一体何が起こったのか分からず、宙にて男は呆然と立ち尽くす。
見た感じ十もいかない年頃の少女―シェリスを、十数名の仲間で取り囲み、捕縛を試みた。
だが、シェリスはそれに対して何の戸惑いも浮かべず、ただ笑ってデバイスを変形させ、何かを呟いた。
そこまでは彼にも視認できた……しかし、そこからは何が起こったのかすらも分からない。
変形させたデバイスの先端から眩い閃光が放たれ、それに一瞬だけ目を閉じ、開けたときに広がった光景。
自分を除く仲間達が一人の例外もなく血を流し、海へと落ちていく……そんな光景。
何が起こったのか、シェリスは一体何をしたのか……何もかもが分からず、男はただ呆然とするしかなかった。
「ぶぅぶぅ……たった一発で死んじゃうなんて、つまんな〜い」
文句を言うようにシェリスは頬を膨らませて呟き、僅かに構えを解く。
本来なら明らかに油断しているということが分かるその様子は、狙い目と言ってもいい。
しかし、男にはそこを付け入って攻め込むことは出来ず、我に返ったと同時に震えが全身に行き渡る。
本能は逃げろ、逃げろと告げているのに、その場に縫い付けられたかの如く体は動かない。
「うにゅ? ああ、まだ一人生きてたんだね〜」
《Remove it from attack. It does little to control training for the better?》
「そっか〜……じゃあ、ちょうどいいから、あの人で練習しちゃおっか♪」
《Okay,Master》
怯えの走る男の視線の先で少女はデバイスとそう言い合い、球体型となっている杖の先を向ける。
それと同時にガキンという音を奏でて弾丸が装填され、デバイスのコアが蒼い光を僅かに放つ。
《Reflectshield,Multiple expansion》
響く音声に呼応するように、立ち尽くす男の周り、上下左右の至る所に鏡のような壁が無数に顕現する。
それが顕現したのを見届けると、シェリスは満面の笑みを浮かべつつ杖の先端に魔力を収束する。
そして数秒程度という僅かな時間で収束し終えた魔力を……
「バイバイ、お兄さん♪」
《Grimgerde》
まるで邪気の感じられない言葉と共に、放出した。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第一章】第三話 破砕の斧、鉄壁の盾
《つまり、その転送とやらをしたいけど結界が邪魔で出来ない……そういうことかい?》
《はい。 なのはのこともありますから、すぐにでも結界を破壊して転送したいんですけど》
《固すぎて壊せないってわけだね……確かにそりゃ困りもんだろうけど、アタシにはどうしようもないよ。 というか、どうにか出来たところでこの状況じゃあねっ》
三つ編みをした赤髪の少女―ヴィータの攻撃を避け、時には防ぎつつ二人は念話を交わす。
その内容はユーノたちが今成そうとしていること、そしてそれに関しての問題点となっていることの二点。
しかし、後者の問題点となっている部分を聞いても、アイラにはどうしようもないこと故にそう返すしかない。
結界破壊……砲撃ならともかく、近接メインのアイラにそんな芸当が安易に出来るわけもない。
いや、実際は砲撃魔法が一つもないというわけではないが、得意でない上に、撃つには僅かに時間が掛かってしまう。
そんな暇を相手が与えてくれるとは到底思えず、結論としてアイラに結界破壊は現状では不可能だった。
「うらぁぁ!!」
「っ!」
それどころか、悠長に念話に気を向けている暇さえもない。
それほどにヴィータの攻めは激しいものがあるし、一撃一撃が安易に受けてもいいものでもない。
故に基本的にアイラはヴィータの攻撃を避けるのだが、それでも避けきれない一撃というものはある。
だが、そういったものに対してはユーノが援護し、防御魔法にてそれらを受けきる。
しかし、そんな状態では先ほどまでと変わらず、結局は均衡状態を保つことにしかならない。
