『久しいな、ティータ。俺は今ルーアンに着いたところだ。王都の後、ボースで2ヶ月。なかなか有意義だったぞ。

 カシウスさんの助言通りだった。

 ところでこのルーアンだが、いい所だな。何と言っても綺麗な風景が落ち着くし、俺にとっては釣りができそうなのでな。

 ティータももう12歳になったわけだが、相変わらず研究三昧か? 料理の方は身に付いてきたか?

 帰ったときは是非ともお呼ばれに預かりたいものだな。

 ちなみに俺も各地で料理を教えてもらってな、いくらか作れるようになったぞ。このルーアンは魚料理など多そうだ。

 是非お前とラッセル博士、マードックさんにも食してもらいたいものだ』

 

 さらにもうちょっと続く文面を見返し、特に他に書くこと、誤字脱字がないことを確かめ、折りたたんで封筒に入れる。

 

「ではこれをツァイス支部の方にお願いできますか?」

「ああ、いいよ」

 

 遊撃士協会ルーアン支部の受付担当である、エルナンと同じくらいの青年のジャンに渡す。

 王都で2ヶ月、ボースでもまた2ヶ月。

 双方で推薦状をもらった恭也は、昨日のうちにボースからマノリア村へ到着しており、

 小一時間ほど前にこのルーアン市に辿り着き、ジャンにルーアン支部での着任を報告していた。

 

「ユリア中尉からも話が来ている。驚いたね、まさか王城侵入やらかした遊撃士が今では彼女から王女の護衛を頼まれるとは」

「……ここでもそのことを知られているわけですか」

「あっはっはっはっは! まあまあ、そうひがむなって。悪いことだけじゃない。

 武術大会で準決勝進出の上、準遊撃士なのにカシウスさんといい戦いをしたってのはもう遊撃士の間でも有名だぞ?」

 

 王都支部でエルナンがキリカから恭也の事情を知らされていたのと同様に、ボース支部の受付担当であるルグラン、

 そして今度はこのジャンにまで伝わっているらしい。

 確かに受付担当とはその地域の遊撃士を統括する役割でもあるので、知っておいた方が何かといいのは恭也とて理解できるが、

 何とも行く先々で「異世界から来た元王城侵入者は君か」などと言われるのは複雑な気分である。

 

「とりあえず王女の件に関しても僕以外は知らない。だから無闇に他の遊撃士を応援につけることも難しい。

 でもいざとなればちゃんとその辺は僕も取り計らうから、必要なら言ってくれよ」

「ありがとうございます」

 

 このジャンも見かけはなかなか人を食うような発言や態度があるものの、そこに悪い印象はないあたり、

 きっとキリカやエルナン、そしてルグランのように実はできる人物なのだろう。

 まあそうでもなければ受付担当に選ばれるわけがないだろうが。

 

「王女はこちらに自ら来られるそうだから、もう少し待っててくれ」

 

 正直、自分から訪ねるのが普通なのだが、どうも風変わりな王女なのか、出迎えを自分がすると言い出す始末だった。

 

(ユリアさんが見た目とは裏腹に突飛なことをする方だと仰っていたが、確かにな)

 

 出迎え云々もそうだが、元王城侵入者であるということくらいは当然聞いているはず。

 ならすでに自分の護衛を了承する時点で突飛なことこの上ないとも言える。

 ユリアがアリシア女王と並んで素晴らしい方と言うほどなのだから、事情を理解できないほど愚かなわけでもないだろうし、

 単に大胆……いや、豪胆な人物なのか。

 と、そこまで考えていると、入口の扉が開かれる。

 

「失礼します」

「遊撃士協会ルーアン支部へようこそ。どのようなご用件で?」

「あ、先ほど連絡を入れさせてもらった者ですが」

 

 他に遊撃士や一般の人間がいる手前、『彼女』は自分が王女とは言えないわけで、しかしジャンはそれだけで察する。

 そしてジャンは恭也に目を向けるのだが……。

 

「…………」

 

 言う必要もないらしい。『彼女』を見た途端、固まっている恭也を見れば。

 その声に覚えがあり、偶然とも考えた恭也。

 しかし以前、ユリアをそばに伴っていた少女である辺りを思い出すと納得いく。

 

「あはは、驚かれましたか、キョウヤさん?」

「…………クローゼさんがなぜここに?」

 

 何となく予想はついたが、それでも彼女がまさか王女であるとはと信じられない。いや、信じたくないのかもしれない。

 以前、自分が彼女に何をしたか。

 そう、説教である。もちろん怒鳴ったりしたわけではないが、王女にものを説いたのだ。

 

「なぜって、私はこのルーアンにあるジェニス王立学園に通っているからですよ? 王都から通えるはずがないですから」

「……あのとき、俺は試されていたわけですか……」

「すいません、お気に触ったなら謝罪します。でもやっぱり私としては、その……」

「いえ、構いません。むしろ当然でしょう。逆に納得がいきましたよ」

 

 元王城侵入者を簡単に護衛にすることに了承した意味を察し、恭也はため息をつきつつ苦笑した。

 確かに彼女は突飛な性格をしている。

 彼女はおそらく身分を考えた接し方をされるのが嫌いなのだろう。

 だから以前もああいう形で話をしようとしてきたわけだろうし、今もこうして普通の女の子と変わらない、

 何とも茶目っ気のある「ビックリさせよう」という行動も、とても王女とは思えない軽さだ。

 しかし惹き寄せられるような雰囲気、立っているだけなのにどこか気品ある佇まい……それは間違いなく王女ゆえ。

 

