『マリあんぐるハート異聞 〜紅黄白黒の四薔薇さま〜』




私立マリとら学園………。

明治34年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のために作られたという、伝統ある学校だった。

しかし近年、高等部からは男子生徒の入学も認められ、より一層活気が溢れた。

最大の特徴はスール(姉妹・兄弟)制である。

上級生が下級生に姉妹の契りの儀式を行い、ロザリオを授受するといったシステムである。

姉(兄)になった先輩は妹(弟)の指導を行うのである。

これは、共学化と言う流れにあえて乗った上村佐織学園長の英断若しくは道断の果ての物語である。





マリあんぐるハート異聞 〜紅黄白黒の四薔薇さま〜


A spiral encounter



    波乱万丈な火曜日  Episode C 「Exterior」



     1



 古今東西、噂の伝わるのは早いものだが、当然の様にその噂から無縁の人と言うのがこの世の中には存在するのだ。
 マリとら学園の全生徒が福沢祐巳と言う一年生が紅薔薇のつぼみたる小笠原祥子さまを振ったという噂に夢中だったが、当の祥子さんはと言えば至って暢気なものだった。
 だから、例えクラスで一番遅く(昼休み間際)にその噂を耳にしたとは言え、本人に真偽を確かめたくなったのは友人として仕方がないと思う。
「祥子さん、噂は本当なの?」
「……噂って何の事なの、那美さん?」
 なのに祥子さんときたら本当に何も知らなかったのだから、高等部入学以来の友人である神咲那美としては驚きの声を上げなかっただけでも誉めて貰いたいと思った。特に黒薔薇さまこと高町恭也さんに。
 当人――しかもかの小笠原祥子――に噂の真偽を訊ねるだけで無く、その内容までつぶさに報告する辺りこそ神咲那美の神咲那美たる所以だが、妹に言わせればそんな那美だからこそ小笠原祥子さまの友人が務まるのだとの事。要するにどちらも間が抜けているのだと紅薔薇さま辺りなら一笑に付しそうだが、ここにかの人は居ない。故に二年松組の教室は、一種独特な緊張感に満たされた。
「………と言う事なんですけど?」
「そう、それで朝から校内がざわついているのね」
 那美が聞いた範囲の凡てを語ると、祥子さんは教室を見渡してそう言った。目は口ほどに物を言うから意訳すると、だからこの教室もざわついているのねって所だろうか那美は自問する。同じ様に感じた人も少なくなかったらしくて教室を包んでいた緊張感は大分薄らいでいたが、当然那美がそれに気付く筈は無かった。
 祥子さんが続けて「どうせお姉さま方が流したのでしょう」なんて耳打ちするものだから、那美はまた声を上げそうになるのを堪えるのに必至だった。だって祥子さんが否定しないと言う事は、祥子さんは藤堂志摩子さんに続いて二度目のごめんなさいをされたと言う事で、那美はもうどうしたら良いのか分からなくて途方にくれそうになった。
「もう、そんな顔しないで那美さん。まるで私が苛めたみたいじゃない」
 でも当の祥子さんはからからと笑い飛ばすものだから、余計に那美は泣きたくなった。そしてそれ以上に泣きたくなったのがクラスメイト達。二人の世界に突入されて、別の意味で緊張感に包まれた二年松組を救ったのは、二人の客人だった。
「あら美由希ちゃん、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう、紅薔薇さま!」
 廊下から聞こえてくる声は二年松組の生徒にとっては馴染みの声で、騒動の中心たる二人にとっては更に馴染み深い声だった。
 扉に最も近い位置に居た生徒が渡りに船とばかりに扉を開け、取次ぎを買って出た。
「ごきげんよう紅薔薇さま、美由希さん! お二人なら中に居ますから、どうぞ」
 ありがとう、ありがとうございます、と声を微妙にハモらせながら件の二人は二年松組に足を踏み入れた。
 「その時、二人の後ろに後光が見えた」とは一年生に桂ちゃんと言う名前なのに苗字みたいな名前の可愛い妹が居るテニス部所属の匿名希望さんが新聞部のインタビューに対して語った内容である。
「ごきげんよう祥子、那美さん」
「ごきげんようお姉さま、祥子さま」
 大切な姉と可愛い妹からの挨拶に対してそれぞれごきげんようと答えてから、祥子と那美は顔を見合わせて小さく笑った。お互いに任せられる相手が来た事を喜んで、友情を確認出来たから。
「なあに、二人して。気持ち悪い」
「そ、それは良い過ぎでは無いでしょうか紅薔薇さま」
「そうですわお姉さま。そもそも何の御用でしょうか?」
「さ、祥子さま!?」
 喧嘩腰の祥子さんの様子に律儀に驚く妹――一年松組の高町美由希――の袖を掴んだ那美は、普段の振る舞いからは想像出来ない速さで「いいから」と耳打ちして、慣れない事をする物だから危うく転びそうになる。慌てて美由希が支えるが、眼鏡を掛けた時の運動音痴ぶりを見事に発揮し、二人して紅薔薇姉妹が呆れるぐらい見事に尻餅をついた。
「……相変わらずね、二人とも」
「本当に」
 その言葉に刺が無く、微笑ましい物を見るような目をしていたとしても、転んだ二人にとっては恥かしい事に変わりは無い。でも「しゅん」って音が聞こえそうなぐらいに揃って落ち込む二人の様子が良い緩和材となったようで、祥子さんは落ち着いて紅薔薇さまに用件を尋ねた。
「ここではなんだから、お弁当を持って付いて来なさい」
「………分かりました」
 祥子さんは何か言いたそうにしていたけれど、アイコンタクトが成立したのか、それとも言っても無駄だと悟ったのかは分からないけれど、お二人は連れ添って那美と美由希に挨拶してから教室を後にした。
 生返事を返した二人が起動したのは、それから三分後の事。二年松組の生徒達がそんな二人を暖かい目で見守っていたのは言うまでも無い事である。


