ぴん、ぽん、ぱん、ぽ〜ん♪










※えまーじぇんしー

 この話において、とらハ側の時間軸は美由希兄妹エンド後です。

 美由希は皆伝しており、恭也に彼女はいません。










ぴん、ぽん、ぱん、ぽ〜ん♪











SoUプレゼンツ・クロスSS




『D.C.U〜ダ・カーポU〜』 × 『とらいあんぐるハート3 〜Sweet songs forever〜』




D.C.L.H. 〜ダ・カーポ〜 リリカルハート

第10話:接触事故





 

 

「……単刀直入に聞きます。私たち……狙われてませんか?」

「!」



 杏のこの言葉に、平然を装いながらも恭也は動揺していた。



「狙われている? ……そう思った理由を聞いていいか?」



 恭也の言葉に、杏はうなずく。



「ええと、まずはじめに、花より団子に行くまでは、何も疑問に思わなかった、ということを言っておきます。腰を落ち着けて、じっくり考えてみて、その上で出た答えですから」

「ああ」



 自分達がナンパされ、断ったことで集団で襲い掛かられた……当事者の誰もがそう思っている今回の出来事。

 恭也たちの正体、また、実際に狙われていることを知っているななかでさえ、一瞬不安になった程度だ。

 が、そこに疑問を持ったという杏。その理由が語られる。



「まず最初に疑問に思ったのは、相手の人数と行動でした」

「人数?」

「はい。相手は私たちの男女の人数の差と同じ、五人で現れました。それも、道をふさぐ形で」



 確かにそうだ。

 最初にあの場所にいたのは五人。

 その人数は、恭也たちの男女差に等しい。



「少なくとも今まで、ああいう人は見たこともなければ噂も聞いたことがありません。あそこまで強引で乱暴な人たちなら、何度かナンパ行為があれば、学園側も警戒して何らかの対処案を出すはずです」



 ナンパというよりは、連れて行くことそのものが目的と取れるほどの強引さ。

 あの時、声をかけてきた男にまゆきが手を掴まれていたら……恐らく全員ついていく羽目になっただろう。



「でも、それもありませんでした。なのであの人たちは、突然あそこにナンパをしに現れたか、それこそ誰か、特定の人物を待っていたと推測できます」



 話を区切り、深呼吸を一つ。



「それから、突然ナンパ、という可能性はこの際無視します。最終的にそこに行き着くのなら、何も問題ない、で話が終わりますので」



 相手の行動に何らかの意味があるものとして話を進める。



「その後、美由希と恭也先輩が割り込んで、ケンカ状態。男たちの一人が電話をしてから恭也さんたちが三人を倒してしまうまで、長く見ても1分半。その直後にあの人たちのオトモダチが来ています。どう考えても、もともと近くに武器を持ったままで隠れていた、としか思えません」



 実際恭也たちも近くに隠れている男たちの気配を感じていた。

 だからこそ、手早く男たちを片付け、相手の人数を減らしたのだ。



「合計で十五人。待ち伏せしていたのが五人……多分、少しでも穏便に、楽に用事を済ませたかったのだと思います」



 もし恭也たちが普通の人間だったなら……十五人いれば相手の総数を上回れる。

 複数で男を妨害し、誰か一人でも捕まえてナイフを突きつけてしまえば、そこから芋蔓式に全員連れて行ける。

 が、そうしなかったのは恐らく穏便に済ませたかったからだろう。騒ぎにならないのであれば、それに越したことはない。



「それと、先ほど言った通り、待ち伏せしていた男たちの人数と私たちの男女の差の人数が同じでした。これは私たちを狙ったためだと思います」

「……それだけでは弱いな」



 思ったことを口に出す。

 ここまでは、後から考えれば確かにそうだったかも、という程度。

 ただの偶然、と言い切れるレベルの話だ。



「でしょうね。なので次に行きます。とりあえず先ほどの話から、近くで男たちが武器を持って隠れていたのは間違いありません。あれだけの武器を用意して、あれだけの人数が、電話で指定された場所に、あれだけの時間で現れるのはまず不可能ですから」