「前回は失礼しました。これより高町恭也準遊撃士、クローディア……あ、いや、クローゼ・リンツさんの護衛を担当します」

「はい、お願いしますね、キョウヤさん」

 

 軽く会釈をし、互いに笑い合う恭也とクローディア姫――クローゼだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空と翼の軌跡

LOCUS OF 7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10ヶ月。

 どういう意味かなんて言わなくてもわかるだろう。

 恭也がいなくなってから経過した時間だ。

 

「…………」

 

 学校から帰ってきて毎日恭也の部屋に行ってはがら空きの状態を目にし、無言で立ち尽くす日々。

 桃子が定期的に部屋の掃除をしているため、埃などはないし綺麗なものだが、逆にそれがつらいもの。

 部屋は綺麗。綺麗だからこそ、この部屋だけ時間が流れていないように見える。

 机の上の裏返しにされたままの本が、この部屋の主がいなくなったのはついさっきだと主張するようだった。

 もし部屋が埃だらけだったらそれはそれで10ヶ月もの時間が経っていると嫌でも感じさせられるだろうが、

 綺麗だったらだったでこういう心境になってしまう。

 

「……………………」

 

 障子を閉める。ゆっくりと恭也の部屋から離れ、なのはは自分の部屋へ向かう。

 恭也がいなくなってから数ヶ月程度の間は毎日恭也の部屋だけでなく家中を回り、道場も探した。

 でも今となっては玄関の恭也の靴と部屋くらいを確認する程度。

 

『……Master……』

「うん、大丈夫……大丈夫だから」

 

 家には他に誰もいない。美由希も高校生だし、大学受験の歳だ。

 士郎も桃子も店がある。

 小学生のなのはの帰りの時間に彼らがいないのは当たり前と言うべきもの。

 でも10ヶ月前まで、その「当たり前」は当たり前ではなくなっていたのだ。

 

――――『ああ、お帰り、なのは』

 

 大学生となった恭也は高校生だった時とは違って、家にいることは多かった。

 授業の取り方に自由性のある大学だからこそだ。

 

「今日って火曜日だよね。お兄ちゃん、午前中だけ授業だからいつも帰ってきてたんだけどな……」

 

 恭也のいる日など知っている。火曜日と木曜日と金曜日。

 それ以外はなのはの方が早く帰る。だからその日は逆になのはの方が「お帰り」と言ってあげる日。あげられる日。

 誰もいない家は寂しい。まだまだ小さい頃、士郎が大怪我をした時のように、誰もいないことを思い出してしまう。

 でも大学生となった恭也はそれまで以上に家にいてなのはに構う時間を取ってくれた。

 だからなのはは帰って「ただいま!」という日が楽しみだったし、逆に「お帰り!」と言える楽しみもできた。

 互いに互いをとても大事にしているという表れだと。

 でも10ヶ月前から、その楽しみは恭也と共に忽然と消え、かつての誰もいない寂しさが戻ってきてしまった……。

 

「ちょっと外に出ようか、レイジングハート」

『Yes,master』

 

 でもあの頃と違ってレイジングハートという相棒がいるだけマシだろう。そのことになのはは僅かに笑顔を見せる。

 心ある相棒はなのはの心を感じ取って少しだけ明るく喋っている。それがわからないなのはではない。

 

「いい天気だね。お兄ちゃん、こんな時は盆栽弄ってるかお散歩するのに」

Certainly(そうですね。)Though it is a hobby that(少々お年を召した方) the elderly person does(の趣味のようですが)

「あはは、お兄ちゃんって本当に若者らしくないよね」

 

 むう、と唸る恭也の顔が自然に思い浮かび、レイジングハートと共に苦笑する。

 なのはの足は勝手に向かう。海鳴臨海公園へ。

 フェイトやはやても、事情を知ってからは極力この場所を訪れないようにしているのはなのはもいい加減わかっていた。

 できるだけ一緒にいようとしてくれてもいる。本当にありがたい親友たちだ。

 でも今日のように2人とも用事がある日だってある。そんな日は、なのはは時間があればこうして臨海公園に来ていた。

 

「2人には悪いんだけどね」

 

 この場所を避けていてくれる。その気遣いを無駄にしているのかもしれない。

 でもなのはもただこの場所に涙を流しに来ているわけじゃない。最初はそうだったが……。

 

「う〜ん、やっぱり広いよね、今更だけどこの公園」

Though about finally 3/4(ここ2ヶ月でやっと) finished being looked for(4分の3ほど探し) in these two months(終わりましたが)

 

 恭也が最後に目撃された、この臨海公園。誰かの名前を呼ぶように林の中に入っていったらしい。

 迷うような林ではない。所詮は公園の中の林に過ぎないのだから。

 なのははゆっくりと横道から林に入っていく。

 鬱蒼と生い茂る場所ではあるので、なのはも正直なところ気持ち悪いとか怖いとかの感を抱かないわけではないが、

 嫌な場所と一概に断言するつもりはない。

 

「レイジングハートとユーノくんに初めて会った場所だもんね」

It is possible to(今でもはっきり) recall it still clearly(と思い出せますよ)

「うん、私も」

 

 こうして公園に来た日には、ここ2ヶ月ほどいつも林に入っている。

 何をしているかと思われるだろう。

 

「……絶対、何かあるはずだもん……」

 

 胸元のレイジングハートにすら聞こえないほどの呟き。

 あるはずだと信じている。いや、ここ最近ではそう思わないとやっていけないという気持ちもないわけではないのだ。

 

 

 

