加速魔法を用いたことで、恭也は金髪の少女が地面に激突する前に抱きとめることに成功した。

抱きとめられた少女は来る衝撃が予想外に柔らかいものだったことを疑問に思い、閉じていた目を開ける。

そしてすぐ目の前にあった見知らぬ男性の顔、今の自分の状況がどうなっているのかということに困惑を浮かべる。

だが、近くにある恭也の顔が自分のほうに僅かに向き……

 

「大丈夫か?」

 

開かれた口からそう尋ねられたことで、少女は自分の状況を悟った。

故に少女はまだ僅かばかりの困惑を残しながらもお礼を口にし、恭也の腕から降りて地面へと足をつく。

 

「えっと……あなたは?」

 

「高町恭也……高町なのはの兄だ」

 

状況が状況故に、尋ねられたことに対して恭也は短く答える。

しかしそれだけでも少女にとっては驚きだったのか、再び困惑の色が強くなった。

だが、先ほども言ったとおり状況が状況だ……困惑して呆然としてばかりもいられない。

それは恭也とて分かっているのか、デバイスを構えつつ上空の女性に視線を向けなおして口を開いた。

 

「君の戦う理由は知らないが、俺は兄としてなのはを守らなければならない……だから、加勢させてもらおう」

 

「そ、それなら私のほうよりも、アルフやユーノたちのほうを……」

 

「大丈夫だ……あちら側にも、別の奴が加勢に行っているからな」

 

「……わかりました。 加勢、感謝します」

 

恭也の告げたことに少女はそう言って頷き、同じくデバイスを構えて上空の女性を見る。

少女が戦闘体勢を取ったのを見て恭也は飛翔魔法を展開し、同時に思い出したかのように口を開き尋ねた。

 

「君の名前は? 協力して戦うのに名前を知らないと不便だから、教えてもらえないか?」

 

「フェイトです……フェイト・テスタロッサ」

 

返された少女の名前に恭也は頷き……

 

「いくぞっ!」

 

「はいっ!!」

 

そう言い合うと共に、女性へと向けて空に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第二話 烈火の炎、漆黒の幻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトと共に飛び立った恭也は、剣型のデバイスを構える女性と対峙と同時に斬りかかる。

だが、突然の恭也の参入といきなり攻撃されたことに女性は僅かに驚きを浮かべるのみで、平然とそれを受け止めた。

 

「増援か……」

 

受け止めた瞬間にそう呟き、すぐさま刃を弾き返して追撃をする。

しかし、それを甘んじて受けるわけもなく、弾かれた状態から体勢を立て直して受ける。

そして弾いては追撃し、弾いては追撃しと互いに次々と斬撃を繰り出していく。

 

「リースっ」

 

《Hrimfaxi!》

 

剣と剣がぶつかり合う中で放たれた叫ぶような声にリースが応え、蒼い宝玉に文字が浮かぶ上がる。

その瞬間、繰り出されていた斬撃が突如四つに増え、僅か縦にズレながらも同じ軌道を描いて女性を襲う。

それに対して女性は先ほど以上の驚きを浮かべ、それまで受けていたにも関わらず距離を取ってそれを避ける。

だが、女性がその行動に出ることこそが、恭也の狙いであった。

 

「撃ち抜け、ファイア!」

 

その狙いに気づき、後ろを振り向いたときにはすでに遅く、言葉と共にフェイトの周囲に発生した無数の魔力弾が発射される。

速度的にも、距離的にもそれは避けられるものではなく、魔力弾は女性へと着弾して爆発を引き起こす。

その爆発音が響くと共に恭也はフェイトの横へと移動し、煙の上がるその場所を見続ける。

対して、横にいるフェイトは確実にヒットした手応えを感じ、僅かながら構えを解こうとする様子を見せる。

 

 

 

「やってくれる……」

 

だが、それは煙の立ち上がる方面から聞こえた声によって中断することとなった。

驚きを浮かべた顔でその方面に視線を向けると、そこには先ほどの女性が無傷の状態で立っていた。

確かに手応えはあったはず……なのになぜその女性は、あろうことか無傷で立っているのか。

そのことは僅かにフェイトへと動揺を誘う中、その答えをその場にいる女性以外の一人が見抜く。

 

《へ〜……あの一瞬で防御魔法を展開するなんてねぇ。 こりゃ、一筋縄じゃいかないかな》

 

その言葉が放たれたのは、恭也の持つデバイスからであった。

魔力弾を視認してから着弾するまでの間、そのほんの数秒程度の時間で女性は防御魔法を張った。

それは並みの魔導師に出来る芸当では到底なく、見抜いたオリウス自身の声にも驚きが混じる。

 

