注(これは必ずお読み下さい)

 

※この作品は、『Schwarzes Anormales』の作者であるペルソナさんと、

『リリカルなのは プラス OTHERS』を書いております、私、FLANKERの合同作品です。

 文章は私、FLANKERが担当しました。

 やはり別作者の私が蛍火くんを書いた以上、ちょっと人物像や技などの設定に違いが出ていると思います。

 それが気に入らないということもあるかもしれません。

 お読みになるのなら、そのあたりはご容赦下さい。

 もちろんペルソナさんには許可を頂いた上で蛍火くんをお借りしております。パクリじゃないですよ?(笑)

 

※『Schwarzes Anormales』で言うと第22話終了時点であり、

 『リリカルなのは プラス OTHERS』で言うと第4章第6話終了時点で、これを書きました。

よって、以降の話に出てきた設定などはほとんど反映されていない、とご理解の上でお願いします。

  ただし、今回の蒼牙に関しては本編に入る直前という設定ですので、

  本編で使用できるようになった『絶解・蒼覇神』などは使えないわけです。

  その理由はサブテーマである『"歪"なる者たちの戦』に沿うようにするためですので、お許し下さい。

 

※題や前編からもうお分かり頂いているでしょうが、これは完全戦闘モノです。

 特にこれ以降は互いの技が出まくり、双方の作品を見ていない場合、大変混乱しかねません。

 あと蛍火くんが『Schwarzes Anormales』では出てきていない技を使っている場面があります。

 そもそもこの作品自体がパラレル的なものですので、そのあたりお忘れなきよう、お願いします。

 

 以上のことをご承知頂けるのなら、どうぞお読み下さい。では。


 

 

 

 

合同企画特別編

二作品登場オリジナルキャラクター対戦話

 

新城蛍火(『Schwarzes Anormales』) VS 城崎蒼牙(『リリカルなのは プラス OTHERS』)

 

――"歪"なる者たちの戦・中編――

 

協力・監修:ペルソナさん 文:FLANKER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蛍火と蒼牙はゆっくりと上空へ舞い上がる。ゆっくりと距離を詰め、10メートル程度残して静止する。

 

「……さて、第2ラウンドといくか」

「……そうだな」

 

 同時に刀を振り、2人は衝突した。

 蛍火が『蒼空』を弾き、蹴りを繰り出す。蒼牙はそれを左腕でガードし、斬り返しの一閃。

 それを躱した蛍火が刀を振り――

 

「!?」

 

 それは刀ではなく、斧。

 蒼牙はそれを防御するのをやめ、全力で回避する。

 刀を受けるのと斧を受けるのとでは、認識が違う。

その武器の持つ攻撃力は違うのだから、刀を受けるつもりで防御していたら、押されてしまう。

 だが後方へ下がった蒼牙には、さらに信じられない光景。

 

「――今度は弓か!?」

 

 右手に弓と化した『観護』、左手に魔力弓を持つ蛍火。一斉射撃が開始される。

 その数、その威力、その射程は先ほどの倍、もしくはそれ以上。

 いくら事象干渉能力を持つ『蒼空』の『人解』でもこれは防ぎきれない。

 

姿を 世界を 理すらも写し取るは 模倣の芸術家 彼の者 何も作らず 何も得ず 何も思わず

 そこに価値はなし ただただ 真に写し取れ 覇道補法第八三式 "鏡面"!」

 

 詠唱の最中も蒼牙の体には傷が生まれていく。ダメージとしては蒼牙のほうが上になってきている。

 蒼牙の前方に薄い膜が形成される。魔力の矢が……複数の属性を纏った矢が、次々に突き刺さっていく。

 爆発。鎌鼬による斬撃。突き刺さった瞬間絶対零度の氷が広がり、雷撃が走る。

 威力があまりに強い。属性が変化しまくって、無茶苦茶な反応をし、それがきつい。

『覇道』の中でも強力な防御結界が数秒で押され始めている。

 

「どこまで手の内を隠しているつもりだったんだ、あの阿呆……!」

 

 今までその武器すら隠していた。形態も能力も変える、あんな特殊な武器を。

 それであれだけできるのだ。まだまだ彼は本気ではないはず。

 

「くそっ! 支配せよ、『蒼空』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――何だ?」

 

 蛍火の驚きは、自らの矢が蒼牙に届く前に消滅していく光景にあった。

 結界を張って持ちこたえていた彼が叫んだ途端、彼の刀が蒼く光りだしていることもだ。

 

(観護、あれは何かわかるか?)

