このSSはとらハ3にオリジナルな要素を加えた作品となっております。

話はALLエンド後からのお話であり、恭也自身はフリーの状態という所から始まります。

基本的には長編と言っても連作短編物に近いため、若干時期のズレがある場合もございます。

以上の設定をご覧になった上で、読んでみようと思う方はどうぞお読みくださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Concerto for carrying a sword twins

 

 

プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

人の群れが形成される時間帯の海鳴市の駅。

その前にて片手に竹刀袋、もう片手に旅行鞄を持った一人の女性が立っていた。

腰元まである長い黒髪、白の長袖と黒い長ズボン。その上からグレーの薄いジャケットを羽織っている。

そんな容姿、格好の女性は駅前に立つや否や、軽く伸びをしてポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「はぁ……今更ながら、ほんといい加減な書き方。住所くらいまともに書いてよ、母さん……」

 

取り出した紙を見て溜息をつくと、彼女は再びポケットに紙を仕舞う。

そしてよいしょと荷物を持ち直し、駅前から歩き出して目先の商店街へと歩を進めた。

駅の市内案内板によると商店街へは少し距離があるため、本来はタクシーか何かでも使った方がいい。

だが、彼女としては長い時間電車の中にいた故、少し歩きたい気分でもあった。

故に案内板で距離があると分かっても乗り物は使わず、案内板に書かれていた道に沿って歩き続けた。

 

「にしても良い空気だなぁ、この街。海が近いせいか、距離があっても僅かに潮の香りがするのがグッドだよね」

 

海沿いを歩いているわけではなくても、風が潮の香りを運ぶ。

それも海鳴の良いところとも言える場所故、彼女は気分良さげに鼻歌まで歌い出す。

そしてそうこうしている内にしばらく歩いていたのか、彼女の足は目的の商店街へと差し掛かった。

 

「さてさて……喫茶店って事だからたぶんこの辺だと思うけど、どっこかな〜」

 

ポケットに仕舞った紙を再び取り出して再確認するとまた仕舞いこみ、辺りを見渡しながら再度歩を進める。

商店街と言うだけあって小さなスーパーやドラッグストア、更にはゲーセンなど多種多様な店が多く並ぶ。

その中で彼女が探すのは喫茶店。といっても、一概に喫茶店といっても何店かあるため、それだけで探すのは困難。

だが、先ほど再確認した紙には目的となる喫茶店の名前が記されていたのか、それ以外は目にしても通り過ぎている。

そうして商店街の通りをしばらく歩くこと十分弱、ようやく目的の喫茶店を見つけ、その前で足を止めた。

 

「喫茶翠屋……うん、ここで間違いないね」

 

海鳴で知らない者はほとんどおらず、それ以外の街でもそこそこに名を広めている喫茶店。

特にシュークリームが有名で、一度食べたら忘れられないとまで言われる場所。それが喫茶翠屋。

その店の看板と再び取り出した紙に書かれた文字と照らし合わせ、間違いないと確信すると彼女は荷物を持ち直す。

そしてカランカランとベルを鳴らして喫茶店の扉を潜り、それに応じてやってきた店員に数歩歩み寄った。

 

「いらっしゃいませ。一名様、ですね……カウンター席でよろしいでしょうか?」

 

「ええ」

 

頷いて返すと店員はこちらになりますと席へ案内し、少し離れてお冷とお絞りを用意すると再び戻ってくる。

そしてお冷とお絞りを彼女の前に置いて共に同じく持ってきたメニューを差し出し、頭を下げて下がろうとする。

だが、店員が去るよりも早く彼女は呼びとめ、何でしょうかと尋ねてくる店員に対して口を開いた。

 

「ここの店長さん……えっと、高町桃子さんだっけ? その人に少し話があるんだけど、出来たら呼んできて貰えない?」

 

「店長とお話、ですか? 少々お待ちください」

 

女性にそう言われ、店員は店長を呼びに行くため厨房へと入っていく。

そして数分程度の後、彼女がメニューに目を走らせている最中、目的の人物が姿を表した。

 