結界破壊の手段を模索しているのだから、ユーノとしてはそれでもいいのだが、もう片方はそうもいかない。
普段は食べることと寝ることが好きな怠け者でも、勝つか負けるかの勝負となればその性格が一変するアイラ。
そんなアイラは勝負事になると負けることはもちろん、引き分けなど絶対に認めず、そうなるかもしれない状況というのも嫌う。
そのためそんな状況に陥っている現在、当然の如く苛立ちを浮かべており……
「ユーノ、もしものときの援護、頼むよ! カールスナウト!」
《Fractureform》
「え……ちょ、ちょっと!」
ユーノにそう頼むや否や、弾丸を装填してデバイスの形態を変え、ヴィータへと向かっていった。
無茶苦茶なお願いを告げられただけでなく、止めようとする言葉も効かぬままに特攻したアイラにユーノは内心呆れる。
だが、放っておくわけにもいかないため、言われたとおりいざというとき守りきれるように後を追った。
対して、ヴィータは特攻してくるアイラに僅かに驚きを浮かべるも、瞬時に表情を戻して鉄球を三つ顕現する。
そして、鉄槌を大きく振り上げ、向かってくるアイラに向けて鉄球を力強く撃ち出した。
鉄球は先ほど撃ち出されたときと同様に緩いカーブを描き、しかしその全てがアイラへと迫っていく。
特攻とはいえ、それを真っ向から迎え撃とうとするほどアイラも馬鹿ではなく、軌道を大きく変えて避けつつ向かおうとする。
しかし、鉄球にはホーミング機能があるためか、軌道を変えたアイラを追うように後ろから鉄球は迫り続ける。
「ちっ……ならっ!」
後ろを追いかけ続けてくる鉄球に舌打ちをした後、アイラは驚きの行動に出た。
あろうことか、追ってくる鉄球を引き連れたまま、再びヴィータへと一直線に特攻し始めたのだ。
正直なところ、アイラの移動速度と鉄球の飛来速度では圧倒的に鉄球のほうが上である。
先ほどまでは回避行動的な移動をしながらだったから着弾しなかったが、そんなことをすれば確実に当たる。
そしてそれを現実に表すかのように、飛来する鉄球はアイラへと徐々に迫っていき、最終的には着弾して爆発を引き起こした。
確実にヒットして煙を上げるその光景に、ヴィータは構えを解かないながらもやったか?と内心で思う。
しかし、強制的に掻き分けられた煙の中から現れた姿にその考えは否定された。
三つの鉄球を全て受けたにも関わらず、煙を掻き分け、無傷の状態で迫り来るアイラの姿。
それにヴィータは再び驚きを浮かべるが、それが大きな隙となった。
「どりゃあぁぁぁ!!」
《Fractureimpulse》
振り上げる鋸状になった戦斧の刃を高速回転させ、火花を散らせながら振り上げる。
そして気合の声と共にそれをヴィータへと向けて力一杯振り下ろした。
それに対してヴィータは至近まで迫っている故に回避が取れず、障壁を展開している暇さえもなかった。
そのためデバイスの両端を持って柄で受け止めるのが精一杯であり、それでもかなりキツイために僅かな呻きを漏らす。
「だあぁぁぁぁ!!」
「くっ……!」
しかし受け止められただけでは勢いは途絶えず、アイラは戦斧を持つ手に尚も力を加えていく。
それによって回転する刃は相手のデバイスの柄と強くぶつかり合い、先ほどまで以上に火花を散らせる。
だが、ヴィータはその力を前にしても引かず、それを押し返そうと自身も握る手に力を込める。
それはその見た目にそぐわず力強く、結果として押し返すとまではいかなくとも均衡状態を保つ。
これで相手の使用したカートリッジ分の魔力が切れれば、それが技の切れ目……大きな隙となりうる瞬間。
その隙さえ出来れば相手の武器を弾き返し、自分の大技とも言える技で沈めることもきっと可能。
そう考えてヴィータはその均衡状態を保ち続けようとするが、そんなヴィータの耳に本来なら有り得ない音が僅かに響いた。
――ピシッ
何の音かは一目瞭然……故にヴィータは信じられないといった顔で驚く。
しかし、刃が当たり火花が散らせるその部分に目を向けると、嫌でも現実だと認めざるを得なかった。
