剣士の想い人
〜セルフィ=アルバレット編〜
「多少遠くなるが…この際、仕方ない。シェリーさんの所へ行くか」
恭也はリスティ、フィリス経由で知り合ったセルフィ=アルバレット…通称:シェリーがいるニューヨークを訪れることにした。
流石に、そこまで追っ手は来ないだろうと踏んでの決断だ。
恭也はまず、シェリーに連絡を取った。
「Hi、恭也君!」
ニューヨークの地に降り立った恭也に近づいてくる女性。
銀髪のポニーテールが印象的である。
「すいません、シェリーさん…急に連絡して」
「ううん、いいよ。私もちょうど非番だったし」
済まなさそうに頭を下げる恭也に手を振って、笑顔を浮かべる。
「だけど大変ね…フィリスから連絡がきたよ。恭也君から連絡きてないかって……まあ、誤魔化しておいたけど」
クスクスと笑うシェリーに恭也は再度、頭を下げる。
「当分、帰れないな……」
大きく溜め息をつく。
「そうかもね…でも、私は嬉しいかな」
「……何故ですか?」
恭也の問い掛けに…シェリーは微笑んで……
「恭也君と一緒にいられるから♪」
その後…シェリーの案内でニューヨークの街を歩いていた。
「こうしていると…恭也君と初めて会ったときのことを思い出すね」
「あの時ですか……」
シェリーは楽しげに、恭也はやや表情を顰める。
そう…以前、さざなみ寮の宴会に呼ばれた時、普段は海鳴を離れているメンバーがほぼ勢揃いしていた。
その時に、恭也はシェリーと初めて会ったのだ。
当然…真雪やリスティに散々からかわれたが……
「フフフ…でも、私は嬉しかったかな。いっつもリスティやフィリスからの手紙に恭也君のこといっぱい書いてたから……」
リスティやフィリスから受け取る手紙には、恭也のことがよく書かれていた。
特に、フィリスは内容の半分以上に恭也のことを書いている。
「おかげで、会ったこともないのに…私、凄く気になっちゃった」
悪戯っ子のような笑顔を浮かべるシェリーに恭也は照れたように頬を掻く。
その後、二人はニューヨークの街を見て回っていたが、突然、シェリーの携帯がなった。
「あ、ごめん」
懐から取り出し、恭也に後ろを向けて携帯に出る。
「はい…ええっ!」
表情が険しくなるシェリーに恭也は訝しげに見詰める。
「はい、解かりました。すぐに現場にいきます!」
慌てて携帯を切る。
「ひょっとして、仕事ですか?」
「うん…この近くのアパートから火が出たって、ごめんね。私、行かないと!」
「いえ…それより、急いだ方が」
「うん!」
シェリーは頷き、近くでタクシーを拾うと、すぐに現場に向かう。
流石に勝手の解からないニューヨークの街に恭也を置いていくわけにもいかず、恭也も同行することとなった。
数分後、タクシーを下りた二人はすぐさま現場へと向かう。
立ち込める煙と炎…そして、人々の声が飛び交っている。
「シェリー!」
「すいません!遅れました!!」
レスキューチームの指揮官らしき人物に頭を下げると、すぐさま予備の防護服を取り出し、着込む。
「すぐに行ってくれ!まだ中に何人か取り残されているんだ!」
「はい!!」
シェリーは仲間と共に燃え盛る炎の中へと突っ込んでいく。
「シェリーさん……」
そんな後姿を見送り、恭也は見ているしかできない自分の不甲斐なさに拳を握り締めた。
アパートは既にほとんどが火に包まれ、中を進むのさえ困難な状況であった。
シェリー達はそんな炎の中から、逃げ遅れた人を救出していく。
「子供が…子供が二人まだ、奥に……!」
助け出した女性が縋る。
「私が行きます!」
そう告げるや否や、シェリーは奥へと駆けていく。
炎が飛び交い、建物が崩壊していく中を進んでいると、子供の泣き声が聞こえてきた。
シェリーがそちらに眼を向けると、子供が二人…座り込んでいた。
「…大丈夫!?」
急ぎ駆け寄り、子供達を安心させるように話し掛ける。
「もう大丈夫よ…さあ」
二人を促し、戻ろうとした時、天井が崩れ、3人の頭上に降り注いでくる。
「危ない!!」
シェリーは咄嗟に二人を突き飛ばす。
響く落下音…シェリーが次に眼を開けると……足に痛みが走った。
眼を向けると…落下物がシェリーの片足に降り注ぎ、シェリーは動けなくなってしまった。
ここに来るまでに、かなり羽の力を使っていたので、集中力も途切れかけている。
だが、シェリーは最後の力を振り絞り、子供二人を…跳ばした。
何もない空間から姿を現わす二人の子供……隊員達は一瞬、驚くが、指揮官はすぐに気付く。
「シェリーか…おい!シェリーはまだか!?」
隊員の一人に向かって叫ぶが、首を横に振る。
「シェリー…まさか……!」
