女王生誕祭も間近に迫った王都グランセル。

 ますます人も増し、活気も賑わう中で、東街区では早くも人々が熱狂している。

 そこは――アリーナだった。

 

『では続きまして、本戦1回戦第4試合を開始いたします! 青コーナー、王国軍レイストン要塞所属――』

 

 観客がひしめく中で、芝生が設けられた試合場の端にある格子状の扉が上にスライドし、1人の王国軍兵士が出てくる。

 所属と名前を試合場中心にいる司会兼審判の男性によって告げられ、彼は手に持つ銃を一度だけ掲げる。

 瞬く間に轟然とした拍手喝采、叫び声に近い応援の声。

 

『彼は昨年の大会でも本戦に参戦している強者! 今年もその屈強な肉体で勝ち上がるのかあ!?

 さあそんな彼と戦うは、赤コーナー、初出場にして本戦に進出した、これまた脅威の実力者!

 遊撃士協会王都支部所属の準遊撃士、キョウヤ・タカマチ!」

 

 もう一方の扉から出てくるは黒系の夜戦服で身を纏った、リベールでは珍しい東洋系の人間。

 物珍しさもあってか、観客もますますヒートアップ。

 

「殿下、彼が以前よりお話していました者です」

「そうですか、あの方が……」

 

 アリーナの特別席にはアリシア女王が座しており、彼女が見ているとあって尚更王国の人間は選手も観客も白熱する。

 外からは奥が見えないようになっているのだが、その奥から、2人の女性が試合を見下ろして観戦していた。

 1人はユリア。そして彼女の半歩斜め前には、青い髪を上品に流し、

 白を基調とした服の上に青と赤のベストの制服を着こなす、女生徒、という風体の女性……というより少女。

 年の頃は15歳程度だろうか。

 

『両者、位置について下さい!』

 

 所定の位置につく恭也と兵士。互いに礼を交わし、そして女王に対しても頭を下げる。

 最後に恭也だけは小さく会釈。その視線の先には明らかにユリアがいた。ユリアも小さく頷いて笑う。

 

『それでは、本戦1回戦第4試合…………初め!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空と翼の軌跡

LOCUS OF 5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武術大会。

 毎年、女王生誕祭の直前に行われるこの大会だが、本来は何も生誕祭の前に行われるわけではなく、

 単に生誕祭がこの時期に重なったというだけである。

 遠方から訪れる者にしてみれば丁度よく、大会と生誕祭の両方を楽しんで帰ろうという者も多いため、

 王都はいっそうの賑わいを見せるのだ。

 

「すごいですね、あの方。銃弾を簡単に避けるなんて……」

「おそらく戦術オーブメントに認識能力を高める幻属性のクオーツを多くはめ込んでいるものかと」

 

 恭也が兵士の撃つ銃弾をことごとく躱し、懐へ飛び込んでいく。

 兵士とて狙撃だけではない。

 近接戦闘もできるらしく、そのガタイのいい体を如何なく発揮していた。

 間合いを詰めてくる恭也に対して銃剣で応戦し、銃を操る間合いを得んと、的確に距離を計っていた。

 

「ですがきっとそれだけではありません。彼は元から知覚認識能力が高いのです。剣士としての研ぎ澄まされた神経も……」

「元が高いわけだから、クオーツによる能力上昇効果でさらに、と?」

「はい。それに彼は初めて当たった相手にもかかわらず、様子見も何もなくいきなり突撃しましたから、

 おそらく相手の攻撃や防御動作をすでに予選で見て覚えているのでしょう」

 

 事前の情報収集と、己の目で相手を見て戦術戦略を練っておく。そうすることで戦場では有利に立てることも多い。

 それができている恭也と、恭也のことについてさほど知らない相手の兵士ではまず初動から違った。

 

「アーツを使わないんですね、あまり」

「彼は前衛の戦士タイプなのでしょうね。それに彼のいた世界というのは、そもそも魔法のない世界と聞いています。

 つまり彼の戦い方にアーツなどありませんでしたから、いまさら戦い方を変えるのは逆に命取りです」

 

 ただ補助アーツをしばしば使用している。

 と、そこで恭也の動きが一瞬だけ速くなった。

 "シルフェンウィング"だろう。これもまた補助アーツだ。

 黒い影を残すように、恭也がアリーナを疾走する。

 一気に距離を詰めた恭也はもう兵士に距離をあけることを許さない。

 兵士もやむなく近接格闘で反撃する……が、二刀による高速の連撃に反撃どころか防御すらできなくなっていた。

 

「…………」

 

 兵士の行動が後手後手に回っていた。対する恭也の攻撃は彼の防御をすり抜けるように疾駆する。

 

『お〜っと! キョウヤ選手、猛攻だーーーー! 速い速い! 防御などさせないと言うかのようだーーーー!』

 

 観客は猛攻に見えるだけでも白熱する一方だが、ユリアの目にはしっかりとその精密さと技術が見えていた。

 恭也の攻撃がすり抜けるように見えるのは、観客にとっては単に攻撃が速いからだろうと思うだけなのだろう。

 だが、見る者が見れば、恭也の攻撃が先読みのようなものによる、相手の防御を越えていく技とわかるだろう。

 

(なるほど、これが恭也の言っていたミカミ流とやらの極意の1つか……確か名は……『貫』だったかな)

 

