よりいっそうの盛り上がりを見せる王都グランセル東街区のグランアリーナ。

 すでに本戦も準決勝――2回戦の第2試合まで進んでいる。

 

『さあ今年はまた驚く選手が多い中で、ここまで順当に駒を進めてきたのはやはりさすがと言うべきか、

 それとももっともと評すべきか!? 青コーナー、誰もが知る救国の英雄にして遊撃士協会ロレント支部所属のA級遊撃士、

 カシウス・ブライトーーーー!!』

 

 これまで、その名を告げられるたびに観客席に音の波が広がっていた。

 そして今、準決勝という舞台を前に多くの声援には一際熱が篭り、轟音となってアリーナ中を叩いた。

 本日最高潮の声援が寄せられる中、向かいの鉄格子が開いて棒を持つ1人の男性が登場する。

 それほどの声援と司会兼審判の紹介なのだが、彼の態度は頭をかいて「参ったな……」というものだった。

 しかしそんな彼に対しての声援に興醒めたところはない。むしろ英雄のお茶目な部分とでも映ったのかもしれない。

 恭也は顔の前に立てていた『八景』を納めると、椅子からゆっくりと立ち上がった。

 すでに目はカシウスに。彼もまた、すでにその目をこちらへ向けてきている。

 

『そんな彼に挑むは赤コーナー、今年初出場ながらその若い年齢と準遊撃士とは思えない快進撃を見せる、

 遊撃士協会王都支部所属、キョウヤ・タカマチ!!』

 

 鉄格子が開く。ほんの少しだけ目を閉じ、一拍置いてから歩を進める。

 声援はカシウスの名残があるのか、しかし比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの轟音。

 だが恭也の耳にそれは雑音でしかなく、目も神経も全ての思考も、ただ1人――正面に佇むカシウス1人に向いている。

 踏みしめて行く芝のサクサクという音が、轟音の声援にも拘らずやけに耳に入る。

 

(はは、感覚が鋭敏になっている……そう言えば心臓もさっきから痛いな。それだけ俺もこの人に魅かれているのか)

 

 一歩ごとに近づくカシウス。近づけばその姿が大きく鮮明に見えてくるのは当たり前だが、

 恭也には明らかに物理的なそれ以上の大きさに見えていた。

 それは闘気とでも言えばいいのか……しかし、カシウスに目立った動きなどない。睨むわけでもなし、咆えるでもなし……。

 ただ静かにそこに在り、僅かに唇の端を上げ、誰でも好感を抱くだろう笑みを浮かべているだけ。

 

「確か数日前に王都支部で会ったな。なるほど、気配の澄まし方や探り方からして只者でないとは思っていたが、

 この武術大会を準遊撃士でありながらここまで上り詰めるとは……いやいや、予想以上だ」

「それほどではありません。貴方と違ってこれでもいっぱいいっぱいですよ」

「よく言うじゃないか」

 

 所定の位置につき、僅かに言葉を交わす。その間も目は互いの目を捉えて離さない。

 観客にそれがわかったとは思えないが、睨み合っているとでも取ったのか、両雄のすでにやる気満々の態度を感じたのか、

 審判への開始合図の催促や、「ぶっ飛ばせ」だの「やっちまえ」だのと、過激な言葉が飛び交い出している。

 

『それでは! 観客の皆様の熱がすでにヒートアップしているので、早くも始めたいと思います! 両者、いいですか!?』

 

 コクリと頷く。目はそのまま、首だけで。

 

『おっと、やる気充分! では……本戦準決勝第2試合――――始め!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空と翼の軌跡

LOCUS OF 6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初撃から打って出たのは恭也。

『剣聖』、『英雄』と呼ばれる相手にも怯むことなく果敢に挑む恭也に、観客はのっけからスパートをかけるような声援を送る。

 

「キョウヤさんは小太刀二刀使い。対してカシウスさんは棒……どう見ますか、ユリアさん?」

 

 試合開始に間に合ったクローゼとユリアは、特別観戦席の女王より前に止まって見ているジークに苦笑しつつ、

 ジークのことを言えないほど内心ではこの戦いに、いい意味で心騒がせていた。

 

「手数ならキョウヤのほうが上、間合いならカシウス殿が有利。そう見るのが定石ですね」

 

 手数が有利なのは見た目からも当たり前で、刀1本よりはるかに取り回しやすく、小太刀ゆえの軽さと、

 2本ゆえの、切り返す手間要らずの連続攻撃は明白な恭也の長所だろう。

 対するカシウスは長柄の棒。達人となると間合いとは実際の攻防より熾烈になるもの。間合いの防衛と、相手の間合いへの侵略。

 その点において長柄は相手の間合いの侵略が容易。

 

「開始位置は中距離です。つまりカシウス殿に有利。それをキョウヤはわかっていました」

「開始と同時に"シルフェンウィング"で距離を詰め、カシウスさんの棒の間合いを逆に侵しましたね」

 

 棒による間合いの侵略に対し、恭也の小太刀は言わば欠点とも言える。

 刀より短い小太刀ゆえ、なおさら有効範囲は短い。

 故に、開始地点がすでに棒にとって攻撃範囲にも近い中距離なら、すでに不利な状況から始まっていると同義なのだ。

 

