このSSはとらハ3としにがみのバラッドのクロスです。
しにがみのバラッドが絡んでいるためか、結構暗いお話になると思います。
ですので、そういった話が嫌いな方はお読みにならないほうがよろしいかと思います。
あと主人公の設定はALLエンド後でフリーということになっており、大学には行かずにボディーガードの道を進んでいます。
では、上記の事柄を了解した方はどうぞお読みください。
彼の歩みが止まるとき
前編
リスティからの紹介でとある会社の社長、その娘である少女の護衛を恭也は請け負った。
その会社は今ある大きな企画を立てており、当然その会社を良く見てない者たちが妨害しないわけもない。
その妨害策として企画を中断しなければ娘の命はないという脅迫状を送りつけてきたのだ。
だが、企画を今更中断などできず、しかし娘の命も大事であるためかリスティを介して恭也を護衛につけることにした。
そして、護衛についてから一週間が経ち、とうとう脅迫者側がその少女の命を狙い動き出した。
最初は少女が外出した際に脅しだと言わんばかりに、物陰から少女に向けて銃を発砲しようとしていた。
だが幸いにも恭也がいち早く気づき、その者が発砲する前に少女を安全な場所に避難させ、すぐにその者の意識を刈り取った。
その後、その者をリスティに引渡し、何か情報を引き出してくれることを祈っていたが、結果はまったく情報を引き出せずじまい。
というのも、脅迫者側が雇った者が金で雇ったゴロツキのようなものであるためか、ほとんど何も知らされてはいないのだ。
そんなわけで、恭也は今も護衛の任を続けている。
「ふぅ……」
社長宅の娘の部屋、静かに寝息を立てるその少女の隣で椅子に腰かけながら恭也は小さく溜め息をつく。
最初に狙われたときから、護衛対象の少女は日を置くごとにその精神は参ってきてしまっている。
故にその少女から眠るまで傍にいて欲しいと言われたため、恭也は今そこにいるのだ。
恭也以外の護衛者もいるのにあえて恭也を指定するあたり、不安という以外で別の理由があるのかもしれないが・・・。
「さて……」
眠った少女を少しだけ見てから、恭也はゆっくりと腰掛けていた椅子から立ち上がる。
そして起こさないように静かに扉まで歩み、扉を静かに開けて外にいた人と交代をする。
交代の人が少女の部屋に入ったのを見てから、恭也は気配を探りながら見回りを開始する。
かなり、というわけではないが、それなりに大きい屋敷というような家の中をゆっくりと見回っていく。
その間に屋敷の警備の人と軽く挨拶をして、恭也は屋敷内を見回っていく。
そして、見回りの足が屋敷の玄関付近に差し掛かったとき……
――――リン。
鈴の音が聞こえてきた。
恭也は聞こえたその鈴の音のした方向をバッと振り向く。
鈴の音がした方向は玄関方面、おそらくはその扉の先の庭から。
しかし、確かに鈴の音が聞こえたはずなのに、その方向からはまるで気配を感じない。
それほどの実力者が来ているのか、それともやはりただの空耳だったのか。
「……行ってみれば、わかるか」
そう考え呟いて、恭也は玄関の扉を開いて庭へと出てみる。
だが、庭を見渡せど気配を探れど誰の姿もなく、恭也はやはり空耳かと思って踵を返そうとする。
―――リン。
その直後、またも聞こえた鈴の音に恭也はすぐに振り向く。
すると、そこには不思議な少女が立っていた。
黒目がちな大きな瞳と薄く赤い唇、透き通りそうな粉雪色の肌。
丸みを帯びながらも通った顎の先へと伸びる、淡く白い髪の毛。
今の季節からしたら着ることが少ないであろう白いワンピース。
容姿からは小柄で幼いといった印象を受けるが……言うなればそう、とても幻想的な少女。
そんな少女は容姿とは不似合いの大きな鎌を右手に持ちながら、ゆっくりと恭也へと歩み寄ってくる。
そんな物を持ちながら歩み寄ってくる少女に、恭也は不思議と警戒をしなかった。
この少女は大丈夫、この少女は敵ではない……そう、恭也の直感が告げていたのだ。
「こんばんは」
「え、あ、ああ……こんばんは」
歩み寄ってきた少女が少しの笑みも浮かべずに無表情で挨拶をしてくる。
それに恭也も少し戸惑いながらも挨拶を返して、少女をじっと観察するように見る。
「こら、人間! そんなジロジロとモモを見るなよ!」
そんな恭也の後ろから、声変わりする前の少年のような声が聞こえてくる。
またも気配を感じていないのに聞こえてきたその声にまたも驚きつつ恭也は振り向く。
顔を向けたそこにはあったのは大袈裟なほど大きい鈴をつけ、背に翼を生やした黒猫が飛んでいるというまたも不思議な光景だった。
