとリィンフォースUが思い浮かぶのだけど?
ふむ、確かにその部分は同じだが、実際は蒼天の魔道書とこれらは関係ないと言っておこう。
【咲】 そりゃまあ、関係あったらそれはそれで問題だしねぇ。
そゆこと。 じゃ、微妙にいろいろと明かしたところで今回はこの辺で!!
【咲】 また次回会いましょうね〜♪
では〜ノシ
ほんの少しだけ分かった事と、分からないままのこと。
美姫 「うーん、過去に何があったのかしらね」
闇の書事件と平行して、何かが起きようとしているのかな。
美姫 「次回が気になるわね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」