     *


「……そっか、噂は本当なんだ」
 二人でお弁当をつつきながら祥子さんとの遣り取りを聞いていた美由希はそんな感想を洩らした。
「恭也さまからは何も聞いていないの?」
 那美の妹である高町美由希は、黒薔薇さまこと高町恭也さまの義理の妹で、血縁的には従兄妹に当たるらしい。恭也さまには他にも腹違いの実妹であるマリとら学園初等部二年生の高町なのはちゃんと、マリとら学園でスールの契りを結んだ二年藤組の蟹名静さんという二人の妹さんが居る。
 この一文だけをマリとら学園の学風を知らない人に聞かせればどんなに複雑な人間関係なのかと驚かれる事だろうが、慣れてしまえばなんと言う事は無い。那美と美由希は恭也さまを鋏んだ恋のライバルにして親友で、那美からすると将来は義理の妹にしたいと思っている女の子が、高町美由希なのである。
 ………ちなみに蛇足だが、那美には血の繋がらない姉と兄が一人づつと、血の繋がった双子の弟が一人いる訳だから、やっぱり神咲家と高町家の人間関係はちょっと複雑かも知れない。
「恭ちゃんは何にも話してくれなかった。朝学校に来て、新聞部の真美さんから聞いて始めて知ったんだもん」
 でも、きっと恭ちゃんは一枚も二枚も噛んでいる筈だと美由希は続ける。
「どうして?」
「だって………今朝、珍しく恭ちゃんが翠屋デリバリーをフィアッセに頼んでいたから」
 あぁ、それは、と考えた那美は絶句する。美由希が口にしたフィアッセとは、恭也さまと美由希の幼馴染みで姉のような存在のイギリス人女性だ。世紀の歌姫ティオレ・クリステラとイギリス上院議員アルバート・クリステラの一人娘で、自身も将来を嘱望される歌姫にして翠屋のチーフウェイトレスさん。その翠屋さんは高町三兄妹の母親である高町桃子さんが営む洋菓子屋兼喫茶店で、那美も時々ヘルプでバイトする事がある。特製シュークリームが特に有名だが、雑誌にも良く取り上げられる素敵なお店だ。
 閑話休題、フィアッセさんも恭也さまを巡るライバルの一人ではあるのだが、問題は恭也さまが頼んだと言う翠屋デリバリーの方だ。これはフィアッセさんがことあるごとに恭也さまと昼食を共にするべく画策して学園に持ち込むお手製ランチだ。恭也さまがわざわざそれを頼んだと言う事は………
「恭也さまはフィアッセさんを選んだというの!! ちょっと、どうなの、答えなさい美由希!!」
「お、お、お、落ち着いてお姉さま。タイを絞められたらしゃべれない……」
 ………はっ!?
 いけない。つい気が動転して大事な情報源、もとい妹の首を締めてしまったらしい。
「ごめんなさい美由希。それで、どうなの?」
 手を離して美由希が息を整えるのを待ってから訊ねる。気が急くのは止められないが、美由希の息の根を止めてしまっては元も子もない。どうせ止めるならフィアッセさんの………
「お姉さま、また善からぬ事を考えていますね?」
 そう呟く美由希の声も、呆れ気味所では無くて諦め気味だ。
「早とちりしないで下さい、お姉さま。恭ちゃんが頼んだのは6人分の昼食をお昼休みの開始丁度に校門まで届けて欲しいって事だけで、フィアッセがどうこうと言う話じゃないんです。ただ………」
「ただ?」
 と問い返しながらも、那美の胸中は「フィアッセがどうこうと言う話じゃ」と言うフレーズばかりがリフレインしていた。この喜びに比べたら、美由希の悩みなんて軽い軽い。ここは先程の失点を取り戻すべく、お姉さまらしい対応とアドバイスで姉の権威を回復しなくては等と考える余裕すらある。二年桜組の教室に住み着いている座敷童の桜ちゃんだって応援してくれているのだ、頑張れ、那美!! と自分にエールを送る。
 ………座敷童。東北地方などでは神として扱われる事もある、言わずと知れた妖怪の事である。
 実は那美は座敷童に限らず幽霊や妖怪と言ったモノが見えるし触れるし、時には桜ちゃんのように友達になる事もある。それは神咲那美が神咲一灯流と言う流派の祓い師であり、その苗字が示すように本家に籍を置く身だからだ。
 那美が本家のある鹿児島から遠く離れたマリとら学園に入学したのもその祓い師と言う家業に理由があり、話は明治の時代に遡る。約400年前に初代が開祖した神咲一灯流は真鳴流や楓月流と言った諸流を持つ日本有数の祓い師の一門であるが、国家に組みするようになったのは明治政府が警察組織を設置してからの事である。以来警察では手に負えない霊障を依頼と言う形で引き受けて来た訳だが、その依頼の一つに国家の要人の子女を多数預かるマリとら学園(当時は女学園)の霊的守護という物があった。神咲とマリとら学園の双方が警察上層部と繋がりが在った事から持ち上がった話で、神咲は学園鎮護の為に絶えず一人は祓い師を学園に在籍させておく言う契約が交わされ、今は那美と双子の弟の北斗がその任についている。
 仕事な訳だから学費や生活費、果ては交遊費に至るまで学園が負担している訳だが、その事を知っているのは学園長他数名のみ。理由は勿論マリとら学園がカトリックの学校だから。学園としては本場のエクソシストを呼びたかったらしいのだが、神咲を始めとする日本の祓い師にすればとんでもない話で、仕方なく「学生が偶々日本の祓い師だった」と言う体裁を取る事で両者が妥協した訳である。
 故に姉の神咲薫を始めとして、神咲の女性陣にはマリとら学園高等部のOGが多い。高等部が共学化した事から弟の北斗が神咲の男性としては始めてマリとら学園の門をくぐった訳だが、これは決して祓い師としての那美が信用されていないからでは無い(と信じたい)。
 二人が祓い師である事は当然秘密なのだが、妹の美由希を通して高町一家にはあっさりとバレ、以来高町家とは親しくさせて貰っている。将来的には嫁入りしたいと考えているのだが、当の恭也さまが超の付く朴念仁な上にライバルが多過ぎて前途多難。その上、凡てを知った上で応援してくれるのが神咲の退魔士とは長い付き合いの座敷童の桜ちゃんだけと言うのが目下の悩みではあるのだが、それはまた別の話である。
 ちなみに、薫ちゃんも下宿していたさざなみ寮が神咲の関東分家、もしくは駐在所と化しているとはさざなみ寮の古株、迷惑魔人さんのお言葉だ。