「とは言え、『剣聖』『英雄』と呼ばれる相手。しかもそれを知っていて、

 すでにその実力も垣間見ていながら果敢にその懐へ飛び込む……これは蛮勇とも取れますが、キョウヤさんの場合は違いますね」

「はい。むしろあそこは引くより攻めるべきでしょう。実力差があるとわかっているのです。

 ならば引いて様子見など、慎重に見えて逆に間違い。キョウヤの行動は正しい選択にして、しかし勇気無き者にはできないこと」

 

 恭也が右の小太刀を振るう。カシウスが棒の端で受け止める。ならば左の小太刀で横薙ぎに。

 僅かに棒の端を動かし、先端で見事に受け止めたカシウス。

 そこで恭也が体重を右の小太刀に乗せ、棒の均衡を崩すことでカシウスに左の小太刀を当てようとする。

 が、棒はびくともしない。カシウスは恭也の力押しを腰を少し落として流してしまった。

 しかも棒にその振動はまるでなく、完璧に固定されている。

 

「鍔競り合うのでしょうか?」

「いえ、それは危険です」

 

 ユリアの言葉が聞こえているわけがない。きっと恭也も同じ判断をしたのだろう。

 蹴り。カシウスの左膝へ。

 

「的確な攻撃ですね」

 

 恭也の力押しを流したのはまさにそこだ。だからそこを崩せばカシウスは体勢を崩す。

 膝を踏み潰さんと下ろされた一撃。が。

 

「ぬん!」

 

 クローゼたちにまで聞こえた気合。カシウスは膝への攻撃を耐えた。衝撃はあるはず。でも棒はまだ動かない。

 恭也にとっては石でも相手にしているようなものではないだろうか。

 石などではない。でも、確かに今のカシウスは石の如くだった。

 だが恭也の蹴りに耐えたと思った瞬間、左半身を引き、その場で回転をかけた。

 崩す攻撃をしたはずの恭也が、逆に崩される。

 小太刀は止めていた棒が動いたことで斬り下ろしと薙ぎを行うが、すでに有効範囲内にカシウスはいなかった。

 僅かに指1本程度の距離をあけ、互いの体が交差する。

 

「くっ!」

「せりゃあ!」

 

 回転薙ぎが恭也の頭の上を駆け抜ける。

 かろうじて直前に地に這いつくばるように恭也は屈んだ。動きは止めない。回避の動きは、そのまま足払いへと連動する。

 

「おっと!」

 

 カシウスは跳躍。しかも恭也の足が通り過ぎた瞬間に棒を突き立て、それを軸に回転して蹴り。

 咄嗟に左腕で防御した恭也だが、その威力に堪えきれず、横へ飛ばされる。

 受身を取ると同時に後方バク転。立ち上がる。

 追撃はない。

 立ち上がった恭也の視線の先で、構えられた棒の先端がこちらの機先を逸らすように微かに震えている。

 カシウスは笑っていた――――楽しそうに。

 その笑みに見覚えがある。

 教え子、弟子――自分達の成長を見守る父・士郎に通じるものであり、

 恭也自身も――自分の浮かべている表情は見えないが――妹・美由希との打ち合いの中で時折見せるものだった。

 

「「…………」」

 

 クローゼとユリアに会話はいらなくなった。もう説明や評価などいらないしできない。

 目まぐるしい今の攻防に、説明など追いつかない。それにそんなものはもう無粋な気がしたのだ。

 すでに観客も静か。気づけば誰しもが声を出せないというふうだ。

 が、思い出したように観客が我に返り、今日間違いなく最高潮の声援を両雄に送り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くそっ、まるで読めない……!)

 

 無闇に連続攻撃を仕掛けていたわけではない。上手く距離を詰め、先手を取った恭也。

 これまでの相手と違ってカシウスの情報はほとんどないに等しかった。

 様子見などしている余裕はない。ゆえに絶え間ない攻撃を繰り返すことで集めようとしたのだ。

 何の情報か?――そんなもの、カシウスの防御を見切るためのものだ。そう、『貫』のためだ。

 

(いや、読めないんじゃないな。明らかにこの人は……気づいてパターンを変えている)

 

 最初は防御を僅かに通り抜ける隙間を見つけた。カシウスとて僅かに目を瞠ったような気配があったのだ。

 だがそれが2、3度あった後、その隙間が明らかに捉えられなくなった。

 むしろそれまでにない防御動作が入ってきたりして、恭也が捉えられた情報など、

 逆に自分の攻撃を固定化してしまいかねないものになってしまったのだ。

 

「あれは何かの技かな? 一瞬、俺の防御をすり抜けてきたような感覚だったんだが……」

「俺の流派の極意の1つです」

「なるほど。とりあえず応急的にパターンを変えてみたが、どうやらそれで当たりだったか?」

「……応急的に、ですか」

 

 すぐさま自分の攻撃や防御パターンを返ることができるなど、それだけでも参ったもんだと苦笑する。

 それ以前にすぐに対処法に思い至っている辺りで、それだけカシウスの戦闘経験は豊富で、判断速度は早いとわかってしまう。 

 

(……ならば)

 

 精神を集中。己の懐にある戦術オーブメントに意識を向ける。

 

「それにしても、二刀使いに慣れていらっしゃるような動きでしたね?」

「ん? ああ、慣れていると言えば慣れているぞ。息子が君と同じ二刀使いなもんでな。

 そう言えば君はいろいろと息子に似ているな。黒い髪といい、二刀使いといい……読みが鋭い辺りといい」

 

