『夜天の騎士』





 ふ、ふふ――――

《おはようキョウヤ。どうした?》「いやなに…」

 やはり夢ではなかったか……
 窓から差し込む朝日に目を細めながら――ああ、ソラって青いなぁ
 ――と、軽く現実逃避。
 昨日と変わらず枕元には、夜の闇を集めたような漆黒の石――宝石。

「……それで、昨日は何処まで話したか…?」《お前が死んで、私が蘇らせたと》

 ああ、確かそんな事言ってたな。

「死んだ――か」

 朝一ではあまり聞きたくない類の話題ではある、が

「俺は心臓を潰されたはずなんだが…なんでもう傷が治ってる?」

 コレも魔法の一つか?

《それはお前の――そうだな、“魂”と名義するか。お前の魂を別の肉体に移したんだ。
致命的な傷の無い、もう一人の“タカマチキョウヤ”の肉体に》

 ???

《――お前が昨日居た世界を“元の世界”、この世界を“今の世界”と呼ぶとしよう》「ああ」

 それで?

《お前は昨日、“元の世界”で肉体を破壊されて死亡した。ああ、最後まで見届けたが
あそこまで手際の良い人体の破壊はそうないだろうな》

「いや、そんな事はどうでもいい」《そうか》「というか、勘弁してくれ」

 何が悲しくて、自分の死に際を説明されねばならんのか。

《――それで“元の世界”で死んだお前の魂を“今の世界”のタカマチキョウヤの肉体に移したのだ》

「……なに?」《お前、物の理解が鈍いな》

 そうか?いや、こんなの誰だって理解の範疇超えとるわ。

《つまりだ。この世界はお前の言う所の――異世界と言うわけだ》

「――――――は?」

 何を言ってるんだ?

《異世界。パラレルワールド。もう一つの可能性の世界》

「何度も言うな――頭が痛くなる」

 はぁ……

《お前が死にたくないというから、仕方が無いだろう?》「いや、まぁ……」

 まさか、死に際の一言で異世界にまで飛ばされるなどと誰が予想できるか。
 勘弁してくれ……

「それが、その事が事実だとして、だ。」《ん?》

 聞きたくないが―聞かねばなるまい

「俺は、元の世界には戻れるのか?」《何を寝惚けた事を…無理に決まっているだろう》

 う、うそ……だろ

「この世界に来れたんなら、戻る事も出来るんじゃないのか…?」

《無理だ。不可能な理由が一つだけある》「な、に…」

 寝起きでここまで絶望する事になるとは…はぁ

《この世界にお前を呼ぶことが出来たのは、タカマチキョウヤの生きた肉体があったからだ。
その“器”に“魂”を満たすだけで良かった。だが―――》

 不意に、その“事実”に気付いた。
 気付いて、しまった。

《元の世界にお前の生きた肉体は存在しない。お前は一度死んだのだ――元の世界で》

 そう。
 元の世界に、俺の肉体は存在しない――いや、肉の塊としての意味なら存在するが
心臓を破壊された身体に“魂”を宿しても即座に死滅するだけだ。

《肉体ごとの空間転移は私の手に余る――それは、魔法の域を超えている》「そ、そうか――」

 は、ぁ―――

「―――俺は、」《どうした?》

 くそっ

「なんでもない。――それで、お前は何で俺を生き返らせた?
意味も無く蘇らせるほど、お前は暇人じゃないだろ」

《ああ、そうだ。昨日も言ったが、お前には魔法の資質があった》

 そういえば、言ってたな…

《ランクは並以下だが、素質はある――キョウヤ、お前には魔導師になってもらう》







「あ、お兄ちゃん――おはよう」

 ―――はぁ

「お、お兄ちゃん?」「ん…?ああ、おはようなのは」

 そう言えば、家族構成は元のままか?

(そこまでは私も感知していない。自分で調べてくれ)

 そうか…って、俺の考えがわかるのか?