「片方が囮となり、片方が本命の一撃を……実に単純だが、良い手ではある。 実際防御が間に合わなければ、私の負けだったわけだしな」

 

そう呟くように告げ、女性はデバイスの切っ先を二人に向けてくる。

それに対して、恭也もフェイトもほぼ同時にデバイスを構え直し、再び対峙する。

構えてからどちらも動かず、出方を窺いつつ睨み合い、僅かに均衡状態が続く。

だが、それが十秒程度続いた後、女性は僅かに笑みを溢し、閉じた口を再び開いた。

 

「どちらも、いい気迫だ。 私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが将、シグナム。 そして我が剣レヴァンティン」

 

自身の名を名乗った後、お前たちは?と尋ねるように視線を向けてくる。

それに二人は構えを解きはしないものの、聞かれたことに素直に答える。

 

「ミッドチルダの魔導師、時空管理局嘱託、フェイト・テスタロッサ。 この子はバルディッシュ」

 

「御神の剣士、高町恭也。 そしてこいつはオリウスだ」

 

「テスタロッサとバルディッシュ、恭也とオリウス……か」

 

頭に刻み込むように繰り返した後、シグナムは切っ先を向けていた剣にもう片手を添える。

そして、勝負に合図などないと言うかのように突然動き出し、二人へと斬りかかった。

それに二人は瞬時に左右へと移動することで避けるが、追撃するようにシグナムは恭也へと襲い掛かる。

なんとなくこちらへ来るのではないかと予想していた恭也は、その追撃に対して迎撃を行うべく剣を振るう。

そうして再び二人が剣を交え始める中でフェイトとて黙っているわけもなく、先ほどのように魔力弾を生成して放つ。

だが、先ほどのように策に乗せられたならともかく、無闇に放たれた魔力弾にシグナムが当たることはない。

放たれる魔力弾を避け、避け終えては恭也、もしくはフェイトへと斬りかかる。

それは、二対一であるにも関わらず対等に戦っているようにも見え、その力量は誰も例外なく驚いていた。

 

《ふえ〜……なんていうか、すっごい使い手じゃん、このお姉さん》

 

《ああ……一つ一つの動作に隙がなく、一撃一撃が凄まじく重い。 厄介だな……》

 

《こりゃ、こっちも本気でいくしかないね……システム、起動するよ?》

 

《そうしてくれ》

 

剣を交えながら念話にてそう会話し、オリウスは恭也の言葉に短めの返事をする。

と同時に、宝玉に先ほど以上に複雑な文字の円が複数浮かび、僅かな光を放つ。

それを合図にしたかのように、オリウスは最後のキーとなる言葉を告げた。

 

 

 

二重術式処理機能(ダブルキャスティングシステム)、起動!》

 

Double casting system, the boot》

 

 

 

二重術式処理機能(ダブルキャスティングシステム)……それは、インテリジェントデバイス【オリウス】に備え付けられた特殊な機能。

デバイスはその自律意志の判断で防御や拘束魔法などをオート発動することが多々見られる。

しかし、それはそういった補助や簡易な魔法という限定されたもので、それ以外の魔法は主のコマンドがなければ使うことは出来ない。

だが、デバイス内に二つの自律意志を内蔵し、一つに二つのコマンドを同時処理出来るようにすることで主とデバイスの魔法同時使用を可能にした。

それがこの機能であり、オリウス最大の特徴にして、真価を発揮できる最大の武器ともなる機能なのだ。

 

《Launch Completed, Please enter the command》

 

《オッケー。 じゃ、今から私も援護に回るから、遠慮せずバンバンやっちゃって!》

 

それに恭也は頷くと、今度は自分からシグナムへと斬りかかる。

そしてそれを援護するようにフェイトも魔法を放ち、時には隙を見て自身も攻め入る。

だが、先ほどまでと同様にそれではシグナムを討つことは出来ず、大概は紙一重で避けられるかデバイスで受けられる。

しかし、それで均衡状態が保つのも先ほどまでの話……今は増援として更に一人、加わっていた。

 

《エウリュトス!》

 

その言葉を告げられるや否や、シグナムと鍔迫り状態の恭也は刃を弾いて後方へと距離を取る。

すると恭也が下がったのを合図にしたかのように、シグナムを囲むように蒼い魔力の刃が顕現した。

そして、顕現したと同時に刃は一斉に放たれ、シグナムへと高速で迫る。

 

「っ……」

 

刃の数、囲まれているという状況からして防げるものではなく、速度的にも防御を展開する時間がない。

故にシグナムは僅かに舌打ちをして上空へと飛び上がり、ギリギリという感じでそれを避ける。

だがそれはあくまでその行動へ導くための陽動、本命は別にある。

 