 しっかり恭也の中身も観察しているらしいカシウス。本当に侮れない人だと改めて思う。

 この会話は単なる時間稼ぎ。なのにその会話をするだけで自分が読まれてしまいそうだ。

 ポーカーフェイスやら心の内を見せないような鍛錬もしているのだが、このカシウス相手にはそれも無駄に思わされる。

 

「服の中に隠している小刀、使わないのか? 俺が見ていた限り、一度も使っていないが」

「…………」

「気にしているのか? こういう正々堂々の勝負の場で、そうした暗器を使うことを」

 

 それは確かにある。そもそも御神の技をこういう公式の、大衆の前で見せることは憚られる。

 だから恭也は小刀も飛針を使わず、小太刀だけでやってきた。

 

「何か理由があるなら仕方ないな。だが俺は使われても構わないぞ? もうわかっているしな。それに……」

 

 暗器とは隠し持っているからこそ意味があり、ばれてしまうとその意味はそれだけで半減するものではある。

 

「俺はそんなもんじゃ負けてやらんぞ? 心配するな」

「……はは、面白い人ですね」

「はっはっは。2人の子持ちだが、まだまだ俺は若い。現役ばりばりの男だ。カモン、青年!」

 

 まあ実際にカシウスは2人の子持ちとは思えないほどに若く見える。

 まだまだ30代前半でも通るのではないのだろうか。

 

(……この人、とーさんじゃないだろうな?)

 

 士郎も正直言うと若く見える。桃子もかなり若く見える――彼女はまだ事実として30代――わけだが。

 しかし士郎とカシウスは本当に似すぎではないだろうか?

 性格といい態度といい外見的な若さといい……。

 苦笑しつつ、『八景』を鞘に納める。

 もう時間稼ぎも充分。仕掛ける!

 すでに会話のうちに"クロックアップ"をかけて動きの速度を上げている。

 さらに集中。もうこれはさっきも使ったし、かなり使い勝手がいいので何度も使っているため、イメージも一瞬で構築。

 慣れが構築速度を上げ、それでも精度を損なわずに。

 

 "シルフェンウィング"

 

 

 

 

 

『御神流 奥義之壱 "虎切"』

 

 

 

 

 

 移動速度を瞬間的に上げる"シルフェンウィング"と、速度上昇を一定時間維持する"クロックアップ"により、

 恭也の動きは"神速"には劣るものの、相当なまでに上昇していた。

 距離があるが、移動速度の上昇と"射抜"に次ぐ長射程の"虎切"なら全く問題はない。

 

「はっははは、そうはいかんぞ、青年!」

 

 が、カシウスはそれも受け流す。棒を立て、恭也の高速居合い斬りを受けたと同時に棒を横に流して。

 

「っ、貴方も会話の間に"クロックアップ"を?」

「ふふふ、俺を出し抜けると思ったか? 甘い、甘いぞ!」

 

 今度はカシウスが仕掛ける。

 受けられた小太刀を軸に翻った棒をかわす。

 が、後の先を取られた。回避する恭也を貫くように、無数の突きが恭也を襲った。

 

"百烈撃"!」

 

 それは、突きの弾幕。すでにカシウスの両腕は点として捉えられない。

 同じ"クロックアップ"をかけているのに、効果レベルが違う。

 精度の違い――それはつまり、精神力とイメージ力、想像力の差だ。

『二刀使いだから手数で有利』などと、そんなものは何の意味もないというかのような連撃。

 

「くっ……"花菱"!」

 

 応戦。しかし中身は防戦。

 

「そらそらそらそらそらそらッ!」

 

 遊ばれている? いや、実際恭也のレベルでもカシウスにしたらその程度なのだろう。

 でも遊んでいるというレベルの攻撃でもないはず。

 彼の調子のいい声。その一声の間に1撃どころか2撃はくる。さらに一撃が重い。

 弾く、流す。

 悲鳴をあげる刀身。

 ともすれば手から弾かれそうな二刀をもって、恭也は捌き続けた。

 

(まともに受けてたら骨が折れるぞ……!)

 

 火のクオーツでも使っているとしか思えないのだが……いや、彼なら同じ会話の時間で2つのアーツを重ねがけできるだろう。

 元々戦術オーブメントの扱いは恭也もなれたと言ってもまだまだ半年。対して彼はずっと使い続けてきているのだから。

 練度が違う。経験の量が違う。

 やはり…………格が違う。

 

「どうした、青年!? その程度ではないだろう!」

「本当にあなたを話していると……父を思い出しますよ……!」

「ほほう、俺に似ているのか? そりゃさぞかし立派な方なんだろうな!」

「いえ、小さい頃は武者修行に連れて行かれた上、暗い山の中に放り出されたりしたもんですよ……!」

 

 小太刀は刀より軽い分、逆に重い攻撃に耐えにくい。

 それも恭也の場合は小太刀二刀。つまり片腕で1本を操るため、両手で操るより重い攻撃には腕が持たなくなる。

 

 "シルフェンウィング"

 

 後退。何も攻撃に使うだけのアーツではない。

 

「逃がさんぞー! ほぉれ、"ファイアボルト改"!」

 

 数発の火弾。火属性の中ではだいたい中級クラスの攻撃アーツ。

 だが生成が早い。狐火のようにポッと現れ、途端に射出。さらにカシウス自身も突進してくる。

 

「――使わせてもらいます!」

「お?――っと、危なっ!」

 

『皓月』を納刀。直後に手首の力を操作。反応して出てくる――飛針。投擲。狙うは火弾。

 

「おっとっとっとっと!?」

 

 火弾と並走に近い距離で詰めていたカシウス。飛針の投擲により火弾は接触と同時に爆発し、カシウスの視界を塞ぐ。

 そこを突く。煙を逆に恭也のほうから抜けて斬りつけ。

 

御神流 『斬』!」

 

 カシウスの防御。その棒に触れた瞬間、引き斬るように。

 火花が散る。そしてカシウスの棒が――両断された。

 

――――今!