『さすがにわからないわ……武器自体が魔力でも持ってるのかしら……』

(魔剣とか言うんじゃないだろうな)

 

 蛍火が魔剣と表現したのは、その異様な状況にある。

 魔力が消えていくのだ。魔力の塊、その術式を解除されているわけではない。文字通り、魔力が消滅していっている。

 吸い取っているというわけでもないようだし、逆に蛍火に向かってくるというわけでもない。

 

「向こうもまだまだ本気ではないというわけか……」

 

 未知の武器を使い、未知の術を使い……まだまだ蒼牙は蛍火に勝ちを譲ってくれないようだ。

 蛍火は彼に戦闘を仕掛けた……と言うより仕向けたことを考える。

 考えて……しかし、後悔はしなかった。むしろ楽しいと思う。

 あの大河たちと戦ったとき以上に。彼がもし来てくれたら、本当に自分は裏に徹することができたかもしれないとも思う。

 まあ、誘う気などないが。

 蛍火はまるで意味のない弓の攻撃を止める。と、蒼牙がその蒼く光る刀をこちらに向けて言った。

 

「『そのような魔力の武器は存在しない』!」

「……何を言って――!?」

 

 蛍火の弓が一瞬にして消えた。もちろん『観護』のほうはちゃんとあるが、魔力武器のほうは彼の言葉に従うように消えた。

 

"瞬移"!」

「ちいっ!」

 

 すぐさま『観護』を刀の形態に戻し、蒼牙の突撃の一閃を受け止め――

 

 

 

 

 

 ゾクリ

 

 

 

 

 

 その悪寒を、蛍火は疑うこともなく受け入れ、その斬撃を避けた。

 だが中途半端になってしまったその行動は完全回避を行えず、蛍火の右肩にかすらせてしまった。

 

『どうして受けないの、蛍火くん!?』

(うるさい、少し黙ってろ!)

 

 受けられるものなら受けていた。だが、なぜか思う。あれはやばいと。

 理由なんか知らない。わからない。だがそれでも、あの悪寒は信じられる――いや、信じるべき。

 それに、蛍火は回避の瞬間、確かに耳にしていた。

 

『――ちっ』

 

蒼牙の舌打ちを。確実にあの攻撃には何かがあった。

 距離を開けた蛍火に、蒼牙はまたも肉薄してくる。

 そして斬撃の乱撃。それを蛍火は『観護』を使わず、躱し続けた。

 

「しぶとい!」

 

 蒼牙が手刀を繰り出した。完璧に虚を突いたそれ。

蛍火は避けることに、蒼牙の斬撃を避けることに集中しており、その攻撃から考えるダメージなどささいなものと、

切り捨てようと――

 

 

 

 

 

 ゾクリ

 

 

 

 

 

 それには遅かった。予想外でもあり、避けることはかなわない。

 蛍火の二の腕が、切り傷を負った。手刀で。

 

「っつ!?」

我流戦闘術 "四刃刀勢"

 

 さらに蒼牙は蹴りをも重ねてくる。それが何とも悪寒の連続だった。

 蛍火は必死でその全てを躱し始める。

 やばすぎる。四肢、その全てが技の名の通り『刃』だ。

 これに当たったら……斬られる。

 どんなカラクリだかはわからないが、これは全てがもう斬撃だ。

 蛍火の体に次々に切り傷が作られる。

 これ以上食らうくらいならと、蛍火は腕を裂かれることを承知の上で蹴りを繰り出した。

 予想外の攻撃に、蒼牙も四肢の全てを攻撃に繰り出していたため、それをモロに鳩尾に食らった。

 蛍火の腕から血が噴き出す。

 

「ごほっ…は…覇道補法第四八式 "四縛牢"!」

 

 かなり無茶な攻撃をしたことから体勢を崩した蛍火の隙を、蒼牙は逃さない。

 詠唱無視で捕縛の術を行使。蛍火を絡め取る。

 

「ええい、わずらわし――」

奏でられるは振動の笛 響く音色 震える大気 (あまね)冥道(みょうどう)を照らし奉れ 破壊の雷

 