(念話という魔法だ。特に私とお前は相性が良いからな、こちらから繋げられる)

「お兄ちゃん…?」「あ――ん、どうしたなのは?」

 すまん、会話は後だ

(みたいだな)

「今日は遅いね。お姉ちゃんが心配してたよ?」「美由希が?」

 こっちの俺は朝の鍛錬もしているのか…?
 失敗したな…

「今日は朝起きれなくてな…」「…珍しいね、お兄ちゃんが」「そう、だな…」

 まぁ、本当は起きてたんだがな…

「なにかあったの?」「――色々と、な」

 いやもう、本当に

「今日の朝食はレンと晶、どっちだ?」「――――えっと」「??なのは?」

 どうしたのだ?

「――レンと晶って、誰?」「なに?」「え――お兄ちゃんのお友達…?」

 む、むぅ……まさか

「紹介していなかったか?」「え?…お兄ちゃんの―――」「友人だ。結構親しい、な」

 こっちの世界には、二人は居ないのか?

「そうなの?家に連れてきてくれた事あった?」「いや――それより、御飯にしよう」

 はぁ――どうなってるんだ

(そんなに違ってるのか、こっちは?)

 違うというか…家族が減っているとは思わなかったぞ

(それは、また…)

 はぁ……







 モシャモシャと母さん作の朝食を食べながら思う。
 人生って結構アレだよな。アレ。一寸先は闇?あ、それは違うか。

「どうした恭也、人の顔ばかり見て?」「ん、ああ――とーさんが居るな、と」「居ちゃ悪いか…」

 別にそうではないが…なぁ

(父親はお前の世界には居なかったのか?)

 ああ、俺が子供の頃に死んでたからな―――なるほど、確かに辻褄はコレでも合うな。

(ほぅ…少しはこの世界に順応してきてるか?)

 そりゃな。コレだけ違えば、嫌でも順応せざるを得ない。
 まったく――ここは俺の理想の世界に近いな。

(そうなのか?)

「お兄ちゃん、朝から変だよ……」「む、変とは何だ変とは――」
「いや、変だよ恭ちゃん」「黙れ駄目弟子」「酷すぎるっ!?」

 また後でな。

(まったく。口と思考を分割して喋れないのか?)

 そんな器用な真似ができる人間はいない。

(いや―結構居ると思うが……)

 そ、そうなのか……流石だな、魔法使い。

(どの辺りが流石かは聞かないでおこう――それでは、また後でな)

「ほらまた、ぼーっとして」「む…少し考え事をしていただけだ」「それをボーっとしていたと言うんだろ」

 まぁ、そうなんだけどな。

「恭也、今日は本当にボーっとしてるわね。どしたの?」「ん?ああ――夢見が悪くてな」

 かーさんにまで心配されてるし――はぁ

「どんな夢?」「あまり朝食時に話さないような内容だ」「エロ――ッァ゙」

 何をやってるんだ、父さん。
 っていうか、この家での力関係、何となく判ったよ――

「もう、士郎さん。朝から言うような事じゃないでしょう?」「っ――そうだな、はははっ」
「おとーさん、朝からおかーさんを怒らせちゃ駄目だよ?」「まぁ、いつものことではあるけどね」

 いつもの事なのか、美由希よ…はぁ

「大丈夫?大学行けそう?」「だ――――何?」

 は?

「何って――大学。あなた、大学生じゃない」

「あ、ああ――いや、少しやる事があるから、今日は自主休業させてもらう」

 な、なに?俺が大学生――だと?

(何か問題でも?)

 大有りだビー玉。俺はまだ高3のはずだ。

(ビーダマ?……まぁ、それはそんなに大きな問題か?)

 ああ。前の世界と今の世界で俺の年齢が丸々一歳違う。

(それは結構な違いだな)

 ああ、マズイ。

「ふぅん――夜の鍛錬はどうする?大丈夫…?」

「ああ、今日は一人でやってもらえるか?」「うん、判ったよ」

 この世界での記憶が無いのは本当に致命的だな――俺がどう言う人間なのかまったく判らない。
 友好関係に仕事関係――何とか分からないか?

(流石に、記憶操作系の魔法は持ってない。消す事なら出来るが)

 物騒だなビー玉。

(先程からビーダマビーダマと。それはなんだ?)