「お待たせしました。当喫茶店の店長をしてます、高町桃子です」

 

「貴方が、高町桃子さん? ふぅん……店長って言う割には若いのね」

 

「ふふ、ありがとうございます。それで、私にお話があるということですけど、どういったご用件でしょうか?」

 

店長――桃子にそう尋ねられ、彼女は少し待ってと言って鞄を漁りだす。

その後に鞄の中から一枚の写真を取り出し、桃子へと差し出した。

 

「この写真の子に見覚え、あるわよね?」

 

「え、ええ……私の息子ですけど。どうして貴方があの子の、それも子供の頃の写真を?」

 

写真に描かれた少年。それは紛れもない、桃子の息子である恭也の姿。

その幼さからすると時期はおそらく士郎と桃子が結婚して間もないときくらいのものだろう。

恭也の写真というのは家でもあまり多いほうではない。あったとしても、やはり極最近の写真が多い。

なのに目の前の女性が差し出してきた写真に描かれていたのは、他人が持っているはずのない子供の頃の恭也。

持っているはずのない写真を持っている。その事に驚きを露にし、桃子は彼女へとその事を尋ねた。

だが彼女は桃子の質問には答えず、頬杖をついて桃子を呼び出した理由となる用件を口にした。

 

「単刀直入に言うとその写真の子……高町恭也に会わせて欲しいのよ。あ、別に怪しい事するわけじゃないから、そこは安心して」

 

「は、はあ……でも、それなら私を通さなくても直接家に行ったら会えると思いますけど?」

 

「当然それも考えたんだけどねぇ。私、彼のお母さんが翠屋って店で店長をしてるって事ぐらいで、貴方たちがどこに住んでるのかまでは分からないのよ」

 

「そうですか……じゃあ、住所を教えますので直接行ってみてください。今日は休日ですから家にいると思いますので」

 

「ん、了解。あ、出来たら電話か何かして話も通しておいてくれると助かるわ」

 

その言葉に桃子はわかりましたと返事を返し、適当なメモ用紙に自身の家の住所を書き記す。

そして住所を書き終えると女性へと手渡し、受け取った彼女は礼を言って荷物を持ち立ち上がる。

 

「それじゃ、ここいらでお暇するわね。喫茶店に寄って何も頼まずっていうのは気が引けるけど」

 

「いえいえ、気になさらないでください。では、またのご来店をお待ちしております」

 

笑顔を桃子がそう言うのに対し、女性も若干の笑みを浮かべて頷き返す。

そうして彼女は桃子に背を向け、入るときに潜った扉を開き、店外へと出て行った。

 

 

 

 

 

翠屋から出た後、彼女は商店街を抜けてメモを片手に住宅街へと足を向けた。

住宅街というだけあって周りには様々な家が建っており、彼女の目はちらほらとそれらへ向かう。

だがそれは周りの住宅が珍しいとかではなく、ただ単に目的の場所となる家を探している故。

その証拠に目を向けた家が目的の場所ではないと分かると視線はすぐに別の場所へと移されていた。

 

「ん〜……住所によるとこの辺のはずなんだけど」

 

住所の書かれたメモに寄るとこの付近。故に彼女はキョロキョロと視線を巡らせる。

その行動をしばらく続けながら歩く最中、ようやく見つけたのか視線を一箇所に固定して足を止める。

視線の先、彼女の立つ前に聳えるのは純和風の一軒家。表札には教えられた通り、『高町』と表記されていた。

その表札と桃子に貰った物ではないほうのメモとを何度か見比べ、笑みを浮かべながらうんうんと頷く。

 

「うん、ここだここだ♪」

 

「……うちに何か御用でしょうか?」

 

「ひゃあっ!?」

 