 蒼牙の呪文詠唱と共にその左手に光る何か。魔法ではない。魔力を感じない。

 蛍火はまず何より捕縛の術を解除しようと魔法を行使する。

 それでも相当に強固なそれは、蒼牙の詠唱終了まで十分な時間稼ぎをした。

 すぐさま蛍火は魔力弓を出し、防御結界を張る。

 

五芒を描け、五行を抱け、その内にあるものを守りぬけ

覇道第五五式 "冥道雷皇覇(めいどうらいこうは)"!!」

 

 蒼牙の突き出す左手から飛び出すように撃ち出される、巨大な雷。

 

簡易・隔絶の結界!!」

 

 防御結界をすぐさま張る蛍火。だがそれまでの捕縛術のせいで緻密なものは作れない。そんな余裕はない。

 それでもないよりはマシ。

 多少はあの雷撃を食らうかもしれないが、それでもかなり軽減はでき――――

 

"疾空刀勢"――

 

 そんな蛍火の予想と自信をも、蒼牙は上回った。

 

"虚襲"!!」

 

 それでも、彼の目的が斬撃であることがわかる。この結界は魔法だろうが物理的な攻撃だろうが防御する。

 術を囮にしても――

 

 斬!

 

「なに!?」

 

 斬られた。結界を。真っ二つに。

 

「――城崎の『斬撃』に斬れぬものはない」

 

 そう言って蒼牙は掻き消える。そしてその後に迫るのは彼の術。雷撃。

 

「うおおおおおお!?」

 

 こちらこそが……本命だったのだ。

 

 

 

 

 

 雷撃が結界を砕かれて丸腰の蛍火に襲い掛かった。

 痛覚を切っているはずの体にすら、その「痛み」を感じさせた。

 痛みと言うより、体が痺れていることがわかるだけ。だがその程度がひどい。

 あとは意識が飛びそうだった。視界が赤くなったり白くなったり黒くなったり。

 だからこそ間接的にその痛みが知れた。

 

 

 

 

 

(…………もうコレしかない…………)

 

 

 

 

 

 蛍火は、体内の魔力を思いっきり放出することで、雷撃を内から四散させた。

 

「っ……ふぅ……わけのわからない技を使うな、お前は……」

「ごほっ……お互いにな。で、本気を出す気にはなったか?」

「お前も、いい加減出し惜しみするなよ……」

 

 蛍火は顔に手を当てる。

 

(……さあ、やるか……)

 

 その手を――――取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――!?」

 

 蒼牙は本能的に身震いした。

 目の前にいるのが、人間かどうかを本気で疑った。

 いや、あれこそ人の姿をした怪物そのもの。

 

(怪物? いや、それすらもまだマシ……あれは『死』そのもの……闇と死を体現したような……!)

 

 それまでも蛍火の無表情は見ていた。

だがそこには意識したようなところもあったし、蒼牙が『斬撃』を放つ上で彼の呼吸やパターンも読めた。

 それができない。今の蛍火は、それをさせてくれない。

 

「……待たせたな。これが本当の俺だ。そう、少なくとも本気の俺はコレだ」

 

「死者」そのものの蛍火が、重苦しい声でそう告げた。

 

(……俺も、こんなふうになるというのか……)

 

 復讐を果たした後、蒼牙は自分も死ぬ気だった。それが、復讐に落ちた人間にふさわしい末路と言うものだ。

 だが、本当に自分はそうできるのか……目の前の「生者にして死者」たる蛍火を見て、自信がなくなる。

 

「何が……貴様をそこまで歪ませたんだ……?」

「……さあな。知りたければお前もこうなれるようにすればいい。案外なれるかもしれんぞ、どこか俺に似ているお前なら……」

「嬉しくもない言葉だな」

「それは残念だ」

 

 蛍火が刀を構えた。蒼牙もそれに倣う。

 音もなく、合図もなく、しかし両者は飛び出した。

 剣戟が響く。

 蛍火の斬撃を受け流し、蒼牙は胴薙ぎを。受けられ弾かれ、蹴りを食らいかける。が、肘で打ち落とす。

 蒼牙は読む。蛍火を見て。だがなかなか『斬撃』・『刺突』を繰り出すための『見切り』が得られない。

 それは当たり前と言うべきか。

 

「死者」は何も感じない。何も感じ取らせない。

 それこそが、死者なのだ。

 

 それが、そのようなことを経験したことがない蒼牙に、わずかな焦りを生んだ。

 そして「死者」たる蛍火に、生者のそのような感情ははっきりと読み取れていた。

 