 田舎の駄菓子屋に売ってあったガラス細工か何かのオモチャだ。

(が、ガラスのオモチャだとっ!?こ、この―――)

「っ――んぐっ。ごちそうさま、すまないが出てくる」「え?あ――どうしたの急に」
「恭ちゃん?」「少し調べ事が出来た――」

 食べた食器もそのままに玄関に向かう。

「――晩飯も要らない。今日は遅くなる」「何だか知らないが、気を付けろよ?」「ああ、父さんも」
「お、お兄ちゃん…?」

 すまん。
 怪しまれようがどうしようが、バレるよりはマシなんだ。

「では、また後でな」







 困ったな――いや、本当に。
 公園のベンチに座って空を仰ぎながら――そう思う。

「どうしたものか」

(そうだな…)

 あらから三時間。近所を調べまわったが、元の世界と今の世界の差が微妙にあるのが一番問題だ。
 美由希――アイツが高町家に居るという事は美沙斗さんとの仲はあまり元の世界と変わらないのだろう。
 なのは――小学三年生。父さんと母さんの子供。
 なのはは元の世界とあまり変わらないが――俺とは仲が良かったようだ。
 俺とこの世界の俺との違いに感付かなければ良いが……。
 母さん――翠屋のチーフリーダー。パティシエ。父さんと一緒に翠屋を営んでいる。
 年齢不詳の美人パティシエとか裏で言われてるらしい…。この世界でもか……。

「微々たる違いだが、致命的なのが多い」

 父さん。
 深くは調べきれてないが、どうも護衛業は引退して翠屋の店長をやっているようだ。
 代わりに、その手の仕事は俺が引き継いでいるらしい。
 そして、俺。
 父さんの代わりに護衛業を行いながら、海鳴大の一年生をしている。
 結構な腕前で、この歳で名指しで仕事の指名が来たりする様だ。優秀な事で。
 友人関係は元の世界とあまり変わらないが、知らない名前が結構あった。
 アリサ・バニングス、月村すずか、ファリンさん。
 前者二人はなのはの友人らしいが…誰だ、ファリンさん。
 月村邸のメイドさんらしいが―――ノエルさんの関係者だろうか?
 兎に角、しばらく関わらないようにしておこう。問題は少ない方がいい。

(結構な記憶の食い違いがあるな)

 というか、あり過ぎだ――暫くは誰にも関わらないようにしとく。

(懸命だな。それに、関わっている暇もあまり無い)

 ―――どう言う事だ?

(先程から、この街に微弱な魔力反応が出ている――)

 魔力……マズイのか?

(この程度なら私とお前の敵ではない。が、私の知識に無い反応だから気を付けた方が良い)

 知識――お前、結構歴史のある道具なのか?

(ど、道具……違う、デバイスだ。次ビーダマとか道具とか呼んだら―――)

 そこで切るな…怖いヤツだな。
 それで?お前は結構古い……デバイスなのか?

(歴史があると言え。そうだな――人が神話と称する時代くらいからは存在していると思うぞ)

 古っ!?

(そんなに古くはあるまい。私より古いロストロギアなど、腐るほどある)

 ろすとろぎあ?

(私のような、規格外の性能を持った魔法器具――と覚えておけ。どうせ説明しても分からないだろ)

 おまえ、何気に酷いヤツだな……

(お前に言われたくは無い、キョウヤ)

 ―――――――

(―――――――)

 よし、取り合えず今後の方針を決めよう

(そうだな)

 はぁ…(はぁ…)
 あ、八景置いてきた……
 







 まずは魔法の基礎を――と言うわけで、いつも夜の鍛錬で使っている森に来ていた。
 昼間だが、まぁ人通りはまったく無いし目立たないだろう。

《では、まずは正確なお前の性能を測っておくか》「そんな事が出来るのか?」

 ほぅ、便利だな

《私を手に握って、目を瞑って集中しろ―――そうだな。昨日の夜のような状態になれ》

 なれって――まぁ、いいがな
 言われたとおりに目を瞑り、思考の海に沈む。
 想像するのは最強の敵。御神美沙斗。
 俺が知る中で最強の御神の剣士――昨日の夜を思い出す。
 ほぼ全ての斬撃・体術を無力化された戦闘とも言えない一方的な戦い。
 思考の世界の色が消え、彼女の体術に叩き伏せられる。

《もう少し、勝てるイメージは出来ないのか…》「いや、昨日のをそのまま思い浮かべたんだが……」

 やはり、勝てるイメージの方が良かったか?今度は美由希を―――

《いや、今ので十分だ。管理局のランクで言えばB−といった所か》

 管理局?