 納得すると同時に恭也の深い思考にも思い至る。

 幻属性クオーツは知覚や認識に作用する効果があるが、恭也のあの『貫』は明らかに敵の動きを読んでこそできる技だ。

 つまり知覚や認識能力が拡大されることで、ますますその読みが冴え渡るわけである。

 

『――あ〜っと、銃が弾かれた〜!』

 

 恭也の蹴り上げが兵士の銃を宙へ弾き飛ばす。地に落ちたときには、すでに恭也の小太刀が兵士に突きつけられていた。

 

――――勝負あり。

 

 ユリア達の視線の先で、2人は再度所定の位置に戻り、礼を交わしていた。

 

「準遊撃士でありながら準決勝に進出ですか。正遊撃士でも予選落ちなんてざらなのに……」

「ええ。実力ならすでに正遊撃士にも劣りません。人柄という点でも私は問題ないと見ております」

「だから……私の護衛に?」

「はい」

 

 少女がユリアを振り返って何かを図るようにしばし見つめてくるが、ユリアもただ静かに自信ある目で返すだけ。

 主従の関係と言えど、2人の仲は親友のようなものにも近い。それだけの付き合いのある者同士、それで心中も読める。

 

「貴女がそこまで信頼している人なら私も頼もしいですけど……」

 

 護られることになる当人である少女――アリシア女王の孫娘であるクローディア・フォン・アウスレーゼにとっては、

 親衛隊員でもなければ王国軍の人間でもなく、

 遊撃士とは言え、そもそも王城侵入をやらかした男が自分の護衛になっても逆に不安にもなる。

 いかにユリアという心から信用する者が太鼓判を押していても、不安が顔に出ることは止めようがなかった。

 

「殿下のお心はお察しいたします。では直接彼にお会いになられては如何でしょうか?」

「……そうですね。貴女が認める人というのも気になってましたし。ただし1つだけお願いがあります」

「何でしょうか?」

「私の身分を知るとそういう態度を取られかねないので、いつも通り、『クローゼ』ということにしてください」

 

 恭也が身分を知ったところでありきたりな態度を取るとは思えないユリアだが、

 そういう人間を多く見て接してきたクローディアなら仕方はないだろう。

 それに知っていると知らないとでは確かに態度が大なり小なり変わる。

 そのため、クローディアは学園などでは王族と知られないよう、名前を『クローゼ・リンツ』としている。

 

「わかりました」

「お願いします。お婆様、少し席を外してもよろしいでしょうか?」

「ええ」

 

 振り向いて僅かに笑いかけてくるアリシア女王。

 微笑み返しながら、クローディアはユリアと共に観戦席から退席するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本戦1回戦を勝利で終えた恭也は、赤コーナー選手の待機室を出て、ロビーにて飲み物を口にしながら休憩していた。

 選手は大会中アリーナの外に出られないのだが、ちゃんとそういったものは用意されているから不便はない。

 

「やれやれ、さすがに幻属性のクオーツで知覚能力を上げているとは言え、やはり銃弾を見切るのは難しいな」

 

 懐から戦術オーブメントを取り出し、クオーツを外しながら大きな吐息を漏らす。

 如何に能力を上げようと銃弾は早すぎるわけで、人の目で捉えることは困難。

 故に銃弾を見切ったのではなく、撃つ瞬間の銃口と、引き金を引く相手の指を見て先読みしていただけにすぎない。

 

「銃相手に経験を積んでおいて正解だった」

 

 ツァイスにて準遊撃士として活動している頃、遊撃士協会へよく王国軍から訓練相手になってくれとの依頼が舞い込んできていて、

 恭也はよくそれに参加させてもらっていた。

 レイストン要塞からもそういう依頼はあったし、シード少佐への挨拶と、他の遊撃士との交流や連携も兼ねての、

 いい経験と鍛錬になったものだ。

 

「元の世界ではこんな実戦経験が積めることなどそうそうないからな。ある意味、俺にとっては嬉しい世界だ」

 

 元の世界では相手もたいがい銃火器。だがここでは戦術オーブメントの関係で今だに剣や槍などの戦士も多い。

 剣士の恭也としては、これほど好都合なことはそうそうないわけである。

 そこまで考え、自分がこの世界に来たことをあまり後悔していないことに気づいて苦笑するしかない。

 ただ、やはりなのはのことや家族に対しての不安や寂寥感、罪悪感がないわけではないのだが……。

 

「さて、次はいよいよカシウスさんか……どういった配置にするかな」

 

 戦術オーブメントにクオーツを再配置する。

 この配置によって戦術の幅が広がるため、恭也には思った以上に楽しかったりするのだ。

 

「タカマチ様でいらっしゃいますか?」

「あ、はい。そうですが……何か?」

 

 1人の男性兵士が声をかけてくる。青と白のその制服、間違いなくユリアと同じ部隊――親衛隊だ。

 

「シュヴァルツ中尉がお会いしたいとのこと。良ければご同行を願いたいのですが」

「ユリ……いや、シュヴァルツ中尉が? わかりました」

「ではこちらへ」

 