「バルディッシュ!」

 

Arc Saber》

 

本体から離れた刃が高速回転し、上空に飛び上がったシグナムの後方から迫る。

だが、先ほどのと違って着弾までにほんの僅かな時間があり、その間で防御魔法を展開することに成功した。

その防御魔法に阻まれ、フェイトの放った刃はシグナムに傷をつけることなく消滅してしまう。

しかし、防御魔法を展開する際にその場で足を止めてしまうこと……それこそが、恭也の狙いだった。

 

《Gullinbursti!》

 

《ヴァジュラ!》

 

恭也の使用する加速魔法、オリウスの使用する障壁破壊の持つ魔力を付与する魔法。

それら二つを同時展開し、凄まじい速度でシグナムとの距離を詰めて剣を振るう。

そしてその攻撃に気づいたときにはすでに遅く、シグナムは斬撃をデバイスで防ぐ以外に手段はなかった。

だが、身に纏う障壁をオリウスの魔法で瞬時に破壊された素の状態では加速からの一撃を受けきることは出来ない。

加えて、斬撃には基本技の一つである徹を込めているため、ダメージは内部へと浸透する。

 

「ぐっ……」

 

結果、僅かな呻きを漏らしつつ、シグナムの体は剣の軌道上に吹き飛ばされ、ビルへと激突した。

その様子にフェイトだけでなく、実際に吹き飛ばした恭也自身も手応えから今度こそと思った。

 

 

しかし、激突して僅かに上がっていた煙が晴れたとき、そこには驚くべき光景があった。

あの一撃を受けて尚、まだ戦えるとばかりに剣を構えてシグナムが立っているという光景が。

だが、かといって先ほどの一撃が効いていないわけでもない……その証拠にシグナムの息遣いは若干荒く、痛みを堪えているような感じさえ覗わせている。

あの咄嗟で反応して刃を受けたとはいえ、ダメージそのものは内部へと通っているのだから……それは当然と言えば当然である。

にも関わらず、シグナムが今だ立っているという事態には恭也自身、感服せざるを得ないことだった。

 

《うっそ〜……グリンブルスティとヴァジュラの同時使用からの一撃に耐えちゃったよ》

 

「それに加えてあれには徹も込めていたのだが……それを受けて尚戦えるとは、敵ながらさすがと言う他ないな」

 

《だね〜。 でも、どうするの? あまり大きな魔法が使えない現状じゃ、さっきのが精一杯なんだけど》

 

「どうにかするしかあるまい。 幸い、先ほどの一撃が効いていないわけでもないようだしな」

 

口で言ったとて相手が戦うことを止めないのは先ほどまででも十分に分かること。

故に恭也は説得という手はまず考えることなく剣を構え、距離を置いた状態で再びシグナムと対峙する。

そしてその状態から横目で少しだけフェイトに視線を向け、短く尋ねる。

 

「フェイト、まだいけるか?」

 

「……大丈夫です」

 

自身の状態を尋ねられたことに気づき、フェイトはシグナムから視線を動かさずに短く返す。

そしてフェイトのその返事に呼応するかのように、バルディッシュも僅かに光を放った。

二人のその返事に恭也はわかったと頷き、完全に視線を正面へと戻し……

 

「では、いくぞっ」

 

「はいっ!」

 

互いにそう言い合って、シグナムへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所代わって、二人とは離れた位置にて別の戦闘が行われていた。

片や鎚型のデバイスを持ち、赤い髪を二つの三つ編みで纏めた少女。

その少女と対峙するのは、戦斧型のデバイスを手に持つ朱色の髪の女性―アイラ。

二人は空中にて互いのデバイスを交わせ、時には引いて射撃魔法を放ち、大技を叩き込む隙を作ろうとする。

しかし、考えることが同じ故か、その思惑はどちらもうまくはいかず、こちらも均衡状態が保たれていた。

 

「くそがっ!」

 

Schwalbefliegen》

 

押されてはいない……だが、自身が優位に立っているわけでもない。

その状況に少女は苛立ちを覚えているのか、少女らしからぬ言葉と共に四つの鉄球を顕現する。

そして横一列に並んだそれにデバイスを振り上げ、思いっきり叩きつけることで同時発射した。

撃ち出された鉄球はそれぞれ緩やかなカーブを描きつつも、全てがアイラを狙い迫っていく。

 

「はっ、なめんな!」

 

Shotform!》

 