 実際十人ものメンバーが、武装してから電話で指定された場所にくるのにどれだけかかるだろうか。

 電話された時点で全てが揃っていたとしても、1分半で移動できる距離などたいしたものではない。



「それに、まゆき先輩や私、音姫先輩が言っても全然聞かなかったのに、美由希が言い出した途端、態度を変えましたよね」



 あの場面、まゆき、音姫、杏がメインでナンパを断っていた。

 そして、ななかが声をかけられたとき、美由希が割って入った。

 それを機に、態度が変わった。



「恐らく、四人目が断ってきたら強気に出る、といった感じに作戦を練っていんだと思います」



 恭也も否定しない。

 実際恭也もあの場面には違和感を感じていたのだが、そう考えると辻褄が合ってしまう。



「……次は言動からです。まず、最後の二人になった時点で、恭也先輩と対峙した男が言ってましたね」



 あの時の男の言葉。



「なんだよ、なんなんだよ! ……楽な仕事だって言ってたのに、聞いてねぇぞ!」



「この言葉から、私たちをナンパしたことは誰かに頼まれた仕事・・だというのがわかります」



 ここは否定できない。

 この時の言葉を聞かれてしまっている以上、この答えに辿り着くのは当然だ。



「ですけど、その後の恭也先輩たちの行動も、少し変に思えました」



 恭也の眉が一瞬動く。

 自分としては、ごく自然に対応したはずなのだが。



「まず、美由希に周囲を警戒させて恭也先輩が警察に電話してましたが……お二人とも剣術をされているのなら、あそこは二人で警戒して、私たちの誰か……それこそ音姫先輩とかにでも頼むべきだったと思います」



 実際増援がいたことから見ても、あの時また更に複数の人間に襲われる可能性は決して否定できなかった。

 だからこそ恭也は美由希に警戒を頼んだのだが、恭也も美由希と同等以上の実力者なのだから当然警戒に当たるべきであり、あの場で電話できる人間は他にもいたはずだ、と考えたのだ。



「そして最後が、恭也先輩の電話です。事件が起こり自分達が襲われたのに、伝えたのは、場所と男たちの様子、武装のみ。時間も、誰が襲われたかも、連絡者の名前や住所、電話番号も、一切言いませんでした」



 これには流石に恭也も、しまった、と思った。

 通常何かが起こって警察に連絡したのなら、当事者の名前はもちろん、連絡者の名前も言うべきだ。

 が、恭也の電話の相手はリスティ。

 何気なく話してしまったのが災いした。



「……あまりにも私たち用に仕組まれた男たちのナンパ、脅し。誰かに頼まれた、という言葉。それらが起こる可能性があることを知っていたかのような恭也先輩と美由希の対応。そして、起こった事件を警察相手に掻い摘んで報告。この事から……“私たちが何者かに狙われていて、お二人はそれを知っていて、私たちを守ってくれている”……そう推測したのですが」



 起こった出来事を最初から順序良く並べ、それぞれの関連性について調べていけば、確かにこの答えに行き着くかもしれない。

 が、普通の人間はここまで起こった出来事を覚えるなど不可能だ。

 まして、ああいう事件の当事者が事件の内容を全て、細かい時間や言動、態度まで覚えるなど、ベテランの刑事でもなければ無理だ。

 だが、杏にはそれが出来た。そうする為に必要な能力がある。



「はぁ……」



 これ以上は隠しても無駄と判断。

 恭也は口を開く。



「……流石は永久記憶・・・・の能力者だな。あの状況で、全てをしっかり覚えているとは」

「!」



 今度は杏が驚く番だった。

 永久記憶という言葉が意味するものを、杏は知っている。

 自分は親しい友人にはこの能力を、雪村式暗記術と言っている。

 つまり、自分が物覚えがいいのは、特殊な技術によるものだ、と。

 が、実際には特殊な能力によるものである。

 それを恭也は知っている……誰にも教えたことなどないのに。



「恭也先輩……あなたは……」

「杏の言うとおり、俺と美由希はお前達の護衛だ」



 ななかに話したのと同程度の内容を、杏に話し始める。



「杏も含めて、今日巻き込まれた全員、それにさくら先生と枯れない桜。それが俺達の護衛対象だ」

「学園長先生……それに、桜の木も、ですか?」

「お前のその能力ちからは、枯れない桜によるものだ。なんでも、人々の願いを叶える魔法の木、なのだそうだ」



 誰が聞いても普通なら笑い話である。

 が、それを笑えない理由があった。



「枯れない桜が……願いを……」

「そうだ。子供などの純粋な願いであればあるほど叶いやすい、と聞いている。俺が杏の能力ちからを知っているのは、さくら先生に聞いたからだ。さくら先生は枯れない桜の管理者で、集まる願いを選定することもあるらしい」