 ………って、いけないいけない。安心した所為か、気がついたら美由希の話に聞き流していた。話も佳境に入ったみたいだし、これからは美由希の話に集中して………
「恭ちゃんは、薔薇の館で食べるからって言ったの。でも6人分の昼食を頼んだと言う事は、山百合会の人達だけで食べると言う訳じゃ無いよね? 紅薔薇さまと祥子さんはお二人で昼食を取られるようだったけれど、少なくとも山百合会には恭ちゃんを入れて後7人いる訳で………」
「確かに山百合会のメンバーで食べるなら人数分用意するでしょうし、紅薔薇姉妹を除け者にする筈は無いと私も思います」
「でしょう!? お姉さまもそう思うでしょ!? ならこれは、山百合会の人達も絡んだ陰謀が進行していると言う何よりの証拠。そして今朝から学園を席巻している噂を蒔いたのが薔薇さま方となると、恭ちゃんが噛んでない筈が無いよ!!」
「ですね」
 確かにそうに違いないと確信を持って那美が相槌を打つと、それまでの意気込みはどこへやら、美由希は急に落ち込んでしまった。
「美由希?」
「………福沢祐巳さんが祥子さん振ったと言うのは事実で、学校に着けば噂になっているから嫌でも耳に入る事。なのに恭ちゃんはそれを私には言ってくれなかった。ねぇお姉さま。どうして恭ちゃんは私に言ってくれなかったのかな?」
 困った。那美は心底困惑した。美由希は大事な妹で、親友。那美の力の事を知っても態度を変える事無く向き合ってくれて、おまけに恭也さまから秘密にして置くようにと厳命されていた御神流の事を打ち明けてくれた。でも美由希は恭也さまを巡る手強いライバルの一人で………
「お馬鹿さんですね、美由希は。恭也さまの人となりは、美由希が一番知っているでしょ? 美由希が大好きな恭也さまは、食卓で噂話を話題にする人?」
「お姉さま………」
 縋り付くように身を寄せてきた美由希を、しっかりと抱き締める。
 恭也さまは罪な人です。一体、どれだけの女性を泣かせて来たんですか?





