ぴん、ぽん、ぱん、ぽ〜ん♪










※えまーじぇんしー

 この話において、とらハ側の時間軸は美由希兄妹エンド後です。

 美由希は皆伝しており、恭也に彼女はいません。










ぴん、ぽん、ぱん、ぽ〜ん♪











SoUプレゼンツ・クロスSS




『D.C.U〜ダ・カーポU〜』 × 『とらいあんぐるハート3 〜Sweet songs forever〜』




D.C.L.H. 〜ダ・カーポ〜 リリカルハート

第07話:永久記憶





「どうしよう……」

「ふむ……」



 朝、義之の部屋の前で思案顔の二人……当然恭也と美由希である。

 今日ももちろん授業がある。

 本来既に朝食を終えている時間なのだが、義之が起きる気配は一向にない。

 中には義之しかいないことはわかっているものの、どう起こしていいものかと思案顔だ。

 そもそも高町家の人間は大半が朝に強い。唯一朝が弱いのは末っ子のなのは、恭也が非常に甘くなる子だ。

 美由希もあまり人を起こしたことなどなく、まして一応同年代の異性である義之の部屋に入っていいものかと思案顔だ。



「仕方がない、その道のプロに任せよう」

「プロ? ……あ、そっか。じゃあ私呼んでくるよ」

「頼む。……朝食はなしか。途中で抜けて何か用意しないとな」



 その道のプロ・・・・・・である朝倉姉妹を呼び、なんとか義之を起こそうとする恭也と美由希。

 うまく義之を起こし、準備。それを済ませると、一行は芳乃家を飛び出した。



「ここしばらくはきちんと起きてたみたいですけど……やっぱり長続きしませんでしたね、兄さん」



 既に家を出てしまった音姫。

 もし彼女がいれば、義之はもう少し平穏な朝を迎えられたのだろう。

 今回義之を起こしたのは由夢だった。



「だからってあれはないだろう……」



 首を押さえながら走っている義之。

 どうやら朝起きる際に一騒動あったらしい



「あれは、おばあちゃんから教わった由緒正しい寝ぼすけさんの起こし方ですから。おじいちゃんもそれで何度も遅刻を免れたみたいですし」



 音姫、由夢の祖母にあたる朝倉音夢ねむ

 今回義之を起こす際に用いられた方法は、その音夢直伝のものらしい。




「分厚い辞典を顔面に落とすか……」

「由夢ちゃんって結構、人前だと性格違ったりする?」

「うっ……」



 猫かぶりがバレてしまい、言葉を詰まらせる由夢。

 そう、今回義之を起こすに際し、由夢は部屋にあった分厚い辞典を顔に落としたのだ。

 もちろん警告はしたが、聞き入れる義之でもなかった。



「まぁ、本音を出せるというのは仲のいい証拠だからな」

「なっ、きょ、恭也先輩っ」



 恭也の言葉に真っ赤になる由夢。



「に、兄さんとなんて別に――」

「仲がよくないのか? だが俺は少なくとも、学園内で由夢が誰かに手を上げたという話は聞いたことがないんだが?」



 したり顔の恭也。

 実は相当に悪戯好きでいじめっ子な恭也にとって、素直じゃない由夢は格好のターゲットだった。



「う……」

「まぁいいじゃないか。たまには優しく起こしてやったらどうだ? 俺達は席を外す、存分に優しくしてやるといい」

「な、な、な……」



 どんどん赤くなっていく由夢。

 こんな台詞を真顔で言うから性質が悪い。



「うぅ……恭也先輩は、意外と意地悪なんですね……」

「うん、意外と意地悪で嘘つきでして……」



 由夢と美由希の話を、恭也は聞こえているもののあえて無視する。

 言われて直る性格ではない。



「由夢は仲がいいと辞典を顔面に落とすのか。勘弁してくれ……」

「あはは、まぁ、今回のは義之くんが起きなかったのが悪いんだし、仕方ないかな」

「美由希まで……ひでぇ」



 そう反論するものの、言葉に力がない。

 先ほどからずっと走っているのだ。

 義之も由夢ももう既にまともに声が出せる状況ではない。



「どうした?」

「恭ちゃん、二人とも疲れてるんだと思うよ?」

「はぁ、はぁ、へい、き、ですっ、はぁ、はぁ……」

「っく……由夢ほどじゃ、ないけど、こりゃ堪えるな……」



 そんな二人を他所に、恭也と美由希は息一つ乱さない。



「由夢はともかく、桜内は体力がなさすぎだ」

「い、家からここまで、走って……」

「い、息、一つ、乱、さ、ない、はぁ、はぁ、お、お二人の、方が……へ、変、です……」



 二人の反応も最もだ。



「ふむ……美由希、いけるか?」

「う〜ん、流石にそれはつらいかな……」

『?』



 もはや二人の会話の意味もわからない。

 ただただ苦しそうに息を吐く。



「仕方がない。桜内はもう少し頑張れそうだな」

「なん、とか……」



 その返事を聞いて満足そうにうなづくと――



「失礼」



 ――ひょい、と。



「ふぇ?」



 何事もなかったかのように、由夢を抱え上げた。

 それも、いわゆるお姫様抱っこでだ。



「ぁ、ぇ、え、え!?」

「美由希、桜内を任せるぞ」

「え、あ、ちょっと恭ちゃ……」



 その言葉と同時に恭也は速度を上げる。

 美由希は追いかけたいが、頼まれてしまった義之がそこにいるためそれも出来ない。

 あっという間に恭也は自分達の視界から姿を消した。



「……ゆ、由夢、を、抱え、て……はぁ、はぁ、速度を上げる、なんて……何者、だよ、……」

「さ、流石に私も、人一人抱えて速度を上げるのは無理かな……」

「抱え、な、ければ……はぁ、はぁ、あ、上がるのか、よ……」



 二人の体力に、絶望に近い感情を抱く義之だった。










 恭也はただただ学園への道を走る。

 まだ息が荒い由夢は反論することも抵抗することも出来ず、恭也の腕の中で顔を隠すようにしがみついていた。



(ううぅ、すごく恥ずかしい……まだ他の生徒さんたちもいるのに……こんな……)



 いくら顔を隠したところで、朝倉由夢といえば有名人だ。

 当然、転入したばかりだというのに学園が誇る美少女たちと仲のいい恭也もまた、かなりの有名人だ。

 その組み合わせが目立たないはずがない。

 ないのだが……恭也は噂を聞く間もなく、生徒達の波をすり抜け、いや、突き抜けていく。



(それに、思い切り走ったから汗かいてるし……うぅぅ)



 真っ赤な由夢を他所に、恭也は目的地目指して走り続ける。

 その間、恭也は恭也で別の考え事をしていた。



(最重要護衛対象、朝倉由夢……能力は“確定未来視”だったな)