 兵士に連れられて入ったのは、待機室のさらに奥にある来賓用の部屋だった。

 入るとそこにはユリアともう1人、先ほど試合前と試合後に彼女に会釈をしたときにそばにいた少女がいる。

 気品のある制服に身を包んだ、青い髪の少女。耳元にある青い宝玉の付いた飾りなどが、やけに似合っている。

 佇まいからして上品で、近寄りがたい空気だ。

 ユリアと軽く挨拶を交わしつつ少女について考える。ユリアのそばにいることからして、もしかしたら王族の人間かとも考えたが、

 王族が容易く自分の前に現れるわけもないかと考え直す。

 

「ああ、彼女は私の上司のご息女でね。ちょっとした縁で仲良くさせてもらっているんだよ」

「そうですか。初めまして、高町恭也と言います」

「あ、どうもご丁寧に。クローゼ・リンツです。よろしくお願いしますね」

 

 頭を下げる恭也に、明らかに年上の男性からのそれにも動揺せず、クローゼも静かに応対した。

 彼女の肩に乗っている白い鳥――白隼はまるで恭也も品定めでもするように見てきている。彼女の守護獣だとでも言うように。

 

「それでユリアさん、俺に何か?」

「ああ、いや。君も次の試合まで時間があるし、私も同じでね。話でもしようかと思っただけさ」

 

 次の試合……それはあのカシウス。

 すでに恭也の前の試合で、相手に攻撃の余裕も持たせずに倒してしまっていた。

 正直、恭也でも情報収集も何もなかった。たった数秒で勝敗が決してしまっては。

 

「強いですね、あの人は……」

「ふふ、強いさ。『剣聖』カシウス・ブライト。元王国軍大佐にして『救国の英雄』。私の剣の師でもある」

 

 ユリアより上だというのは風格だけで明らかだった。「格の違い」とはまさにカシウスのような人間を言うのだろうと。

 ユリアの剣の師というのは、大会に出ると知ったユリアが教えてくれたことだった。

 

「今は棒術を使っておられるが、剣の腕は劣っておられないだろう。はっきり言って、恐ろしい方さ」

 

 肩をすくめて半分呆れるような態度で笑うユリア。

 

「それで、どうかな? いけそうかな?」

「厳しいですね。1分……いえ、30秒も持てばいい方かもしれません」

 

 勝てそうか、とはユリアも聞かない。その質問は恭也に変にプレッシャーを与えかねないことをユリアも理解している。

 カシウスは本物の猛者。格の違う相手。恭也では勝てないことは歴然としている。

 だからそんな相手を前に勝てないか、と聞くより、どれだけ自分ができそうかを率直に聞いたのだ。

 その方が恭也とて気持ちがいい。

 

「私は戦闘については詳しくないものでわからないのですが、キョウヤさんも先ほどの戦いでは圧倒してらしたのにですか?」

 

 恭也とユリアの、明らかな負けを前提とした話しぶりに、クローゼがフォローするかのように口を挟んだ。

 

「圧倒、ですか。あの兵士の方に失礼ですが、カシウスさんと比較するのは適当でないですね。

 俺とカシウスさんを比較するには、せめて俺があの兵士の方を一瞬の内に倒すくらいのことができないと」

 

 フォローしてくれたことにはそっと礼を言っておくことを忘れない。

 

 

 

 

 

「勝てないとわかってらっしゃるのに、そうして笑っていられるものですか?」

 

 

 

 

 

 負けるだろうと言うわりに恭也の顔は明らかに楽しげ。

 笑っていたわけではないが、恭也の雰囲気は確かに子供がワクワクして「笑っている」ようなものだったのだろう。

 それを突かれたことに、恭也は知らず知らず顔に出ていたかと頬をかきつつ、クローゼに返す。

 

「俺も剣士ですから。それしか取り柄のないと言えばない人間です。でも……だからこそ、剣に関しては強く在りたい。

 それしかないから仕方ないなんて消極的なことを言うつもりは全くありません。

 戦いが好きなわけではないですが、自分にとって剣は切り離せないものなんです。

 大事なもの、譲れないもの……ですから、その分野において自分をより高めたいと思うのは納得頂けるかと」

 

 一番になりたいとか、最強でありたいとか、そんな思いはない。

 そもそも御神流は、剣道などのスポーツではない。

 御神流にとっての一番――それは、大切なものを護れる力を身につけた証明であり、同時に最も上手に人を殺せると言う事実。

 だからどんなに強くなっても他から称賛されるものではない。

 御神流の人間として、最強とか一番とか、そんな考えはすでに間違いであることを、恭也はよく理解している。

 それでも、人は自分の大切なものは護ろうと思うもの。信念でもいいし、形ある物でもいいし、人でもいい。

 だからこそ、恭也は強い信念を持って、『自分の中』の御神流に一つの道を掲げていた。

 

 

 

 

 

「俺の剣は『護る剣』ですから」

 

 

 

 

 

 望むものがある。見たいものがある。そのために必要な「力」が御神の剣。

 称賛される必要はない。されたいとも思わない。

 ただ、護れればそれでいい。

 

「いざそのときになって護れるよう、強く在りたいと思うのは『悪い』と一概には言えないでしょう?」

「そう、ですね。でも失礼ですけど……剣は人を傷つけます。護るために人を傷つけるという矛盾を、お考えにはなりませんか?」

「常に考えています」

 

 それこそ、御神が、御神の剣士が、常に忘れてはいけないこと。常に持ち続けてきた葛藤。

 他からどんなに蔑まれようと貫いてきたものだ。

 