     2



 佐藤聖は、暇を持て余していた。
 親友その一、紅薔薇さまこと水野蓉子は妹の祥子が薔薇の館に近付かないように足止めを兼ねて姉妹水入らずで昼食。
 親友そのニ、黄薔薇さまこと鳥居江利子は面白い事には目が無いと言う趣味とちょっとした実益を兼ねる為に薔薇の館で妹達と客人をもてなす昼食会。
 姉妹水入らずの所に顔を出すのは野暮と言うものだし、黒薔薇のつぼみもいる事だからお客人は黄薔薇さまに任せて置けば問題無い。
 だから聖は、久し振りに親友その三を訪ねる事にした。


 その人物は、三年松組、謂わずと知れた黒薔薇さまこと高町恭也の教室で、腰まで届く綺麗な髪に埋もれて爆睡していた。
「あら白薔薇さま、ごきげんよう」
「……ごきげんよう、彩」
 親友その三こと月村忍が『眠り姫』の異名を取りたる所以を久し振りに目のあたりにして、その髪で遊んでいた友人に気付くのが遅れてしまった。
 三つ編みでも無い珍しい編み方に挑戦している友人の名前は藤代彩。マリとら学園女子剣道部の部長にして、江利子の妹である黄薔薇のつぼみの支倉令に学園内で唯一勝てる女剣士だ。その縁で令を巡って江利子と争ったと言う記事がマリとら瓦版に載った事もあるが事実無根。彩は女子剣道部三強の残る一角、野島何某さんに目を付けており、令が江利子の妹になるのに前後してスールの契りを結んだのだから。
 彩の妹の名前は見事にど忘れしている訳だが、だからと言って彩に聞く訳には行かない。さばさばとした性格の癖に、妹の事が絡むと途端にネチネチと絡んで来るのだこれが。
 ………名前を聞くのが多分四回目ぐらいになるからと言うのは関係無い、きっと。
「どういう風の吹き回し? 黒薔薇さまなら今頃薔薇の館でしょ?」
「今日は忍に会いに来たんだけど………起きそうにないね、これ」
「あら、そんな事は無いわ。叩けば起きるわよ?」
 嘆息しながら空いている椅子に腰掛けると、彩はあっけらかんと言い放って「どうする?」、なんて聞いてきた。
「………辞めとく。そこまでする用がある訳でも無いし、後が怖い」
「賢明ね」
 愉快そうに笑う彩にミルクホールで仕入れて来たジュース三本から一本を選ばせ、残りを忍の髪の上に置いてお弁当を広げに掛かる。まだ食べてなかったの、なんて驚く彩に、これでも白薔薇さまですからと嘯く。実際は、暇なんだから片付けといてと学園祭に関する書類を蓉子に押し付けられただけで、しかも数人の先生から判子を押して貰うだけの至って単純な仕事だったのだが、マリとら学園OBの先生方に会う度に山百合会で流した噂について聞かれたから時間を食ったのだ。
「そう言えば、また面白い事やっているみたいね」
 聖の食事が一段落したのを見計らって、忍の髪をメドゥーサにでもしようかという作業に熱中していた彩が口を開いた。
「またその話? さっきも散々聞かれたんだから、勘弁してよ」
 実際は聞かれる度にノーコメントで突っぱねて来たのだが、予防線を張るに越した事は無い。
「でも私は初めて聞くのだもの、ちょっとぐらい教えてくれても罰は当たらないんじゃない?」
「まあ、噂話をご所望ですの彩さん? はしたなくは御座いませんこと?」
「なによそれ、気持ち悪い」
 折角の名演技も、一刀両断にされてしまった。誰を真似たのかは内緒。清少納言、とか言ったら笑いが取れるだろうか?
「噂話以上の事は喋らないよ? 山百合会のトップシークレットだからね」
「違うわよ。例えばそうね、この昼休みに薔薇の館で行われている事とか」
 互いに周囲を見渡してから口を開く。
 第二ラウンドは彩がリード。きっちりポイントを奪って、聖の反撃を待ち構えている。これはちょっと、腰を据えて掛からないといけないらしい。暇潰しの筈が、ちょっとした腹の読みあいになった。彩が相手だからこれはこれで面白いけど、こう言うのは蓉子の領分なんだけどな、と思わないでも無い。
「……………」
「……………」
 飛び込んでも良いけど、ここは相手の出方を見た方が得策だと判断して待つ。彩の事だから手札はこれだけでは無い筈だから。
「放課後は勇吾や優さんも交えてダンスの練習するんだっけ?」
 二人を包む緊張感が教室に伝播するのを嫌ったのか、彩が早々に二枚目の札を切って来た。でもこれは、牽制に過ぎない。
「なのに劇はシンデレラで、主役は祥子さんと黒薔薇さま。これ以上無いぐらいに豪華なエキストラが居るのに、どうしてわざわざシンデレラなのかしら?」
「あの二人が参加してくれるって決まったのが衣装の発注も全部済んでからだった」
 ってバカバカバカ。それならあの二人が劇で着る衣装が揃えられないじゃない!!
「やっぱり祥子さんに関する事なんだ」
 彩が気付いてくれない事に一縷の望みを掛けてポーカーフェイスを保っていたが、案の定無駄だった。彩の事だから口外するなんて事は無いだろうけど、思わず蓉子の怒り心頭怒髪冠を衝くって感じの表情を想像してしまった。
 でもってそれがあんまりにもリアルで逆に笑えてきてしまって、
「「ぷっ、あはははは」」
 何故か二人して、三年松組の生徒が何事かと驚くぐらいの大声で笑い出してしまった。
「もう、なんて顔しているのよ聖」
 どうやら福沢の祐巳ちゃん張りに顔に出ていたようで、彩はそれが可笑しくて笑ったらしい。………そう言えば彼女は、今頃何をしているのだろうか?
 お互いが笑うものだから更に互いの笑いの壷を突いてしまって、眠り姫が起きて「うるさい」なんて不機嫌そうに突っ込むまで、彩と私が笑い止む事は無かった。





