合同企画第3弾

ドタバタコメディー(?)

  妹たちと蛍火――阻止せよ兄貴どもとレン!―― 2

 

作:ペルソナ&FLANKER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは恭也にプレゼントする盆栽を大事そうに抱えていたのだが、

 さすがに重いだろうと蛍火が預かると言い、ポケットに盆栽をしまった。

 

――――ちょっ、そのポケットは先端が入りきらないと収納できない設定だろ!?

 

「改良したんです」

 

――――何勝手にどこぞの青いタヌキ形ロボットに成り果ててやがる!?

 

「失礼な、あんな失敗作と同じ扱いにしないで欲しいですね」

 

 憮然としながらも呟く蛍火。

 

「蛍火さん、誰と話してるんですか?」

「いえ、ちょっと独り言です」

 

 そういって人差し指を口に添える姿。

 男がやっても可愛くねぇ。

 だが、何故かフェイトとなのはには効いている様だ。

 

「恭也君はこれで一応大丈夫ですね」

「大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ。なのはちゃんが一生懸命になって選んだんですから恭也君はきっと喜びます」

 

あのなのはを溺愛する恭也ならば駄作と評される盆栽を送られたとしても喜ぶだろう。

 蛍火の断言になのはも納得する。

 もはやなのはとフェイトにとって蛍火は心から信頼に値する人物となっていた。

 

――――蛍火なんぞを信頼するなんて将来が不安ですぜ?

 

 こんなヤツを全面的に信頼してはいけない。

 まぁ、今この時、なのはとフェイトと接している蛍火はある理由によって信頼できるのだが……。

 

「ふむ、しかし蒼牙君の趣味に答えるのは難しいですね」

「俳句はさすがに無理ですよね」

 

 困り顔のフェイトとなのは。もちろん、蛍火も結構困っている。

 俳句をどうやって送るというのだ? そもそも西洋文化主体のこの世界で盆栽があるだけでもかなり凄いのに。

 

「刀剣って大丈夫なんですか?」

「はい?」

「いえ、刀剣ほどの大きさの物を元住んでいた世界に持ち帰って規約などに抵触しないかと不安になりましてね」

 

 蛍火の言葉に2人がぎしりと固まる。

 蛍火は事の経緯を全て知っているが、2人はそれを蛍火が知っているとは知らない。

 

「驚かないで下さい。蒼牙君がここにいるんですからそれぐらいは想像つきます。

 彼とはこの世界の外で過去に1度出会っているんですから」

「えっ……兄さんと会ったことがあるんですか?」

「えぇ、この世界の外で。一応これでも魔術師なんて職業もしていますから世界ぐらいは1人で超えられますよ?」

 

 へぇと感心するなのはとフェイト。

 1人で世界を超えるなんて相当の腕が無いと出来ないのだが……。

 あの人外の蒼牙の知り合いなのだ。それぐらいは出来て当たり前だろうと2人は結論を出した。

 なんだかんだ言って蒼牙の扱いが酷い気がするのは気のせいだろうか?

 

「兄さんとどういった関係だったんですか?」

「蒼牙君とですか? そうですね…………最も近しい他人“だった”人ってところですね」

 

 それは事実だろう。いやもっと正確に言うならば今も蛍火と蒼牙は最も近しき他人だ。

 血が繋がらずとも至った場所を同じとする者。同じく『歪なる者』だった。

 そして同じくそこから人を取り戻した者達。

 誰もが行きつける場所でありながら、誰しもが辿り着けない場所に到達しながらも人に戻った稀有な共通項を持つ他人。

 

 

 

 そこまで同じならばこうも言えるだろう。

 『違う道を歩む自分』とさえも。

 

 

 

 

 

「どういう事だ? 蒼牙」

「……あいつも死人だという事や。あいつは今も死人の――――ままなのか? 違う気がするんやけど」

「とにかく危険人物であることに変わりは無いな、蒼牙?」

「そや、あいつはフェイトとなのはちゃんに近づけるには危なすぎるヤツや!!」

「煩い」

「「すいませんでした!」」

 

 土下座しそうな勢いの蒼牙と恭也。

 歴戦の猛者であろうとも怒り心頭の女性には勝てないのだ。

 

 

 

 

 

 蛍火の眼が遠くを見る。

 その表情は何処となく青い?