突如として後ろから聞こえてきた声。それに女性は盛大に反応して驚きを露にする。

片手に持っていた鞄もドサッと地面に落とし、もう片手に持っていた竹刀袋に抱きつく形となる。

そしてそんな格好でおずおずと声のした方向に視線を向けると、そこには同年代くらいの男性が立っていた。

片手には『ドラッグストアふじた』と書かれた小さな袋。それを見る限り、男性はおそらく買い物帰りなのだろう。

そんな買い物袋片手の男性は驚きを露にする女性に対し、僅かに不審げな視線を向けていた。

しかしある意味そんな視線を向けられるのも当然。他人の家の前でベルも鳴らさず数分間も立っていれば立派な不審者である。

驚きの表情に見せていた女性は男性の視線にてそこに気づくと荷物を持ち直し、コホンと咳払いをして口を開いた。

 

「えっと、ここが高町さんのお家だと翠屋の高町桃子さんに聞いて……」

 

「ああ、貴方が……先ほど母さんから電話で伺いました。俺に用事がある、との事ですよね?」

 

「え、ええ……って、俺って事はもしかして、貴方が高町恭也?」

 

女性がそう尋ねたのに対して彼――恭也は質問を肯定するように頷いた。

彼が肯定したのに女性は先ほどよりももっと僅かではあるが、驚きを表情に浮かべる。

それは彼女自身幼い頃とはいえ彼の写真を持っていたのに、彼が写真の人物だと気づけなかった事に関して。

いくら写真の彼が幼いと言っても、いくら目の前の彼がその頃より成長していても、面影ぐらいは残る。

別段目の前の彼と写真の彼が似てないわけではない。むしろ、ちゃんと見れば同一人物という事は簡単に分かる。

なのに分からなかった原因、それが当の彼女自身でも分からず、内心で首を傾げるに至っていた。

しかしまあ恭也には彼女の内心など分かるわけもなく、桃子の連絡で伝えられた訪問者が彼女だと知って若干悩む。

そして少しの時間悩んだ後、とりあえず中へと告げて引き戸を開き、彼女を家の中へと招き入れた。

そこから彼女を食卓の椅子へと座らせ、彼も彼女分のお茶を用意して彼女の前に出すと対面の椅子へと腰を下ろした。

 

「それで早速本題に入りますけど、俺を訪ねて来られた用件とは何ですか?」

 

「そうねぇ……まあ簡単に言えば、貴方に会ってみたかったからというのが用件かしらね」

 

「俺に、ですか? それは一体――」

 

どうしてですか……そう彼が尋ねるよりも先に、彼女はポケットから一枚の写真を取り出した。

だがそれは桃子に見せた彼の幼少時代の写真ではなく、二人の赤子が一人の女性に抱かれている様子。

それを差し出された恭也は手に取って見てみるも、写真に写る全てに対して見覚えがなかった。

故にこれがどうしたのかと首を傾げるのだが、そんな彼に彼女は写真を裏返してみるよう指示する。

本来ならば写真を裏返したところでそこは白紙。そこを見る事に一体何の意味があるというのか。

そこに疑問を抱きながらも彼女の指示に従って写真を裏返してみると、そこには驚きの文字が書かれていた。

 

 

――恭也と京香と……

 

 

書かれているのはたったそれだけ。だけど、それは驚くべき一文でもあった。

文字が書かれたのはおそらく、文字の薄れ具合から見てこの写真が撮られた時期とほぼ同じ。

写真の撮られた時期とは裏に描かれた日時。つまり、今からおよそ十九年前という事になる。

それらの事実、そして裏に書かれた短い文。それが表す答えは、ただ一つしか存在しなかった。

そしてその答えを確かめるため、彼は写真を手に持ったまま彼女へと一つの質問を投げかけた。

 

「君の、名前は……?」

 

「京香よ。京の香りと書いて京香……つまりその写真に写ってる赤子の一人は、私の事ね」

 

質問に対しての答えは予想通り。そしてそれが予想通りという事は、彼の考えは正しいという事。

写真に描かれる赤子の片方が彼女――京香という事は、裏の文字通りもう片方は恭也という事になる。

そしてこの事実は恭也と彼女が赤の他人ではないという可能性を飛躍的に上げる意味を持っていた。

だが全てがいきなり過ぎて彼としても整理が付かない。故に写真を眺めながら彼は頭を抱えだした。

そんな彼の心情を理解しているのか、彼女はこの事実をちゃんと理解できるようゆっくりと説明しだした。

 