受け続ける相手の攻撃が、自身のデバイスに僅かながら罅を入れているという、現実を。
しかし、認めざるを得なくとも信じられないのは変わらず、驚きもまた表情から消えることはない。
というのも、ヴィータの扱うデバイス―グラーフアイゼンはベルカ式アームドデバイスと分類されるもの。
そしてアームドデバイスはインテリジェントデバイスと比べると本体強度は明らかに上であり、柄とはいえ簡単に壊れる代物ではない。
その理由としては、アームドデバイスが魔法の杖として使われるのではなく、武器として使われることを追求したものだからだ。
だというのに、アイラはグラーフアイゼンの柄に僅かといえど罅を入れた……これだけでその技の威力が窺えるというものだ。
だが、そうだからと驚いてばかりもいられない……もし相手の技が途切れるよりも先に破壊でもされでもしたらたまらない。
柄の破壊自体はリバースを掛ければ修復は出来るのだが、そんな暇をくれるほど相手が馬鹿とは到底思えない。
つまりは、柄の破壊は自身の負けを意味するということであり、そんな可能性があることに気づいたヴィータがそれを続けるわけもない。
「っ!」
故に、ヴィータはその事態を防ぐため、自ら力を若干抜いて相手の力のままに吹き飛ばされることを選んだ。
それによりヴィータは当然の如く遥か後ろにあったビルの側面へと激突し、その姿は激突の際に巻き上がった煙で隠れることとなった。
その光景に後ろのほうから手を出せずに見ていたユーノはアイラが押し勝ったと思い、アイラの元へと寄っていく。
しかし、そんなユーノの考えとは反し、駆け寄ったときに見たアイラの表情はやられたと言いたげに歪んでいた。
「隙を作らないために自ら吹き飛ばされることを選ぶなんて……見た目だけじゃ実力は判断できないねぇ、やっぱり」
「え……あ、それってつまり、あの子はまだ?」
「戦えるだろうね、確実に。 武器の破損は自己修復させれば問題ないし、ビルへの激突なんて大したダメージにはならない……まあ、結局は振り出しに戻っただけさね」
そう言い切ると、アイラはデバイスを軽く横に振り、同時に空となった弾丸を排出する。
その後に更なる弾丸を装填し、今一度凄まじい音と火花を立てて刃を回転させ始める。
そして、煙の晴れゆくビルの側面に視線を向けたまま、ユーノに向けて再び口を開いた。
「そういえば、さっきはナイスタイミングだったよ……あんがと、ユーノ」
「いえ、別にお礼はいいんですけど……でも何も言わずにあんなことするのはあれっきりにしてくださいね? 心臓に悪いですから……」
「善処はするよ」
僅かに笑みを浮かべてそう言うアイラに、ユーノは半ば諦め交じりにため息をついた。
その会話で分かるとおり、先ほどの鉄球の着弾による爆発でアイラが無事だったのはユーノのお陰だった。
着弾の瞬間にユーノが慌てて球体型の障壁でアイラを覆ったため、ダメージはアイラへと通らずに無傷で済んだ。
しかし、これだけ言えば簡単なことに聞こえるが、実際は何の説明も合図もなしにされ、咄嗟に使用するのは難しいことだ。
故にこれを成したユーノは凄いという一言につき、もうあんな行動は勘弁してくれと思ってしまうのも当然と言えた。
だが、ユーノを信頼しているのからかはよく分からないが、アイラの言葉や表情を見るとそれが聞き入れられる可能性は極めて低い。
つまりは言っても聞かないとその様子から分かるため、ため息をつく他なかったというわけである。
――ガキンッ
そのため息と同時にそんな聞きなれた音が聞こえ、ユーノは瞬時に視線を正面に戻した。
すると、激突したビルの側面を覆っていた煙がすでに晴れており、そこにはデバイスを変形させて柄を両手で持つヴィータの姿があった。
そのヴィータの足元に髪や服同様の赤い魔法陣が浮かび上がり、合わせるように変形したデバイスの噴射口から火が噴出す。
そして推進力を高めつつその場にて踏ん張るように数度回転し、ドカンと音を立て出力を一気に上げて突撃してくる。