《ああ、私のようなロストロギア、時空間の問題を対応する集団。時空管理局だ》

「じくう……」

《この惑星系のほとんどに影響力を持つ集団だ。出会ったら逃げるか、好条件で取り込んでもらえ》

「取り込んでもらえって――いやいや、惑星系?」

 なんだそれは。
 宇宙か?宇宙が舞台か?

《そうだ、管理局は星と星を飛び回る集団だ。この時空間において最大限の権力をもっているだろうな》

「ぶ、ぶっそうだな……そういえば、お前もロストロギアなんだよな?」

《ああ。だから、最悪、私を餌に管理局に取り込んでもらえ。
ロストロギアの契約者ならそう無茶もしないだろう》

 まぁ、それは時と場合によって……はぁ…すごいな、この世界は。

《そうだな、お前の世界とは何もかもが違う―――大丈夫か?》

 ああ、まぁ、何とかやっていこう……それで、俺のランクは高いのか?低いのか?

《普通より若干低めだ。基準の武装隊が基本Aランクだったと記憶しているからな》

 B−って低いんだ。

《そうだな。だが、要は使いようだ。魔力値がどれだけ低くても、お前の長所を生かす分には問題無い》

 ほう―――

《お前の長所は長距離からの砲撃魔法ではなく、近距離での戦闘技術。
一対多ではなく一対一の戦いだろう?それを生かせる魔法を覚えていけば良い》

 ふむ。

《私が持ってきたのは補助系と身体強化系がメインだが、移動・捕縛系の魔法は独力でも何とかなる》

 そうなのか?

《基礎だからな。そうだな――まずは、私の名前を決めてくれ》

「名前?」

《ああ。それが無いとお前の補助が出来ない》

 む

「そうだな――」

 出来れば単純なのが良いが―――ふむ

《あまりに変なのだったら―――》「だから、途中で切るな」

 さて――と
 思考時間は十分程度

「リンネ…ではどうだ?鈴の音と書いて鈴音」《その由来は?》

 妙な所でこだわるな、お前。

「俺達の世界の言葉に“輪廻転生”と言うのがあってな」

《ほう…》

「死んでも魂が転生し続ける。肉体は死んでも魂は死なないって意味だ」

 結構端折ってるけど、大体そんな所だろう。

《なるほど、お前の事だな》「で、それだけだと変だから、鈴音――綺麗な名だろう?」

 うむ

《お前が、鈴の音が好きなだけだろう》「むぅ…」

 まぁ、そうなんだけどな

《いや、その名は気に入った。昨日の夜のような名前を言われたら、お前を呪殺していた所だ》

 物騒すぎるな、お前。

「では、名前はそれで――」《ああ》

 ふぅ……

《次は形状だな》「けいじょう?」

 刑場?

《阿呆。形だ。私を握ったまま武器を想像してみろ》

 む―――武器、か。
 想像する。形状は八景。だが、飾りの類は一切無い―――無骨な、モノを断つ事にのみ特化した小太刀。
 ―――と

「む……」《ほう、中々だな。やはり剣士なら剣を想像するか》

 右手に握られた刀身から柄まで全てが漆黒の小太刀。
 柄尻に銀の飾りと、その中央に先程まで握っていた漆黒の宝石が埋まっている。
 ―――これ、さっきの宝石か?

