(注)これは、魔法少女リリカルなのはの世界観を基にしていますが、最後のプレシアとの決戦には恭也も少し関わったのと、A‘sとは無関係なことを踏まえてください。設定上に矛盾がかなりあると思いますが、それを踏まえてお読みください。
ややネタバレがございますので、本編を見ていないと解からないかもしれません……
剣士の想い人
〜フェイト=テスタロッサ編〜
「さて……どうしたものか?」
逃げ場所の候補地が浮かばず、恭也は途方に暮れていた。
街中を動くのもなんなので、公園までやってき、そしてベンチで黄昏ていた。
このままいっそどこか一人旅行にでも行こうかと内心思っていたところ……恭也は気配を感じて振り向く。
後ろの草むらから音がして顔を出したのは、なのはであった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「なのはか……」
一瞬、誰かに見つかったかとひやひやした……なにせ、街には捕縛者がうようよしているのだから。
「やっぱりここだったんだ……大丈夫だよ、皆今は街中捜してるから」
笑顔で言いながら、なのははちょこんと恭也の隣に座る。
「ねぇねぇお兄ちゃん……どうしても皆に捕まりたくないの?」
首を傾げながら問うと、恭也は唸る。
正直いうと、恭也は別に女性が嫌いというわけではないが……それに、彼女らは魅力的な女性だ。結婚しようと言われて嬉しくないわけではないが……どうにも今はまだ結婚というのに恭也はピンとこない。
何故かは解からないが……それを踏まえて、恭也は答える。
「まあ……今はまだ俺自身結婚というのはな………」
その答えに、なのはは表情を輝かせる。
「そうなの? やった!」
その返答に恭也は不審そうに首を傾げる……何故自分が結婚をしないと言ったのがなのはには喜ばしいのか……その理由がさっぱり解からない。
だが、そんな恭也の疑問にも気づかず、なのはは話を続ける。
「ねぇねぇお兄ちゃん、匿ってくれそうなとこ、私知ってるよ」
「何? 本当か?」
恭也の感じていた疑問も、その言葉に一瞬消えた……正直、今はどうやってこの事態をやり過ごそうかだったのだ。少しの間消えていれば、ほとぼりも冷めるだろう。
「うん……ついてきて」
なのは笑顔で頷き、恭也の手を引いていくのであった。
「ここは……フェイトのマンションじゃないか」
「うん、そうだよ」
手を引かれて案内されたのは、郊外にある海辺に面したマンション……ここには、なのはの親友であるフェイト=テスタロッサが住んでいるはずである。半年ほど前に起きた事件……なのはが毎晩こっそり抜け出すので流石に気になった恭也がなのはに問い詰めたところ、なのはは白状した。
魔法少女になって戦っていることを……怒られるか、それとも一笑されるかと思っていたが、なのはの家族に心配をかけたくないという気持ちに怒ることはできなかった。それに、嘘をつくにしてももっとマシな嘘をつくだろうし、なのはが嘘を言うとも思えなかった。だが、それでも妹がそんな危険な事件に関わっているのを放っておくことは恭也にはできず、微力ながら加勢をしたのだ。
最後の戦いではモンスター相手に御神流を駆使してぶつかり、HGSや自動人形などと異種な戦闘にも慣れていた恭也は見事血路を開くのに貢献し、事件の担当責任者であったリンディから時空管理局にスカウトされたほどだが、恭也自身はそれを辞退した。
「リンディさん残念がってたよね……」
「仕方ないだろ…俺は、ここでなのはや皆を護るっていうことの方が大切だからな」
「お兄ちゃん……」
頭を撫でられ、なのはは兄を見上げる。
時空管理局に入り、多くの世界を飛び交うというのもそれはそれで心引かれるものがあるが、恭也は今はまだ、ここで家族を護っていきたいと伝えた。リンディもそれには理解を示し、またその気になればいつでもとだけ答えた。
そして、事件の参考人となっていたフェイトであったが、無事裁判を終えて無罪となり、時空管理局員として当面はこの海鳴で研修という名目で滞在していた。
近くに親友であるなのはや恭也もいるということもあり、リンディらが手配したのだ。
そうこう思い出しているうちにマンションの上へと昇り、目的の部屋に辿り着くと、なのははインターホンを押す。
《はーい、どちら様?》
返ってきたのは明るそうな女性の声……その主は一人しかいない。
「アルフさん、私です。なのはです」
《お、なのはかい?》
「お兄ちゃんも一緒です。お邪魔してもいいですか?」
《恭也も一緒かい? そりゃフェイトが喜ぶな。待ってなすぐ開けるから》
弾んだ声で切り、なかからドタドタする音が聞こえてくる。