「この写真が撮られたのは今からおよそ十九年前、これは写真の裏の日付を見れば分かる事ね。十九年前と言えば私も貴方も年齢的にまだ生まれて間もない時期、そして当時書かれたものと思われるその文字。これはつまり写真に写る二人の赤子が貴方と私という事、加えて顔が写っていないのだけど、私たちを抱えてる女性が誰なのか……貴方にはもう、想像がついてるでしょ?」

 

「俺の、生みの親……」

 

「そう。私と貴方の生みの親……名前は、九重夏織。生まれて間もない貴方を父親である不破士郎に預け、片割れの私を連れて貴方たちの前から姿を消した人」

 

「預けたではなく、捨てたの間違いでは?」

 

「……貴方から見れば、そう捉えても仕方ないかもしれないわね。母さんは士郎に口止めしてたみたいだし、その様子から見て士郎も出鱈目な事ばっかり貴方に吹き込んでたようだしね」

 

「出鱈目な事……?」

 

「ふぅ……まず、そこの誤解から解かないといけないわね」

 

そう言ってお茶を一口飲み、小さく息をついた後に彼女はその事を彼に話した。

話によると正確には恭也を士郎に預けたのではなく、彼に恭也を託したとの事。

そうせざるを得なかったのは彼女の持つ事情……夏織自身と九重の家に纏わる事情故。

九重とは今は無き御神と同じく、永全不動八門の一つ。正式名は九重鬼刃流、略して九重流。

その九重と御神は浅からぬ繋がりがあり、交流も多少はあった。故にその過程で士郎と夏織は出会ったのだ。

そして出会いから間もなくして交際、そしてそこから二人の出産という形となったのだが、ここで問題が生じたらしい。

京香自身その問題とやらは詳しく聞いていないため分からないらしいが、少なくともそれが二人を別つ理由となってしまった。

故に恭也を士郎へと託し、京香を自分が連れて事情故に姿を晦ました。そうして今へと繋がるというわけだ。

そこまでの説明を聞いた恭也は驚きを浮かべはするが、すぐに収めて何かを考え込むように黙り込んでしまった。

 

「あまり驚かないのね……普通はもっと過剰に反応するような内容だと思うのだけど」

 

「……しても意味はないですから。過去の事は変えようがありませんし、俺自身恨んでいるという事はなかったですしね」

 

「ふ〜ん……つまり、事情があっての事なら仕方が無いと割り切ってるわけね」

 

「事情を聞く以前から恨んではいませんでしたが……まあ、そう割り切ったと言えばそうなんでしょうね」

 

彼はそう答えるとまたしばし考え込んでしまう。それに京香もまた首を傾げる。

事情を聞いて割り切ったのなら、何を悩んでいるのか。その理由が彼女には分からないから。

だがここで彼女が考え込んだとしても彼の心情など分かるわけがなく、仕方なしに彼へと悩む理由を尋ねた。

すると彼はそこからまた少し考え込む仕草を見せ、そして考え込むのを止めると口を開いた。

 

「話を聞く限り、貴方は――」

 

「ああ、一応私たちは双子って事だから血の繋がりがあるわけだし、そんな他人行儀な呼び方はしないで普通に京香って呼んでくれる? もちろんその敬語も抜きでね……代わりに、私も貴方の事を恭也って呼ばせてもらうから」

 

「……分かった。だが、そう言うのなら京香も地の喋り方で喋ったらどうだ? それが普段の喋り方ではないのだろう?」

 

「ありゃ、ばれた? これでも上手く出来てると思ったんだけどなぁ」

 