 

「あの時の蒼牙君は激しかった…………嫌がる私に何度も何度も」(嘘泣

「「…………え?」」

 

 蛍火の表情が嘘とは思えないほど青いことも相まってそれが真実のように聞こえる。

 というかさっきまでの真剣そうな話は何処へいった!?

 

「熱い物を私に何度も押し付けて!!」(嘘泣

 

 その言葉になのはは愕然として、フェイトはその言葉を信じきれずに呆然としていた。

 だって今までストイックと信じてきたあの蒼牙にそんな趣味があったと知れば……。

 

 

 

 

 

「蛍火に二度と近づかないで」

 

 レンが蒼牙を睨んで吐き捨てるように罵る。

 もはやレンの中では蒼牙は敵に認定されている。(爆笑

 

「違うわ!!」

 

 レンのそんな視線に耐え切れずに蒼牙が慌てふためいて否定する。

 いや、誰だって801だと疑われて平気でいられる奴はいませんよ。その道の人じゃない限り。

 

「まさか……蒼牙がそんな道に走っていたとは……」

「殺すぞ、親友?」

 

ここぞとばかりにからかう我らが恭也君。

こんな時でもなければ仕返しが出来ない。そう、ステージに上がった時に蒼牙がなのはに録画させた時の屈辱は忘れていない。

 

「むっ、安心しろ蒼牙。お前がどんな道を進もうと俺は親友だ……体は捧げんが

「ははは…………抜け、恭也。ここでその首、斬り落としてくれる」

 

 腰を落とし、何時でも牙突を出せる構えに蒼牙は移行する。

 そして恭也も八景を腰に差し、抜刀の構えを取る。ちょっ、近くにレンがいるんですけど!!

 

 

 

 

 

「いやぁ、あの時は本当に意味のあった殺し合いでした」

「「えっ?」」

 

 先ほどまでの悲壮な表情と一転して清々しいまでの表情に。

 相変わらず、蛍火の冗談は洒落にならない。

 一応、兄達と妹達が仲直りする事を前提としているだけあってフォローは入れるようだ。

 フェイトにとってフォローにはなっていないようだが……。

 

兄さんには後できつくお説教です

「フェイトちゃん、しなくてもいいですよ。蒼牙君と戦ったのは彼が貴方達と出会う前ですから」

「えっ、その時の蒼牙さんと戦ってたって事は……」

「引き分けでしたけどね」

 

 苦笑を浮かべながら、それでも蛍火の表情は清々しかった。

 

 

 

 

 

「蒼牙、負けたんじゃなかったのか?」

「あぁ、俺は負けたんやけど…………なんでや?」

 

 あの戦いで先に立ったのは蛍火だ。

 だがあの戦いで蛍火は最後の一線で人として踏みとどまっている蒼牙の姿を眼に焼き付けていた。

 そう、あの戦いというきっかけがなければ蛍火は蒼牙と同じく人に戻っていなかったかもしれない。

 そんな経緯があるから今の蛍火はあの戦いを引き分けだと思っている。

 

 

 

 

 

「刀剣はやっぱりダメですか?」

 

 話を戻して蒼牙に贈る物を決めようとする蛍火。

 今この場にいる他5人のペースを握っているのは明らかにコイツだ。

 

「アクセサリーとかの小物なら大丈夫なんだけど、さすがにそれ位大きいと」

「なるほど、では…………扇にしましょうか。剣舞をするのなら剣だけでなく扇も必要ですし」

「はい、お願いします。それに兄さんが『蒼空』以外を愛用するとは思いませんし」

 

 そういうフェイトの表情は少し寂しそうだった。

 兄にとってパートナーと呼べる存在。

 蒼牙は今でこそ別の刀を使っているが、『蒼空』はリインフォースの中にあるだけで失ったわけではない。

 戻ってくるのを彼は待っているだろうし、別の刀を『愛刀』とすることもないだろう。

 妹としてはちょっとばかり羨ましいし、嫉妬もする。

 自分が知らない時も一緒にいたのなら尚更。

 

「了解、こちらに行きましょう」

 