「ふっ!」

 

 蛍火の蹴り上げが『蒼空』を打ち上げる。完全に蒼牙の体が開いた。

 

「終わりだ」

 

 蛍火が決めのセリフとしてはまったくそぐわない静かな口調でそう告げた。だが――

 

"鏡面"

 

 蒼牙の張ったあの薄い結界が、蛍火の斬撃を止めた。それだけで終わらせない。

 

第二陣 "鏡面離反"!」

 

 反発性能を持つ術、無詠唱の発動。さすがに補法と言えど80番台はかなりの氣を持っていかれる。

 それでも、蛍火の刀をその手から吹き飛ばした。それで充分。

 

「さっきのセリフ、そのまま返すぞ!」

 

 斬!

 

 蛍火の左肩から右腰にかけてを斬った。手応えは完璧。

 

 

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 

"虎砲"

 

 

 

 

 

 蒼牙の腹にその正拳が決まり――

 

「ぐっ――が、〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 声が出なかった。咄嗟に氣を硬化させたものの、その背中をも貫通した衝撃は、蒼牙の体を軋ませる。

 背骨がギシリと鳴った。内臓が凹むのがなぜか知覚できた。酸素が全て吐き出された。

 それでも蛍火は止まらない。蒼牙を襟を掴み、さらにとどめの一発を食らわす。

 

 

 

 

 

"神威(かむい)"

 

 

 

 

 

 今度は膝。それは先ほどの『虎砲』と同じ理屈なのだろうが、しかし威力が違った。

 無意識にガードした左腕。ピシリと、聞いてはいけない音を、蒼牙は確かに聞いた。

 内臓が軋みを上げ、衝撃に皮膚が裂かれ、苦痛に意識をもっていかれそうになる。

 

(…………負……け、る……のか…………)

 

 強すぎる。

 己を捨て身にした攻撃。己をいとわない戦い方。

 いや、蛍火には己がない。今の彼には己などない。

 死んだ人間に、己があるわけがないのだから。

 故意に、「死者」になることができる蛍火だからこそ――――可能な戦法。

 

「がはっ!!」

 

 蒼牙は吹き飛ばされる。『虎砲』と『神威』により、完全にその身は破砕寸前。

 負け。敗北。そして…………死。

 

(………………………………死………………………………)

 

 浮かんだ。瞬間的に。

――血まみれで死んでいた妹が。

――半目を開けたまま死んでいた弟が。

――片手を吹き飛ばされて死んでいた父が。

――弟を抱き締めたまま死んでいた母が。

――全身に火傷を負って傷だらけで死んでいた身近な人々が。

――――――――――――自分を助けて命を絶った…………笑って死んでいった幼馴染の少女が。

 

 まだ、何も果たせていないではないか。

 大切な人々を殺した『悪』を、殲滅できていないではないか。

 ここで死んだら、自分は本当に何もできなかった、情けない、惨めな復讐鬼ではないか。

 

 

 

 

 

 死ねるものか。

 

 

 

 あの雨の日に。全てを失った日に。全てを捨てた日に。

 誓ったのだ。

 

 

 

 葬ろうと。

 潰して砕いて蹂躙してやろうと。

 

 

 

 だから…………死ぬことは許されない。

 

 

 

「…………許されん…………」

 

 蛍火がなおも追撃をかけてくる。その手に刀が。吹き飛ばしたはずの刀が。

「死者」が、向かってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………許されるかああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ」

『な、何!?』

 

 突然の咆哮。

 蛍火は突撃を中断した。

『観護』は単純に驚いているだけだが、今の蛍火は感情などない。驚いたのではない。

 ただ、とても近づけない。近づくなと本能が言っていた。

 何がいったい第5の蛍火――「死者」たる蛍火にすら、そう思わせたのか。

 

 

 

 

 

――――それは、こちらを振り向いた蒼牙の目で理解できた。

 

 

 

 

 

『――――!?』

「…………」

 

『観護』が明らかに恐怖していた。刀なのだから震えているわけではないが、はっきりとわかる。

 声――思念波と言うべきだろうか――にならない悲鳴を、『観護』は上げていた。

 感情のない今の蛍火は、ただ黙っているだけ。

 

 いや、黙らされていると言うべきか。

 