《そうだ。本来私は、こういう武器や魔法の補助道具として使用する》「ふむ―――」

 一振り――八景より、若干軽い。
 二振り――先程よりも速く、鋭く。
 三振り――無造作に木に打ち込んでみる。サックリと半ばまで綺麗に切り裂く。
 恐らく、止めなければ木を簡単に両断していた。

「使いやすいな」

 それが、率直な感想。
 ここまで軽くて切れ味の良い刀は、俺の知っている限りでは一振りも無い――流石は魔法。

《その認識は少し間違っているが――お前の想像に合わせて形状は変えれる。
別の形を想像してみろ》

 別の?そうだな――以前槙原耕介さんと試合した時の日本刀…銘は“御架月”だったか。
 霊力技と言うのを一度だけ見せてもらったが――あの一撃の攻撃力を思い浮かべる。
 途端、手の中の形状が若干変わるのを感じる……

「――何でもありだな、魔法は」《そうでもないが――なるほど》

 何が?

《魔力量が少ないのに放出型の形状か。贅沢だなキョウヤ》「そうなのか?」

 理想の形を思い浮かべただけなんだが…

《その理想を行ったら、一瞬でお前の魔力は空になるぞ》「そ、そうか…」

 結局、使えないって事か?

《そうでもないが――近距離での大打撃用か中距離からの砲撃支援用の型だな》

「ふむぅ…」

 どちらも俺の剣筋とは毛色が異なるな。

《ああ。まぁ、形状は戦況に応じて変えていけると覚えておけ。
必要な時に必要な形を取れる武器…便利だろう?》

「ああ」

《それでは―――》

 ――ん?

「何かしたか?」《気付いたか?》

 なんだか、周辺の雰囲気が少し変わった―――か?

《結界だ。――この周囲一体を世界から遮断した》

 それで?

《喜べ。魔法を使っても回りにはバレないぞ》

 喜ぶ所か?

《空を飛んだり火の礫を飛ばしたり出来るぞ?》

「ほぅ、飛べるのか?」

《練習次第だがな――では、騎士鎧…いや、バリアジャケットを思い浮かべろ》

 ばりあじゃけっと?

《戦闘用の服だ。動きやすく、なるだけ強固なイメージを》

 ああ、戦闘用の鎧みたいなやつか……えっとたしか、とーさんの仕事着は……
 思い浮かべるのは漆黒のロングコート。
 色んな所に暗器やその類を隠しておけて、なおかつ丈夫なのをイメージする。

《お前、創造の類は得意そうだな》「そうか……?」

 身体を見下ろすと――なるほど、服装が変わっている。
 先程の私服とは違う、漆黒のロングコート――昔、とーさんが着ていた防護服。
 私服は無くなり、ズボンも同質のに変わっているし上はアンダーになっている。