 

 

――――恭也がいなくなった日と、あのロストロギアで恐怖を感じた日が同じとなれば、きっと何か関係があるはず。

 

 

 

 

 

 それを知ったのは恭也がいなくなったと知った日からゆうに1ヶ月は経っていたとき。

 なぜそんなに時間がかかったか?――それだけなのはの精神状態は不安定だったからだ。

 その1ヶ月間をフェイトとはやてに言わせれば……

 

『なのはの大丈夫って言葉を聞くのが嫌だった……いっそ泣いて罵倒された方がいいくらいって思ったよ』

『なのはちゃんの笑顔を見るのが好きやったけど、あの時の笑顔だけは見とうない……泣いてるみたいなんやもん』

 

 そんな状態。

 勉強でも管理局の仕事でも、失敗続き。

 最近ではさすがに元のなのはに戻ってきてはいるが、当時そんな状態のなのはに気づけるだけの余裕などなかったのだ。

 

『キョウヤさんがいなくなったのとあの日が同じ……確かに何かあるかもしれないな。とりあえずこっちでも調べてはみる』

 

 クロノも自分の権限でできるだけのことはしてくれている。

 すでにあのロストロギアはあれから特に変わったこともないため、監視部隊に後を任せて『アースラ』は引き上げている。

 クロノたちにすればなのはの推論は信じるには足りないだろう。

 

「私、あのときにお兄ちゃんに助けてって思ったから……きっと私が何ともなかったのは、お兄ちゃんが代わりに……」

 

 代わりに恭也が異常を一手に引き受けて護ってくれた。それがなのはの考えだった。

 それをクロノたちに信じろと言っても難しいだろう。

 魔導師でもない恭也が遠く離れたなのはの危険を感じられるということ自体、まずありえないと言ってもいい。

 そもそもあの暴走に、願いを叶えるとかそんな効果があるとは思えない。

 何よりあの瞬間、なのはたちの魔法は使用不可になっていたのだ。なぜだかわからないということだが。

 つまり念話が恭也に通じる距離ではないが通じたと仮定しても、あの時は念話という魔法すら使えなかったことになる。

 事実としてクロノはあの瞬間、なのはとフェイトに念話を試みていたが、まるでなのはもフェイトも気づかなかった。

 だから、念話は使えなかったということ。

 それを恭也には伝わっていたと考える方が間違いと言えるだろう。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんはいつだって助けてくれたもん……!」

 

 

 

 

 

 クロノたちにはその絶対の信頼がないから信じられないだけ。

 なのはしか持っていない信頼。なのはだけに許された特権とも言える信頼。

 それゆえに、クロノたちにはわからない。でも別にそれでもいい。なのは1人でも。

 だってなのはは恭也の妹。恭也はなのはの兄。

 それだけでいい。

 

I trust you,master(私はマスターを信じていますよ)

「ありがとう、レイジングハート」

 

 こうして林に入っているのは、恭也が最後に目撃されたというからである。

 林に入っていって、そこで何かあったんじゃないかと。

 かつて林に入っていってユーノとレイジングハートに出会ったという奇跡じみたこともあっただけに、

 尚更その考えはなのはの中では無視できないものだったのだ。

 

「この前はここら辺まで探したよね?」

『Yes.It is from here today(今日はここからです)

「うん」

 

 林の結構奥まで来ただろうか。そこでなのはとレイジングハートはそれまでよりゆっくりと歩きながら周囲を見渡す。

 何かそれらしいものはないかと。

 最後に目撃されたのが林というだけで、その後別の所に恭也は行ったのかもしれないと、

 なのはは臨海公園をくまなくこれまで調査し回っていた。

 かなりゆっくり。地道に。そうしてやっと2ヶ月かけて臨海公園を4分の3近く。

 正直怖い。何もなかったら……。

 そしてその結論が出るのも時間の問題。あと4分の1に何もなかったら……。

 

「――っ!」

 

 頭を振る。弱気な心を叱咤する。

 

 

 

 

 

 諦めない――――その強い思いが神にでも届いたのか、運命を引き寄せたのか。

 

 

 

 

 

『――master!』

 

 レイジングハートが一際強く光る。一歩踏み出そうとしていた足を止め、なのははどうしたのと尋ねる。

 

The waste matter like magic(前方数メートル先に) can be slightly felt(僅かながら魔力の) the number forward meter ahead(ような残滓を感じ取れます)

「魔力の残滓? それってもしかして……」

I don't yet understand it(まだわかりませんが)……Would it approach(もう少し近づいて) a little more(頂けませんか)It is slightly over(薄すぎてかすか), and I understand it subtly(にしかわからないのです)

「わかった!」

 

 レイジングハートの指示に基づいてその場所へ。

 特段変わったところもない、林の中。しゃがんでほしいと言われなのははその通りに。

 地中からでも感じるのか、なのはは首にかけていたレイジングハートを取って手のひらに乗せてより地面に近づける。

 

『……This is reliable(間違いありません). It seems to really(本当にもう消え) already disappear(そうなほどですが)…….