 あの、何も感じさせない、しかし向けられた者に根底から恐怖を与えさせる目に。

 

「……なるほど。似ていると思うわけだ」

 

 蒼牙の表情。それは今の蛍火と同じく、『無』だった。

 生者にして死者。

 そんな稀有な存在が、蛍火と同じ存在が、今間違いなく蛍火の前にいた。

 

「…………それがお前の行き着いた先か。蒼牙」

 

 復讐が蒼牙の目的。大切な者たちを殺されたと彼は言った。

 だから彼は怒り、悲しみ、苦しみ、恨み、憎しみ、蔑み、罵り――――狂った。

 それらが混ざり合い、凝縮し合い、たどり着いた。

全ての感情を示せないのなら、示さなければいい。示しながら、示さなければいい。

『無』表情。『無』は何も示さず、しかしどのような感情にも変えられる、言わば「原点」。

 

 全ての感情が重なり、昇華され、その結果としてできた表情。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………"歪みの境地"…………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蛍火と蒼牙の声が重なった。互いに『無』の表情で。

 ある意味で究極の合致。なるべきではない方向で、2人は最も分かり合える存在ではないだろうか。

 せいぜい2人に違いがあるとしたら、そのきっかけ。

 

 蛍火は一度「死んだ」。そのときにすべての感情が欠落し、そうして「歪んだ」。

 蒼牙も一度「死んだ」。しかし欠落したのではなく、負の感情が暴走し、混ざり合い、そうして「歪んだ」。

 

 彼らこそ、始まりは違えど、到達した境地を同じくする者たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"歪"なる存在』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは出会うべくして出会ったのか。単なる運命のいたずらか。それはわからない。

 そして皮肉にも、彼らは互いを同じくしながら分かり合うこともなかった。

 

「……"神解"……」

 

 蒼牙が囁き、その刀が空気に溶け込むように消えた。

瞬間、蛍火は周辺のもの全てが自分を拒絶しているかのような気配を感じた。

 そして、周囲に蒼い粒子が漂い始める。それは蛍火に、『観護』に取り付き、蒼牙も例外ではなかった。

 

『な、何……?』

「…………ん?」

 

 蛍火が小さな痛みを覚えた。

 そこを見る。すると、いきなり皮膚が裂けた。その部位の服が溶けるように消えた。

 

「…………」

 

 同時に蛍火は何か……根源的なものに攻撃を受けている気がした。

 蛍火を拒絶するような気配。取り付く蒼い粒子。そして…………

 

「……『消えろ』……」

 

 蒼牙の言葉。

 存在を消されようとしている。

"歪"なる存在』だろうと、存在する以上はそれを消す。消すことができる。

 

――蒼牙の蒼く、しかし綺麗などころかやはり歪なその目は、そう言っていた。

 

 おそらく対抗策は、蒼牙の「消えろ」という意思に対抗して、「自分は消えない、ここに在り続ける」と強く思うこと。

 

「……己を持たない俺に『自分』を強く意識しろ、か……皮肉か嫌味か……その前にお前が消えろ、蒼牙」

 

 蛍火は突撃を敢行する。

 

"碧月・鎌鼬"

 

 突撃しながら、抜刀術と魔術の融合技を繰り出す。風刃が蒼牙の『瞬移』にも匹敵する速度で蒼牙に迫る。

 しかし蒼牙がしたことは、左手を突き出し、ただ一言――

 

「失せろ」

 

 それだけ。

 それだけで、風刃はその場に存在することも許されず、魔力を四散どころか消滅させられて消えた。

 だがその間に蛍火はすでに蒼牙の側面を取っていた。

 蒼牙は蒼い刀を形成し、怯むことなく迎撃してくる。

 それまでの気迫の声すら出さない、静かで、そして気味の悪い打ち合い。

 だがその剣戟はそれまで以上。

 

「……覇道第四式 第二陣――

 

 蒼牙が周囲に光弾を生み出す。それがパリパリと電気を発している。

 どうみてもこの零距離で放つつもりだ。

 魔力ではないが感じる何かは相当なレベルにある。

 

「お前もただでも済まんぞ」

「だから何だ?」

 

 それだけの問答で終わる。

 同時に蛍火は魔力弓を生み出す。その行動を見た蒼牙は即座に術を行使した。

 

"百雷"

 

 蒼牙の放つ雷電砲撃が発射。同時に『観護』で打ち合いをしながら蛍火は矢を打ち出す。

 