「矛盾していることは間違いありません。結局人を傷つける術を身に付け、綺麗事を言っているだけではないかと」

 

『口先だけでなく行動で示して見せろ』と言うなら、まず剣を振るうより、

 相手を説得する術でも身につけるほうがいいのかもしれない。

 

「でも世の中には言葉だけではすまないことがあるんです。時に言葉すらなしに振るわれる暴力もあります」

 

 思い起こすは御神と不破を襲った事件。そして士郎を襲った爆弾テロ。

 どちらも言葉なしに振るわれた理不尽な暴力。

 

「俺の剣はそうした理不尽から護るための剣です。闇雲に振るえばいいものではないわけです。

 できれば振るわないで済ませたいですが、現実はそうもいきません。

 そんないざという時にこそ、批判や中傷を受けてでも『護ること』を貫くには、強く在らないといけません」

 

 そんなときは来ないかもしれない。でも断言はできない。

 来なかったら鍛錬の時間は無駄ではないかとも言われかねないが、来る来ないは問題ではないのだ。

 

 

 

 

 

 備えること――これが大事なのだ。

 

 

 

 

 

「言葉を投げかけることは間違いではない。でもそれだけではどうしようもないときのために、貴方は剣を振るわれるのですね?」

「ええ。おそらく、ユリアさんも全く同じでないにしても、きっと同じ部分はあるのではないかと思いますが」

 

 ユリアを見ると、彼女は静かに笑っていた。恭也とクローゼの視線に頷いてみせる。

 

「ユリアさんたち親衛隊も、失礼ですが『力』です。護るために在る部隊ですが、そのために敵を傷つけます」

 

 ユリアは何も言わない。事実だから。それをわかっているから。

 クローゼもまた何も言わない。護られている側としてユリアたちのその覚悟は理解してやらないといけない。

 いや、やらないといけないのではなく、理解しないといけない。それが、護られる者としての礼儀なのだ。

 人を傷つけてでも、己の命を危険に晒してでも王族や国を護るために親衛隊は在る。王国軍は在る。

 だから、護られる側としてそれに報いるには、彼らの矛盾への覚悟を理解することは義務なのだ。

 

「俺たちに言葉を投げかける資格はないかもしれない。もちろんできる限りはしますが……」

「確かに、我らが言葉を投げかけたところで説得力はないかもしれない。武器を手にした我らには……」

「そんなことは……!」

 

 恭也とユリアの言葉にはクローゼも反論しようとするが、その反論は間違っていた。

 ただの同情で違うなどとも、言ってはいけない。それは彼らへの無礼。

 それすらクローゼは理解できる。理解できるほど、彼女は聡明だった。

 

 

 

 

 

「でもユリアさんにできなくても、ユリアさんの護る人ができるんです。女王陛下たちが、できるんです」

 

 

 

 

 

 恭也とユリアは黙り込んだクローゼに、しかし優しい笑みを向ける。

 恭也はクローゼに感謝している。自分たちの在り方を理解してくれているのだから。

 ユリアもまた、クローゼを誇らしく思う。自分たちを理解してくれる、将来の自分たちの主を。

 故に、尚更護りたく思うのだ。

 

「言葉を投げかけ、その言葉にこそ『力』のある人たち。でも彼らには直接的な『力』がない。

 理不尽な暴力から身を護る術がないんです。だからこそ、ユリアさんたちが在るんです」

「…………」

「どちらも兼ね備えた人間は稀でしょう。でも何も、1人で事を為す必要はないんです。それぞれが分担すればいい。

 俺はどちらの『力』も必要だと思います。言葉に『力』を持つ人を護るための『力』。

 前者は自分たちを護ってくれる者に報い、言葉を以って平和を為そうと努力する」

 

 相互の連携。助け合い。

 詭弁だろうが、でも1つの真理ではないだろうか?

 

「それでも矛盾は矛盾でしょうけど、矛盾しているから間違いとも言えないでしょう?

 矛盾とはずっと戦っていかないといけない。そんな矛盾に負けないためにも、強く在らないといけない。俺はそう思います」

 

 ユリアは同じ剣士として、同じ『護るべき力を振るう者』として、恭也の言には深く同意する。

 彼女の師のカシウスとて、少なからず同じような理由で剣から棒へと武器を変えたのだろう。

 クローゼはますます恭也から視線を外し気味。

 そんな彼女の様子を見て、つい自分が人にこんな哲学じみたことを言える立場でないことに気づく。

 

「まあ、こんなこと言いましたけど……単純に、俺は剣士で、剣を振るうことが好きなんです。

 強い人と戦ってみたいのも、単に楽しいからなんですよ」

 

 もちろん殺し合いなんてしたくはないし、戦闘狂のような意味合いで戦いを好むわけじゃない。

 ただ『剣を振るって競い合う』ことが好きなだけ。

 

「何て言いますか……要は俺も負けず嫌いってことです」

「……ふふふ」

 

 ユリアが肩を揺らして横を向き、笑いを抑えている。

 さっきまでの真剣な会話が嘘のような恭也の態度に、クローゼも「は?」という感じで見てきている。

 それゆえ、今度は恭也が頭をかいて視線を外す番だった。

 

「剣に関しては負けたくないんです。強くなりたいんですよ。あ〜……すいません、これじゃ子供ですね、俺」

 