     3



 お姉さまに連れてこられたのは、古い温室だった。
 ここは講堂の斜め脇というか、校舎の裏手の第二体育館に行く途中というか、そういうあまり目立たない場所であったから人気が無い。
 祥子も高等部に入った頃は知らなかった。時々利用するようになったのは、お姉さまの妹になってから。ここには私達の薔薇が咲いているのよ。そう言ってお姉さまは、ある日唐突にここへ連れて来て下さった。その時は特に何かをしたと言う訳では無く、二人でお弁当を食べて、昼休みが終わるまで日向ぼっこをした。でも考えてみると、お姉さまの横で晩春の日差しを浴びながら取り留めなく話をしたのはあれ以来記憶に無いから、あれはあれで特別な記憶なのかも知れない。
 それはさておき、それからと言うもの一人になりたい時はこの温室に来るようになった。お姉さまは何も言わなかったけれど、きっとそう言う使い方をするようにって教えて下さったのだと祥子は思う。教室や学園に男性がいると言う状況に耐えられなくなっていた私を見るに見かねて手を差し伸べて下さったのだ。避難所になりそうな薔薇の館にも、男性が居たから………
「そう言えば、祥子とここに来るのは二度目ね」
 お姉さまも同じ情景を思い浮かべていたらしく、あの時と同じ場所にお弁当の包みを広げながら微笑んだ。
 大好きで、尊敬していて、密かに目標にしている水野蓉子さまは山百合会の紅薔薇さまでもいらっしゃるから、学園内に於いては祥子だけのお姉さまと言う訳では決して無い。でも、二人きりの時には祥子だけに微笑んで下さる。それが何より嬉しいと打ち明けられたのは、去年の今頃だっただろうか?
「それで、お話は何ですか?」
 なのにこんな憎まれ口を叩いてしまうのは、昨日の事を引き摺っているから。お姉さまなら受け止めて下さると信じているから、強気に振舞えるのだ。でも、本当に可愛くないと自分でも思う。
「そんな怖い顔しないで、まずはお昼を食べましょう。話はそれから」
 お姉さまはそう言うと、実際に一人で食べ始めてしまった。仕方が無いから、埃が舞ってお姉さまに迷惑が掛からないようにと最大限の注意を払いながらお姉さまの隣に座ってお弁当を広げる。お弁当は当然の様にお手伝いさんが作ってくれたもので、祥子が嫌いな物は一つも入っていない。マリア様にお祈りを捧げてから箸を付ける。暫らくは静かな、でも決して不快でない空気の中で昼食を取る。
 そう言えばここは薔薇の館では無いからお茶が無いのだと気付いたのは食べ終わってからだった。ミルクホールにでも行って買って来ようかと考えた時、お姉さまに名前を呼ばれた。
「飲むでしょう?」
 差し出されたのはパックのお茶。祥子は、泣きそうになった。何故お姉さまは、これ程までに私の事を理解して下さるのだろうか。きっとシンデレラの件にしても、私の事を考えて下さった上での事なのだろう。だから泣いては駄目。お姉さまを失望させるなんて事、小笠原祥子のプライドが許す筈は無いのだ。
 だから、受け取ったパックのお茶にストローを刺す事は出来なかった。手を動かしたり声を出したりするだけで涙腺が溢れてしまうのが分かったから。もしもお姉さまに肩でも抱かれたら、もしくは頭や背中を撫でられたら、きっと辺りも憚らずに泣き縋ってしまっただろう。
 だからお姉さまは、何もせずに何も言わずにただそこに居て下さった。
 いつでもお姉さまは、物事の先の先まで見据えていらっしゃるのだ。
 私がどうなるか、私などよりよっぽど精確に予測していらっしゃるのだ。

 もしかしたら、私が抱えている秘密でさえもご存じなのかも知れない。
 お姉さまにも話した事の無い、私だけの秘密。
 お祖父さまが言い出して、お父さまが賛同して、お兄さまが巻き込まれた。
 誰もが私の意思を無視しているのに、誰にも悪意が無い。
 みんな私の、大好きな人達だから、
 どんなに上手く立ち回っても、誰かが傷付くから。
 だから私は行動を決められないのだ。