 蛍火の自然と出した手に当たり前のように手を添えるなのはとフェイト。

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

「蒼牙達……だよな?」

 

 感じた寒気に少し疑問符を浮かべながらその手を優しく握り扇屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

「蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿」

 

 怨念に近いモノが篭った声で小さく何度も繰り返す。

 その手に握り絞められた(誤字にあらず)蒼牙の腕が…………。

 やっぱり恐いっす。

 

「イダダダダッ!?」

「蒼牙、耐えろ!」

「無茶を言うなや、親友! 腕がみしみしといっとるんやぞ!?」

「それでもなのはとフェイトの為に声を上げるな!」

「なら代われ!!」

「嫌だ!!」

黙れ

「「すいませんっしたー!」」

 

 レン最強伝説が今ここに始まった。

 

――――あぁ、出てきた時の純真無垢なレンは一体何処にいってしまったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、扇って思ったよりも沢山あるんですね」

 

 色とりどりの扇が飾られた店の中で眼をきらきらとさせながらなのはが一つ一つ見て回る。

 なのはに手を引かれて歩いているフェイトもなんだかんだ言ってその工芸品に見入っている。

 

「でも、何でこれだけ数があるんでしょう? それに場所によって絵柄とかが結構違います」

「あぁ、それは女性用と男性用に分かれているんです。

夏用のものもありますし、舞用に飾り用など意外と用途別に色々と種類があるんですよ。

ですから、人に扇を贈る時はきちんとお店の人と相談しないと間違った物を贈ってしまうこともあるので気をつけてください」

「へぇ、蛍火さんって物知りさんなんだ〜」

「まさか。お城のお偉いさんに会うときには手土産が必要でしたから仕方なく覚えただけですよ」

「「……お城の偉い人?」」

 

 今になってものすごい発言聞きましたー!!と驚きを顕にするなのはとフェイト。

お城と言えば王族、貴族。そんな人と面会する人物が今、案内している?

 

((蛍火さんって実は凄い人?))

 

 なのはとフェイトの考えどおり色々な意味で凄い人物なのだが、ここは番外なので割愛。

 

「あのっ、蛍火さんのお仕事って?」

「喫茶店のマスターですよ」

「お父さんと一緒だ!」

「おや、なのはちゃんの実家も喫茶店なんですか」

「はいっ!」

 

 自分の家が喫茶店であることを誇りに思っているかのように嬉しそうな表情。

 それだけで蛍火はなのはが真っ直ぐに育った理由が分かった気がした。

 

「でも、お城の人に会いに行くのに喫茶店のマスターなんですか? 実は喫茶店のマスターが表の職業だったり?」

 

 フェイトも表では小学生、裏では管理局の執務管候補をしているだけあってそんな事が良くあることを知っている。

 だから、蛍火もそうでもないかと疑うが……

 

「それは内緒の内緒」

 

 人差し指を唇に片眼を瞑って微笑む。

 蛍火がやるよりもリンディさんがやる方が似合うような仕種なのだが、何処となく似合っていた。

 そして、そんなちょっとばかり子供っぽい仕種に頬を染めるなのはとフェイト。

 ギャップはある意味で武器なのです!!

 

 

 

 

 

「むっ?」

 

 微妙に眉をひそめるのだが、そこからの行動には移らない。

 今の蛍火の行動はレン的にはギリギリセーフらしい。

 

――――それはレンにとってだけなのだが……

 

「なのはが……なのはが顔を赤らめている。逝かねば!! 風邪の引き始めは安静にしないといけないぞ!!」

「あぁ、フェイトもだ! 往こう、親友!! 2人が病気になっては『義』も『守護』も果せていないことになる!!」

 

 顔を赤らめた程度で『義』や『守護』の名を出さなくても。

 

「煩い!」

「ぐはっ!?」

 

 裏拳一発で蒼牙がダウン。

 "ブラストカラミティ"でやられた箇所をやられたとはいえ、情けなさすぎじゃないか、蒼牙?