 確定未来視……どうあがこうと変更できない確定された未来を見る能力。

 由夢はそれを自分の名の通り夢を見る代わりに見るのだという。

 この能力の恐ろしいところは、未来を絶対に変えられない・・・・・・・・・・・・という点、そこに尽きる。

 ――つまり。

 例え、誰かが死ぬ夢を見ようと。例え、自分が暴漢に襲われる夢を見ようと。

 そして、それに対してどのような対策を練ろうと。

 それは必ず起きてしまう・・・・・・・・・・・のだ。

 由夢がもし研究者に拉致されるようなことがあれば……その能力の研究によって、自在に未来を見ることが出来るようになってしまう可能性もある。

 それだけは避けなくてはいけない。



「……ん?」



 そう考えたところで、校門が見えてきた。



「もうすぐ着くから、我慢してくれ」

「えっ!?」



 抱きかかえられてから、わずか5分。

 本来あの地点――抱えられた場所――から5分走った場合、目的地まで残り5分といったところだろうか。

 つまり、由夢の全力疾走の倍近い速度で恭也は走っていることになる。

 それも、人一人を抱きかかえて。



「すご、い……恭也先輩って……」

「誰でも、努力すればこれぐらいは出来るようになる」



 当然、そんなことはない。並の努力では無理だ。

 それこそ血の滲むような努力。そして、それを自分の力に出来る才能。

 その全てが恭也にあったということだ。



「あ、あ、あの、ここまでくれば、もう遅刻はしませんから……その、降ろしてもらえると……」

「ん? あ、あぁ、すまない」



 学園までおよそ300メートル。

 抱えられて学園に突入することだけは避けたい由夢は、こうして無事に――



「あ〜、恭也先輩、由夢さん!」



 ――降りられるはずもなく、あっさり茜に見つかった。



「は、花咲先輩!?」

「由夢ちゃんがお姫様抱っこされてる〜」

「朝からいいものを見たわ」



 しっかり雪月花に見つかる恭也&由夢。



「あ、あ、あの、こ、これは……」

「なんとか、間に合ったな」



 由夢を降ろしながら、恭也が言う。



「間に合ったなって言っても、恭也先輩、一応余裕がありますよ?」

「いえ、それが……私たちが普通に走ったのでは、まず間に合わない時間でして……」

『?』



 三人とも首をかしげる。

 事実遅刻3分前に学園に到着しているのだ。

 由夢は、家を出た時間を説明する。

 すると……



「えっ!? 義之の家からここまで、そんな時間で来たの!?」

「えっと……それだけではなくて……」



 それだけでも十分小恋には驚きだったのだが……由夢は更に、自分の体力が尽きかけたとき恭也に抱えられたことを言う。

 そこからペースを上げてここまで来たのだ、と。



「あそこからここまで、5分で来たの!?」

「それも、由夢ちゃんを抱えて……」

「昨日のバスケの試合の話も聞いたけど……すごい体力だわ」

「バスケの試合?」



 驚く三人娘だが、その中でも小恋はバスケの試合のことを知らなかったらしい。



「なんでも、センターライン付近からジャンプして、ルーズボールをつかんでダンクしたんだって」

「ルーズボールって、ゴールから跳ね返ったボールだったっけ?」

「ええ。今日の事といい、すごい運動神経と体力よね」

「あ、皆いるよ」

「ぜ〜、ぜ〜……」



 声に振り返ると、にこやかな顔の美由希と、今にも死にそうな顔の義之。

 まさに対照的だ。



「お、お疲れ様、義之……」

「死ぬかと、思った……」



 実際死んでいると言われても、誰も否定できないような表情をしている。

 問いかけた小恋の方も、実際返事が返ってくるかどうか半信半疑だった。



「美由希ちゃんすごいね……息切れてないよ」

「毎日の日課のランニングよりも距離短いし速度も遅いから、それほど気にならなかったけど?」