 それから、福沢祐巳の事………

 答えの出ない迷宮。
 私が望んだ訳じゃ無いのに、私を中心に作られた迷宮。
 でもきっと、私が答えを出さなくてはいけないのだ。
 お姉さまに相談するのでは無く、小笠原祥子が答えを出さなくてはいけないのだ。



 結局、何の話もせずに昼休みは終わった。
 お姉さまは何も言わず、何もせず、ただロサ・キネンシスの木を眺めていた。
 細いが力強く地面から伸びた先には無数のつぼみと、紅い花が一輪だけ咲いていた。





     4



「へっくし」
 全校生徒の憧れの的、気高き黒薔薇さまこと高町恭也がくしゃみをしたのは、本日最後の授業が終わろうかと言うその時だった。
 挨拶を終えて扉へと向かっていたシスターすら振り向いたが、恭也が苦笑しながら軽く頭を下げると頬を紅くして足早に教室を後にした。きっと風邪気味なのだろう。心配だ。
「このマダムキラー、女殺しめ」
 中学以来の腐れ縁のクラスメイトが、木刀の入った刀袋で恭也の背中を突きながら言った。
「何の事だ?」
 恭也が木刀を奪おうと振り向くと、そこには見知った顔が並んでいた。
「無駄よ赤星君。恭也の鈍感は木刀で突いた位じゃ治らないもの」
「そうそう。お堅い事で有名なシスターでさえ解してしまう黒薔薇さまの最大の欠点は、飛び抜けて鈍感な事なのだから」
「違いない」
 失礼な事を口にして笑い合うのは、三年松組のクラスメイトの中でも特に親しい3人。
 月村忍は口を閉じてさえいれば深窓の令嬢で通るロングヘアーの似合う女の子。
 藤代彩は令とは違う凛々しさを持つ女子剣道部の部長で忍の親友。
 赤星勇吾は男子剣道部の部長で、剣一筋の愛すべき剣道バカだ。
 さて、どうやって仕返してやろうかと悩む恭也を他所に、3人は帰り支度を整えていた。
「勇吾は今日は山百合会の手伝いだっけ?」
 受験勉強の息抜きに後輩を指導するのが何よりも楽しいのだと常日頃から口にして憚らない藤代の言葉に、赤星は苦笑しながら頷いた。
「そう、どっかの黒薔薇さまのお陰で今日は剣道はお預け。藤代が羨ましいよ」
「……山百合会の手伝い?」
 男子と女子の剣道部部長の話を聞いて、忍が口を挟んだ。
「あれ? 月村さんは知らなかったっけ? 高町に頼まれて手伝う事になったんだけど?」
「私知らない」
「忍の事だから、どうせ寝惚けていて頭に入ってなかったんでしょ」
 藤代の言葉に頷いていると、目敏く見つけた忍が食って掛かって来た。
「ちょっと恭也、なに彩の味方しているのよ。内縁の妻の忍ちゃんが友人の心無い一言で傷付いているというのに、傷口に更に塩を塗り込む訳?」
「誰が誰の内縁の妻だ」
 拳骨で忍の頭をぐりぐりと痛めつけていると、赤星の呆れたような声が扉の辺りから聞こえる。
「ったく、毎日毎日飽きもせずに良くやるよ。ほら高町、行こうぜ。優の奴も待ち草臥れてるぜきっと」
 違いない、と答えながら恭也も手早く用意する。教科書の類は一切入っていないのに辞書数冊分の重さを誇る鞄を手に、三年菊組の教室を目指す。短く別れの挨拶をした忍は、藤代と連れ立って昇降口へと歩き出している。今日も今日とてノエルが校門前まで迎えに来ているのだろうし、心配は無い。そう言えば暫らくノエルにも会っていないなと思っているうちに菊組に着いたが、そこはとても放課後とは思えない人だかりだった。
「何だこの人だかり?」
 訝しげに首を傾げる赤星に、どうせ中心は優だろうと恭也は断定する。そして赤星と、恒例の押し付けじゃんけんを始める。
 たかがじゃんけんと侮る事なかれ。抜群の動体視力を誇る赤星と人間離れした動体視力の恭也によるじゃんけん勝負。フェイントとブラフと知略を注ぎ込んで行う、正に勝負と呼ぶに相応しい内容なのだ。これまでの戦績は54勝13敗と言う所だが、安心出来ない。ここぞと言う時の赤星の集中力は凄まじく、そう言う時だけに限ればほぼイーブンの戦績なのだ。