対してアイラも負けず劣らず乱暴な言葉を放ち、ショットモードへと変形させて瞬時に向ける。

そして向けたと同時に迫り来る鉄球に向けて魔力弾を乱射し、四つ全てを落し切る。

魔力弾が命中した鉄球はここで爆発を引き起こし、それによる煙を引き起こして少女の姿を視認出来なくしてしまう。

そのことに失敗したとアイラが思うや否や、煙を掻き分けるようにして少女が高速で迫った。

 

「テートリヒシュラーク!」

 

言葉と共に振り上げられた鎚がアイラへと一直線に振り下ろされる。

迫るそれにアイラは避けることが難しいと判断したのか、デバイスを持っていないほうの手を前に出して障壁を展開しようとする。

 

 

しかし、鎚が完全に振り下ろされるよりも早く、アイラが障壁を張るよりも早く、円柱型の障壁がアイラを覆った。

それにより少女の攻撃は阻まれ、バチバチと均衡する中でアイラは驚きを浮かべつつ、障壁内部から銃口を少女に向ける。

 

「ちっ」

 

向けられた銃口に少女は舌打ちすると共に、瞬時に再びアイラと距離を取る。

それを見届けた後、アイラは銃口を少女に向けたまま、自分へと近づく障壁を張った本人に横目を向ける。

 

「……たくっ、なんで戻ってきてんだい。 あんたはあっちの援護に行けって言ったのに」

 

「そういうわけにもいきませんよ。 アルフのほうも確かにキツイでしょうけど、どちらかと言えばあなたのほうが苦戦してるみたいですし」

 

「言ってくれるねぇ……まあ、いいさね。 加勢する以上はヘマするんじゃないよ、ユーノ!」

 

ショットモードからアックスモードへと切り替え、言葉と共にアイラは少女へと向かっていく。

対して少年―ユーノはなぜアイラが名乗った覚えがない自身の知っているのかに疑問を抱いた。

だが、今は戦闘中……考え込んでいる時間などあるわけもないと思考を中断し、僅かに遅れてアイラの後を追っていった。

 

 


あとがき

 

 

今回は恭也&フェイトVSシグナムがメインのお話でした。

【咲】 なんていうか、圧倒的過ぎない? 戦局が。

二対一……いや、三対一の状況だからね。 さすがのシグナムでも苦戦はする。

【咲】 ていうか、カートリッジ使ってなかったわよね、シグナム。

使う暇がないんだよ……二人の攻めは息もつく暇もないほどだから。 まあ、使えばある程度変わるかもな。

【咲】 ふ〜ん……でもこれだと、恭也が強すぎと見えるのだけど?

そういうわけでもないよ。 さっきも言ったけど、フェイトと共闘してる状況だし、恭也のデバイスには特殊な機能があるからね。

これらなしで恭也とシグナムが戦った場合、おそらく現状ではシグナムが勝つだろうて。

【咲】 特殊な機能っていうと、ダブルキャスティングシステムのことよね? あれっていまいち意味がわかんないんだけど。

ふむ、まあ簡単に言えば、恭也とオリウスが同時に違う魔法を行使できる機能だよ。

その際に術式を処理するのはリース、あとは二人が制御さえ出来れば同じデバイスを介して違う魔法を同時使用できるというわけだ。

【咲】 へ〜……でもそれって、意味あるの?

恭也みたいな近接魔導師の場合は結構役立つな。 恭也が近接系の魔法を使う最中に、オリウスが射撃魔法を使ったり出来るわけだし。

【咲】 それって、使用者がなのはみたいな砲撃魔導師だったりした場合は意味ないわよね。

だから序章で言ってたじゃん……武器を使った戦いで腕の立つ人じゃないと意味ないって。

【咲】 なるほどね〜……で、今回の戦闘でももう一つ思ったんだけど、恭也があまり幻術魔法使ってないわよね?

だな。 まあ、幻術魔法は多用するものでもないし、恭也の場合は不意をつかないと意味はないしな。

【咲】 ふ〜ん。 で、次回は今回の最後にあったとおり、アイラ&ユーノVSヴィータなわけ?

そういうことになるな。 ヴィータとアイラは戦い方が微妙に似てるから、ある意味アイラにとっては相性のいい相手だ。

【咲】 それは分かるけどさ、防御が主なユーノがどうやってアイラと共闘するのよ?

それはまあ……次回のお楽しみということで。

【咲】 やっぱりそういうことになるわけね……じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回も会いましょう!

【咲】 じゃあね〜♪




シグナム強し。
美姫 「流石は騎士たちの将よね」
まだ決着がつかない中、次はどうなるのか。
美姫 「うーん、次回が待ち遠しいわね」
ほんとうに。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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