『えっ!?』



 これを聞いて全員絶句。

 「距離が短い」これはまだいい。

 ここはあくまでランニングのコースではなく通学路であり、走ることを考慮して作られた道ではない。

 が、「速度も遅い」とはどういうことだろうか。



「も、もしかして……恭也先輩と同じようなスピードで走るんですか……?」



 恐る恐る由夢が問いかける。

 恭也の速度を肌で感じたからこそ……このスピードと同等で走る女子がいることを信じられないのだ。

 が――



「いや、速度は俺より美由希の方が上だ」



 ――恭也の返事は、由夢の予想の遥か先を行っていた。

 ……そうなのだ。

 戦闘の際、恭也は力で挑む。当然技も駆使するが、スピード型かパワー型かと言われれば、間違いなくパワー型だ。

 それに対して美由希はスピード型……移動速度、攻撃速度、その両方において恭也を上回る。



「美由希ちゃんの方が……速いの?」

「えっと……うん、多分」



 場の空気に負けたのか、自信なさそうに美由希が答える。



「ふむ、恐るべし高町兄妹、だな」

「のわあっ!? す、杉並、お前いつからいたんだ!」



 いつの間にか義之の背後にいた杉並。

 義之だけではない、由夢も雪月花も、揃って驚きの声を上げる。



「最初からだ。高町兄妹はきちんと目で挨拶してくれたぞ」



 流石に剣術家が一般人に出し抜かれることはなかったようだが、少なくとも義之たちにはかなりの驚きとなる登場だった。

 そして……驚きで固まってる一同の間に、無常にも轟くチャイム。



『やばっ!』



 これを聞いて、全員猛ダッシュで門をくぐるのだった――。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「……義之?」

「…………」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

「杏ちゃん、それ、結構洒落にならないかも」



 教室に着くと同時に義之は机に突っ伏し、そのまま動かなくなった。

 顔が赤を通り越して青い。チアノーゼ気味だ。



「ちょっと義之くん……本当に大丈夫?」

「大丈夫じゃ、ない……というか、本当に美由希、人間か?」

「心配して声かけてくれた美由希ちゃんに失礼だよ」

「そうだよ義之」



 だが、義之からすればこう言いたくなるのも当たり前。

 この歳にもなれば、男子と女子では基本的な体力が違う。

 当然義之の体力も、そこら辺の女子よりは高い。運動神経だって悪いほうではないし、男子のほうでも平均より上の体力を誇る。

 だが……美由希の体力は男子陸上部の長距離選手のそれに近い。

 いや、もしかするとそれすらも上回ってるかもしれない。

 これ自体は8時間連続戦闘などという一見無茶な鍛錬をこなしているお陰でもあるのだが。



「あはは、でも恭ちゃん程じゃないし」

「すごいよね〜、由夢ちゃん抱えて桜公園から学園まで5分で着いたんでしょ?」

「茜」



 杏が口止めするがもう遅い。

 今の言葉でクラスメイトの視線が一気に茜に集中する。



「あ、あはは……もしかして私、余計なこと言っちゃった?」

「多分ね」

「花咲さん、今のどういうこと!?」

「朝倉さんが抱きかかえられたって本当!?」

「高町先輩に抱きかかえられた子がいるの!?」



 呆れ顔の杏を他所に、茜にクラスメイトの質問が殺到する。



「と、とりあえず落ち着いて、ね?」

「疲れて倒れそうだった由夢ちゃんを恭也先輩が抱えてあげただけだから」

「そうそう、他意はないんだよ」



 三人の説明で何とかその場は引き下がったものの、“恭也が由夢を抱きかかえて学園に来た”という噂は瞬く間に広まるのだった……。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「美由希」