 これも恭也の本心である。

 剣を振るってきたのは代々受け継がれてきたからとかの理由もないとは言えないが、

 でもやはり根底には剣が好きという、子供のような、でも純粋な理由があるのだ。

 

「恥じることはあるまい。私とて剣は好きだ。剣を振れば気持ちが晴れるし、剣がそばにないと無性に落ち着かない」

「ああ、まさにそんな感じです」

 

 腰に差す剣の柄を持って弄りつつ、ユリアも子供のような笑みを見せる。

 

「……2人揃って本当に心からの『剣士』なんですね」

 

 クローゼが……口に手を持っていってクスクスと笑いだした。肩に乗る白隼も翼を広げて楽しそうにしている。

 

「でん……ごほん。クローゼ様とて剣がお好きではないですか。あれほど熱心に私に教えを請うてこられる辺りなど……」

「ん? クローゼさんも剣を?」

「はい。ユリアさんに教えてもらっています」

「彼女は学園の大会で優勝するほどの使い手だぞ?」

「それはすごいですね…………よければ1度手合わせ願えませんか?」

「ええ!? そ、そんな、私がキョウヤさんとなんて無理ですよ」

 

 むう……と本気で残念がる恭也だが、どこまで剣が好きなんですかと呆れられる始末だ。

 ユリアと共に顔を見合わせ、しかしユリアは「私はキョウヤほど剣バカではないです」と言う。

 

「逃げましたね、ユリアさん?」

「さて、何のことかな?」

 

 ちょっと睨んでみるが、ユリアがそれくらいで動じるはずもなく、キリカほどではないが、涼しい笑顔の前に交わされる。

 どうしてこの世界では自分の周りの女性はこうも見事に自分の問いを躱すのかと、少々疑問に思う恭也である。

 

「恭也さんはすごいですね。ちゃんと自分の考えを持って、矛盾であっても立ち向かっていくなんて……」

 

 そこでクローゼがまた少し暗い顔をして自嘲のような笑みを浮かべた。

 それほど大したことでもないと言おうとした恭也だが、今の彼女にそれを言うのは少し躊躇われた。

 

「私は……何と言うか、逃げてるだけですから……今も、逃げ続けているようなもので……」

「逃げている?」

「…………」

 

 何から逃げているかがわからず、でも誰かに追われているとかそういう類でないことは明らか。

 外敵からというより、おそらくは自分の内面の何かから逃げていると言いたいのだろう。

 

「私の家は特別な家で、やはり責務というものがあるんです」

 

 ユリアから最初に紹介された時、クローゼはユリアの上司のご息女と言っていたのを思い出す。

 ユリアは中尉。親衛隊ともなるとやはり同じ王国軍中尉でも立場はかなり上等だろうから、その上司となれば相当の者だろう。

 もしかすれば代々軍の上層にある家柄なのかもしれない。

 

(そうなると要するに将来のことなり、今からしておかなくてはならないことなどへの重圧から逃げていると言いたいわけか……)

 

 そう推測する。おそらくそう間違っているわけでもないだろう。

 そして事実としてそれは間違っていなかった。

 ありがちではあるが、「ありがちだ」などと言えるのは実際に体験したことのない者の感想だ。

 体験してみれば、ありがちだろうが珍しかろうが関係ない。重いものは重い。

 

「クローゼ様。そうは仰られますが、勉学でも剣でもクローゼ様は一生懸命ではありませんか。

 実績がそれを証明しているのです」

 

 ユリアとてクローゼの悩みに関しては打ち明けられているだろう。何せ信頼していると口にし合うくらいの仲だ。

 ユリアも単なる慰めなどする気はない。でも、実績に見合うだけの自信は持っていいんだと、

 せめてそれくらいは己を認めてあげないと、ただ虚しいだけではないかと言いたい。

 自分の行いの全てを『逃げ』と称して、マイナス思考の渦に巻き込まれて己を見失うなと。

 

「でも最近、成績もちょっと落ちていることはユリアさんも知っているでしょう?」

 

 クローゼとてただマイナス思考の海に落ちてそれでそのままのような弱い人間ではない。

 勉学も剣も必死でやって来たのは自分を立てるため。こうした弱気を少しでも振るい落とすため。

 でも日増しに大きくなる不安には、解決の手段なり他に新たに振り払うなりできるものでもない限り、

 そうそう耐えられるものではない。

 

「最近、暖かい場所を見つけて、そこに逃げてる毎日なんです……」

「暖かい場所、ですか」

「はい。孤児院なんですけど、そこの子たちと院長さんがとても優しくて温かくて……身分や立場なんて忘れていられるんです」

 

 常に付きまとう不安はその身分や立場が持ち込んでくるもの。

 故に大元たるそれらを忘れることができるなら、それは確かに逃げ場足りえるだろう。

 

「逃げてるだけじゃダメとはわかってるんです。

 院長先生やそこの子たちを見ていて、彼らを護るためにも落ち込んでなんかいられないって……。

 でも、私はできるんだって思えないんです。勉強でも剣でも、それが将来どうなるってわけでもないって……」

 

 将来それが役に立つかはわからない。自分の自信があるものでも、それが役立たないなら意味がないのではないか。

 

「祖母も両親も優秀な方で……私にそろそろ任せようかな、なんて仰るんです。でも私はまだやっていける自信も覚悟もない……」

 