This is the same that(これはあの遺跡で) I felt like magic(感じたものと) in that remain(同じです)

 

 魔力とは言い難いのだろう。レイジングハートは「魔力」とは言わない。

 でも明らかにそれに準ずるような力であるということは間違いないらしい。

 なのはも魔力は感じられるが、そうでないものを感じ取ることはできない。レイジングハートだけが感じられたのはそれが原因。

 

「地面の中に何かあるとかじゃないよね?」

I think that I am different(違うと思います。). Because it is not from(地面からではなく、) the ground and feels(空間それ自体から) it from space in itself(感じるのです)

 

 それでもいい。もし地面から感じるというなら掘ってやる。それくらいの気持ちでなのはは地面を睨んだ……そのとき。

 

「……? 何だろう、これ」

 

 地面から僅かに何か白いものが。土を除き、丁寧に、慎重に掘り出す。

 出てきたのは白い紙。見るとよく見知った店の名前が書いてある。

 それは……なのはや恭也がよくたい焼きを買う店の名前。

 たい焼きを包んでいる紙だ。

 

「……2枚。えっと……カレーとチーズって書いてる……」

 

 そんな変わった味の物を揃って買って、一気に食べる変わり者はなのはの知る限り1人だけ。

 ついに証拠を見つけたという喜びより、なぜか呆れた笑みがこぼれる。

 

「……お兄ちゃん……」

 

 何だか次の瞬間にはちょっとイライラが。

 そりゃあ、こんなに妹を心配させておきながら悠長にたい焼き食べてる姿の恭也が浮かんだら……。

 恭也が聞いたら屁理屈も甚だしいと反論しそうではあるが、なのはには知ったこっちゃない。

 

『Let’s go,master!』

「うん!」

 

 すぐに『アースラ』へ連絡。少しその場に名残惜しさを感じたが、振り払い、林を駆けて桟橋の方へ。

 

『なのはちゃん、どうしたの?』

「エイミィさん、お話ししたいことがあるんです! 今すぐ『アースラ』へ転送してくれませんか!」

『え? あ、ああ、うん、いいけど……』

 

 なのはのいつにない覇気と、この10ヶ月まるで失せていた元気さに、エイミィは戸惑いつつも桟橋からの転送用意をしてくれる。

 その魔法陣の中に立ち、なのははいつにない笑顔で早く早くと心の中で急かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに2ヵ月後(恭也がこの世界に来てから1年)

 

 ジェニス王立学園の中庭に生徒が溢れかえる。

 授業が終わり、近場に実家がある者はそこへ帰ろうとし、寮生は学園内で騒いだりなどしている。

 

「クローゼ、今日はまた孤児院に行くの?」

「ええ。今日は生徒会の仕事もないんですよね?」

「あ〜、引継ぎでハンスとちょっとすることあるけどね。大したことじゃないしすぐに終わるよ」

「手伝いましょうか?」

「いいっていいって。ホントにちょっとした手続きだけだもん。手伝ってもらうようなこともないしさ」

「そうですか。でも必要ならいつでも言ってくださいね」

「あーもう、クローゼったら優しい〜〜〜〜!」

 

 今年の生徒会長である、茶色の髪をポニーテルにし、メガネをかけた女の子――ジルと話しながら廊下を歩くクローゼ。

 抱きつかれるというコミュニケーションに、クローゼも困ったような顔で、しかしいつものことに楽しく感じながら。

 と、そこでジルがクローゼの耳元で内緒話をするように静かに話を。

 

「でさ、最近、護衛の人つけてるじゃない?」

「え? ああ、気づいてたんですね」

 

 恭也のことだろう。

 このジェニス王立学園の生徒には貴族や他国のお偉いさんの子女も多く通っているだけあって、

 外へ出る際などは護衛をつけているところなどいくらでも出くわすから珍しいことではない。

 が、クローゼはあまり護衛を引き連れて歩くのは好きではない。

 自分がそうされるほど重要な立ち位置にある人間であると自覚はしているが、そこはクローゼとて女の子。

 複雑なところであるのだ。

 

「あの人も親衛隊の人なの? 何となくこれまでの人とは違うし、たった1人だし、ちょっと今までとは違う気がするんだけどさ」

 

 実はジルともう1人、副生徒会長の男子であるハンスは、クローゼが王女――クローディア姫だと知っている。

 入学して早々にこの2人とは友人になったが、すぐに王女とばれてしまったのだ。

 

「ジルは鋭いですね。キョウヤさんは親衛隊じゃなくて遊撃士です」

「へえ〜、どうりで服装とかラフだもんね。親衛隊の人は私服でもなんか固そうだから」

「あはは、許してあげて下さい。親衛隊ともなると普段から気を使うんですよ」

 

 クローゼとしてはそんな凝り固まらないでと、護衛してくれた親衛隊員に声をかけるのだが、

 彼らは「お気になさらず」とか「お目汚しを……」とか「も、申し訳ありません!」と。

 まあ、身分を気にするような発言をしたりするわけだ。

 それだけ王家に忠誠を誓う人たちだとわかるのだが、クローゼ個人としては普通にしてほしい。

 

「でもたった1人って大丈夫なの?」

「ええ。キョウヤさんは武術大会で準決勝までいったんですよ?」

「うそ!?」

 

 ジルが大声を出すもので、中庭まで出ていたこともあって周囲の生徒の目を引きつける。

 そうでなくても2人ともかなり人気のある女生徒――本人はそう思ってないのはお約束――なので、尚更であろう。

 

「しかもキョウヤさんはまだ準遊撃士ですし、準決勝の相手があのカシウスさんですし」

「……は〜、もう何が何やら……」

 

 武術大会は有名だ。本戦に出たというだけで、遊撃士ならお偉いさんから護衛やらのお声がかかる。王国軍人なら表彰される。

 一般にも開かれた大会だが、そういった面でも大きな意味のある大会である。

 ちなみに恭也の出た年度の優勝者はやはりカシウスだった。

 モルガンの荒れ様はアリシア女王が諫めたが。

 