 恭也の説明で、杏の疑問が晴れた。

 枯れない桜に集まる願いを選定するのなら、当然誰がどんな願いを持っていたか、も知っていることになる。

 ならば、自分が何を願ったか、そしてその結果どうなったか、というのも知っているはずである。



「それと、悪いが護衛に関する細かい内容については秘密だ。杏たちが狙われているのは事実だが、誰から、どんな理由で狙われているのかは話せない。それが解ることによって杏たちに警戒されて、逆に相手側に強行策に出られても困るからな」



 誰から狙われているかというのは、当然、解らないから話せない。

 どんな理由で狙われているのかというのは、他の人も特殊な力を持っている事を語ることになるから話せない。

 嘘は言っていない。秘密を語る際の基本。

 具体的な一部を語ることによって、抽象的に語りたい大半に違和感を持たせない。

 護衛という仕事上、この技術は必須だ。



「……解りました。それと、このことを知っている人は……」

「あぁ、杏と、さくら先生。それと、ふとした事情で知ることになってしまったななかだ。……別にななかが誰かに襲われたとかそういうわけではないからその辺の心配は無用だ」



 それを聞いてほっとする。



「……他にはないか?」

「…………はい、聞きたいことは大体」



 実際、杏には聞きたいことがまだある。

 が、先ほどの言葉――護衛に関する細かい内容は秘密――に抵触する部分だったので口を噤む。



「そうか。ではもう遅い、送ろう」

「!」



 その言葉に杏は再び驚いた。

 何故この事に気付かなかったのだろうか。



「……お願いします」



 杏は、友人を家に招いたことがない。それどころか家の場所さえ教えていない。

 理由は色々あるのだが、それはさておき。

 自分は護衛される立場にあり、もう既に夜も遅い。

 そうなれば当然、恭也は自分を送ると言うだろう。

 一時の好奇心の為に先を読み忘れてしまったのだ。

 ……結局断ることも出来ず、家の近くにあるバス停まで送ってもらった杏だった……。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







 翌日の朝。

 恭也が起床してすぐ、携帯が鳴った。



「む?」



 表示されている文字は、“リスティさん”。

 とりあえず電話に出る。



「はい」

『恭也かい? 僕だ。とりあえず、昨日の連中の素性が割れた』



 話によると、昨日の連中自体は島にある研究所の所員に雇われただけらしい。

 そして、今日明日で研究所に立ち入り調査を行い、その上にある組織を明らかにする予定だという。



『研究所自体は非常に小さくて、人員もかろうじて二桁といった所だ。なのに初音島における枯れない桜の研究チームのトップの地位にあるんだ』

「……おかしいですね。規模が小さいのなら当然、その資金力も小さい。そんなところがトップに立てるなんて……」

『あぁ、だからこそ、僕達はその上の組織を捜しているんだ』

「上の組織、ですか?」



 ありえない話ではない。

 が、それでも恭也は聞き返した。

 もし今回の件に上や裏があるのなら、ただ護衛対象に張り付いていればいい、という話ではなくなってしまう。



『あぁ、間違いない。連中には知識、資金面における支援者がいる。……普通、桜の木をいくら調べたところで、魔法に行き着くはずがないだろう? ましてその力を、枯れない桜を介さずに・・・・・・・・・・行使できる人間を、独自に捜し当てるなんて不可能だ』