それに対し、アイラは避けようとする素振りは見せず、ユーノを僅かに下がらせると共に自身も迎え撃つべく突撃した。
「ラケーテン――」
「フラクチャー――」
同時に口を開き、同時に得物を振り上げ、互いがぶつかり合う寸前で――
「――ハンマー!!」
「――インパルス!!」
振り上げた得物を一気に振り下ろし、中央にて激突させた。
回転する鋸状の刃に、ピンポイントで噴射口の反対にあるスパイクの先端がぶつかり、火花を散らす。
鋸の振動故か、僅かに互いの持つ得物を震わせながら、どちらも引かずにぶつけ合う。
一見してその様子は均衡しているようにも見えるが、そうではないということが後の光景で分かることとなった。
「くっ……」
そう呻きを漏らしたのは、アイラ。
そしてその呻きと共に徐々にではあるが押され始め、ジリジリとハンマーがアイラへと迫る。
この結果は、二人の技の性質を考えると、必然的なことであると言える結果であった。
ヴィータの使用している技―ラケーテンハンマーは噴射口の推進力を利用し、対象を爆発的な威力で破壊するもの。
それに対してアイラの技―フラクチャーインパルスは鋸状となった刃に魔力を付与し、残りの魔力を回転の力として使うことで対象を破砕するもの。
この二つがぶつかったとなれば、噴射口の推進力で威力を高めるヴィータの技のほうが押し合いでは遥かに優位に立つのだ。
ぶつけ合ってそのことに気づいたアイラは当然押し返すことも出来ず、迫り来るハンマーを見て……
「ははは……まずったね、こりゃ」
僅かに口元に笑みを浮かべ、同時にヴィータのハンマーによってデバイスごと地面に向けて叩き落される。
威力のままに叩き落されたために落下速度は凄まじく速く、そのまま地面にぶつかればビルにぶつかるよりもダメージを受けるだろう。
故にユーノは本来足場として使う魔法をすかさず行使し、速度も考えて五段重ねで展開してアイラを受け止めた。
しかし、ヴィータはそれを見るや否や、再び鎚を振り被って急速接近していき、足場にて倒れるアイラに追撃を掛けようとする。
だが、それをユーノが許すわけもなく、即座にヴィータとアイラの間に割り込むことで阻み、ヴィータはそれに舌打ちをしつつ上げた鎚を振り下ろす。
振り下ろされる鎚に対してユーノは瞬時に右手を前に突き出し、円形の障壁を展開してそれを防ごうとする。
「邪魔すんなぁぁぁ!!」
「っ!?」
障壁にぶつかると同時にそう叫び、デバイスより空の弾丸を排出して新しいものを再装填する。
そして装填完了と共に噴射口より再び火が噴出し、より勢いを増してバチバチと音を立てつつ障壁とぶつかり合う。
防御や補助系の魔法を得意とするユーノでも、弾丸再装填によるそれを相手にするのはキツく、僅かに顔を辛そうに歪める。
その辛そうな表情が深められていく中でヴィータの鎚は徐々に押していき、もう限界だとユーノが思い始める。
《そのまま障壁維持しときなよ、ユーノ!!》
しかし、そう思い始めた矢先に聞こえた声にユーノの表情は一転して驚きに変わる。
そして表情を変えたと同時にユーノも、攻撃を加え続けるヴィータもそのことに気づき、後ろへと視線を向けた。
すると、二人が視線を向けたそこには、先ほどまでユーノの後ろにいたはずのアイラの姿があった。
「喰らいなっ!!」
《Shotbarrett!》
背後に回った状態で変形させたデバイスの銃口を向け、声を大にしてそう叫ぶ。
その叫びと共に銃口から無数の魔力弾が次々と乱雑に放たれ、ヴィータへと襲い掛かる。
「ちっ!」
《Pferde》
それに対してヴィータは僅かに舌打ちをし、瞬時にその魔法を行使して上空へと急速離脱する。
それにより直線にしか飛ばない魔力弾は本来の対象を失い、ヴィータの後ろで障壁を維持していたユーノへと向かう。
降り注いでくる無数の魔力弾にユーノは驚きと焦りが入り混じったような表情を浮かべるも、展開していた障壁によって身は守られる。