「でもどしたの? 昔っから護衛つけるの嫌がってたのに」

「ユリアさんに怒られてしまいまして」

 

 護衛もつけずになど、何をお考えかと。

 怒られたというより呆れ果てられたと言った方が正しいのだが。

 

「ジークがいるからいいと思うんですけどね」

「そう言えばジークいないわね。どこ行ったんだろ?」

「いるじゃないですか。ほら、あそこに」

 

 クローゼが指差すのは件の恭也の肩。

 ジークは恭也の肩に止まり、恭也から差し出された何かをついばんでいる。お菓子だろうか。

 

「へえ〜、ジークに気に入られるなんてね〜。クローゼに近づく男子には威嚇だってするのに」

 

 鳥でありながら非常に優秀な「護衛者」「守護者」である。

 

「それじゃあ、私は生徒会室行くから。また明日ね」

「ええ、また明日」

 

 生徒会室のあるクラブハウスの方へ駆けて行くジルに、立ち止まって手を振りながら、彼女がクラブハウスに入るまで見届けた後、

 クローゼは駆け足で門のそばに立つ恭也の元へ。

 

「お待たせしました」

「いえ。それでは――って、こら、ジーク、いい加減にしろ。どれだけ食べるつもりだ」

 

 先ほどジークにやっていたものはどうやら恭也の腰のベルトに引っ掛けてある袋に入っているようで、

 ジークはそこに嘴を突っ込んでさらに咀嚼しようとしている。

 恭也が引き剥がすと不満そうに一鳴きして空を飛び、クローゼの肩に止まる。

 

「しょうがないですね、ジークも。いくら恭也さんの作った物がおいしいからって食べすぎは駄目ですよ」

 

 クローゼにもたしなめられ、ジークは些か首を落として静かになる。

 

「やれやれ。それでは行きましょうか」

「はい。今日も護衛お願いしますね」

「もちろんです」

 

 どこへ行くとかはもう恭也もわかりきったことなので聞かない。

 クローゼも寮生なので本来なら寮に戻るだけでいいのだ。

 学園の外へ出るということはだいたい行き先はルーアン市か、もう1つ――マーシア孤児院。

 海道をルーアン市とは逆の方向の、マノリア村という集落のちょっと手前の道を曲がった先にある孤児院だ。

 

「すいません、今日は授業が長引くことを先に教えておくのを忘れてしまって……」

「ああ、大丈夫ですよ。ちゃんとジークが教えてくれましたので、海道で釣りなどしてました」

 

 恭也は片手に魚を入れておくケースを持っている。背中には釣竿ケース。折りたたみ式のようだから一見すればわからないだろう。

 

「仕事はいいんですか?」

 

 釣り好きなのはもう知っているので、クローゼはクスクスと笑いながら聞いてみる。

 

「今日は午前中に仕事は片付いたので。ジークがクローゼさんの授業が長引くという手紙を届けてくれましたし、

 時間が空くわけですから、釣りをしてたんです…………決してサボりじゃないですよ?」

「どうなんでしょう? ね、ジーク」

 

 ジークは先ほどの仕返しのつもりなのか、首を振って応えた。それはまるで恭也の言っていることが嘘だと言っているよう。

 

「と、ジークは言ってますけど?」

「……ジーク。今日の夕飯はなしでいいな?」

 

 いきなり羽ばたいたジークは恭也の腕やら背中やらをつつくつつく。

 

「いたっ! や、やめんか、ジーク!」

「ジーク、こら、やめなさい!」

 

 2人して止めるが、ジークは空を飛んで逃げる。それで逃げ切れると思っているのだろう。

 そこで恭也は鋼糸を。あっさり捕らえられるジークである。

 

「さて、どうしてくれようか?」

「あはは。恭也さん、そこまでにしておいてあげてください」

「む。クローゼさんに感謝しておけ、ジーク」

 

 キュ〜と可愛く鳴いて頭を垂れるジーク。

 そうして特に何もないまま2人は孤児院へ。

 何もないと言っても魔獣の気配はそこかしこからするのだが、魔獣の方から逃げていくような感じだ。

 

「もう2ヶ月近く経ちますしね。キョウヤさんの怖さを知ってるんでしょう」

「何やら複雑ですが」

「生物の生存本能が危険と言ってるんでしょうね。キョウヤさんが悪魔にでも見えてるんでしょうか」

「……クローゼさん」

 

 笑って恭也の恨みがましい視線から逃れるクローゼである。

 

「クローゼさん……いえ、クローディア姫にはもう少し慎みを持って頂きたいですね」

「もう、そうやって呼ぶのはやめて下さいと言ってるのに……」

「今は別です。他に誰もいませんしね。いいですか?

 こんな危険な海道を、何度も護衛の目をくらまして1人で孤児院へ出かけられていたとユリアさんから聞きましたが、論外です。

 まったく……まさか大会の時に会った清楚で慎みある姫が、実はこんなお転婆で困った方とは思いにもよりませんでした」

「ひどい、お転婆とか困ったとか。私は普段はちゃんとしてます。少なくともお仕事をサボって釣りをしている人とは違います」

「ですからサボっていたのではなく、単に時間が空いただけです。どこかの姫が伝言をお忘れになられたせいで」

「私だって人間ですから物忘れくらいあります。キョウヤさんこそ普段から釣竿を持ってお仕事に臨まれること自体、問題ですよ?」

「話をすり替えないでもらいたいのですが?」

「キョウヤさんこそ、自分のことを棚に上げてはいけません」

 