 実際、魔法というのは未だ正式には解明どころか発見さえされていない技術である。

 それを見つけるだけでもまずありえないというのに、今回の件ではその先である能力者、魔法使いまで捜し当てている。

 ただの研究者には不可能と言っていい。



「確かにそうですね……ではまだこの件は?」

『あぁ、連中の上層部直属のやつが来るまでは黙っていたほうがいいかもしれない。現段階で固まるようなことをすれば、逆に刺激しかねない』

「そうですね。ではこちらは今まで通りの護衛を続けます」

『あぁ、そうしてくれ。あぁ、美由希にもよろしく伝えてくれよ』

「はい、解りました」



 電話を切る。

 とりあえず、もう少し相手のことが分かるまで、今まで通りに行動するしかない。

 今のところななかと杏は協力してくれそうなので、多少護衛が楽になるだろう。

 そうと決まれば――



「まずは起きるか。美由希に説明して、後は今まで通りだな」



 そうと決まれば話は早い。

 とりあえず顔を洗おうと部屋を出る恭也だった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「恭也くん」



 休み時間が始まると同時に、隣のまゆきが声をかけた。



「どうした?」

「えっと、お昼休みか放課後に、手伝って欲しいことがあるんだけど……」

「あ、無理ならいいけど」



 そこに逆サイドから音姫の声がかかる。

 どうやら二人共通の頼みごとのようだ。



「二人が絡むところを見ると、生徒会関係か?」

「ご明察。皆に配るプリントがあるんだけど、数が多くてね」

「全校生徒の分で、一人に6枚配る予定だからかなり多くて……」



 全校生徒分のプリント……生徒数七百人として各6枚となると、その枚数は4200枚。

 プリントがA4サイズの場合、そこにあるのは210mm×297mm×294mm、重さ16.8kgの立方体。

 それでもこれは紙、袋のように手提げで持ち運ぶわけには行かない。

 女子が一度に持ち歩くのは不可能に近い束である。



「わかった。放課後でもいいということは、配布自体は明日以降か?」

「うん、というか三日後かな。土日挟んじゃうから」

「わかった。俺でよければ手伝おう」



 結局放課後に紙運びをやるということで話はまとまり、その間の護衛を美由希に頼むことになった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「いや〜、助かるよ本当」

「ごめんね恭也さん」



 放課後、職員室へ向かう恭也と、その両サイドを挟むように歩く音姫、まゆき。

 まさしく両手に花状態だ。



「いや、言われた量ぐらいなら問題ないぞ。倍増でもされると流石に一度ではきついが」

『う゛……』



 途端二人の声が重なる。

 やり取りから考えるに――



「……なるほど、本当に倍増したわけか」

「ごめん、学園長先生からのプリントが一気に増えて……」

「色々渡すものがあったみたいで、一気に20枚ものプリントに……」



 20枚……先ほどの計算と同様に考えると、枚数は14000枚。

 今度の立方体は210mm×297mm×980mm、重さ58.8kg。

 米袋1袋半程度だったはずの重さは、気がつけば成人男性一人程度の重さになっていた。



「……60kg近い物を一度に持つのは厳しいな……数回に分けるが、いいか?」

「うん、全然問題ないよ」

「それでも私たちが二人で数回運ぶよりは早いだろうし」



 当初の予定より遥かに重くなった紙の束を運ぶ恭也。

 それでも結局2回で運びきってしまう辺りがすごい。



「あれを、2回で半分ずつ運ぶ? 普通」

「別に変なところはないと思うが……」

「お米の袋とはわけが違うからね……流石恭也さん」



 体積の割に重い紙は、いざ束で持ち上げてみると実際の重さ以上に重く感じるものである。

 それをあっさり運べるのは、やはり日ごろ鍛えている成果と言っていいのではないだろうか。



「これで終わりだな」



 ドン、と大きな音を立てて、紙が机の上に置かれる。

 一先ず今日の仕事はこれで終了――



「あ!」



 ――というタイミングでまゆきが声を上げた。



「ごめん音姫、恭也くん、職員室に忘れ物してきちゃった」

「え? あ、じゃあ私も行くよ」

「む、俺だけ生徒会室にいるのも変だ、付き合おう」



 そう言われ「たいした忘れ物ではない」と返すまゆきではあったが、そのまま帰るには都合のいい音姫、そして二人を護衛する恭也としては、ここでついていくのが得策と判断。

 またしても両手に花状態で階段を下りる。



「今日も仕事早く終わったね〜」

「うんうん、ここ数日仕事らしい仕事がないなんて、逆に怖いけど」

「まぁ、いいことなんじゃないか?」



 普段の忙しさは相当のものだ。

 まして人気があり、人望も厚い二人は、一般生徒に非常に頼りにされる。

 更にここの生徒会に、役員は二名しかいない。

 が、その地獄のような忙しさが、今はない。

 二人にとってそれは非常にありがたいものだった。



「まゆき、今日はどうするの?」

「仕事の後はやっぱりあそこしかないでしょ? 花よりだん――」



 言いかけたところで、恭也の視界から一瞬まゆきが掻き消えた。



「ちょ、ま、まゆ――」



 そしてその直後、同様に音姫までもが姿を消した。



「!?」



 視線をわずかにずらすと、そこに二人はいた。

 どうやらまゆきは階段に足を引っ掛けたらしい。

 更にそのまゆきを見て、音姫も足を引っ掛けたようで、二人とも前のめりに倒れていく。



(まずいっ!)