「ぬ」

 

 その砲撃は蛍火の両肩をかすって左右に分かれていく。まるで蛍火を避けるように。

 だがよく見れば砲撃は蛍火が放った矢を追いかけているのだ。

 蛍火がしたのは、魔力に磁石の性質を持たせ軌道補正させるという能力を応用し、蒼牙の雷電砲撃を引きつけること。

 

 雷は電気。要は矢を避雷針代わりに使った。

 

 2人の剣戟は続く。たまに魔法攻撃が繰り出され、しかし2人は威嚇程度なら無視し、必要なときだけギリギリの対処をする。

 だがダメージ的に蒼牙が先に根を上げ始める。蛍火は当然見逃さない。

『観護』に氷の魔力を纏わせ、刀の激突の瞬間に発動。己の腕ごと蒼牙の腕まで凍らせる。

 無理に動かせば腕が折れる。だが蒼牙もきっと「それが?」と言うところだろう。

 それでも、一瞬動きが止められればいいだけだからそれでもいい。

 

「観護」

 

 蛍火は無事な左手に『観護』を呼ぶ。召還器ゆえ、いつでも還せるし、また呼び出せる。

 そして瞬時に凍りついた蛍火の右手から、左手に『観護』は「移動」してきた。

 振り抜く。

 

 ガキイン!

 

 しかし蒼牙はそれに何事もないように対応した。その左手には蒼い刀。

 

「……いくらでも生み出せるのか」

「残念だったな……」

 

 蒼牙が呟いた。すると蛍火と蒼牙を中心に、蒼い刃がいくつも形成される。

 

この葬列の刃、どう躱す?」

 

 蒼刃が蛍火に襲い掛かる。蛍火は一点突破で退避を選ぶ――が。

 

「逃がさん」

 

 蒼牙が後方に『瞬移』で回り込み、蛍火を羽交い絞めにする。ただ羽交い絞めにするだけではなく、腕で首を締めつける。

 窒息させるだけでなく、もはやへし折る気なのだろう。

 だが蛍火は反射的に左腕を首と蒼牙の腕の間に入れており、それを防いでいた。

 しかも蛍火はそんな中でも冷静に素早く対処策を頭で考えており――。

 

 おそらく弓で迎撃しようにも、またわけのわからないやり方で消されかねない。この『神解』とかいう中では、きっと。

『観護』を弓に変えたところで、間に合わない。形態変化にはやはりタイムラグがある。

 

「ならば」

 

 蛍火はその技のリスクを考えもしなかった。

 

"蒼月・剣壁"

 

 氷を纏った『観護』を振る。その軌跡にできていく氷の壁に、蒼刃は阻まれる。

 だが、背中のそれはさすがに蒼牙が邪魔で防げなかった。それどころか、途中の蒼牙を無視し、蒼刃は蛍火のみに突き刺さる。

 蛍火の口から血が飛び出す。だが苦痛の呻きはまるでない。それどころか――

 

「邪魔だ」

 

 蛍火が『観護』を逆手に持って後方の蒼牙に突き刺そうとするが、蒼牙もさすがにそれは避けた。蛍火から離れる。

 蛍火はすぐさま魔力弓を生み出そうとするが、やはり消えてしまう。

ならばと『観護』をグローブに変えた。リリィの召還器。

それで雷撃魔法を行使。召還器により増幅させた威力を持つ魔法が蒼牙に向かう。

 魔法は消えない。ただでさえ召還器で強化している上、蛍火は魔法の一発一発に「存在する」と強く念じているのだ。

 蒼牙の『神解』にすら対抗できるだけの。

 

弐式絶技 "桜花"

 

 蒼牙は魔法が消えないことに驚きもせず、己の絶技のうち、乱撃系の『桜花』を使って迎撃する。

 氣弾が蛍火の魔法に何十発と命中し、蒼牙に到達する前に粉砕されてしまう。

 同時に蒼牙は凍りついたままの腕に炎獄の火球を生み出していた。だがそれを放たない。

 どうやらそれで凍りついたままだった右腕の氷を溶かしているようだ。

 

「…………急激に冷やしたものをいきなり熱すればどうなるか知っているか、蒼牙?」

「ああ……砕けるな。忠告に感謝しておこう、蛍火…………"瞬移"

 