 ムッツリ顔の恭也に対し、クローゼはどこまでも笑顔である。

 しばらく突っ立って向かい合っていたが、恭也が根負けして先に目を逸らす。

 

 

 

 

 

「あーーーー、クローゼおねーちゃんとキョウヤおにーちゃんだーーーー!」

 

 

 

 

 

 と、そこで孤児院の窓からこちらに気づいた女の子が大きな声を上げた。

 振り返るとすぐに孤児院の扉が開き、数人の子供たちが駆け寄ってくる。しゃがみこんで頭を撫でるクローゼ。

 

「おねーちゃん!」

「こんにちは、ポーリィ。ダニエルも」

「……うん」

 

 叫んだ女の子はこの孤児院にいる4人の孤児のうちの1人で、金髪に赤いリボンをつけ、

 普段からポ〜ッという言葉を具現化したように何かに見とれていたりすることも多い子だ。

 一方のダニエルという男の子は、額がほぼ見えるほど短い髪で将来はきっとハンサムになるだろうと思われるような顔をしている。

 ちょっと大人しいのだが、クローゼと恭也の訪問に素直に嬉しいと顔に出ているから静かでも逆に微笑ましい。

 

「キョウヤお兄ちゃんもいらっしゃい」

「ああ、マリィ。こんにちは。今日もお邪魔する」

「キョウヤお兄ちゃんとクローゼお姉ちゃんなら大歓迎です」

 

 恭也に話しかけてきた女の子は他の2人より少し年上なだけだが、それでも10歳にも満たない、せいぜい7、8歳ながら、

 お姉さんぶりたいのか、少々おませなところがある子だ。

 

「ん? クラムがいないな?」

「クラムならね、え〜っと……あれ?」

 

 さっきまでそこにいたのに、とマリィはキョロキョロとしている。

 

(……そこの茂みか。ふふ、また奇襲しようと思っているな?)

 

 が、恭也はすでに気配で察している。わざとクローゼや子供たちを引き連れて孤児院に向かおうとしつつ、そのそばを通ってやる。

 

 

 

 

 

「もらったーーーー!」

 

 

 

 

 

 思った通りに出てくるのは帽子をかぶり、ちょっと吊り目がちの男の子。

 細い枝を剣にでも見立てているのか、振りかぶって攻撃してくるが、それを躱して恭也は背後から彼――クラムを捕まえる。

 

「まだまだ甘いぞ、クラム」

「くそ〜、放せ〜〜〜〜!」

「はあ、クラムはこれだからお子様だって言うのよ。キョウヤお兄ちゃんにアンタなんかが敵うわけないでしょ」

 

 マリィが自分もまだまだお子様だろうに呟いた。こういうあたりがおませだというわけである。

 

「キョウヤおにーちゃん、クラムだけずるい〜! 私もだっこ〜!」

「……ぼ、僕も」

 

 そう行って足にしがみついてくるポーリィとダニエルを、恭也は順に抱える。

 代わりに下ろされたクラムは羨ましそうな顔をするのだが、恭也が顔を向けると強気にフンッと顔を逸らしてしまう。

 マリィはクローゼに抱きかかえられてしっかりキープしている辺りはちゃっかりしている。

 

「クラム。腕なら空いているぞ?」

「……い、いいよ、俺は」

「そうか」

 

 差し出した腕を見る者の、クラムはやはり素直でない。まあすでにそういう子だとわかっている。

 と、そこにジークが止まる。そしてクラムに「いいだろ〜」とでも言うように一鳴き。

 

「あ、この野郎!」

「おっと」

 

 クラムはそうされるとやはり悔しいのか奪い返すように恭也の腕に飛びつく。

 ジークは当然空に飛んで逃げ、クローゼの肩に止まる。

 クラムは結局追うことはなく、そのまま恭也の腕にぶら下がったままだ。

 ジークに恭也はよくやったと笑いかけ、ジークも返すようにもう一鳴き。

 

「いらっしゃい、クローゼさん、キョウヤさん」

 

 そして遅れて孤児院から出てくる、孤児院の院長である女性。

 

「こんにちは、院長先生。今日もお邪魔します」

「お世話になります、テレサ院長」

「いいえ、よく来てくれましたね」

 

 すでにクローゼは入学以来から、恭也も彼女の護衛を始めてすぐだからすでに2ヶ月の付き合い。

 3人は簡単な会釈をし合いつつ、はしゃぐ子供たちに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレサ院長がお菓子を作るとなって僅かに材料が足りないとのこと。

 恭也とクローゼは近くのマノリア村へ買出しに出ることにした。子供たちも恭也がいるのだからと一緒に。

 

「おい、クラム。先に行き過ぎるな、危ないぞ」

「大丈夫だって!」

「そうか。だがしっかりとマリィとポーリィを護ってやれ。ダニエルみたいにな」

「キョウヤ兄ちゃんが言うならしょうがないな。おら、しっかりついて来い、お前ら!」

「アンタね、もうちょっとゆっくり歩きなさいよ。紳士なら女性のスピードに合わせるものよ?」

「お前らみたいな遅い奴に合わせてたら日が暮れるっての」

 

 クラムとマリィはこういうやり取りがいつものこと。

 クローゼと苦笑する恭也である。

 

「最近は懐いてくれるようになってよかったですよ」

「ああ、クラムくんですね」

 

 2ヶ月前、ルーアンに着任してから初めてクローゼの護衛でここを訪れた際、

 子供たちは少々恭也の近寄り難い雰囲気に戸惑っていた。

 クラムに至ってはあからさまに嫌悪感丸出しだったものだ。

 恭也もはっきり言って自分の醸し出す空気にはなんとなしに気づいているのだが、直すことができないので参っていたところ……

 