 今回は、途中で手を決め兼ねてもたついているように見せ掛けながら冷静に相手の手を見切った恭也の勝ち。敗者の赤星は、泣く泣く人だかり(廊下から見る限りでは女性度100%)に対して声を掛ける。
「お〜い、優!」
 声を掛けた瞬間、二人は息を呑んだ。この光景を忘れる事は一生無い。そう断言してもおかしく無いだけの恐怖、そう、恐怖を感じたのだ。かつて裏の世界で最強と謳われた永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術、通称御神流を修めた恭也と、この夏のインターハイでついに念願の剣道日本一に輝いた赤星勇吾が、思わず逃げ出したくなる程の恐怖を感じたのだった。
 後ろを振り向く際には、不意の事でも慌てた様子を見せてはならない。そして必ず身体全体で振り返る事。取り分け顔だけで「振り向く」なんて行為、淑女としては完全に失格。あくまで優雅に、そして美しく。下級生は少しでも上級生のお姉さま方に近づけるように。上級生は下級生の手本となるように。それがマリとら学園での嗜み。
 そう、嗜みだ。その点彼女達は褒められてしかるべきだろう。でもそれが、教室を埋め尽くさんばかりの人だかりで一斉に行われたとなると、恐怖のあまりにちょっとばかり頬が歪んだとしても仕方ないだろう。一糸乱れぬその様は、今日日軍隊でもなければ見られないだろう。人垣の向こうで優だって苦笑している。
「「「「「ごきげんよう黒薔薇さま、勇吾さま」」」」」
「「ご、ごきげんよう」」
 赤星の重心が後方に傾き、いつでも逃げられるように心身ともにスタンバイされているのは見逃してやろうと恭也は思った。鍛えぬかれた剣士としては仕方の無い事だし、なにより自分も五十歩百歩、似たような反応をしてしまったのだから。
「やあ、二人とも、出迎え御苦労」
 でも優がそう言った瞬間、まるで示し合わせていたかのように二人は同じ行動を取った。即ち、「それではごきげんよう」と女性達に挨拶し、優に背を向けて歩き出したのだ。
「さて高町、今日は第二体育館で良かったか?」
「ああ。足労を掛けてすまんが、よろしく頼む」
「なぁに、それよりもう一人の助っ人はどうするんだ?」
「ふむ………明日にでも声を掛けてみるしかあるまい。誰か候補はいないか?」
「北斗と尚護ぐらいかな。一応声掛けてみようか?」
「悪かった、悪乗りし過ぎたよ勇吾、恭也」
 取り巻きの女性達に挨拶を残し、優が声を掛けてくる。
 口では悪かったと言いながら、その歩調はいつものように穏やか。慌てた様子も無く、後ろで女性達が見惚れるぐらいに優雅なものだ。面白く無いのでまだ続けようと赤星に目線で語り掛けると、邪魔するように端正な顔が間に入って来た。
「愛情を込めたお茶目なジョークじゃないか。臍を曲げるなんて大人気ないよ二人とも」
 そう言って肩に回される手を巧みに避け、身の安全を確保する。
「大人気無くて結構。俺は至ってノーマルな男だからな」
「まあ確かに、いつぞやの様に何とかと言う種類の本の題材にされるのは避けたい所ではあるな」
「勇吾は勘違いしているし、恭也のは偏見だよ。僕だって女性が大好きだし、あの手の本は乙女達の純粋な想いの結晶だよ?」
「女性以上に男が好きな奴に勘違い云々とは言われたくないな」
「身近な所に生きた見本がいる訳だから理解はしているし、あくまで感情の問題だから問題無い」
 人気が無い事を確認し、辺りに憚りながら言葉を交える。もっとも、話す内容程に雰囲気は悪くない。いつものように優がふざけ、二人がそれに突っ込むと言ういつもの遣り取りだ。
「やれやれ、こうしてまた世間の風は冷たさを増すんだね」
「「お前が悪い」」
 3人は声を上げて笑いながら階段を下りて行く。
 その後姿を、少女達はいつまでも見送った。