そして、弾の雨が止んだと同時に息をつきつつ障壁を消し、同時にジト目で睨みつつ文句を口にする。
「あ、ああいうのは止めてくださいって言ったじゃないですか! 防御を維持してなかったらどうする気だったんです!?」
「だから言ったじゃないか、障壁を維持してろって。 それに、こういったことが出来るのはアタシがアンタを信頼してる証拠だよ」
「信頼の仕方が間違ってますよ! もう……今度からは本当に止めてくださいよね。 心臓に悪いですから」
疲れたというようにがっくりとうな垂れるユーノにアイラは笑って返す。
それと同時に、不意をつくかの如くアイラに襲い掛かってきたヴィータの一撃をデバイスの柄で受け止め、弾き返す。
弾き返されたことにより僅かにバランスを崩したところに、アイラは追撃とばかりに戦斧で横一閃をかました。
しかし、バランスを崩したといってもそれは僅か……戦斧が自身に到達する前にヴィータは体勢を戻してそれを受け止める。
「ほんとにやるねぇ、アンタ……でも、そろそろ倒れてくれるとアタシ的には助かるんだけど?」
「そんなわけいくかよ! このあたしが……鉄槌の騎士が、お前なんかに負けるわけにはいかねえんだぁ!!」
見た目とはそぐわぬ気迫にアイラは僅かに驚くも、それはすぐに笑みへと変わる。
恭也のときもそうだったが、勝ち負けに拘りつつもアイラは戦いに楽しみを見出すタイプだ。
最初は容姿が子供故にやる気があまり出なかったが、その実力、その気迫を見せられると認識を改めざるを得なかった。
自分が本気で戦いを楽しむのに、相応しい相手だと……。
三箇所で戦いが激化する中、なのはは目には驚きの光景が映っていた。
フェイトとアルフ、そしてユーノが助けに来てからしばしして、突如参入した二人の人物の姿。
一人は見たことがない人だけれど、もう一人のほうはなのはにとって凄く見知った人物だった。
「おにい……ちゃん……」
その人物とは、自身の兄である……高町恭也。
無表情で、時々意地悪だけど、本当は凄く優しい……大好きな兄。
そんな兄がなんでここにいるのか、なんで荒れ狂う戦火の中を駆け回っているのか。
どうして、魔法の存在を知らないはずなのに、魔法を使っているのか……その全てが、分からない。
故に目撃したその姿に戸惑い、混乱する中で、戦い続ける恭也と一瞬だけ目が合った。
かなり遠くで戦っているため、本来ならわかるはずもないのだが、そのときはなぜか瞳の語る思いがわかった。
それは、心配……そして、安心という二つの思い。
そしてその二つから、なぜ恭也が戦っているのかという理由のみがなのはには理解できた。
「助けな、きゃ……」
理解したからこそ、なのはは体を走る激痛に耐えて歩き出す。
フラフラとした、おぼつかない足取りではあるが、一歩、また一歩と止めることなく歩む。
大好きな兄が頑張ってる、大好きな親友が頑張ってる……皆が、頑張っている。
だというのに、自分が頑張らなくてどうするんだ……そう自分に叱咤するように歩き続ける。
そのとき、そんななのはの強い意思に答えるように、手に持つ魔法の杖―レイジングハートが輝き、翼を広げた。
「……レイジングハート」
破損が酷いにも関わらず自身の意思に答えてくれる相方に、なのはは気遣うように声を掛ける。
だが、気遣うその気持ちに反して、レイジングハートは驚くべきことをなのはに告げる。
《Let's shoot it, Starlight Breaker》
そんな言葉を告げられ、なのはは一瞬だけ驚きを浮かべた。
それもそうだろう……いつ自壊してもおかしくないその状態で、自身の最強砲撃魔法を撃てと言うのだから。
負担だって決して軽くないそれを、今の状態で耐えられるとはとてもじゃないが思えない。
だから、なのはは心配するような声で、それを止めようとする。
それでも、レイジングハートはなのはの言葉を聞いても発言を変えず、撃てると尚断言し続ける。
確かにスターライトブレイカーを撃てば結界は確実に破壊でき、皆の作戦を成功に導くことは可能だ。