 瞬間、視界がモノクロに変わった。

 “神速”により重くなった空気を掻き分け、倒れこむ二人を一足で追い越す。

 そしてそのまま反転すると――



「ふっ!」



 ――とっさに両手を突き出し、その体を支える。

 一瞬、なぜか頭に慌てる後輩、神咲那美の姿がよぎったが、理由も意味もわからなかったため黙殺する。



『えっ!?』



 気がつけば自分達の前に回り、転びかけた体を支えてくれている恭也を見て、驚きの声を上げた。



「ふぅ……大丈夫か?」

「ぇ、あ、あぅ……」

「え……っと……」



 助かったというのに、二人の表情が優れない。

 そして、助けた恭也の方も、何故か嫌な汗が出ている。



(な、何故だ……俺は何か間違えたのか? いや、そんなことは――)



 そこに、現状を説明する声が降り注いだ。



「えっと、恭也くん……助けてくれたのは嬉しいんだけど……その、流石にこれは、あたしも恥ずかしいんだけど……」

「きょ、恭也、さん……て、手が……」



 一瞬那美の姿がよぎった理由……それは、過去にも似たようなことを、その那美で経験したから。

 恭也の両手は、それぞれ目の前の美少女、朝倉音姫と高坂まゆきの双丘を鷲掴みしていたのだった。



「!! す、すまん!」



 そう言って、恭也は軽く力を込め、二人の体を押した。



「ひゃ!?」

「ふぁっ!?」



 思わず甲高い声を上げる二人。

 現在の二人は恭也の手に支えられてなんとか立っている。

 当然恭也が手を離せば、二人は再び倒れこむことになる。恭也が手を離すためには、まず二人を元の体制に戻す必要がある。

 その為、恭也は力を込めて二人を押したのだが……何しろ押した場所がまずい。

 音姫とまゆきにしても、そんなところを押されたのではたまらない。

 だが二人も、こうしなければ手を離せない状況にある、ということを理解しており、抗議する事も出来ない。

 結局、二人は自分の胸が強く押されるのを我慢するしかない。

 恭也にしてもこの状況は針のむしろだ。何を言われても文句の言えない状況である。

 恐らくこういう状況になるということを本能的に感じ取ったからこそ、那美の姿が浮かび、また、嫌な汗が出たのだろう。

 恐るべし、御神流。










「本当にすまない……」

「う、ううん、助けてくれたんだもんね」

「そうだね……それにまぁ、大急ぎで前に回って、咄嗟とっさに振り返って手を突き出したら、この辺にくるよね」



 触られた側である二人も、必死にフォローする。

 触るのが目的だったわけではない事を知っている為だ。



「とはいえ、その、いきなり女性の、胸を……」

「っ、きょ、恭也さんっ」

「きょ、恭也くん、それは言っちゃだめ……」



 改めて言われると余計に恥ずかしいのだ。

 結果、二人は更に真っ赤になる。

 ……が、先にまゆきが立ち直り――



(!? こ、この目は……)