          *


 ダンスの練習を暫らく見てから、紅白黄の三薔薇さまにだけ合図して、他の人には気付かれぬように気配を断って恭也は第二体育館を後にする。
 既に卒業して久しい先輩方の画策で所属する事となった山百合会。黒薔薇さまと呼ばれる(去年の三年生など、上級生からもそう呼ばれた)のにも半年と経たずに慣れてしまったし、気がつけば妹まで出来ていた。そして何より、山百合会は居心地が良かった。気高く近寄り難いと言うイメージのあった山百合会も、中に入ればそれこそ近寄り難い雰囲気を身に纏った恭也のような男性をも温かく迎え入れてくれた(住人達が好んで招き入れたのだから当然と言えば当然なのだが)。今では同じ様に薔薇さまと呼ばれるようになった佐藤聖、鳥居江利子、水野蓉子の3人は気が置けない友人であるし、その妹達は自分の妹のように感じられる程慕ってくれている。母親の高町桃子に言わせるとマリとら学園に通うようになってから雰囲気が柔らかくなったらしいが、そういう良い意味で自分を変えてくれたのは山百合会の存在が大きい。
 そんな山百合会の一員としての仕事を休み、心苦しくも主催する劇の練習を抜け出してまでこなさなければならない用事は、高町恭也の本職に関する事だった。学生の本分は勉強とは良く言われる事だが、恭也にとってはその学生自体が本来の職をこなす為の仮の身分でしかない。―――少なくとも、恭也自身はそう考えていた。この時点では。
 共学化の為の工事にカモフラージュして学園の随所に設けられた秘密の扉の1つをくぐり、恭也は地下への階段を下りる。向かった先は、マリとら学園の安全を陰日向から日夜支えるマリとら学園警備部の本部である。
 本部という名前が付いているものの、他の場所に支部がある訳では無い。ただし完全防音の武道場や浴場に仮眠室まで備えているのには、恭也も最初は呆れてしまった。今ではその意義を認めるどころか武道場などは積極的に利用している訳だが、食料庫と名付けられた一画には幼稚舎から大学部までの全生徒並びに教職員を三月は養えるだけの備蓄がなされているのに至っては感心するしかない。一体全体どんな事態を想定すればそんなものが必要になるのかと問えばきっと「災害」の一言で返されるだろうから何も言わないが、学園とその保護者達の並々ならぬ腐心振りには頭が下がるばかりである。
 ちなみに、食料の品質については大手流通メーカーの社長さんの協力によって保たれている。具体的には周辺地域における流通拠点、要するに一時的な集積所としての性質を持たせる事で一定期間毎に中身を交換し続けている。つまり貸し倉庫として場所を提供する代わりにいざと言う時は自由に消費出来ると言う契約を結んである訳だ。上手い方法だとは警備部総員の意見だが、定期的に行われる食料の入れ替え作業が安全面から他人任せに出来ず、警備部のルーチン・ワークに組み込まれている事は密かな不満の種であるらしい。
 その不満の行き所、警備部の責任者の執務室をノックする。
「Hi恭也、遅かったね」
「すいません、リスティさん」
 別に責めてやいないさと、流暢な発音で恭也を出迎えたのはリスティ槙原。火の着いていない煙草を咥えているのがトレードマークの女性だが、若くして学園の警備主任を任される程の実力者である。部屋の中はいつもの如く綺麗だが、これはリスティさんが綺麗好きだと言う証拠ではなく、補佐役の女性の努力の賜物である。
「例の件、どうなりましたか?」
「……例の件? あぁ、体育祭に忍び込んでいた不審者の事か。シロ。結局ただの変態だったよ、人騒がせな。自室から盗撮写真やテープと言ったものが大量に見付かったから、不法侵入とかで起訴するそうだよ」
「それは自業自得だから良いのですが、本当にシロなのですか? あの男はチケットを持たずに侵入しました。この学園に不法に侵入出来るルートがあるのだとしたら………」
「ボクだって当然それは考えたさ。だから見たくはなかったけど、心を覗いた」
 心底嫌そうに言うリスティさんは、所謂超能力者だ。今から約20年程前に始めて症例が報告され、現在の医学では治療不可能な難病である『変異性遺伝子障害』と呼ばれる先天性の遺伝子病患者の中には稀にリスティさんのように超能力を持つ人が現れるらしい。『変異性遺伝子障害』の症状は様々で、超能力のようなある意味便利な力を発症する人は稀なのだが、超能力が使える患者は特に区別されて『高機能性遺伝子障害者』、略称でHGSと呼ばれている。
 社会的な影響や差別を防ぐためと言う理由で一般には秘密にされているのだが、恭也が使う御神流同様にその有用さ故に非合法な裏の世界では良く知られている。ただし、得てして本人達はその有用過ぎる力故の悩みを持っている事を、少なくとも恭也は知っていた。
 だから、
「すいません」
 恭也は頭を下げる。主語も何も無い謝罪だが、リスティさんは分かってくれたようで肩を竦めて笑い飛ばした。
「バカ、勘違いするな。単に汚れた人間の心って奴は大抵汚いから好き好んで見たく無いってだけの話さ。………それよりもう時間だ、急ごう」
 リスティさんは率先して動き、恭也が入って来たのとは別の、会議室へと続く扉に手を掛ける。今日は二週間後に控えた学園祭についての会議が行われる事になっていて、その為に警備部員では無いが共闘関係にある恭也も呼ばれたのだ。
 リスティさんが開いてくれている扉をくぐると、小声で耳打ちされた。「ありがと」
 振り返るともうそこにリスティさんの姿は無く、会議机の上座に座って資料に手を伸ばしている。どうやらテレポートを使って跳んだらしい。
 会議用のプロジェクターを動かす為に光量が抑えられていなければその耳が紅く染まっていた事に気付いただろうが、生憎と恭也がそれに気付く事は無かった。



恭也や赤星以外のとらハキャラも続々と登場〜。
美姫 「恭也も裏で色々あるみたいだしね」
那美と美由希の姉妹というのは、結構、面白いかな。
美姫 「確かにね。親友にして、ライバルにして、姉妹だもんね」
いやー、益々面白くなっていくな。
美姫 「本当に。もう、早く続きが読みたくて、読みたくて仕方がないわね」
うんうん。首を長くして、次回を待つしかないな。
美姫 「ええ。それじゃあ、次回も楽しみに待ってますね〜」
ではでは。



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