彼に指摘された途端、先ほどまでの上品な笑みとはまた違った笑みを見せる。

そして喋り方も若干変わる。つまりそれこそが、本来の彼女の姿だという事なのだろう。

似合っていないわけではない。むしろ、こちらのほうが彼女らしさというものが窺える気がした。

故に彼も若干笑みを浮かべそうになるが咳払いをする事で抑え、話題を元のものへと戻した。

 

「話を戻すのだが……さっきの話を聞く限り、京香は父さんと面識があるように聞こえたのだが、そこの辺はどうなんだ?」

 

「あ、うん、恭也の言うとおり士郎には何度か会った事があるよ。確か毎回修行の旅の途中で立ち寄ったって言ってたけど、恭也は知らなかったの?」

 

「知るわけが無い。そもそも修行の旅に出てたとき、父さんは事あるごとに行方不明になってたしな。旅で向かう先もそこにある何かしらが食べたいからとかいう理由ばかり……そんな風な事ばかりしてたから、いなくなったらてっきりまた滅茶苦茶な理由だと決め付けていたからな」

 

「あはは、士郎らしいね。まあ、そんなわけで士郎は大体一年に二回か三回は会いに来てくれてたかな。いつもお土産持参でやってきて、当時は私もまだ小さかったからいろいろと遊んでもらったのを今でも覚えてるよ」

 

「……俺の扱いとは豪い差だな」

 

事実、恭也が幼かったときの士郎は彼と遊ぶなどという事がほとんどなかった。

家にいても修行ばかり、旅に出たときも奇想天外な行動で子供であるはずの恭也を逆に困らせる。

そんな彼と付き合ってきたからこそ、京香と自分との扱いの違いがはっきりと分かる事である。

そのためか昔の事とはいえ彼も若干頭を抱え、京香もフォローはせずに苦笑するだけであった。

そうしてそのまま若干の沈黙が訪れた後、恭也は小さく溜息をついて違う質問を彼女へとぶつけた。

 

「次になんだが、京香はまだ夏織さんと一緒に暮らしていたりするのか?」

 

「母さんと? う〜ん……私が高校を卒業するまでは一緒に暮らしてたけど、卒業してからは別所してるかな。連絡ぐらいはたまに取ったりするから、全く交流が無くなったってわけじゃないけどね」

 

「ふむ……」

 

「……もしかして、母さんと会ってみたいの?」

 

またも考え込む彼に京香はそんな疑問をぶつけてみる。

すると恭也はなぜか若干の驚きを浮かべるも、表情を戻すと首を横に振る形で答えを返した。

その答えは疑問をぶつけこそしたものの京香の予想通り。そう予想できた理由は、彼が夏織を母と呼ばなかった事。

もし彼が夏織を母と呼ぶのであれば、母親と思っているという事。そして認めれば、多少なりと会いたいという気持ちが生まれる。

だがそう思っていないのであれば、会いたいという気持ちは出てこない。むしろ、下手をすれば会う事を嫌悪するだろう。

彼の様子から見て嫌悪こそしてはいないが、気持ちとしては夏織を母だと思う気持ちは薄いものと考えられる。

故に予想通り……そしてだからこそ、京香自身は彼のその様子に対して悲しいという気持ちに駆られた。

だけどそれは表情にこそ浮かべず、先ほどまでと変わらぬ苦笑を浮かべることでその感情を隠した。

そのため彼も彼女の抱く感情に気づかぬまま、最後にと告げてから次なる疑問を彼女へと尋ねてきた。

 

「京香はこの後どうする気なんだ? 俺に会うのが海鳴に来た目的だったのなら、もうそれは達成されたわけだろうし」

 

「そうねぇ……帰っても大学とか行ってるわけじゃないから、ヒマヒマな状態だしなぁ。思い切ってここに住んじゃおっかな」

 

「帰って暇になるからといってどうしてそういう結論に達するのかは分からんが……泊まるのではなく住むという形にするなら俺でなく母さんと話し合ってくれ。俺だけで決めるわけにもいかないからな」

 

「母さん……ああ、桃子さんの事ね。なら、とりあえず桃子さんに話してみよっかな」

 

「本気で住む気なのか……」

 