 

『皓月』を抜刀。抜刀より始まる小太刀二刀の舞。

 

『御神流 奥義之弐 "虎乱"』

 

「おいおいおいおい、ちょっとタンマだろ、ここは!」

「貴方相手にそんな余裕は俺にはないですから」

 

 だいたいタンマとか言いながら折れた棒で受けているし。しかもその受け方、雑どころか……。

 

(そう言えば、さっき二刀使いの息子さんがいると言ってたな……)

 

 教えていると言うならカシウスも多少なり心得があってもおかしくない。

 それに彼は『剣聖』と呼ばれた男。今の彼の折れた棒の持ち方は……ほとんど恭也と同じ、『剣』の持ち方。

 折れた棒の長さは小太刀よりは長いが……まさに『小太刀二刀』対『二刀』。

 

『これは面白い展開になりました! 武器を折られてあわやピンチかと思いきや、二刀使い同士の戦いのようにーーーー!』

 

 非難の言葉が来るかと思っていたが、観客には恭也の飛針は見えなかったらしい。

 まあ火弾もカシウスも相当近寄ってきていたし、投擲の数瞬後には命中して爆発だから尚更だろう。

 観客からすれば恭也が押されてきたと思いきや反撃し、さらにカシウスの武器を折って形勢逆転……に見えたのに、

 今度はカシウスが二刀使いのように折れた棒で受けきっている。

 ブーイングどころかますます過熱する要素の方が圧倒的だった。

 

「ほっ、おっ、よっ――っと! さすがに二刀同士では君の方が上みたいだな……となると、ここは後退させてもらうぞ!」

 

 恭也の小太刀を弾き、後方へ跳躍するカシウス。

 さすがに二刀の扱いまで恭也並みとはいかないらしい。そうとわかった以上、勝機はそこにある。

 

"シルフェンウィング"!」

 

 追撃。力押しでもいい。通用しているのだから。押し切って――

 

「ほうれ!」

「なっ――くっ!」

 

 反射的に顔がのけ反った。『皓月』で何とか弾く。

 飛んできたのは……カシウスの棒の一方。さすがに予想していなかった。

 

「――っ!」

 

 詰めきれない。一瞬で判断した……いや、させられたと言うべきか。

 

 

 

 

 

 カシウスの闘気に。

 

 

 

 

 

「参った参った。二刀じゃとても敵わんが、かと言って棒もこの通り。

 だが青年。棒術ってのは何も長い棒でしかできないわけじゃないぞ?」

 

 その闘気。それこそ『英雄』。

 肌で感じる脅威。前方から張りでつつかれそうな感覚。

 

『おお! カシウス選手、なんと折れた棒の片方だけでやるというのか!?』

 

 アリーナが揺れた。その狂ったような大声援は、小太刀を揺さぶりそうなほどの振動を伝える。

 

「……行きます、カシウスさん」

「いい目だ、青年……行くぞ!」

 

 カシウスが先制……いや、恭也も同時に動く。

 まず一合。二合、三合。

 回避、斬り上げ。受けられたら逆の小太刀で。しかし払われ、迎撃される。

 

(手数有利なんてものはこの人の実力の前には無意味か)

 

 量と質。よく並べられる2つの要素だが、質は高ければ量を上回る。量は多ければ多いほど質を凌駕する。

 論理としてはそれでいいかもしれない。

 だが事ここに至ってはそんなものは大した問題ではないのかもしれない。

 手数の量に意味はない。カシウスの質の高さの前に……圧倒的なまでの研ぎ澄まされ、ある到達点に達した技に、

 数の論理は通用しなかった。

 後退するか?――否。そんな余裕すらない。

 

「しっ!」

「っ!」

 

『八景』が恭也の手から離れた。宙を回転する『八景』。

 カシウスの一際強い斬り上げだった。それゆえに、その瞬間こそ距離を取るチャンス。

 下がる。でも下がって時間を置く気はない。攻めを緩ませたら終わりだ。

 2刀でこその恭也。1刀になってしまった以上、勝機はない。

 

 だが!

 

 振り切っているカシウスの今の体勢ならば、そこにこそつけこむ隙はある!

 

 それこそ、最後のチャンス!

 

『皓月』を引く。突きの体勢。"シルフェンウィング"を用意……する暇はない。

 ならば……"射抜"に本来必要な突進速度を得るには……?

 

 

 

 

 

――――"神速"以外にない!