 クローゼは身分を隠している以上、恭也に彼らの名前を言うことはできない。

 優秀な祖母――現女王であるアリシア女王。

 アリシア女王は困難なことでも実現させていった。

 百日戦役後の復興でも、エレボニア帝国との融和に対して反対が出ても。

 それ以前から巧みな外交手腕を以って大国とも対等関係を築いてきた。

 優秀な女王。故に、その子供や孫も優秀だと期待されることは多い。根拠などないのにだ。

 でも事実として両親は素晴らしい人だった。きっとアリシア女王にも負けない統治者になったろう。

 本来なら彼らが王位を継ぐはずであり、クローゼが継ぐにしてもその次のはずだったのに、もう王位継承権は自分ともう1人だけ。

 そして祖母がそろそろ王位を継がせようという話をし出したとなれば……焦燥感までもが不安を後押ししてくるのだ。

 大好きな家族も、王位継承の件に関係すると、ただクローゼに重圧をかけてくる要素でしかなかった。

 

「私は何でもできる人間じゃないんです。勉強とせいぜい剣ができることくらいで……」

 

 

 

 

 

「何でもできる人間で在る必要があるんですか?」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 だが恭也はまずクローゼの思い込みに間違いではないかと思った点が。

 

「クローゼさんの家の事情や、ご家族が優秀な方であろうことは何となくですがわかりました。

 でも1人で何でもかんでもやっていかないといけないというその考え方は違うでしょう」

「でも判断を下したりする必要がある以上、できなければいけないじゃないですか」

「それは確かに。まったくできないのは問題かもしれません。でも人にはできることとできないことがあります」

 

 何でもできるのは大したものだが、だからと言って1人で事を為していては、それは独善とも取られかねない。

 

「さっきも言いましたが、俺は剣を振るうくらいしかできませんよ?」

 

 情けない話ですが、と肩をすくめて苦笑してみせる。

 先ほどの話を思い出してほしいと告げる。

 そう、ユリアたちが女王を護り、女王は言葉を以って相手と語り合うことで彼らと連携している話を。

 

「ご立派で国民からも愛されている女王陛下ですら、できないことはあるわけです」

「あ……」

 

 無茶苦茶な例え方かもしれない。でも事実は事実である。

 先ほど話していたのに気づかなかったことを指摘され、クローゼは目を瞬かせて考え込むように俯いた。

 聡明でありながらそうしたちょっとしたことに気づけない。よほど思いつめていたのだろう。

 

「実は俺も昔、ある失敗をしました。今のクローゼさんのように、思いつめて」

 

 士郎が爆弾で大怪我を負い、恭也は家族を守らなくてはと剣に走った。ただがむしゃらに。

 そして結果は……膝を壊した。

 右膝に視線を落とした恭也に続くように、クローゼもまた目をやった。

 

「俺はクローゼさんのように他からプレッシャーを浴びせられたわけでは在りませんし、単に馬鹿な勘違いをしていただけですから、

 比べるのは間違っているでしょう。でも、俺とクローゼさんは似ているんですよ。凝り固まっているところがね」

 

 家族を守らなくてはいけない。それが恭也の固執したこと。

 その想い自体は間違ってはいないだろう。だがそれに『固執したこと』が間違っていた。

 

「家族はずっと俺を心配してやめさせようとしてくれていたんです。明らかに無茶な鍛錬をしていましたからね」

「でも気づかなかった……?」

「ええ。俺の一番の失敗は膝を砕いてしまったことでもなく、鍛錬が無茶苦茶だったことでもなく……。

 護るべき家族を、逆に悲しませてしまったことです」

 

 原因は固執したこと、凝り固まっていたこと。護るために力をつけようとするあまり、他を無視してしまった。

 護ることが大事だったのに、その護るための力を得るために無茶をしてしまった。

 護るべき者の言葉を無視し、悲しませてしまうなど、『護る』ことにおいてやってはならないことだったのに。

 

「クローゼさん、凝り固まった考え方はやめましょう。貴女の『何でも1人で為さないといけない』というのは間違いですよ」

 

 時に1人でやらないといけないことは確かにある。でも、『何でもかんでも』という点は違う。

 恭也の過去に半ば茫然自失としているクローゼ。

 仕方ないかもしれない。矛盾に対してでも立ち向かうと、しっかりした考えを持っている恭也が、

 過去にとんでもない失敗をしているなんて思いもしなかったのだ。

 

「クローゼさんとユリアさんは……ご友人のようなものなのでしょう?」

「はい」

「畏れ多いんだがな」

 

 そんなことはないと言うクローゼに、軽く礼をするユリア。

 頼りになる友人でしょうと問うと、クローゼは迷いもなく首を縦に振った。

 

 

 

 

 

「ならどうして、彼女に頼ろうとしないんですか?」

 

 

 

 

 

 はっとしてクローゼが恭也を見た。そして恭也の視線に戸惑い、すぐに目を逸らし、揺らす。

 

「失礼ですが、クローゼさんの考え方では『頼りになる』という言葉も、結局は本心からのものではないように聞こえかねません」

 

 少々ユリアが咎めるような視線を送ってくるが、恭也は敢えて無視する。

 クローゼが本当にユリアを頼りにしていることは先ほどの迷いない態度で充分にわかる。それだけ彼女の目は真摯だったのだ。

 でもこれは言わないといけないと恭也は考えた。

 だからユリアの視線にも構わず、恭也は厳しい視線をクローゼに向ける。

 つらそうにしつつも、クローゼは目を閉じて己を戒めるように唇を噛んでいた。

 