その光景を呆然と恭也が見る中、黒猫は恭也の後ろにいるモモと呼ばれた少女の隣へと移動する。
「おい、何ボケっとしてんだよ、人間」
「ん、あ、ああ、すまん」
黒猫の言葉に恭也は我に返り、そう言って謝罪する。
そしてもう一度モモと黒猫を見比べるように見た後、疑問に思ったことを口にする。
「君たちは……?」
「死神」
「……は?」
「だから死神だって言ってるだろ! まったく、一回で聞き分けろよな」
別に聞こえなかったわけではないのだが、はっきり言って死神と言われて素直に信じるものはいないだろう。
黒猫のほうはともかく、モモのほうはそういった心境をわかっているのか、懐から一枚のカードを差し出す。
恭也は差し出されたそれを受け取り、カードに書かれた事柄に目を通す。
【死神 「A」の100100号】
モモの顔写真の横に書かれたその文字に、恭也はちょっとだけ溜め息をつく。
はっきり言ってそんなもの見せられても、子供ならともかくもう大人と言える年齢のもならば信じれないだろう。
だが目の前の少女が嘘をついているようにも見えないし、世の中の不思議なことをこれでもかというほど体験している恭也からしたら死神くらいいてもおかしくはないだろうということで納得する。
「それで、死神の君がこんなところに何の用なんだ?」
「死神が来たってことは誰かが死ぬ事だってことぐらいわかんないのかよ。 あったま悪いな〜」
「ダニエル……」
口の悪い黒猫―ダニエルをモモが窘めると、ダニエルはしゅんとうな垂れて少し後ろへと下がる。
「ダニエルがさっき言ったけど……あたしたちはある人の死を見届けて、その魂を運ぶために来たの」
「死を見届けて、魂を運ぶ? ……なら、誰かが死ぬってことなのか?」
「そう……といっても、今すぐじゃないのだけど」
モモがそう言うと、恭也は考えるように顎に手を当てて思考する。
そして、すぐに何かを思いついたのか、もしかして、と呟いて考えを口にする。
「その死ぬ人って……この屋敷の娘、か?」
「……」
モモは恭也の口にした言葉に否定するように首を横に振る。
否定されたことに恭也は内心でほっと息をつき、安心したような表情を浮かべる。
だが同時に疑問が浮かぶ。
ならば、一体誰が死ぬというのだろうかと。
今ここに現れたということは、屋敷に住まうものの誰かか?
はたまた、屋敷を警備する警備員か?
またも顎に手を当てて一体誰なのかとそう恭也が考え込む中、モモは恭也に背を向けて静かに言う。
「死ぬのはこの屋敷の人でも、警備をしている誰かでもない……」
まるで恭也の考えを見透かしたように言うモモに、恭也は驚きの表情を浮かべてモモを見る。
視線を向ける恭也にモモは振り向くこともなく、夜空に浮かぶ月を見上げながら少しずつ、少しずつ前へと歩む。
そしてある地点にまで歩みが到達すると、モモはその歩みを止めてゆっくりと振り向く。
その振り向いたときのモモの顔は、先ほどまでとは違い若干の悲しみといった感情を浮かべていた。
「死ぬのは……」
「あなた」
あとがき
短いですが前編です。
【咲】 ほんと短いわね。
まあ言い訳っぽく聞こえるかもしれませんが……というより言い訳ですが理由をば。
この前編は謂わばプロローグのようなものです。
ですので本編はこの次、中編がそうなります。
ちなみにこの理由から分かると思いますが、後編はエピローグのようなものになります。
かといって前編のように短いのかと聞かれればYESとは答えられませんが。
【咲】 ほんとに言い訳ね。 っていうか、その理由じゃ短いことに対する言い訳にもならないわよ。
そ、そんなこと……あるよなぁ。
【咲】 はぁ……まあいいけど。
ほ……。 あ、それと、しにがみのバラッドを知っている人なら分かることだけど、モモに死の宣告をされたからといって確実に死ぬわけではありません。
【咲】 確かにね。 原作でも宣告されて生きてた人っているし。
そゆこと。 ですので、この作品で宣告された恭也が死ぬのか? それとも死なないのか? それは残りの中、後編を見てからのお楽しみです。
【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪
次回、中編でまた会いましょう!! では〜ノシ
うお、死の宣告!
美姫 「突然現れた少女」
しかし、告げられたのは死の予告。
って、どうなる!?
美姫 「続きが気になるわね」
うんうん。続きを楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。