「杏? どうしたの?」



 昼休み、今日はお昼をどうしようかと悩んでいたところに杏が声をかけた。



「今日も学食?」

「うん、その予定だけど」



 正確には恭也と、更に護衛対象と一緒に、なのだがここでは何も言わない。

 美由希の返事を聞いて、杏は弁当箱を出した。

 どう見ても、杏が食べるには大きすぎる弁当箱……というより、袋の外から見ても解る。

 あれは重箱だ。



「皆で食べようと思って、四人でお弁当を作ってきたんだけど、どう?」

「四人って……」

『じゃ〜ん♪』



 声とともに弁当箱が追加で2つ現れた。

 そこにいたのは小恋と茜。

 そして教室のドアが勢いよく開き――



「私も私も〜♪」



 ――と、4つ目の弁当箱が現れる。



「ななか、走ると危ないよ?」

「平気平気、なんでか皆避けてくれるんだもん」



 学園のアイドルと呼ばれるだけあって、目立ち具合もかなりのもの。

 当然ななかが走っていれば、動きは止まり視線は釘付け。

 別に狙っているわけでもないのだが何故か動きが止まるので、ななかは悠々とその間をすり抜けてきたのだ。



「ななかすごい」

「も〜、そういう小恋だって、実際走ったら皆止まるのに」



 実際過去に廊下を走った際には辺りの生徒の動きは見事に止まった。

 小恋の美少女ぶりと、そして何より走るたびに揺れる胸に視線が釘付けになったのが原因なのだが。



「う、あれはもうしないって決めたんだもん」



 女性は自分に集まる視線に敏感だという。

 普段は鈍い小恋だが、流石にその時は自分の胸に視線が集まっていたのが解ったらしい。

 胸を押さえ、顔を赤くしながら言った。



「じゃあ今回は逆に、恭ちゃんを迎えに行こう」

「渉くんもおいでよ〜」

「杉並もね」

「ほらほら」

「ふむ、ではご相伴に預かろう」

「い、いいのか!? 俺もいいのか!?」



 こうして 大人数による恭也探索チームが結成されたのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「で、これがその弁当というわけか」