 

 

 

 

 

御神流 奥義之参――――"射抜"!!」

 

 

 

 

 

 "神速"をかける。

 研ぎ澄まされた知覚は視界から色を奪い、恭也の心臓をドクンと強く脈打ち、時の進行を限りなく鈍らせた。

 恭也以外の時の進行を。もちろんそれでも恭也も多少速く動ける程度ではあるが。

 

「!?」

 

 さすがにカシウスもやっと明白な驚きを顔にしている。だが恭也の目にあるのは彼の得物――棒。

 さすがに彼に突き刺すわけにはいかない。だから得物を奪う。

 棒使いが棒を折られてしまえば、それは剣士が剣を折られるのと同義。

 

「おおおおおおおお!」

 

 "神速"解除。と同時に放つ。

 恭也の突きは、それこそ打ち出すというより射出と言った方がいいほどに高速。

 そして見事、カシウスの棒を砕いた。カシウス本人は身を躱すのが精一杯だったようだ。

 

「せいりゃああああ!」

「ぐあっ!」

 

 しかし彼もそれゆえの反射的反撃を。通り過ぎる恭也の背中に蹴り。まともに喰らってしまう。

 倒れこむ。"神速"をかけたせいもあって、心臓と肺がけたたましく酸素を要求している。

 苦しい。咳き込む。

 だが終わりじゃない。カシウスは確かに『剣』を砕かれたが、この反撃はまだやる気だ。まだ終わっていない。

 気配が。真後ろ。向かってくる。誰?――そんな馬鹿な問いは無意味。

『皓月』を手に振り向き、薙ぐ。が、弾かれ、『皓月』もまた宙を舞った。

 

「ここまで……だな」

 

 そして正面には棒――先ほど手放していたもう片方の棒を突きつけるカシウスが。

 

「…………いい勝負だった、青年」

 

 よく言う。

 全身の熱とともに霧散していく緊張の中で、荒く肩を上下させながら恭也はカシウスに振り返った。

 そこには、変わらぬカシウスの笑みがあった。

 

――――そう……変わらない。

 

 あれだけの攻防の中で、カシウスは未だ息を乱していない。

 手を抜かれたわけではない。

 それでも、戦いの中でその事実に気づけなかった程、恭也とカシウスには差があったことを痛感した。

 男としては悔しく、剣士としても悔しい気持ちがある。

 だが、それ以上にまだまだ先があることを感じ、震える心もあった。

 

「…………降参です」

 

両手を挙げて俯く。

 

『…………はっ!? あ、え〜っと……キ、キョウヤ選手、ここで降参!

 ということで、準決勝第2試合勝者は、カシウス・ブライト選手!!』

 

 一拍遅れて、カシウスと、彼が差し出した手を取る恭也に向けて、惜しみない拍手と声援が送り出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼」

 

 そう言って医務室に入る。中では丁度治療も終わったのか、青年が服を着だしていた時だった。

 そこでカシウスはほんの一瞬だったが、彼の体の傷が見えた。

 一生消えない刀傷。同じものがあるカシウスだからこそ、その意味はよくわかる。

 とりあえずそちらには触れず、まずは謝罪を。

 

「悪かったな。つい手加減なしに蹴りをだしてしまった」

「いえ。こちらこそ、武器を折ってしまって……弁償の方を」

「ああ、いらんいらん。ちゃんと代えの棒だってあるし、なけりゃ買えばいいんだから」

「しかしですね……」

「細かいことを気にするな。戦うんだ。武器が壊れることくらい当たり前だ。

 それに、棒1本くらいで若いモンに金払えなんて、そこまでケチケチした人間じゃないぞ、俺も」

 

 これでも結構な高級取りだ。A級――本当はS級――となると、高額の依頼も多い。

 カシウスとしては依頼金額で動くというわけではないので、むしろ高額の依頼は協会の方から来る。

 とりあえず傷は大したこともないらしい。痣ができてしまっているようだが。

 治療も終わったのなら医務室ではなんなのでと、カシウスは恭也と医務室を出て選手待機室へ。

 すでに選手も残すところカシウスともう1人の決勝進出者のみなので、カシウスの青コーナー待機室には誰もいない。

 

「改めて自己紹介でもしとこうか。俺はカシウス・ブライト。ロレント支部の遊撃士だ」

「ユリアさんとエルナンさんからよくお聞きしています。王都支部所属の準遊撃士、高町恭也です」

 

 カシウスも恭也のことはよく聞いていると言えないことはなかった。

 噂などではない。直に恭也のことは聞いていたのだ。

 別世界から来た人間だとかどうとか。

 

「……なぜカシウスさんがそれを?」

「ああ、ラッセル博士とは懇意にしていてな。よく聞いてるんだ。

 王城侵入者の上、ティータの勉強から逃げる困ったお兄ちゃんだ、ともな」

 

 途端に渋い顔になる恭也に、カシウスは意地の悪い笑みを浮かべてやった。

 秘密事項だったのだろう。恭也が呆れながら一言「博士……」と呟いてため息をついた。

 

「はは、君もマードック工房長と同じで博士に振り回されているらしいな。

 あの方は有能に間違いないんだが、根っからの研究開発者でな。茶目っ気があるといえば可愛く聞こえるんだが……」

「あれを茶目っ気で済ますのはどうかと……」

「確かにな。まあ、とりあえず俺は博士や工房長とも顔見知りでな。あとユリアやシードともだ」

 

 恭也もカシウスがユリアの剣の師だとは聞いていたらしいが、シードとまで知り合いだったことは知らなかったようだ。

 

「実にいい試合をさせてもらった。異世界の剣技……いや、すごいもんだな。最後のアレにはさすがにビックリだ」

 

 あの動き……最初に恭也が極意の1つと言っていたものに似ていた。

 でもあれは防御をすり抜けてくるというより、もう単純に超高速で距離を詰めてきたとしか思えなかったのだが……。

 