だがそれでも、大切な相方が壊れるかもしれない手段など、なのはは取りたくなどなかった。
そして最終的には涙混じりの声で止めようする中で紡がれた、たった一言が……なのはの判断を変えさせた。
《I believe master. Trust me my master》
短いその言葉に込められた想い……それがなのはにも分からないわけではなかった。
だから、目に溜めた涙を拭って、相方のその意思に答えるように言葉を紡ぐ。
「……わかったよ。 レイジングハートが私を信じてくれるなら」
言葉を紡ぐなのはの目には、強い意思が宿っていた。
そして宿した意思を表すように、桃色の魔法陣がなのはの足元に浮かび上がる。
「私も、レイジングハートを信じるよ」
意思は形となり、構え直した杖から伸びる光の翼が輝きを増す。
そして自身の中にあるありったけの魔力をその一撃に込め、同時に自身の意思を念話で皆に伝える。
それに対して皆が返事を返す中に、兄の声が含まれていたことに嬉しさを感じつつ、なのはは意識を集中する。
急速に収束していく巨大な魔力……それを感じ取ったヴォルケンリッターの三人は即座に阻止しようと動く。
しかし、なのはの邪魔はさせないというようにそれぞれが相手をしていた者が立ちはだかり、逆にその行動が阻まれてしまう。
阻まれて尚阻止するために動こうとする中で、発射完了までの時間が三秒を切った。
それを合図になのはは杖を振り被り、残り一秒と告げる言葉が聞こえたと同時に――
――ずぶり、と……なのはの胸から、腕が生えた。
あとがき
まあ、最終的にはここに行き着くわけだ。
【咲】 原作どおりよね……ありきたりな。
いや、そう言われましても……ここを返ると後々の話が結構変わってくるわけで。
【咲】 まあ、そりゃねぇ……ところで、今回ユーノって活躍してた?
一応してただろ。 守りに関して心もとないアイラをしっかりサポートしてたじゃないか。
【咲】 ふ〜ん、まあそれでも、ヴィータと五分五分っぽく見えるけどね。
見た目で判断して油断する人だからねぇ、アイラは……今回に認識が変わったけど、それまでは手を抜いてたんだよ。
【咲】 ていうことは、本気同士でやるとアイラのほうが強いわけ?
ん〜……少なくとも、今回のようなヘマはしないかな。 ラケーテンハンマーに関しても、概要が分かってればあんなことはしなかったし。
【咲】 なるほどねぇ……まあ、結局のところ、ヴィータもヴィータで強いということね。
そりゃ騎士だからな。 シグナムがめっぽう強いのにヴィータが弱いわけはないだろ。
【咲】 まあねぇ。 そういえばさ、アルフとザフィーラの戦いがないようだけど?
ふむ、それまで書くと戦い編が長くなりそうだから、申し訳ないけど飛ばした。
【咲】 ふ〜ん……それっていいわけ?
まあ、原作を見てる人には目新しい部分のない戦いだし、今後二人の戦う場面がないわけでもないからいいんじゃないか?
【咲】 まあ、それを決めるのは読者の人たちよね。
だな。 とまあ、そんなわけで……次回は時空管理局でのお話だ。
【咲】 ふ〜ん、なのはを運ぶってことね……それには恭也たちも同伴するわけ?
しないわけにはいかんだろ……逃げたら逃げたで問題だぞ。
【咲】 まあねぇ……。
ふぅ……で、次回は時空管理局でのお話なのだが、そこで謎となっていることが一つ明かされる。
【咲】 それはオリウスとアイラの事情に関すること?
まあな。 どんなことかは次回をお楽しみに……では、今回はこの辺で!!
【咲】 また次回会いましょうね〜♪
では〜ノシ
うーん、全体的に見ると引き分けっぽくも見える戦いだった。
美姫 「最終的に決着はついてないしね」
で、なのはの胸から手が!
美姫 「これで次回は恭也たちもアースラに行く事になるのね」
さてさて、そこで明かされる事とは。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待っています。