 ――恭也が見たまゆきの目は、同じ名を持つセクハラ大魔王のそれだった。

 そして、恭也が何かするよりも先に、まゆきの口が開いた。



「ま、それはそうと恭也くん……どうだった?」

「ど、どうだった……とは?」



 そして、先ほどまで真っ赤になっていた少女と同一人物とは思えないほどの笑顔でこう言った。



「あたしと音姫の感触」

『なっ!?』



 恭也と一緒に、隣の音姫が声を荒げた。

 どうやら音姫も一緒にからかうつもりらしい。



「流石に音姫には負けないと思うんだけど、どうだった?」

「ま、ままままままゆきっ!!」



 胸が小さいのを結構気にしている音姫には、今に言葉はぐさりと刺さったようだ。

 普段の完全無欠っぷりとは大違いだ。



「う……」

「あー、でも、由夢ちゃんも美由希も結構大きいよね。少なくとも音姫より」

「だ〜〜〜〜〜か〜〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜〜!!」



 妹にも負けている、という事実を言われ、ますます怒り出す。

 地響きが起こりそうなほどの低い声を上げ、まゆきを睨む。



「あははは、音姫の数少ない欠点だからね〜」

「う〜……」



 胸を押さえながら拗ねる音姫。

 そして、それを見て更に笑うまゆき。

 そんな二人を見ながら、恭也は改めて護ることの大切さを心に刻むのだった。



「で、どうだった?」



 ……冷や汗は出たままだったが。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







 芳乃邸に戻ると、由夢と美由希はテレビを見ていた。

 義之は夕食を作っている。

 料理の経験が浅くうまく作れない由夢と、料理というものを根本から履き違えている美由希では助けにならない。

 二人は特にやることもないのだが、義之の手伝いも出来ずただただテレビを見ている。



『よい子の皆! これであなたも魔法使い!』



 テレビでは、子供向けのおもちゃのCMが流れている。

 余程ぼーっとしているのか、そのCMの間にチャンネルを変えるようなこともしない。



『今年のクリスマスプレゼントは、これで決まり!』

「まだ夏が終わったばかりだというのに、クリスマスとは気が早いな、このCMは」

「あ、恭也先輩」



 慌ててお茶を入れようとする由夢を軽く呼び止め、とりあえずコタツに座る。

 どうやらこの家では、夏冬関係なしにコタツがあるようだ。



『音声認識で完全変形! DXレイジングハート・エクセリオン! DXバルディッシュ・アサルトも同時発売!』

「定価69800円……なるほど、この時期から言うわけだ。貯金でもしなければ買えそうにない価格だな」



 何かとんでもないものを売っていた気がするが、それはさておき。

 恭也もおとなしく座ってテレビを見る。



「これだけじゃないんだよ、このCM」



 沈黙していた美由希が口を開く。



「他にもあるのか?」

「うん」

「はい、何でも騎士の武器だそうで……」



 由夢も気にしていたのか、言葉を続ける。

 そして、そのCMが始まる。



『あんな悪魔に、負けてられねー!』

『我等が願いを果たすため!』



 今度は真っ赤な服を身にまとった少女と、紫色の服に身を固めた女性。

 それぞれハンマーと剣を構えている。

 と、それらの武器が突然変形。

 ハンマーの先端にはスパイクがつき、刃は数個に分離、その後無数とも言える刃を付けた鞭上の武器、いわゆる連結刃へと姿を変える。



『音声認識で完全変形! DXグラーフアイゼン! DXレヴァンティンも同時発売!』



「……今の連結刃は、明らかに質量がおかしくないか?」

「やっぱりそう思う? 69800円か……貯金を使えば買えるけど……」



 どうでもいいことに、真剣に悩む美由希だった。








SoU「SoUと〜」

彩音「彩音の〜」

二人『あとがきラジオ・リリカルハート放送局〜♪』

彩音「……って、唐突ですね」

SoU「あぁ、それもこれも、“ラジオ ToHeart2”と“うたわれるものらじお”が悪い」

彩音「あの二つは反則だと思います。それに何より、マスターのツボにド直球でしかたらね」

SoU「正直たまりません。まぁ他にも一応聞いてるのがあるけどな」

彩音「“D.C.U 〜ダ・カーポU〜 風見学園放送部”と……」

SoU「“WEB RADIO おとボク 聖應女学院放送局”だ。おとボクはアニメで声が変わっても面白いことが判明」

彩音「おとボクとうたわれ、Kanonが今期の超本命ですね」

SoU「おとボクのエンディングは吹き出した……まさかここで来るとは」