「鋭いですね。確かに"神速"は『貫』を会得することで見えてくるものですから」

「"神速"……それがあの技の正体か」

 

 本来軽はずみに流派の奥義を口にすることはできないものだろうが、カシウス相手。恭也も話してくれた。

 要は知覚力が問題となる奥義らしい。どんな境地なのか、カシウスとしては非常に興味が湧いた。

 それだけではないだろうが、さすがに事細かにまでは話せないのだろうし、カシウスも詰問はしない。

 

「それほどのものをその歳で身につけた君はよほどの才能があったのだろうな」

「才能、ですか。どうでしょうね……」

 

 そうでなければあの傷はないだろうとカシウスは思ったが、恭也の顔はどこか暗い。

 

「俺は才能があったとしても、自分でそれをフイにしたようなものですよ」

 

 無茶な鍛錬で膝を壊した。それだけ聞けば充分だった。

 

「何かあったのか?」

「……ええ、ちょっと」

「……そうか」

 

 遊撃士として、かつての剣士として、鍛え上げられた直感が、これ以上聞いていいものではないと告げた。

 2人の間には互いを認めたというものがあるにはあるが、そうは言ってもまだまだ会って僅か。話したのはこれが初めて。

 いくら認めたからと言っても、そこまでの仲になったわけではない。

 

「自分で言うのもなんだが、俺も『剣聖』なんて呼ばれた人間だ。今でこそ棒だがな」

 

 だからこそ、試合でカシウスの得物を砕いた恭也にはそれだけの才能があり、努力の結晶たる剣技は間違いなくある。

 

「剣士が剣を砕かれた。もちろん戦場ではそれでも戦いが完全に終わったわけではないと言えるが、こういう場所での戦いなら、

 剣士が剣を砕かれたとあっては敗北しているに等しい。

 剣が棒に変わったところで、同じように己の振るう得物に誇りを持っているなら、同じことだ」

 

 知らなかったとは言え、恭也の"神速"にはカシウスとて驚きで、もしかけていたアーツが消えていたらどうだったろうと思う。

 実はカシウスがかけていたアーツは"クロックアップ"より上の"クロックアップ改"。

 正直なところ、カシウスの速度と恭也の二刀の速度では明らかに手数からも恭也のほうが上だったのだ。

 アーツの効果が継続していた。それが幸いした。

 

「御神流……流派としても一級だろうが、それを修めている君もまた一級だ」

「ありがとうございます」

 

 本来なら御神流には飛針だけではなく、鋼糸なるものや小刀だってあるらしいから、尚更恭也の本当の実力はまだわからない。

 彼の得意な閉鎖された空間となれば、どれほど脅威レベルは上がるだろうか?

 

「さて、君がツァイスから王都に所属替えということは、このまま推薦状をもらう旅をするのか?」

「考えている最中です。この世界で生きるには遊撃士は俺と御神の剣に合っていますし、それもいいなと」

「そうか。ロレントにきた折には是非とも俺の家に来てくれ。歓迎するぞ。それに、言ったと思うが俺には2人の子供がいてな。

 娘と息子――まあちょっといろいろあるんだが、2人とも遊撃士を目指していてな。

 今は15なもんで、まだ遊撃士にはなれないんだが」

 

 遊撃士は16歳からしかなれないと規定されているためだ。

 まあ来年には16歳だから、その時にはすぐ2人は恭也と同じように準遊撃士から始めていくだろう。

 

「息子の方は君と一緒で読みもいいしすばしっこい。遊撃士として必要な判断力などもあるんだが、精神面でちょっとな。

 娘の方はと言えばこれまた問題だらけでなあ……」

 

 2人とも大事で、そして誇りに思う子供だ。

 それ故に父として娘の方は遊撃士として心配な点がちょっと多い。

 

「直情で突っ走る癖はあるし、お人好し。息子とどっちが男だと言いたいくらいでな」

「でも裏返せばそれは優しく、前向きで明るい。違いますか?」

 

 よくわかっているじゃないかと言いたいカシウスである。ちょっと頬の緩みを抑えられない。

 結局カシウスも子煩悩というわけである。

 

「俺にも妹がいるんですが、同じような性格をしてますよ」

「うちのはお転婆娘だが?」

「あ〜……お転婆娘とまではいかないですかね。何にでも全力全開な妹ではありますが」

 

 顔には出ていないが、僅かに寂寥感が。

 事情は聞いているから、それが家族を思い出してのことだろうと推察する。

 

「まあ君なら2人と仲良くできると思う。特に息子と君は容姿や戦い方も似ている。いろいろ教えてやってほしい。

 娘は戦い方よりむしろ知識を叩き込んでやってくれ」

 

 なにぶん釣りやらスニーカー集めという、少々男の子のような趣味を持っている娘。

 食事を作らせても3回に2回は魚のフライにオムレツという、レパートリーの少なさ。

 息子の方が家事はできるし勉強はできるし落ち着いてるし。

 その分、我を出さないから、親としては我侭を言ってくれないし手がかからないので逆にそれはそれで不服なのだが。

 

「はは、俺も知識はないですよ。あったところで戦術戦略くらいなものですから」

「くっくっく、ティータに追いかけられている困ったお兄ちゃんだそうだからな」

「…………面目ないです」

 

 ひとしきり笑う。

 時間もそろそろ決勝開始に近づいていた。

 