 

 

 

 

『クローゼお姉ちゃんが彼氏連れてきたーーーー!!』

 

 

 

 

 

 マリィのこの一言で恭也とクローゼが真っ赤になってアタフタする姿は、子供たちの恭也への戸惑いを一掃するのに充分だった。

 やはりクラムだけは素直でないため、クローゼに悪い虫が付いたと言ってはああして攻撃してくるところは変わらなかった。

 だがいつの間にかそれが楽しみになったのか、クラムも男の子。

 剣士であることと、準遊撃士とは言え遊撃士の職にあること。

 さらに恭也の護衛の際の強さを目にして、クラムはある意味一番恭也に懐き始めた。

 

「さっきも剣を教えろとせがまれました」

「毎回奇襲してきますけど、最近、私もクラムくんの気配を察しにくくなってきました」

「そうですか? クラムはまだまだ気配を殺せてませんよ?」

「キョウヤさん。子供にそんなことまで教えなくていいですからね?」

「む……気をつけます」

 

 恭也は自分で思っているより教え方というものが上手い。

 指導者のとしての恭也の素質が、クラムに面白半分とは言え教えていることに影響しているのだろう。

 最近、少し本気でクラムに剣を教えてやるのもいいかもなと思っている。

 もちろん御神の剣を教えるわけではない。単に基礎的なことを、だ。

 

「さて、何を買うんですか?」

「えっと、頼まれたものは……卵とミルク、あとはリンゴとオリーブオイルですね」

 

 多分料理の後にお菓子を作るんでしょうと言ってクローゼは店でそれらを買っていく。

 恭也はその間、子供たちのお守と、ついでにその絶景を堪能する。

 ルーアンは景観の良さで知られる観光の街でもあり、ルーアン市だけでなく地方全体で言えることだが、

 特にマノリア村は海を見るなら最適な場所でもあった。

 

「う〜む、ここは釣りポイントだぞ……今度時間があったら是非に」

 

 すでに今日釣りをしていた場所も仕事中に見つけた穴場であった。

 釣った魚は初めから夕飯にでも使おうと思っていたので、テレサ院長に渡して今は夕飯まで冷凍してもらっている。

 

「ん? マリィ、クラムはどこに行った?」

「あれ?……もう、あのおバカ、またどっか行ったー!」

「やれやれ……」

 

 絶景に見惚れてはいたが、恭也とてそこまで間抜けてはいない。

 海道に出ようとしたらすぐにわかる位置にいたし、ボースに通じる山道には決して行くなといつも言い聞かせてある。

 クラムもそこまで無茶をする子ではない。以前、魔獣に襲われている所を助けた際に怖さはわかっているだろうし。

 ちなみにその時の事があって、クラムは恭也の言うことを聞くようになったわけだが。

 

「クラムくんはまたどこかに?」

「ああ、すいません。海道には出てないはずです。山道にも行かないように言ってありますし」

「じゃあ私が山道の方まで見に行ってみます」

「わかりました。俺はこの周囲をもう一度見てきます」

 

 子供たちはしっかりしているマリィに任せる。ポーリィとダニエルはマリィの言うことはよく聞くので心配いらないだろう。

 しばらく見回ったものの、建物の陰などにもいない。

 マリィたちの元にも戻ってないのを確認し、クローゼが向かった方に行ってみるかと走り出す。

 すると前方から2人の少年少女が。

 黒い髪に琥珀色の瞳の、穏やかそうな少年。一方の少女は茶色の髪をツインテールにして、活発そうなイメージを受ける。

 見た感じ、結構できると判断。少年は二刀の剣を持ち、少女はどうやら棒を。

 

(ん? 二刀の剣に棒?)

 

 何となく浮かんだ疑問。どこか聞き覚えがある。が、今はそれよりも、とその2人に声をかける。

 クローゼがすでに声をかけているかもしれないが……。

 

「すまないが聞きたいことがあるんだ。ここら辺で帽子をかぶった小さい男の子に会わなかっただろうか?」

「あ〜、それならさっきも聞かれましたけど、見てないです」

 

 少女の方が苦笑しながら応える。やはりクローゼが先に聞いていたらしい。

 

「あの、僕たちも探しましょうか?」

「ああ、いや、すまない。俺たちだけで大丈夫だと思うから気にしないでくれ」

「……あの〜、もしかして遊撃士の方ですか?」

「ん? ああ、そうだが……ああ、やはり君たちも遊撃士か。そのバッジなら俺と同じ準遊撃士だな」

 

 恭也も懐のバッジをクイッと押し出して彼らに見えるように。

 と、そこにジークが飛んできた。恭也の差し出した腕に止まると少女が「へえ〜」と声を出した。

 頭を振るジークに、どうやらクローゼのほうもまだ見つかっていないと察する。

 

「ふむ、ならば俺がもう一度山道の方を探そう。ジーク、お前はクローゼさんにマリィたちの方に戻るよう伝えてくれ」

 

 翼を広げて鳴くジーク。了解したと言うことだろう。

 そのまま今来た方向へ飛んで行く。

 

「悪いが急いでいるのでな。失礼する」

 

 鳥に声をかけていたからだろう。疑問のような表情を浮かべている2人に苦笑しながら恭也は駆ける。

 途中で戻ってきたクローゼと鉢合わせ。

 とりあえず山道の方に少し足を伸ばしてみると言って恭也は向かう。

 