「頼りにしすぎるのは駄目でしょう。正直、俺はユリアさんに助けてもらってばかりでしたから、

 言える立場ではないかもしれないんですが……」

 

 だが逆に言えば、それだけユリアは頼りになること間違いなしと断言できる人物であるということ。

 

「それに貴女は孤児院に行くことを『逃げ』と仰いましたが、でもこうも仰いましたね」

 

 

 

 

 

『逃げてるだけじゃダメとはわかってるんです。

 院長先生やそこの子たちを見ていて、彼らを護るためにも落ち込んでなんかいられないって……。

 でも、私はできるんだって思えないんです。勉強でも剣でも、それが将来どうなるってわけでもないって……』

 

 

 

 

 

 この言葉、もう一度見直してみよう。

 クローゼには明らかに前を見ようとする意思が残っている。ただ彼女は自分ができるという自信が持てないでいるだけ。

 

「逃げかもしれません。でも貴女は『ただ』逃げているだけじゃない。ちゃんと前を見ようとしているし、必死にあがいている」

 

 こうして悩んでいるクローゼは、その姿こそがあがいている証拠だ。

 何のためにあがくか?――自信を得るために決まっている。

 

「必死にあがいているのに、それを『逃げ』とは言わないのでは?」

「でも……どうしても果たさないといけない義務と立場を持つ人間が、一時でも自分の弱さに逃げているんですよ?」

「ふむ……実は俺の世界には『逃げるが勝ち』という言葉がありまして」

 

 常に立ち向かうことは重要だが、立ち向かうにしても『何に』立ち向かうかを見極める必要があるのだ。

 何の意味もないものに立ち向かっても無駄。

 その壁の奥に何かがあるからこそ立ち向かうのであり、何もなしに何でもかんでも挑み続けるのは違う。

 

「戦略的撤退、というわけだな?」

「そういうことです」

 

 ユリアのわかりやすい代えの言葉に、恭也はそれだと頷いた。

 

「クローゼさん、逃げっていうものもいくつか分かれます。いい意味での逃げと悪い意味での逃げです」

 

 いつもいつも立ち向かってばかりでは人は必ず息切れする。だから休息というものは必要だ。

 身分も立場も忘れてゆっくりすることができるなら、孤児院に行くのはまさに好都合ではないか。

 

「問題は逃げ『続ける』ことですよ。休憩はいいですが、それが常態化してはならないんです」

 

 クローゼが逃げているのかどうか――それは彼女の今後の行動による。

 

「クローゼ様、私からも1つ……。

 温かい場所に行く事は決して悪いことではないのです。取り方によってはむしろいいことですよ?

 そういうところも知ってこそ、見える世間もあるのですから」

「そうですね。人と触れ合うことでいろんな人や考えを見たり聞いたりできるわけですし」

 

 どんな家柄の生まれだろうが、暖かい場所を求めたっていいではないか。

 権利があれば義務がある。ならば逆だってある。

 つらい責務があるなら、逆に相応の暖かい場所と触れ合いがあってもいいではないか。

 

「それに、やはり貴女は逃げてはいない。

 つい今も、貴女は自分を『どうしても果たさないといけない義務と立場を持つ人間』であると口にしていました。

 貴女は現実を捨てて逃げているわけではない。悩んで苦しんでいる人間のどこが、逃げていると言えますか?」

「…………」

 

 無意識でもクローゼは悩んでいる。意識していない言葉にそれが表れている。

 それはつまり、それだけ悩んでいることを証明している。言葉だけで「悩んでいる」という人間なら、そんな態度は取れない。

 

『本戦2回戦第2試合出場の選手の方は速やかに待機室へ』

 

 そこで放送が入る。どうやら本戦2回戦の第1試合は終了したらしい。

 2試合目はいうまでもなく、カシウス対恭也だ。

 

「すいません、話の途中で……」

「いえ。あの、ありがとうございました」

「礼はいりません。全部俺の意見です。どう受け止めて頂いても構いません。要は、クローゼさんがどう行動されるかです」

 

 少し慌てて部屋を出ようとする恭也。

 試合前にすまなかったなとユリアも声をかけてくるが、これも恩返しになればそれでいいですとだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、初めて会った人に怒られるとは思いませんでした」

 

 怒られたと言っても恭也にその気はなかっただろう。単に諭しているだけだったのかもしれない。

 でも厳しい視線を向けられたときのことを思い出し、クローゼは困った笑みを浮かべた。

 

「さすがにキョウヤの言葉も非礼の段はありました。できればお許し願いたいのですが……」

「いいえ。言葉がどうであれ、彼の態度に『非礼』なんてものはありませんでした。

 お婆様と同じ……諭すときの、真摯な目。あれは相手を本気で考えてくれている目でした」

 

 初めて会った人間に諭したり怒ったりする人間。よく知りもしないのにできる人間は本当に珍しい。

 しかも相手の悩みをよく理解し、そして相手を思いやってその上で怒れる人間など。

 

「身分を隠さなくても、彼なら本当に態度は変わらなかったかもしれませんね」

 