 先ほどのメンバーに恭也、音姫、まゆきを加え人数も二桁になった一行は、屋上に座っていた。

 目の前には巨大な重箱が4つ。



「恭也先輩、音姫先輩、まゆき先輩」

「ん?」

「うん?」

「どしたの?」



 食べる前に、と杏が声をかける。



「せっかくなので。このお弁当がそれぞれ誰が作ったのかを当てて欲しいんです。あたれば豪華商品をプレゼント」

『豪華商品?』



 首をかしげる三人。



「まぁ、ちょっとした余興みたいなものですよ」

「です」

「ちなみに作ってきたのは、雪村さん、花咲さん、小恋、私で〜す」



 美少女四人による豪華弁当。

 それだけではなく、このクイズに正解すれば更なる豪華商品が待つという。



「ふむ……面白そうだな」

「なるほど〜」

「よし、その勝負乗った」



 こうして、弁当試食バトルが始まるのだった。










「う〜ん、難しいよ〜……」

「そもそも四人の味をよく知らないのは痛いわね」

「あぁ、だがどれも美味いな…… 」



 とりあえず一通り食べてみたが、どれが誰のか全然解らない。

 感想を述べつつ、恭也はもう一度重箱を見渡した。



「純和風……見た目も統一感があって綺麗だな」



 一つ目の重箱は純和風のものだった。

 おにぎり(具は梅、鮭、おかか)を主食に、煮豆、焼き魚、野菜のてんぷらなど。

 和食が好き(というより、もはや存在自体が正統日本人)な恭也には、これが嬉しかった。



「こっちは……逆に純洋風だな。どちらかというと明るい色が多くて見た目も生えるな」



 二つ目は純洋風。

 サンドイッチがメインで、スペアリブ、蛸と玉ねぎのマリネ、スパゲッティサラダ、鮭のムニエルなど。

 メインがパン類なせいなのか、見た目があっさり系なのとは裏腹におかず類は腹にたまるものが多い。



「これは……中華だな。うちの中華担当に見せても合格が出そうだな、これなら」



 三つ目は中華メイン。

 主食はチャーハンで作ったおにぎり、おかずはシュウマイ、エビチリ、豚の角煮、春雨を使ったサラダなど。

 この暑い時期には十分に食欲をそそる。



「そして……和洋折衷とでも言えばいいのか。だがしっかり作られてるな」



 最後は折衷弁当。

 主食はなんと焼き鯖寿司という珍しいもの、それにおかずがミートボール、タラフライ(タルタルソース付)、蓮根のサラダ、少量の焼きそば。

 不思議な取り合わせなのだが、なぜだか箸が進む。



「すごい……見事に全員別々の物を作ってきたんだ」

「うめぇ、どれもすげぇうめぇよ……」

「あぁ、これはぜひとも先輩方の答えを聞いてみたいものだ。それぞれの味が誰のイメージなのかがよくわかる」



 軽い試食を終え、三人は今、紙にどの弁当が誰のものかを書いている。

 全て正解する人はいないだろう、ということで一番正解率の高い人が豪華商品をゲット、ということになった。



「それでは、回答をどうぞ〜!」



 ななかの声とともに、三人が紙を出した。

 内容は以下の通り。



 音姫:和風・小恋 洋風・杏 中華・ななか 折衷・茜

 まゆき:和風;茜 洋風・ななか 中華・杏 折衷・小恋

 恭也:和風:杏 洋風:茜 中華:ななか 折衷・小恋



 こんな感じかな、と人柄から予測したのが音姫。

 意外性を考えて予測したのがまゆき。

 そして直感で予測したのが恭也。