 蒼牙が消える。蛍火の背後に。

 蛍火は『観護』を篭手状に。カエデの召還器。

 

"虎砲"!」「"爆掌破"!」

 

 召還器により高められた蛍火の『虎砲』の左正拳。

体の任意の箇所を爆弾のようにできる『爆掌破』による蒼牙の左掌底。

 

 衝突――爆発。

 

「……っ!」

「……ちっ!」

 

 共に舌打ちする。

蛍火は爆発により血まみれになった左腕を見ながら。

蒼牙は『虎砲』をまともに受けたために確実に折れた左腕の痛みから。

 だが彼らが思うことは同じこと。

 

((左腕は使い物にならんな))

 

 それでも2人は激突する。

 蛍火は『観護』を刀に戻し、蒼牙はまたも蒼い刀を形成して。

 

 

 

 

 

(…………何なの、これ…………)

 

『観護』は己を振るう蛍火と、それに一歩も引かない蒼牙を見て思う。

 戦とは互いを傷つけ合うもの。これが「死合い」である以上、それはしょうがないことかもしれない。

 だが戦でも、己の身を護りながら攻撃を繰り出し、相手を打ち負かすものだ。勝利を得るために。

 彼らにはそれがない。

 もちろん勝利のためというのはあるだろうが、そのために己の体を守るということがない。

 防御行動は取っている。だが、己の攻撃のためになら己の体を厭うことはなかった。

 彼らにとって己は道具。命すら戦うためのもの。

 壊れなければいい。後で治せばいい。

 だから彼らは己の身を厭わない。ただ勝つために。

 こんな狂った戦があるのかと。あっていいのかと。

『観護』はこの2人を見ていると、その考えすら麻痺しそうな感覚に襲われていた。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 

 


あとがき

  「FLANKER」です。

  それではまず…………ごめんなさい、ごめんなさい! いや、もう本当にごめんなさい!

  書いていたら2話どころか、3話分にもなっちゃいまして……仕方なく今回を中編にしました。

  マジでごめんなさい! あともう後編だけですとか言ってたのに本当にごめんなさい!

  自分の予定の杜撰さにもう自分の事ながら呆れて物も言えないです。

  予定の中で済ませることもできない未熟な腕にも……うわ、自己嫌悪に……。

 

  F 「どないしょ?」

  蒼牙「この阿呆が」

  蛍火「この馬鹿が」

  F 「ぐはあっ! 私的に似たキャラ2人に同時に責められるこの状況……い、痛い……あまりに痛すぎる……」

  蒼牙「よかったのはやっとサブテーマの意味を出せたことくらいか?」

  蛍火「むしろそれくらいしか褒められるところがないな」

  F 「や、やめて……痛い……苦しい……!」

  蒼牙「前編を出してから10日以上も経つというに」

  蛍火「出せたのは中編だけ。分けるのはいいとしても、せめて後編も一緒に出せ」

  F 「あ、耳が痛い……胃が痛い……心が痛い……何よりこの毒舌責め苦タッグの冷たい目が痛い!」

  蒼牙「全く、本編を書き上げたことは褒めてやってもいいと思っていた直後にこれだ」

  蛍火「そもそも『A‘s』編を書いているらしいが、まだ投稿できる分が書けていないらしいな」

  蒼牙「本編では俺は死んでるし」

  F 「ちょっと待て。それただのひがみっぽくね?」

  蛍火「俺の技を新たに書き加えると言っておきながら、結局1つだけかよ」

  F 「いや、ちゃんと後編で出すからさ……全部見る前にそんな文句を言うなよ」

  蒼牙「情けない限りだ」

  蛍火「ロクでもない」

  蒼牙「もはや救いようがない」

  蛍火「救う価値すらない」

  F 「……………………え、何? 何コレ? 何なの、この見事なまでの毒舌キャッチボールは?」

  蒼・蛍「やれやれ」

  F 「……………………死んでもいいっスか?」

  蒼・蛍「…………ふう」

  F 「…………………殴って殺された方がマシだああああああああーーーーーーーー!!」





互いに引かない、己の身を鑑みない、正に歪んだ二人の戦い。
美姫 「他に動くもののない世界で、二人はただ相手のみを瞳に映して刃を振るう」
いやいや、今回も熱いバトルが繰り広げられているね。
美姫 「決着はまだついていないしね」
いよいよ次回で決着がつくのか!?
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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