「涼しいな」《動きを阻害しないようにしている。これで多少の魔法攻撃や物理攻撃は緩衝できる》

 ほぅ、便利なものだな。

《では、特訓と行くかキョウヤ》「ああ」







 ふぅ――

《近距離に特化するにも程があるぞ、キョウヤ》「そうは言ってもだな…」

 そんな、いきなり大砲撃て言われても撃てるヤツ等いないわ

《良い例えだな》「褒める所はそこか」

 知り合って2日だが、こいつの思考はよく分からん。

《失礼だな、キョウヤ》「お前がよっぽど酷いわ」

 いや、ほんと

「ん、ぐ――」

 先程買ってきたコンビニの弁当を食べながら

「飛翔と楯の魔法は出来たんだがなぁ…」《楯は私が造り出したんだ、実質は飛翔だけだ愚か者》

 ぬぅ…

《中遠距離が使えない魔導師など、狙い撃ちにされるだけだ》「いや、分かるが……」

 判るから言わないで欲しいと言うか…もう、ねぇ

《Aランク判定とは言わない。せめて牽制用くらいは使えてくれ…》「そこまで落胆する事か…」

 はぁ――

《もしかして初日だし、こんなものか?》「疑問系で聞くな。初心者は俺だ」

 いや、もう…なにこの不安な師匠。

《そうだな…初心者が初日に飛べただけでも凄い事だと思っておこう》「そうしてくれ」

 ふぅ

「それにしても、魔法使い――か」《どうした?》「いやなに――この歳になってか、と」

 はぁ――

《眠っていた力が手に入ったんだ、喜んでおけ》「ま、そうなんだが――」《元の世界が気になるか?》

 そりゃ、なぁ

「あの後どうなったか、くらいは気になる」《そうか―――》

 スマナイな、弱音を吐いた。

《それが普通だろう――私こそ、配慮を欠いていた》

「気にするな――助けたいものがあるんだろう?俺を巻き込んででも」

《ああ――》

「なら良いさ。使えるものを全部使ってでも助ける――俺でも、その選択肢を取る」

《そうか》「ああ、そうだ」

 さて

《すまないな》「乗りかかった船だ――それに、命を助けられたのは俺だ。俺が礼を言いたい」

 それじゃ、休憩終了だ

《いや、一眠りしろ――肉体的には無くても、精神的にはかなり辛いはずだ》

 む――

《それに、お前の魔力の回復量も見ておきたい》「そうか」

 ふぅ――







 ん―――

《よく寝ていたな、キョウヤ》「ん――――ンッ!?」

 あれ?

《もう夜だぞ》「起こせっ!」《む――折角私が気を利かせたというのに…》

 え?そこ傷付く所!?

「い、いや…すまない」《気にするな》

 いや、お前さ――変に偉そうだよな?

《それではキョウヤ、もう帰るか?》「今何時だ?」《この世界時間で――夜の11時》
「寝すぎっ、俺寝すぎだから!!」《ああ、面白いくらい寝てたな》「本当、次は起こそうなっ?」

 折角の時間を無駄にした……はぁ

《そうだな、半日全部無駄にしたな》「……少しはフォローしてくれるとありがたい」《甘えるな》

 そうですね……

《では、結界を解くぞ?》「ああ……」

 俺、こいつと上手くやっていけるのかな?
 凄く不安だ。色んな意味で。
 多分、俺とこいつの前世は喰うか喰われるかの関係だったに違いない。

《確かに、そんな感じではあるな》「否定しとこう、そういうのは」

 何だこいつは。何となく俺の天敵の予感。

《変な予感だな》「もう帰ろう。結界を解いてくれ…」

 何で寝起きなのにこんなに疲れるんだろう……

《ほう――キョウヤ、面白いのが二つある》「……?」

 面白いの?

《一箇所には別の魔法使いが向かったか――もう一箇所にいってみるか?》

「どうした?」

《昼間、この街に微弱な魔力反応があるといっただろう?
それが今、昼間より力を増している》

 ―――それは、危険じゃないのか?

《力の方向性が判らない。接触してみるのが一番早い―――飛んでいこう。それが早い》

「な、なに?」《大丈夫だ、この時間帯の飛行なら人目に付かない》

 それは、まぁ…もう夜中だが

《いくぞ、方向は私が指示する》「――判った」

 意識を右手に集中――

『Blade mode』

 右手に確かな存在――漆黒の小太刀の生成に成功する――が機械音?

《ああ。武器とバリアジャケット生成、補助の魔法は自動にしたんだ。お前が寝ている間に》

 根に持ってるだろ?

《まさか――それでは、行くぞ》「……ああ」

 飛べ――
 本日俺が唯一習得した飛行魔法の行使――ああ、空中って慣れないな。

《その内慣れる》「だと良いがな…」

 それじゃ、行くか。







 ほどなくして、人気の無い公園で―――ソレを見つけた。

「変なのが居るな」《ああ。キョウヤは見たことあるか?》

 ある訳あるか。

《そうか――》

 俺の眼下で蠢く

《あれはなんだと思う?》

「俺が聞きたいわっ。長生きしてるんじゃなかったのか?」

《あそこまで規格外なのは創世記以来か……》

 え、昔は居たのか?

《もう少し大きくて禍々しかったがな…》

 眼下で蠢く体長5メートルほどのデカいミミズを見下ろしながら思案に暮れる。

「――――斬るか」《少しでも宝玉を汚してみろ。地獄の苦しみを味あわせるからな?》

 普通にあの化け物より、お前が怖いわ俺は。
 返事はせずに、一気に降下。10メートルの高さから加速・重力を乗せた一閃っ!