 こうして三者三様の答えが発表された。



「えっと……」

「どれどれ〜?」

「う〜んと……」

「……すごいわ」



 茜、小恋、ななかが紙に視線を向け、何が書いてあるのかを読もうとする。

 が、それよりも早く、一瞬紙に目を向けた杏の動きが止まった。



『?』



 蚊帳の外の美由希、杉並、渉の三人が、杏の呟きを聞いて首をかしげる。



「杏ちゃん、なにがすご――うそ……」

「えっ……ええ〜〜〜っ!?」

「うっわ〜……お見事だね」



 ここでようやく、杏以外の弁当製作組三名がその事実に気付いた。

 そう、ただ一人だけ――



『恭也先輩、全問正解……!』



 ――この難問にパ−フェクトを出した者がいたのだ。

 その者の名は、高町恭也。

 直感で答えを導き出した恐るべき男。



「これで正解だったのか?」



 当然本人もよくわかっていない。

 何しろただの感だ。



「というわけで……恭也先輩には豪華賞品を進呈ね」

「うんうん、よ〜し、はりきっちゃうぞ〜」

「うぅ〜、本当にするの?」

「私も、ちょっとドキドキ」



 何をするつもりなのだろうか。

 これまた恭也には当然ながら解らない。



「もともと音姫先輩とまゆき先輩には、放課後、“花より団子”にでも招待しようと思っていたんです」

「なので、これは恭也先輩だけの特別サービス♪」

「ななかぁ〜……」

「小恋、覚悟を決めよう!」



(! な、なんだ、この不穏な空気は)



 嫌な予感がした。

 御神流を学ぶことによって鍛え上げられた直感が告げている。

 「このままここにいるのは危険だ」と。

 更に言うなら、目の前の四人からはさざなみ寮の2大暴君や、母、桃子と同じ気配がする。

 そう、人を巻き込んだ悪戯をしようとしている気配が。



「それでは失礼して……」



 四人は立ち上がり、恭也を取り囲む。

 首を傾げる恭也だが、次の行動により全く身動きが取れなくなった。



『え〜い!』

「えい」



 気合を入れて恭也に抱きつく三人、そして膝の上に恭也のほうを向いて座る杏。

 恭也の周りに一瞬にしてハーレムが出来上がる。



「な、お、おい……」

「うわぁ、恭也先輩の体、すごい……」

「筋肉質な人って、こんな感じなんだ……」

「すごい……」

「どうですか、恭也先輩?」



 学園が誇る美少女達に囲まれながら、恭也は高速で考えていた。



(まずい、これ以上変な噂が立っては困る。それに……美由希辺りから何故か不穏な空気を感じる)



 鋭い、射抜くような視線を恭也にぶつける美由希。

 他のメンバーはというと――



「すげぇ……男の夢が具現化された形がここにある……」

「ふむ、噂どおりというべきか、高町兄は非常にモテるようだな」

「クイズの報酬は随分すごいんだな……」

「あはは、恭也くんどう? 美少女達に囲まれた感想は」

「え、えっちなのはダメ〜!」



 ――暴走している渉と、別の意味で暴走している音姫。

 何気に納得している杉並、報酬のすごさに驚く義之、そして恭也に感想を求めるまゆき。

 それぞれ傍観者なりに楽しんでいるようだ。

 四人はいっこうに動く気配がない。



「す、すまないが食事がしたいので離れてもらえると……」

「はい、あ〜ん」



 きょうや は にげだした! しかし まわりこまれてしまった!