彩音「OP、EDの曲も素晴らしいですね」

SoU「あぁ。っと、ラジオらしくなくなってきたな」

彩音「不本意ですが。では早速今回のコーナー!」

SoU「ふつおたコーナー! タイトル通り普通のお便り紹介コーナーです」

彩音「では早速……って、気がつけば私もしっかりパーソナリティーなわけですね」

SoU「一応作中からゲストも呼ぶ予定だ」

彩音「それは楽しみです」

SoU「というわけでお便りを」

彩音「はいはい……ペンネーム“マスターの妹その1”さんからいただきました♪」

SoU「リアルかよ_| ̄|○」

彩音「“結局PCは完全復活したのですか?”……なんというか……」

SoU「見てるなら察せ! とりあえず復旧率65%、しかもこれ以上はほぼ不可能」

彩音「何気なく使っていながら、どこに何が入ってたかすっかり忘れてましたからね」

SoU「こればっかりは、考えが浅かった。バックアップ取ろうと思ってた矢先に逝かれたからな。しかもアプリがいくつか見つからないし」

彩音「この文章も、今までHPビルダー8使ってたのに、見つからなくて6.5で代用してますからね」

SoU「近いうちに家捜しします」

彩音「以上、ふつおたのコーナーでした♪ それでは最後のコーナー、今回のお話についてのコーナー!」

SoU「第10話なわけですが……」

彩音「まずは杏の推理ですね。正直ナンパ男の、楽な仕事云々程度では、女の子に声をかける、もしくは女の子を連れて行くのが目的だ、というぐらいしかわからないと思っていたのですが……」

SoU「杏を使ったのはそれが大きい。状況を完全に記憶し、思い返せる杏ならきっとここまで辿り着く……そういう要素を密かに入れてみたんだが」

彩音「それで最初に声をかけた人数が微妙だったり、増援がいたりしたんですね」

SoU「そういうことだ。まぁ、拳銃持ってきても簡単には勝てない相手だからな。多少の武器を持った素人が二桁程度集まったぐらいでは傷一つ付けられんし問題ないだろうと思ってな。そもそも完成した御神の剣士は完全武装した100人の人間を持って互角とされる程だそうだからな」

彩音「そう言えばそうでしたね。やりすぎではなかったようで少し安心です。で、もう一つは音姫ちゃんの胸の話」

SoU「もう少し軽く流す予定だったんだが……復旧直後に見たおまけ(オフィシャルより、登録した人のみが落とせるシナリオ)見て変わった」

彩音「まさか音姫ちゃんがあそこまで壊れキャラだったとは……そしていぢめられる小恋ちゃん&由夢ちゃん」

SoU「あんなおいしいネタを出されては、飛びつかないわけには……というわけで、ちょっと音姫を壊してみました♪」

彩音「最後のCMはわかる人だけわかってください♪ マスター、これからの展開は?」

SoU「あと数話、まだメインに据えられていないキャラとの話を経て、物語をもう一歩加速しようかと思ってる」

彩音「ということは、もう少しこの微妙に甘ったるい話が続くわけですね」

SoU「皆さんもう少々お付き合いください」

彩音「それにしても……あらゆる話、あらゆるところに伏線をバラまいてますけど、回収できますか?」

SoU「7割回収できるかな、というところかな。自分でも回収出来そうにないと思いつつも伏線を作ってる。一応いざというときの為に」

彩音「意外な伏線が、詰まったときに活用できたりしますからね。では、構想はどうなってます?」

SoU「数回のバトルシーンと、そこに入るまでの話、ラストはもう出来てるんだけど……最大の問題はそこに辿り着くまでの道だな」

彩音「? つまり、バトルシーンまでの話に辿り着く話がまだだ、と」

SoU「そう。それに、おまけ話を挟むとなるとそのタイミングが難しい」

彩音「気をつけてくださいよ? 前にも言いましたが、シナリオ変えたい病は、発病したら患部を切りますからね♪」

SoU「うぅ、酷い……」

彩音「と、今回はこんなところで♪」

SoU「またしても無視されるし……悲しい_| ̄|○」

彩音「ほらほら、終わりますよ」

SoU「うぅ、お相手は、SoUと」

彩音「美月彩音でした♪ では、また次回お会いしましょう♪」





杏も気付いたみたいだな。
美姫 「うーん、そこはやっぱり杏ならではって所ね」
記憶力の良さと、その内容を思い返しながら推理する。
美姫 「見事に真相に辿り着いたわね」
さて、もう暫くは日常が楽しめそうだけど。
美姫 「うんうん、楽しみよね」
どんなお話が待っているのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
待ってます。



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