「き、気持ち悪っ!?」

 斬った感触はあった――が、気持ち悪い。
 肉を斬った事が無い訳ではないが、あれは異常だと一瞬で理解した。
 アレは―――

「くそっ!」

 鈴音の補助の元に身体強化。
 地面に足を付くと同時に小太刀を跳ね上げ再度…斬り上げの斬撃――今度も、同じ感触。
 感触はあるが――凄まじい違和感……の正体に気付く。
 表皮は恐らくミミズと同じものなのだろう――が、肉は液体だった。
 傷口からボトボト零れてる。正直、勘弁してほしい。

《キョウヤ、覚えているな?》「言ってる場合かっ」

 一旦距離をとるか――っと!?

『Aigis』
 
 左から来たミミズの尻尾の打撃を鈴音が造り出した六面体の半透明の楯が防ぐ。

《貸し一だ》「素人に何を求めてるかっ」

 懐から飛針を三本――牽制に投げつけて距離をとる。
 防御力は皆無か。飛針だけでも結構な牽制になってるな。

《砲撃魔法の良い餌のようなヤツだな》「無い物強請りだけどな」

 持ってません。

《突然変異か、飼いミミズの放し飼いか?》「ミミズなど誰も飼わないだろ…」

 この場合、突然変異が妥当だろう。

「斬るぞ?」《しょうがないな…核か頭を潰せ》

 そこまで嫌か?まぁ、気持ちは判るが……
 諦めてくれ

『twin Blade mode』

 おお

「二刀でもやれたのか」《―――――ほぅ》

 想像するのは慣れ親しんだ二刀。
 想像しろ。全てを切り裂く刃を。
 想像しろ。何者にも砕けぬ刃を。
 想像しろ。何者にも負けない不敗の刃を。
 両手に漆黒の小太刀を創造。右手のには宝玉が付いているが、左には無い。右が本命か。

「よし―――全力で叩っ斬る」

 距離は20メートルほど―――全力で駆ける。
 半分ほどの距離で先程の尻尾の打撃――それを半透明の楯『Aigis』で防ぎ、足を止めずに突っ切る。
 次は

『Floater Field』

 尻尾の打撃を防がれたミミズの、次は頭部での一撃。
 それを前面の空間に展開した魔方陣の足場に飛び乗って避ける。
 眼下にがら空きの首――――殺った
 魔方陣を蹴り、加速力を持って直径70cmほどの首を二刀を同時に叩きつけて切断する。

「ふぅ―――」《まだだ――再生する》「は――?」

 途端、切り落とした頭部は霧となって消滅し、体から新しい頭部が生える。
 え?

《距離を取れ》「ちっ――」

 言われなくてもっ
 身体能力の強化、更に全力で後ろに飛び退く。
 先程まで居た場所をミミズの尻尾が打ち――コンクリの地面に大きなヒビ

「…何か、強くなってないか?」

 気のせいか?

《いや、この生物――今この時も強くなっている…この進化速度は異常だな》

 いやいや、感動している場合じゃないだろ

《面白いタイプ…》「一家に一匹とか言うなよ」《流石に欲しくは無いが…》

 良かった、そこまで非常識ではなかったか。

《――――捕らえた》

 と、眼前に光の穴?が作り出される。
 なんだこれ?

《手を突き出せ。繋げたから核を掴める》

「なに?――あ」

 同様なのが、ミミズの腹の部分にも出来てる。
 だ、大丈夫なのか?

《ちゃんとした魔法だ…良いからさっさと掴み出せ》

 むぅ―――言われた通りに光の穴?に左手を突っ込む。
 えっと――これか?
 指先に当たった硬い感触を頼りに掴み、引き摺り出す。
 これが……?

《――――?》「どうした?」

 手の中には菱形の宝石が二つ。それを眺めていると鈴音からの疑問の気持ちが流れてくる。
 ??契約するという事は、感覚の共有もあるのか?
 まぁ、今はどうでも良いか

《いや――魔力の波動がほとんど消えた…先程はあれほど強力な波だったんだが》

 ふぅん……お

「あのミミズ、消えるぞ?」《なに?》

 見ると、巨大なミミズはうっすらと薄れながら消えていく…

《―――近寄ってみてくれ》「―――大丈夫か?」《多分》

 おい

《大丈夫だ》

 本当か?まったく……

《近くに生物の死体は無いか?》「ん?――――あ、これか?」

 夜の暗闇で判りにくいが、普通サイズの小さなミミズの死体が、確かにある。

《なるほど――寄生する類の》「ん?」

 何か判ったのか?