「な!?」



 当然回避出来るわけもない。

 恭也の提案は即座に却下された。

 いや、正確には却下ではなく、恭也が望んでいたものとは別の解決案が出されただけなのだが。



「あ、杏?」

「……嫌ですか?」



 頬を赤く染めながら、熱っぽい目で。

 杏の攻撃に、流石の恭也も抵抗できるわけもなく……



 ぱく



 そして当然、杏が食べさせたのだから――



「次は私ね。はい、恭也先輩あ〜ん♪」



 ――茜がサンドイッチを口に近づける。

 杏のを食べてしまった手前、これを断るわけには行かない。

 そして、もちろんこの後に待っているのは――



「はい、恭也先輩〜」



 ――ななかの攻撃。

 当然これも断れるものではない。

 否応なしに目の前に出された料理を食べる恭也。

 そして残る一人、小恋。

 恭也は正直安心していた。

 彼女は引っ込み思案で恥ずかしがり屋だ。

 抱きつくまでは他の三人に強要されたのかもしれないが、これは回避してくれるはずだ。



「え、えっとその、恭也先輩……あ、あ〜ん……」



 だが世の中そんなに甘くない。

 他の三人の様子を見て羨ましく思ったのか楽しそうに思ったのか、小恋もまた自分の作った弁当を恭也に食べさせようとしていた。



(回避――!)



 なんとか断ろうと改めて小恋を見ると――



「私のは、だめ……ですか?」



 ――ここ の こうげき! つうこんのいちげき!



「ぐっ……」



 結局これも断りきれずに食べる恭也。

 最初は羨ましそうに見ていた周りのメンバーも、途中から哀れみのものに変わっていった……。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「楽しかったね〜、杏ちゃん、小恋ちゃん、白河さん」

「うんうん、なんていうか恭也先輩、あの外見だから結構女の子に慣れてるのかと思ってたんだけど……」

「あ、それは私も思った」

「純粋に鈍感な人、みたいね」



 昼食も終わり、本校組と分かれた美由希たち。

 弁当係だった四人はそれぞれ、恭也についての感想を述べていた。



「恭也先輩、お疲れ様……」

「あれは凄まじかったな……」

「高町兄にあれほどのダメージを与えるとは……恐るべしだな」

「あはは……さざなみ寮の宴会を思い出しそう」



 美由希は一人頭を抑えながら大きく傷跡が残る過去を思い出さないように必死に戦っていた。

 そして教室に入ると同時にチャイムがなる。



「あ〜、チャイム!」

「ななか早く!」

「じゃ、じゃあね皆!」



 そのまま、ななかは走り去っていった……。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







 授業中。

 その授業を聞いているフリ・・をしながら、杏は一人考え事をしていた。

 いや、考え事というほどのものではない。ただ単に思い返していただけだ。



(あれは確かに……反則よね)



 超至近距離で見た恭也の顔を思い出す。それだけで、頬が熱くなる。

 しかもただただ外見がいいだけの男ではない。

 抱きついた時の感じから見て、かなり鍛え上げているであろう体。周りの人への気の配り方。

 それら全てを評して、杏は思う……いい男だ、と。

 だが、杏にも想い人はいる。

 杏だけではない、恭也に見つめられた二人、ななかと音姫もしかり。

 小恋と由夢、美夏はバレバレだし、美由希も先ほどの視線で誰が好きなのか理解できた。

 茜とまゆきだけはよくわからないが、それ以外のメンバーは皆、誰を好きなのか解っている。



「ふぅ……」



 当たり前だ。

 自分も含めて、美由希以外全員同じ人のことが好き・・・・・・・・・・・なのだから。

 だが、例え想い人がいるとしても、振り向いてもらえないのであればあまり意味がない。

 それにこれだけ多くの人が同じ人を好きとなると、当然問題も出てくる。



(小恋……)



