剣士の想い人
〜エリス=マクガーレン編〜
「ん…まてよ、確か……イギリスには彼女がいたな」
ソングスクールはダメだが、イギリスにはもう一つ…恭也が頼れる人物がいる。
「よしっ!」
恭也は早速行動を起こした。
イギリス某所…マクガーレン・セキュリティー・サービス。
建物の一部屋で書類を片付けている人物。
金色の髪をポニーテールにし、キリッとした瞳を持つ女性。
エリス=マクガーレン。
書類に眼を通していると、ドアをノックする音が響いてきた。
「開いている」
返事をすると、ドアが開き、一人の男が入ってきた。
「エリス…君に面会者が来ているぞ」
「私に……?」
首を傾げる。
今日は特に依頼者と会う約束は無かったはずであるが……
「日本人だ…確か、キョウヤ=タカマチ……とか言ってたな」
次の瞬間、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「お、おい!そいつは確かにキョウヤ=タカマチと言ったのか!?」
普段の冷静な彼女とは打って変わった様子に、男は驚く。
「あ、ああ」
「すぐ通してくれ」
「あ、解かった…」
呆気に取られたまま、男は部屋を後にする。
「恭也……私に何の用だ……?」
突然の来訪に驚きつつ、エリスは応接室へと向かった。
「エリス、久しぶりだな」
「ああ、あの事件以来だな」
応接室に入ったエリスは、恭也に軽く挨拶をかわす。
以前…フィアッセを狙った事件で二人は再会し、共にフィアッセを守り抜いた。
「で……わざわざ、私に逢いに来たのは何だ?」
早速、本題を尋ねると…恭也はバツが悪そうな表情を浮かべる。
「いや…暫く、匿ってくれないか?」
「………はあ?」
エリスの思考は…暫し、停止した。
「それで…逃げてきたのか?」
「あ、ああ」
事情を聞いたエリスは、どう答えていいか解からずに、黙り込む。
そして……やや呆れた視線を向ける。
「まあ、別にいいけど……条件がある」
「何だ?」
「少し、仕事を手伝ってほしい…今、生憎と人手が不足していてな」
僅かに表情を顰めるエリスに恭也は笑顔で応じた。
「解かった…それぐらいなら、お安い御用だ」
「あ、ああ…頼む」
エリスは僅かに顔を真っ赤に染めて視線を逸らす。
「エリス…どうした?顔が赤いぞ」
「な…何でもない!」
それから数日…恭也はエリスと共に護衛の仕事をこなしていた。
二人は絶妙なコンビネーションで護衛人物を狙ってくる刺客を迎え撃つ。
エリスが銃で相手の態勢を崩し、そこへ恭也が小太刀で相手を気絶させる。
「エリス、助かったよ」
「べ、別に……」
恭也に笑顔で感謝され、エリスはぶっきらぼうに答え返す。
二人は残りを任せ、一息ついていた。
「エリス…コーヒーでいいか?」
「ああ」
缶コーヒーを放り投げ、それを受け取る。
二人は歩きながら…夜空を眺めていた。
恭也は不意に笑みを浮かべた。
「な、何だ…いきなり?」
「いや…そう言えばあの時も、こんな夜空だったなって」
苦笑を浮かべる恭也…エリスは暫し記憶を探索し…やがて、それを思い出す。
「あ、あの時か……」
やや上擦った声で尋ね返す…恭也の意地の悪そうな笑みが肯定を意味していた。
「あ、あの時はその…いや、なんだ………すまなかった」
慌てふためきながら…ややシュンとなって謝罪の言葉を述べる。
「いや…別に気にしてない、あの時はお互いさまだしな」
また暫し無言が続き…やがて、エリスがポツリポツリと語り出す。
「私は…強くならなくちゃいけなかった……」
フィアッセの父であったアルバート=クリステラを狙ったテロ……
それによって、エリスと恭也は父を失い…フィアッセは深い傷を負った……
そして…なによりも……あのテロの一端を…知らなかったとはいえ…自分は一端を担ってしまった……
それが今でも彼女の心に闇を落としていた……
「フィアッセを護りたい……だから…私は………」
泣き崩れる親友を護りたい一心で…エリスは父の後を継ぎ、この世界に身を置くことを決めた。
「……俺も同じさ」
恭也もまた答え返す。
「俺の剣は…大切なものを護るための剣だ……だからこそ、俺も強くならなければならなかった」
手に持った八景を握り締める。
「……恭也、一つ…お願いしていいか?」
「……エリス?」
様子のおかしいエリスに向き直る。
エリスは顔を伏せ…恭也の胸に顔を埋めた。
訝しがる恭也は気付く…エリスの身体が震えていることを………
「私は…強くなった……自分ではそう思ってる…だけど、それでも……怖い時がある……誰かに助けてほしい…護ってもらいたいと思う時がある……」
小さな声で囁かれる言葉……
エリスは今まで…この小さな身体にどれだけの苦悩を抱え込んできたのか……
それを誰かに見せることもしなかったのだろう……
恭也はそっとエリスを抱き締める。
「恭也……」
エリスは驚いて恭也を見上げる。
「エリス…俺でよければ、君を護りたい……君の傍で…ずっと君を護り続ける」
「私で……いいのか?」
「俺じゃ…役不足か」
苦笑を浮かべる恭也にエリスは首を振る。
「私は…恭也に護ってもらいたい……今更だけど、私は…君が好きだ」
顔を真っ赤にして告白するエリスに…恭也も答えた。
「……俺もだ」
数日後…恭也はエリスを伴って、高町家へと帰ってきた。
「恭也いったい何処に…って、エリス!?」
出迎えたフィアッセが驚きの声を上げる。
だが、美由希を除いた面々は面識のないエリスに、首を傾げる。
「あ、恭也…帰ってきたわね」
そこへ桃子がやってくる。
「あら…そちらは?」
「ああ、彼女は……」
「はじめまして、お義母さん…エリス=マクガーレンです」
恭也の言葉を遮って、発されたエリスの言葉に…一瞬、静寂が訪れる。
「えええええええええええええっっ!!?」
悲鳴にも似た大声が上がる。
「え、エリス!どういうこと!?」
フィアッセがエリスに詰め寄る。
「フィアッセ…ごめん」
彼女への負い目なのか…それでもエリスは真っ直ぐにフィアッセを見詰める。
「本気…なんだね」
エリスはコクリと頷き返す。
「そっか……恭也、エリスをよろしくね!私の親友なんだから…絶対に幸せにしてよね!」
「ああ!」
恭也もまた…強く頷き返した。
数年後…恭也とエリスは結婚という新しい門出を迎えていた。
純白のウェディングドレスに身を包んだエリス。
「エリス、凄く綺麗だよ」
「ありがとう」
フィアッセに笑い返す。
「桃子さんも嬉しいわ〜〜こんなに可愛い娘ができて」
上機嫌な桃子…一年程前から翠屋で働くようになったエリスは、才能があったのか……今では翠屋にとってなくてはならない存在となっている。
盛り上がるそこへ…白のタキシードを着た恭也が入ってきた。
「いこうか…エリス」
そっと差し出された手を…強く握り締める。
「ええ……あなた」
人気の無くなった新婦の控え室…
テーブルに置かれた小太刀と銃……
それは…二人の絆の象徴……
二人の想いは一つとなり…永遠に離れることはないであろう………
〜FIN〜
【後書き】
エンディング2…エリス編です。
OVAで登場から気に入ったキャラですが…性格がおもいっきり変わってる気がします。
シリラブを意識して書きましたが…何分、まだまだ未熟ゆえ……
エリスファンの方々、申し訳ありません。