「まだ昼時とは言え、山道は危険だからな。装備をまず確認しておかんと」

 

 ボースから来る際にこの辺の魔獣は把握している。戦術オーブメントを取り出し、適した配置へ。

 と、そこにジークが。

 再び恭也の腕に止まると羽を羽ばたかせ、顔を村の方に何度も突き出すように。

 

「戻って来い、か。とするとクローゼさんが見つけたのか」

 

 肯定するように頭を縦に振るジーク。

 

「そうか、それはよかった。では戻るとしよう。少しクラムには言い聞かせんといかんな」

 

 走って戻ると、買い物をした店の前にクローゼと子供たちが。その中にクラムの姿もあった。

 

「クラム、どこに行っていたんだ? 心配したぞ」

「へへ〜、ごめんごめん。でもいいもの取ってきたんだぜ! これで俺もキョウヤ兄ちゃんと一緒だ!」

「? 何がだ?」

「へへ、内緒内緒。夕飯のときにでも教えてやるって」

 

 得意げな顔をするクラム。まあいいと判断し、孤児院への帰路へ。

 

「準遊撃士の方が見つけて下さったんです」

「と言うと、2人連れの?」

「はい。お会いになったんですか?」

「ええ、クローゼさんと同じ質問をしてしまったらしくて、笑っていましたね」

 

 準遊撃士で旅をしているということは推薦状をもらう旅をしているのだろう。とするといずれルーアン支部で会うかもしれない。

 そこで恭也は再びさっき感じた疑問を思い出す。

 二刀使いと棒使いの2人。確かカシウスがそんなことを言っていた気がする。

 雰囲気的にも聞いていた通りの2人だ。

 

「どうかしました?」

「いや、ちょっと思い出したことがありまして。さて、着きましたね」

「あ、ご苦労様。2人とも、あとはゆっくりしていて。これからアップルパイを焼こうと思うの」

 

 テレサ院長は料理だけでなくお菓子作りも上手い。

 クローゼが手伝わせてくださいと一緒に台所へ。料理やお菓子作りを彼女はテレサ院長に教わることがここしばらく多い。

 

(そう言えば以前、俺が作った時に何やら悔しそうな顔をしていたが……まさか俺のせいか?)

 

 今更気づく恭也である。

 しばらくすると何やら外の気配が騒がしい。

 

(……ん? 気配が増えている? この気配、さっきの……)

 

 とりあえず台所にいる2人は気づいていないので、恭也が外を見る。

 窓から見ると予想通り、先ほどの2人の少年少女がいる。だが何やら少女の方が怒っているのか、クラムに怒鳴っているようだ。

 

「……また何かクラムがやらかしたか?」

 

 そうだとしても、あの時は特に何も言ってなかったのに、わざわざここに来てまでクラムと言い合いというのもおかしい。

 扉を開いて声をかける。

 さすがにクラムを羽交い絞めにする少女には少々厳しい目を向ける。

 

「その子が君たちに何をしたか知らないが、とりあえず放してやってくれないか。話なら聞こう」

 

 準遊撃士ともあろう者が子供相手に喧嘩を売るとは思えないが。

 先ほど会った恭也に多少驚いている2人と、しばし恭也は見据え合うのであった。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  FLANKERです。

  今回は対話形式じゃないのが残念ですが、とりあえず7話を投稿と相成りました〜。

  いきなりルーアンにきてますが、その前に冒頭の部分ですでに前話から4ヶ月経っております。

  で、エステルたちと会ったときはすでに前話から半年ほどと。

  つまり今話終了時点で恭也は1年間を空の軌跡世界で過ごしているわけです。

  ついにエステルとヨシュアとも出会い、本格的にFCに恭也が絡んでいきますので〜!

 

  ennaです。

  はい、というわけで7話をお送りしました。

  今回はクローゼとの再会やなのはの方の場面展開など、様々に動き出しました。

  ルーアン編はまだ序盤。これからどうなっていくのか、どうぞお楽しみに!

  では、これにてー。

 

  こん○○わ、シンフォンです。

  ついに、FC時間軸スタートな第7話。ゲーム中での正主人公sも登場し、恭也と出会いましたね。

  そして、なのはサイドにも動きが。恭也がいなくなって随分経ちますし、精神的にかなりまいってきてますね。

  そんな彼女に対して、管理局のとる指針は……ぅぅ、この辺の対応を考えた身としては、なのはに申し訳ない(^^;;

  恭也とクローゼ、そして彼女達がどんな風に交流を深めていくか、私も先が楽しみです。

 

  というわけで、いかがでしたでしょうか。いつの間にか組み込まれていたクレです。

  クローゼと恭也がいい感じ(私の主観ですがw)の中、ついにあの2人が最後に登場しました。

  「空の軌跡」のあの2人ですw

  これでいよいよ恭也も本筋とも言うべきものに関わり始めますが、どうなるか私にもわかりません。

  恭也というイレギュラーファクターを含んだこのお話がどう展開していくのか。

  FLANKERさんの手腕に期待しつつ私自身も楽しみに待ちたいと思いますw





なのはがちょっと可哀想だな。
美姫 「本当に。一人、信じて探して周るなのは」
ようやく手掛かりを見つけたけれど、どうなるんだろう。
美姫 「とっても気になるわね」
うんうん。恭也の方は、こっちの世界にも慣れたみたいだな。
美姫 「クローゼや子供たちと仲良くしてるわね」
だな。いよいよエステルたちと出会い、って所で次回。
美姫 「ああ、早く続きが読みたい〜」
いや、本当に。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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