 親友と想い人がかぶってしまったとき、どうすればいいだろうか。

 幸い小恋には自分の気持ちを知られていない、と、杏は思う。

 その人をあきらめるべきか、それとも友情が壊れてしまうことを恐れず、自分の想いをぶつけるべきか。

 ……だがここで、杏の持つ特殊な力が邪魔をする。



(忘れられない・・・・・・っていうのは、本当につらいわね……)



 杏は恭也たちが護るべき人たちに名を連ねている。

 それも、最重要護衛対象の一人。

 備考にあるのは“能力:永久記憶”。

 一度見たものを完璧に覚えてしまう能力。

 確かにそれだけ聞けばすごい能力の一言で済ませてしまうかもしれない。

 が、杏からすれば冗談ではない。

 何でも一度見れば完璧に覚える、それはつまり忘れられない・・・・・・ということでもある。

 例え凄惨な事故現場を見てしまったとしても。

 例え大事な人が他の人と一緒になったとしても。

 その記憶、想いを決して忘れることは出来ないのだ。



(今は何も出来ない……もっと、私たちが大人になって、自分の気持ちを整理できるようになるまでは……)



 とりあえず今は、想い人と恭也のことを思い浮かべる杏だった。








SoU「これで7話〜」

彩音「今回はまたすごいことが起きてますね」

SoU「弁当イベントは出す予定がなかったんだけどな……何故か書いてしまった」

彩音「で、今回は無駄に長いわけですね」

SoU「そういうわけです(泣」

彩音「とりあえずここまでで最重要護衛対象は……」

SoU「枯れない桜、さくら先生、音姫、由夢、ななか、杏。一応あと一人かな」

彩音「ですね。中々楽しんで書けてるようで何よりですが……敵が見えませんね」

SoU「あぁ、全員紹介してから、と考えてるからな。一応次回その一部が登場予定……」

彩音「予定なんですね」

SoU「物書きに絶対などない!」

彩音「情けない格言ですね、それ」

SoU「俺もそう思う」

彩音「……ところで、全く関係ないですが、リリカルなのはの続編決まりましたね」

SoU「本当に関係ないな。……まぁ、それはともかく。決定したな。“魔法少女リリカルなのはStrikerS”だったか」

彩音「ですね。A's ED後の話だそうで、15歳のなのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃんが登場なのですが……」

SoU「フェイトが結構大人っぽいな。いや、放送時にも可愛い子だとは思ってたが……普通に綺麗な女の子で出てきてちょっとびっくり」

彩音「ですね。使い古されているネタですけど、やっぱりこの歳のソニックフォームはいろんな意味で危険だと思います」

SoU「いいんじゃないか? 見惚れる相手を速度で一蹴。これは強いぞ」

彩音「それはそうですけどね。でも個人的に思うんですけど、なのはちゃんはStrikerSでも聖祥小学校の制服をベースにしたバリアジャケットなんでしょうか」

SoU「……イラスト見たけど、デバイスはまんま魔法少女用の杖のままだしな」

彩音「ですね。バリアジャケット新しくなるのかな〜」

SoU「楽しみだな」

彩音「それでは今回はこの辺で」

SoU「それでわ〜♪」





いい言葉だ。
美姫 「何が?」
物書きに絶対などない!
美姫 「アンタがそれを使った場合、通常の250%増しで制裁だからね」
な、なして…。
美姫 「ただでさえ、アンタは……」
ああーあーあー! えっと、今回は恭也が極楽地獄という目に。
美姫 「変な言葉だけど、変にあっているような気もするわね。って言うより、話を逸らしたわね」
あははは。いやいや、後一人の最重要護衛対象は誰かな〜。
美姫 「確かにね。次回は一体、どんなお話になるのかしら」
いやー、楽しみだよ。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待っています。



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