「また君とはいろいろゆっくり話したいしな。今度夜にでも食事に付き合わないか。いい店を知ってるんだ」

 

 くいっと酒をあおる真似を。

 

「俺は下戸なんですが」

「おいおい、男同士の酒の上手さを知らないのはいかんだろう」

 

 などと言い合いながら、カシウスは余ってる時間を遊撃士として必要なことを教授する。

 それが御神流という、そうそう他人に明かせないことを教えてもらったお返しでもある。

 

「やはり準遊撃士のうちにいろいろな相手や魔獣を経験しておく方がいい。ふむ、そうなるとボース地方がオススメだ」

 

 あの地方は霧降り峡谷に水系アーツを使う魔獣、街道には時系アーツを使う魔獣がいるし、

 さらに物理攻撃がいやに強力だったり、アーツしか通用しなかったりという魔獣も多い。

 

「ツァイスはリベールでもかなり強力な魔獣がいるから、そこで鍛えたのなら大したものだ。

 だがツァイスの魔獣はアーツを使わない傾向があるからな」

「確かに。特殊な粘液を吐いてきたり、仲には拳法のようなものを使ってくる魔獣もいましたが、

 確かにアーツはあまり使ってこなかったですね」

「拳法……ああ、ヒツジンか。あと装甲ウサギと呼ばれる奴もいたろう?」

「ええ。あれは参りましたね。護衛の際に同行の遊撃士の方が気絶させられてました」

「あとカルデア鍾乳洞に行けばアーツを使うペングーという魔獣もいるがな。やはりツァイスはアーツ使用率が低い」

 

 その点、ボースは『魔獣を知る』という点では適している。

 恭也ならすでにツァイスで慣らしているし、多少困難な敵に出会っても最終的には力押しでもすればどうにでもなるだろう。

 だがそれでも、まずはアーツなどの扱いをより慣らすためにも、ボースはうってつけだ。

 

「それにボースは地形的にもかなり入り組んでいたり突然開けた所に出たりと環境条件でもいろいろと使える」

「なるほど。いろいろな環境条件を生かした戦い方が身につけられると」

「そういうこった。あとはいろんな仕事を積極的に請け負うことだ。

 たまに護衛中心とか探し物中心なんて奴もいるが、やはり遊撃士という職業柄、

 満遍なく、可不可なく、身につけておいた方がいい」

 

 魔獣退治や護衛なら戦闘能力の他に地形利用の戦術戦略なども鍛えられるが、

 調査能力やコミュニケーション能力は人相手でないとできないわけで、そうなると探し物・探し人の依頼などがいいだろう。

 

「あとは少ない情報から分析できる能力。僅かなことに気づける注意力。発想の転換などの柔軟性から推理力……。

 まあ、言っていったらきりがないんだが」

「でも遣り甲斐がありますよ。さしあたり、俺は魔獣の知識と戦闘以外の能力向上を重視してみます」

「ああ。若いんだから少しずつやっていけ」

「はい」

 

 何よりはやる気か。だがこれは問題ないだろう。

 

『お待たせいたしました! まもなく本戦最終戦――決勝を行いたいと思います!』

 

 アナウンス。どうやら時間らしい。

 

「時間ですね。すいません、決勝前のお時間を割いて貴重なお話をして頂けるとは……」

「はっはっは、気にするなよ。俺は人と話してる方がリラックスできるんだ。

 それに、あの"神速"って技のことを聞かないままだと逆に気になってしょうがないからな。そもそも誘ったのは俺だ」

 

 礼を言って頭を下げ、静かに恭也は出て行く。

 食事の件は、またエルナンを介してでも連絡をくださいと言って。最後に優勝を期待しているとちゃっかりプレッシャーを。

 もちろん、カシウスにはプレッシャーどころかいい応援になるだけだ。

 

「やっぱヨシュアに似てちゃっかりしてるな。エステルはどうしてこうならないんだ?

 そもそも俺の周囲の娘はどうも一癖二癖ある奴ばかり……なぜだ?」

 

 シェラザードも優秀だがいろいろと参る。例えば色気を使って情報を取ってきたりとか。

 まあ男にも困った奴はいるが。例えばアガットとか。あの無愛想ツッパリは素直でない。

 まあ微笑ましい……そう言ったら怒ってかかってくるだろうが。

 司会が自分の名前を呼んだ。同時にまたも声援。こっちの方がプレッシャーだよと苦笑。

 開いた鉄格子をくぐり、所定位置へと向かう。

 

(……ああ、すごい殺気だ。相変わらずだな、将軍は)

 

 向かいの鉄格子から放たれる明らかな殺気。すでに見えるその巨躯。

 

『対するは女王陛下の軍を預かり、猛将としても知られる豪傑!

 老いたとは言え、若者にもまだまだ引けを取らない腕っ節は今だ健在! 『英雄』だろうとその巨大ハルバードで吹き飛ばすか!?