そして、5秒ぐらい経って部屋のドアが開かれ、赤い髪をした女性が顔を出した。
忍の叔母である綺堂さくらと同じ狼のような耳に尻尾を持った女性……フェイトの使い魔であるアルフだ。フェイトにとって姉妹のような間柄であり、よき理解者でもある。
普段は動物形態を取っているが、なのはら事情を知る者の前ではこうして人形をとっている。
「よく来たな、なのはに恭也。さ、入って」
「お邪魔します」
「失礼する」
なのはと恭也はアルフに促され、部屋へと入っていく。
「フェイトちゃんは?」
「今少し散歩に出てる…じきに帰ってくると思うよ。恭也が来たって言ったらきっと喜ぶよ」
主たるフェイトは外出中と聞き、待っているように促されるとソファに座り…恭也はなのはに小声で問い掛けた。
「なのは……何故俺が来るとフェイトが喜ぶんだ?」
その問い掛けになのはと…聞こえたアルフは思わず大きく肩を落とし、溜め息をつく。
「相変わらずだね…なのは」
「うん……フェイトちゃんもお姉ちゃん達も大変だよ………」
この男はどうしてこんなに戦い以外になると鈍くなるのか……未だ事情が解からずに疑問を浮かべている恭也に向かい、二人は心のなかで鈍感と呟いた。
それから暫くして後……玄関から音が響いた。
「アルフ、ただいま…誰か来てる……なのは? それに、恭也さん?」
リビングに入ってきたツインテールの金髪が眩しい少女……フェイト=テスタロッサはソファに座ってアルフと談笑するなのはと恭也の姿に眼を瞬いた。
「あ、フェイトお帰り」
「フェイトちゃん、お邪魔してるよ」
声を掛けるなのはに頷き、恭也を見やると、軽く会釈してきたのでフェイトも会釈を返す。
「でも、どうしたの、今日は?」
「それなんだけどさ、フェイトちょっと聞いてよ? 恭也ったら追われてるんだって」
隣に座ったフェイトに大仰に声を掛けるアルフ……だが、要領がえず、また肝心な部分が抜けているためにフェイトが軽く眼を見開いた。
「え? どういうことですか、追われてるって……」
不安げな面持ちで恭也を見るフェイトに恭也はどう答えたものかと言葉を濁す。
「あ、いや……」
「それがね、フェイトちゃん……お兄ちゃんったら」
恭也では話が進まないと踏んだのか、なのはが説明を始める。なにか、無性に情けなくなった恭也は思わず黄昏そうになった。
「…ってことなの」
「あ、ははは……た、大変ですね………」
説明を終えると、フェイトが乾いた笑みを浮かべ…そして、どこか憐れむように見やり…恭也はますます黄昏そうになった。
「でね、フェイトちゃん…お願いがあるんだ。少しの間、お兄ちゃんを匿ってくれない?」
「えっ!?」
なのはの突然の申し出に冷静なフェイトらしくない驚きの声を上げる。
恭也も驚きに眼を見張っている……まさか、なのはの言っていた匿ってくれる場所というのがフェイトの家だとは思ってなかったのだ。
「おいなのは…それはいくらなんでも無理だろう……女性の家に男が居座るというのは……」
思わず止めようとするも、なのはとアルフはどこか笑みを浮かべ…フェイトは顔を微かに真っ赤にした。
「いいよいいよ私らは気にしないし…ね、フェイト」
けたけたと笑いながらフェイトに話し掛けると……言葉を濁していたフェイトが…上目遣いで恭也を見やる。
「あの……迷惑、じゃないので……その、恭也さんさえよければ………」
この言葉と視線に恭也は戸惑う……こういう視線を向けられると恭也は断りにくいのだ。
(フェイトちゃん、無意識なんだろうけど……お兄ちゃんの弱点衝いてる………)
その姿を見詰めながら、なのはは心のなかでうんうんと頷いていた。すっかり母親に似てきてしまったようだ……いろいろな意味で。
「あ……そ、それじゃ少しの間だけ世話になる」
結局恭也が折れた……その答えにフェイトが表情を輝かせる。
「あ、そうだなのは……私、ちょっと付き合ってほしいとこあるんだ。いいかな?」
「はい、構いませんよ」
唐突なアルフの申し出に頷き、なのはは立ち上がる。
「ちょっとアルフ、用事なら私が……」
「あ、いいよフェイトちゃん。私が約束してたんだし……お兄ちゃんの相手をしててくれるかな?」
「え?」
「お兄ちゃんじゃちょっと大変かもしれないけど……」
なにか、妙に傷つくのは気のせいだろうかと恭也が思う横で、アルフはポンと小犬形態に変身する。
「それじゃ、ちょっと行ってくるね」
「あ……」
静止も聞かず…なのははアルフを抱えてリビングから飛び出し、部屋を出て行った。
部屋から出たなのはの腕に抱えられるアルフはなのはに話し掛ける。
「うまくいったね」