 こうなるとむしろ隠していたことに罪悪の念すら感じる始末だ。

 あんなことまで話すつもりはなかったのだが……ましてや答えなど期待していたわけでもなかったのに。

 クローゼの「凝り固まった」考えは確かに払拭されていた。完全にとは言わないが、でも大きなきっかけにはなるだろう。

 

「ユリアさんが認めるわけがわかった気がします。似ていますもんね、キョウヤさんと」

「私自身もそう思います。剣士といい、護る立場といい……」

 

 むしろ3人全員が似ているのかもしれない。いや、似ているのだろう。

 

「まだ……迷いはありますけど、でもいずれはふっきれるかもしれません。

 ユリアさん、どうしてもというときは手伝ってもらえますか?」

「もちろんです。この身命をとして、殿下にお仕えさせて頂きます」

「もう、固いんですから……」

 

 固い感じは恭也からもしたが、人は本当に見かけによらない。

 初めに見たときはちょっと鋭い目つきや黒い服で固めた姿ゆえ、やはりちょっと近づきがたいイメージは拭えなかったのだが、

 怒ったり諭したり、剣士としての高い志があったり、かと思えば子供のように剣を語ったり……。

 先入観。

 クローゼは己の中にある、その凝り固まったものの正体に気づき、それを取り除く。

 

「護衛の件、よくわかりました。彼がルーアンに来たときはお願いしましょう」

「そうですか。ではそのように」

 

 そこで肩に止まっていた白隼のジークが急き立てるように翼を広げて体を揺らす。

 

「ふふ、ジークも早く彼の試合を見たいようだし、戻りましょうか」

「ジークに気に入られましたか……殿下が諭されているときは鋭い目を向けてましたが」

 

 どこまでもクローゼ第一の白隼だということだろう。

 そんな忠義の守護の鳥に、クローゼとユリアは笑って、そして観戦席へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  F「アネラス好きのFLANKERです。早くも6話目となるLOCUS OF 5を送り出すことになりましたが、

    今回は何と、電撃参入的ゲストとして、クローゼ愛のクレさんに登場してもらいます! 拍手〜!!」(≧▽≦)/

  ク「物につられて参加した、クローゼへの愛を語るヘタレSS書きのクレですー」(ぁ

  シ「餌がいいと大物が釣れるな〜と思ったシンフォンです」(w

  e「この世は欲にまみれてるな〜と再確認したennaです」(ぉ

  F「ちなみに私的には『このままクレさんもこの合同作に参加しろコノヤロー』と言いたい気分だったりします♪」

  ク「え…………そ、そんな話は聞いていないぞ!?」

  シ「あれ? 『ル○○ラ姉さんの夢の話はネタができた! 任せとけ!(超誇大解釈)』って言ってなかったっけ?」(w

  ク「言ってない!……う、裏切ったな、シンフォンさん!」

  e「……まあ、あれだ。後書きに参加した時点で、多分運命は決まったから」(マテ

  ク「う、嘘ですよね? 冗談ですよね?」

  F「クレさんの悲劇はいつもの事なので捨て置いて……え〜、今回はクローゼとの出会いでした〜」(マテコラ

  ク「世界はいつだってこんなはずじゃないことばかりだよ……orz……うん、やっとクローゼ出てきて私はとても嬉しい」(w

  シ「今回のネタ出しは割と大雑把だったのに、蓋をあければ……さすがFLANKERさんだと思ったわ。本当に」(w

  e「確かに。FLANKERさんらしさが前面に出た回になってる気がするね」

  F「読者の皆様、すいません。執筆してるのが私なので、どうしても主張の言い合いになると、

    うちのリリなのプラアザの如くになっちゃいます……しかしネタ的には皆さんのものが多く入っておりますので」

  ク「いえいえ。FLANKERさんらしくて良いと思いましたよ」

  シ「次回はいよいよ準決勝か」

  e「手に汗握る、まさに好勝負を期待しちゃいますね」

  F「バトルは得意です! てなわけで、次回は恭也VSカシウス。元とは言え、『剣聖』と呼ばれた彼にどう挑む、恭也!?」

  ク「初出場でそこまでいく恭也もすごいと思いますけど(w)。もしかしてーと期待してます。がんばれ恭也〜!」

  シ「クローゼにいいとこ見せろー」(w

  e「恭也の勇姿に期待しましょう!」

  F「そいでは今回はここいらで。以降もクレさんが参加するよう、皆さんからも押しの強い支持をお願いします!

    むしろ脅迫まがいでも(以下検閲」

  ク「うわあああああん、クローーゼーーーー!」(逃

  F「あ、逃げるな、クレさん! 追うぞ、アネラス〜!」(マテ

  シ「クローゼにいいシーン書いてください、とお願いされたらクレさんも動くかも」(w

  e「それでは次回でまたお会いしましょう〜」





クローゼにいいシーンかいてください。
と、まあ、お約束はやっておかないとな
美姫 「じゃあ、私も……」
いや、お前がやるとお願いじゃなくて脅迫になるからしなくて……ぶべらっ!
美姫 「今回はクローゼに意見を述べる恭也ね」
いやいや、とっても良い場面でした。
美姫 「本当よね。次回はいよいよ剣聖とまで呼ばれたカシウスとの対決ね」
一体どうなるんだ!?
美姫 「次回も待ってますね〜」
楽しみにしてます。



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