《ああ。この宝石、生物に寄生して宿主に力を与えるタイプの補助道具だな
短時間でアレだけの強化が出来るなら、恐らく同タイプ――中ランク程度のロストロギアだ》

 へぇ……

《判ってないだろう?》「ああ。さっぱりだ」

 そんな知識、俺にあるか―――まぁ

「この石がミミズに寄生して巨大化させてた…で、コレはお前と同じロストロギアって魔法道具。で良いのか?」

《そうだな。その認識で間違いないだろう》

 むぅ…次は巨大化と来たか……

《どうした?》「近い内に、今度は仲間とかライバルとか出てきたら日曜朝の戦隊物だな、と」

 はぁ―――

《戦隊物が何かは知らないが、同種の魔導師ならこの街にいるぞ?》「なに?」

 え?

《先程、反応が二つと言っただろう。もう片方にも魔導師が向かった――まぁ、もう事は終わったようだが》

 そうだったのか…

《あちらは結構手際よく事を進めていたようだぞ》「俺は素人だ…」

 どうか、その辺りで勘弁してくれ。

《兎に角、良い練習相手だった》「殺されかけたがな」

 まったく…

《しかし―――やはり、お前は面白い》「何がだ?」

《この戦闘だけで武器形状の新しい使い方と『Floater Field』の魔法を覚えた》

 ん?

「『Floater
Field』?」《先程の、空間に足場を作る魔法だ…無意識か?》「多分」

 ああ、そう言えば作ったな―――確か
 思考――中空に浮かぶ円形の魔方陣。
 と、

『Floater Field』

 灰色の魔方陣が俺の視線の高さに作り出される。

「こんな感じか?」《ほぅ――お前は、物覚えは悪いが感覚は鋭いのだな》

 褒めてるのか?

《感覚の鋭さは魔導師の必須技能だ。覚えの悪さは身体に染み込ませれば事足りるが、感覚は本人の才能に寄るからな》

 そう言うものか?

《ああ。美味い練習相手が出来たな。次があるなら、また挑むとしよう》「おい……」

 何を物騒な事を言っとるか?

《お前は街の住人を危険に晒す気か?》「む―――」《強くなれて平和も守れる。一石二鳥ではないか》

 お前、口は上手いし性格最悪だな。

《褒めてるのか?》「ああ、最高の褒め言葉だ」《そうか》

 はぁ―――

「それで、この石はどうする?物騒なら捨てるわけにもいかないだろ?」

《そうだな。私に触れさせてくれ》「ん?……おお」

 どうやったのか、漆黒の宝石に青い菱形の石は二つとも吸い込まれる。

《うむ、美味い》「喰ったのかっ?」《冗談だ》

 いや、ソレは流石に冗談には聞こえない……

《難しいのだな》「………お前の性格の元になったヤツを殴りたい」《キョウヤだが?》「なに?」

 何を言っている?

《私の性格――この世界の知識の元はキョウヤ、お前だ。参考にした私が言うのだから間違いない》

「そんな馬鹿な…俺はそこまで性格は悪くない」《そういうのは、得てして本人は気付かないものだ》

 そういうものなのか?―――認めたくないなぁ

《では帰ろう。この場に留まっていると面倒が起こるぞ》「――ああ、さっき言ってた魔導師か?」

 それなら、さっさと立ち去るか……

《そうだ――おめでとう、キョウヤ》「……なにがだ?」

 はぁ…疲れたな

《今日この時から、お前も三流以下ながら魔導師の仲間入りだ》「一言多い」

 本当にもう、疲れた





デバイスとの会話が面白いな〜。
美姫 「ある意味、いいコンビよね」
元の世界との差異で、尤も大きな忍との関係を知ったらどうなるのか。
美姫 「その辺りも楽しみね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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