「うん…それに、お兄ちゃんもフェイトちゃんのことちゃんと女性って見てるって解かったし……」
「フェイトにも望みはある……だね」
なのは笑顔を浮かべる。
「私としても、フェイトちゃんが本当の家族になってくれたら嬉しいし」
意味ありげに笑うと、なのははそのままスキップするように駆けていった。
部屋に残された恭也とフェイトは無言であった。
なにせ、相手はあの恭也だ……これ程話題に欠ける相手はいないだろう。
「済まないな…迷惑だったら、言ってくれても構わないから」
「あ、いえ……その………こ、この間なのはにもらったシュークリームっていうお菓子、美味しかったです」
沈黙に耐えられなくなり、フェイトが思わず内に浮かべた話題を口走った。
「そうか……母さんも喜ぶだろう。家にくれば、いつでもご馳走するから」
桃子もフェイトを気に入っている……遊びにいけば、まず間違いなく腕を振るってお菓子だけでなく料理を振る舞うだろう。
以前ご挨拶にお邪魔した際、玄関で思いっきり抱き締められ、頬擦りされたことを思い出したフェイトは苦笑を浮かべる。
だが、その表情が微かに曇る。
「なのはのお母さんって……優しい人ですね………」
どこか、切なげに呟くフェイト……恭也も表情を顰める。
「私、母さんに優しくされたことがなかったから………」
フェイトの母……いや、母親と思っていたプレシア=テスタロッサ………実の母と信じ、疎まれようとも母のために身を捧げてきたフェイト……その結果は…残酷なものだった。
作りものの記憶……人形………それらがフェイトの心を凍らせた。
「フェイト………」
「大丈夫です。もう…母さんは、娘のために全てをかける人だったんです………私は…私が母さんに認められるには力が足りなかったから………」
「違う」
被虐めいた考えを呟きそうになったフェイトの言葉を遮るように発した恭也に思わず顔を上げる。
「フェイトは母親のために精一杯頑張ったんだろ……親を想う子の心は否定しちゃいけない。君は、フェイト=テスタロッサとして精一杯戦った……それだけは誰にも否定させちゃいけない」
たとえどのような経緯があれ……フェイトはフェイト自身だ。母親を想い、その身を投げ出した……本当に強い子だと。
「……あの時も、そう言って慰めてくれましたよね」
どこか頬に赤みがかかってフェイトが微笑む。
プレシアに突き放され…心を閉ざしたフェイト……なのは達がプレシアの許に向かうなか、残った恭也がフェイトに言って聞かせた。
フェイトはフェイトだと……その想いをもう一度ぶつけるべきだと………その言葉に、フェイトはプレシアと向き合う決意をした。
そして、乗り込んだプレシアの許で対峙した……結果は…変わらなかった……でも、後悔は少なかった………
「あの、恭也さん……隣、いいですか?」
「ああ」
笑顔で頷くと、フェイトは立ち上がり……そっと、恭也の横に座る。
そして……恭也の身体に身を寄せる。
温かった……こうして、人の温もりを感じることはなかった………母親も、最期まで教えてはくれなかった……だが、この温もりを教えてくれた………親友と…大切な人が………
この想いがこの人に伝わるのか……まだ解からない………でも……伝えたい…………フェイトに初めて温もりをくれた人だから………
だから……今は…………身を委ねるように微かな寝息を立て始めたフェイトに恭也はなのは達を見守るように優しげな視線を浮かべ、おだやかに眠る少女を見やるのであった……
――――過去は消えない…でも……少女には未来が残されている…………
――――温かな未来が……………
余談ながら……散歩から帰ってきたなのはとアルフが見たのは、ソファで肩を寄せ合って眠る恭也とフェイト……その様子に、二人は微笑を浮かべるのであった…………
【後書き】
お久しぶりのVWです。もう忘れられてるかもしれませんが……(汗
ようやく魔法少女リリカルなのはを全話見て……もうラストは感動してしまい、思わず書いてしまったというものです。
とらハも流石に知名度が減って……この作品を見て、もう一度とらハの人気が上がればいいなと思っています。
ちょっと(いや、かなりか……)キャラの性格が違うかもしれないのと…ネタばれ含んでいるので………
自分の文才のなさがつくづく嫌になるな………
ホントはなのはとフェイトの友情話が書きたかったんですが…何故かこういう展開に……(爆
ではでは………
うんうん。フェイトはいい子だね〜。
美姫 「本当にいい子よね」
今回は、そのフェイトのお話〜。
美姫 「位置的には、番外編らしいけれどね」
ほのぼのとしてて良かったよ。
美姫 「うんうん。さて、今回はこの辺で」
ではでは。