「当然。私は冗談でこんな事言わないよ♪」

 

駄目だと言っても聞くような人だとは思えないため、彼はそれ以上何も言わなかった。

まあとりあえず自分と京香は兄妹、姉弟、どちらになるかは分からないが血の繋がりがあるのは確か。

加えて彼以外にも住む人はいる。故に同じ屋根の下で暮らすにしても問題はないかと判断し、彼自身は無理矢理納得する事にした。

後は京香自身が桃子や他の家族たちを納得させるだけ。こればかりは彼女の問題で、恭也が下手に介入は出来ない。

そのため後の事は彼女自身がどうにかするだろうと考えて話題を打ち切り、自身もお茶を飲もうと席から立ち上がる。

 

「あ、立ったならちょうどいいからお茶のお代わりくれない? あとお茶請けもあったら嬉しいな」

 

「はぁ……分かった」

 

もう既に寛ぎ状態に入りつつある彼女に溜息をつくも、彼は彼女からコップを受け取る。

そしてそれを持って台所へと行き、自身のコップも出してお茶を入れた後、適当なお茶請けを用意して席へと戻る。

だが、お茶請けとして用意した煎餅が目の前に置かれたのに対し、彼女はせがんだくせに手を付けなかった。

一体どうしたというのか、そう疑問に思って首を傾げつつ尋ねようとすると、それよりも先に彼女のほうが口を開いた。

 

「出来たら煎餅じゃなくて豆大福がいいなぁ……」

 

「……もしかして、そこの棚にある奴の事か?」

 

「うん、それ。駄目かな?」

 

そう上目遣い気味で聞いてくる京香。それは明らかにわざとらしいと言う他なかった。

しかし駄目と言ったら諦めるとは思えない故、彼は溜息を共に立ち上がって再び台所へ向かう。

正直なところ、台所の豆大福が置いてある棚というのは京香の位置からでは若干見えづらい場所。

なのに見えたという事は食い意地があるように思え、しかも指定してせがむ辺りかなり図々しいであろう。

そんな風に彼女に対する認識を改めながら豆大福を取り出し、皿に三つほど置いて食卓へと戻る。

そして彼女の前にその皿を置くと彼女は目を輝かせ、豆大福を頬張り始めるのだった。

 

 


あとがき

 

 

久しぶりにクロスじゃないとらハのみのお話だ。

【咲】 書き始めた理由は確か、京香が出る短編があるのに長編がないって事よね?

うむ。自HPの掲示板にそういう質問があってね。よくよく考えたら先送りにしてたから、書いてしまうかなと。

【咲】 ふ〜ん……でもさ、以前の物とは全くの別物よね、これ。

まあねぇ……というか、以前のははっきり言って未熟すぎる文だし。

【咲】 ていうか、今でも未熟なのに変わりはないけどねぇ。

ま、まあな。ともあれ、今回は恭也と京香の出会いというお話だ。

【咲】 双子っていう設定は金と銀のときと変わらないわね。ただ、流派とかが異なるけど。

永全不動八門一派、九重鬼刃流……ちなみに分かってるとは思うが、京香はこの流派の使い手だ。

【咲】 御神流と九重流との関わりってどんなものだったわけ?

そこは追々出てくるよ。ああ、ちなみにだが、九重流は一刀使いだったりする。

【咲】 小太刀二刀ではなく普通サイズの刀を一刀のみってわけね。

そういう事。さてさて今回で二人が出会ったわけだが、次回は高町ファミリーズとの対面だ。

【咲】 同じ剣士ってことで京香が恭也か美由希と戦うっていうのはないわけ?

それももしかしたら次回あるかもしれん。まあ、とりあえずは次回を待てって事だな。

【咲】 ま、いつも通りね。

うむ。じゃ、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

では〜ノシ




恭也の双子の妹、もしくは姉の登場。
美姫 「彼女も高町家に住む事になるのかしら」
そうなるっぽいかな。それよりも、彼女の剣士としての腕はどれぐらいなのかな。
美姫 「それも気になるわね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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