 赤コーナー、王国軍の中でも精鋭で知られるレイストン要塞守備兵と双璧を成す、

 国境師団の師団長にしてハーケン門を守る、モルガン将軍!』

 

 開いた鉄格子の先から出てくる王国軍正規兵の緑を基調とした軍服。左肩にだけかかる赤い布をつけているは将軍の証。

 白髪だらけの髪に皺の多い顔はその歳を感じさせるが、巨躯と鋭すぎる目がそんなものを吹き飛ばす。

 観客は押されてしまったのか、少々静かに。

 

「……モルガン将軍、少しはお年をお考えになってください」

「やかましいわ、この痴れ者めが! 覚悟せい、カシウス! 遊撃士なんぞに身を落とした馬鹿者に鉄槌を下してくれる!」

 

 そう、この将軍こそが遊撃士嫌いで有名な人でもある。そもそもその理由が自分にあるとカシウスもわかっているのだが……。

 元はこの将軍の下でカシウスも王国軍人としてあったのだが、

 百日戦役後に軍を辞して遊撃士になったカシウスをしつこく止めてきたのだ。

 普段から「これでわしも安心して退役できるわ」と言っていたから、まあそれは悪いと思っているが。

 

「将軍……私1人にお怒りなさるのは結構ですが、遊撃士全体を嫌うのはやめて頂けませんかね?

 原因が私なわけですから、知られると肩身狭いんですよ、私」

「ふん! そんなこと知ったことか!」

「はあ……子供じゃないんですから」

「ええい、くどくどと口数が多くなりおったな! フィリップといい、お前といい、まったくもってけしからん!」

「フィリップさんまで引き合いに出さなくてもいいでしょうに……」

「"鬼の大隊長"と呼ばれたくせに、今ではヘコヘコヘコヘコしおってからに!

 カシウス! お前も『英雄』やら『剣聖』などと呼ばれていい気になりすぎなのだ!」

「将軍も少々傲慢が過ぎますよ。貴方1人の毛嫌いでどれだけ遊撃士協会と軍の交流が難しくなっているか、お分かりですか?」

「あ、あの……初めてもよろしいでしょうか?」

「さっさと始めんか! さっきからわしは待っとるんだ!」

「は、はいぃぃぃぃ!」

「脅してどうするんですか、貴方は……」

 

 さすがに怒鳴り声は健在。見れば女王陛下が苦笑しておられる。

 観客も声援の飛ばしようがない。そりゃ飛ばした途端「黙らっしゃい!」くらい言いそうだから、モルガンは。

 

『ほ、本戦決勝! 始め!!』

 

 今までの開始の合図より簡単すぎる。まあ審判とて怖いだろうし。

 

「そのたるんだ根性、叩き直してくれるわ! チェストォォォォォォォォ!!」

 

 いきなり突貫。先ほどの恭也もそうだったが、こちらはもう戦術戦略なんてまるでない。単なる怒りの突進だ。

 振り下ろしの一撃。軽く躱す。

 地に叩き下ろされた途端、飛び散る芝生。当たったら洒落にならない……。

 

「はあ……元部下としてお諫めさせて頂きますよ、将軍!」

「やってみせぇぇぇぇい!!」

 

 聞き分けのない子供のような怒り心頭のモルガンに対し、カシウスは棒術を持って立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  e「はい、ということで第7話が終わりました! 今回は何故か私、ennaからスタートな後書きです」(w

  シ「永遠のネタだし(おいおい)担当、シンフォンです」

  ク「いつの間にやら執行者にされたクレです……シクシク」

  F「書き出しからドン尻までランクが落ちました、

    チャット上ではなんと白面のワイスマン役をやらされていますFLANKERです♪」

  e「それを言ったら、私なんか道化師だっつーの(w)。まあ、それはともかく。今回は激しい闘いでしたねー」

  シ「暗器などの制限があったとはいえ、できるだけの能力をフルに使っても、とどかなかったな〜」(w<恭也VSカシウス

  ク「激しい戦いだったのになぜか笑ってしまったのはなんでなんだろう? きっとカシウスさんのせいだ」(w

  F「さらに言えば、最後の将軍がねえ」(w

  e「おじーさん、アンタ私怨入りすぎや」(w

  シ「あれでかつては「武神」と言われた猛者なんだけどねー」(苦笑<将軍

  ク「そんな熱い将軍が大好きだ(w)。でもぎっくり腰に注意して〜」(ぁ

  f「"鬼の大隊長"のフィリップさんに止めてもらいたいもんだ(w)。さてさて、これにて3話続いた王都編も終了や〜」

  e「恭也君は新天地へと旅立ちます。いよいよ、だねー」

  シ「ようやくだね。ようやく、原作を知ってる方々が待っていたであろうあの2人との出会いが」(w

  ク「そ、それよりも私としてはもっと大事なイベントg」(検閲されました

  F「始まるはルーアン編! これまでの出会いも影響してますので、あの2人との出会いにもいっそうの華が!?」

  e「そこら辺も首を長くしてお待ちください! 多分、生殺しにはなりませんから……ぇぇ、多分」(ぉ

  シ「そして、なのはサイドにも動きが! 行方不明の兄を思う妹心をお楽しみに」

  ク「クローゼの出番もいっぱいです――――多分」

  F「ルーアン編第一話となる次回をお楽しみに! そいでは今回はここいらで〜。

    …………さてさて、我ら作家陣は第13話目を書いていこうかね〜」(←生殺し?





やはり剣聖とまで呼ばれた英雄には届かないか。
美姫 「でも、良い経験よね」
だよな。これにて王都編も終わりという事で、また新たな出会いが待っているのか。
美姫 「私としては、なのはたちの方にも動きがあるというのが気になるわね」
うんうん。これからの展開も楽しみなのですよ。
美姫 「次回も首を長くして待ってますね」
お待ちしてます!



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