最悪の事態を思いつく指揮官に、傍にいた恭也は燃え盛るアパートを見詰める。
あの中に…シェリーが取り残されている……その瞬間、恭也は意を決したように近くにあったホースから水を被り、隊員達の静止も聞かず、炎の中へ入っていった。
燃え落ちていく光景を呆然と見詰めながら…シェリーは軽く溜め息をついた。
(解かってたのに…この仕事に就いた時から、こういうことも……)
自虐的に笑い…シェリーは眼を閉じる。
(せめて…最後に、恭也君の顔……見たかったな……)
意識が途切れようとした瞬間…炎の向こうから人影が飛び込んできた。
朦朧とする意識の中で、虚ろな瞳で見詰める……
「恭也…君……」
小さく呟くと、シェリーは意識を手放した……
「…ん、あれ……?」
瞼が動き、ゆっくりと眼を開けていく。
頭が呆け、意識が覚醒しないまま、シェリーは上体を起こす。
「シェリーさん、気がついたんですか?」
横から声が掛かり、そちらを振り向くと、恭也が心配そうに覗き込んでいた。
「恭也君……私、どうなったの……ここは?」
未だ現状が解からなかったシェリーに、恭也は経緯を説明した。
子供二人をトランスポートさせ、シェリーが意識を失ったこと……
恭也が炎の中からシェリーを助け出し、そのまま病院へと直行し、丸一日眠っていたことなどを説明した。
「そうだったんだ……」
よく見ると、自分の身体に点滴が繋がれ、片足もギブスで固められて吊られている。
恭也も軽い火傷を負ったようで、手に包帯を巻いている。
「ごめん……レスキューが逆に助けられちゃうなんて……やっぱり、私は大事な時に役に立たないんだな」
落ち込むシェリーに恭也は微笑みかける。
「シェリーさんは立派にやりましたよ……それに、俺にはどうしても、シェリーさんを助けたかったんです」
「え……?」
「リスティさんから聞きました…シェリーさんの事も……自分を危険に晒しても、人の命を助けようとするシェリーさんに、俺は興味を持ちました…そして、初めて会った時から、ずっとシェリーさんの傍で、シェリーさんも護りたいと思いました」
「恭也君……」
こちらを見詰めるシェリーの華奢な身体を抱き締める。
「俺は、あまり気の利いた言葉は言えません……だけど、これだけは言えます。俺は、貴方が好きです…貴方が危険な目にあえば、どんなことをしても護りたいと思います」
恭也の告白に…シェリーは頬を染め……そして、応えるように抱き締め返す。
「嬉しい…私も……私もずっと、君に恋をしていたんだと思う」
手紙でしか、解からなかった相手……
二人は暫し、抱き合った…お互いの温もりを逃さぬよう………
数日後、退院許可の下りたシェリーは松葉杖をつきながら、病院を出る。
完治にはもう少し時間が掛かるらしく、これ幸いにと、シェリーには休暇が降りた。
「行こっか、恭也君……」
「ええ」
二人はこれから日本に戻ろうとしていた。
シェリーは片手で松葉杖を持ちながら、もう片方の腕を恭也の腕に絡ませる。
支えるように、恭也もしっかりと腕を絡ませる。
二人の絆を表すように……
(おまけ)
後日、日本に帰国した二人は早速、報告すると、当然ながら美由希達はショックを受けた。
特に…フィリスのダメージが大きかった。
「へぇ…恭也がボクの義弟になるのか」
ニヤニヤと笑うリスティに対し、フィリスはショックの抜け切らぬ表情で…ぶつぶつと呟く。
「そんな…恭也君とシェリーが……でもでも、義理の姉になるんだから…まだチャンスが……」
「フィ〜リ〜ス〜…恭也は私のだからね」
物騒なことを呟くフィリスに、見せ付けるように腕を絡ませるシェリーに、フィリスがキレかけ、人外の姉妹対決が起こりそうになった………
〜FIN〜
【後書き】
随分と間を開けてしまいましたが、シェリー編、完成しました。
考えてみれば、シェリーって、2本編でも言うほど出番がないし、3やリリチャに至ってはまったくと言っていいほどなかった……
そんな訳で、シェリーの性格が違うかもしれません……汗。
ではでは、また機会があれば別のSSも書いてみたいです。
VWさん、ありがとうございます。
美姫 「剣士の想い人、最後の選択肢シェリー編ね」
うん。良かった、思ってたとおりのヒロインで。
外れてたらどうしようかと思ったよ。
美姫 「その時は私のお仕置きが待ってたのに……。残念」
アパートの中で、意識を失っていくシーンは特にお気に入り。
美姫 「浩、かなり気に入ってたもんね」
うん。後はおまけの雰囲気も好き。
美姫 「確かに浩の好きそうなシーンよね」
はははは。
エリス編の高町家に戻った時のシーンとかも好きだぞ。
美姫 「そんな訳で、VWさんありがとうございました」
ではでは、です。