 

「く、喰らってもない奴がほざくな……この痛みはかなりなもの……ぐふっ」

「……誰と話している、蒼牙?」

 

 尚、レンが蒼牙だけ攻撃するのは、蒼牙が過去に蛍火と戦って蛍火に怪我をさせた(推測だが当たっている)からだ。

 

 

 

 

 

「蛍火さん、どれを選んだらいいでしょうか?」

「ふむ。舞うものによって決めるのもいいですね。蒼牙くんが普段、どのようなジャンルの舞を舞っているのかわかります?」

「えっと……名前は『アツモリ』とか……」

「……『敦盛』……蒼牙くんって歴史好きですかね?」

「あ、はい。兄さん、歴史は大好きですね。よく偉人伝とか読んでますし」

「新撰組とか見てそうですね……」

「あ、そう言えば恭也さんが服屋で、兄さんは小さい頃に新撰組のだんだら羽織を着てたって」

「…………」

 

 どこまで古いんだお前は、とツッコミがしたい蛍火である。

 明らかに生まれる時代を間違った類の人間であろう、蒼牙は。

 

「やれやれ……そうですね〜……ではこれにしましょう」

「金色が綺麗だけど、蒼牙さんには少し派手じゃないでしょうか?」

「ふふっ、今の彼にはこれが一番相応しいと思いましてね」

 

 そういう蛍火の手にあるのは蒼が淵に、骨近くに白、蒼と白の間に金の波、そして骨が黒で彩色されている扇だった。

蒼を蒼牙、白をなのは、金をフェイト、黒を恭也。

 その4人を模ったと言っても過言ではないほどに絶妙なバランスを保って作られた舞扇。

 今の蒼牙を、今の彼らを表している扇。

 

「……ありがとうございます、蛍火さん」

「いえいえ、意見を述べただけですよ」

 

 そう言って蛍火は店員と交渉し始めた。

 値切っているとなのはとフェイトに見せているが実質は先に金を払っていて、2人の財布が傷まないようにしているのだ。

 盆栽の時も全く同じことをしている。

 

 

 

 見えないところでの気遣い。なんて紳士!?

 蒼牙と恭也にも是非とも見習わせたい行為だ。

 

 

 

 

 

「「ぶえっくしょい!!」」

「どうしたの? 蒼牙、恭也」

「いや、今誰かに噂されている気がしたんだが」

「あぁ、何となく悪口を言われているような気がした」

「そう」

 

 蛍火に関わることではないと理解すると途端に興味をなくすレン。

 なんというか色々な意味で将来が不安な子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄達と仲直りするための品は用意できて、次はレンの買い物に移るはずなのだが、今は雑談となっていた。

 まだまだお年頃ななのはとフェイト。兄たちととても似ている蛍火に興味深々なのだ。

 

「喫茶店のマスターで、お城の偉い人と会って、その上で魔術師って凄いなぁ〜」

「そうですかね?」

 

 なのはの褒め言葉におざなりな返事の蛍火。

 ぶっちゃけ全部副職だし、そもそも褒められるような事はしていないので喜んでいない。

 

「魔術師って、魔導師とは違うんですか?」

 

 魔術師とわざわざ言っている事を少し疑問に思った為にフェイトは質問をした。

 

「そうですね。なのはちゃんたちが使う魔法は知りませんけど、違うと思いますよ。

 どちらかというと蒼牙君の使う術式に近いですね。見てみますか?」

「え〜と、さすがに街中だからいいです」

「うん、こんな街中で魔法を使ったら大変です」

 

 魔法といえば攻撃魔法だ。

 そんなものを街中でぶっ放したら阿鼻叫喚だ。

 

「街中で攻撃魔法は使いませんよ。ちょっとした大道芸」

 

 そう言い放ち蛍火は掌で五芒星を作りそこに魔力を流す。

 

全ての生命の支えたる木よ。この身潤したる木よ。風を紡ぎて華を咲かせよ。“風華”

 

 蛍火の言葉と共に掌から優しい風が舞い上がる。そしてその風に乗るように色取り取りの花弁が飛び交う。

 

「うわぁ〜、凄い」

「綺麗」

 

 魔法の違う使い方に魅せられるなのはとフェイト。

 少なくともこの使い方はミッドチルドの魔法では出来ないだろう。

 

「おや、反応がいいようなのでもう1つ。

 全ての始まりたる火よ。この身潤したる木よ。風を紡ぎて火の華を舞い散らせ“火華”

 

 また風が起こり風にのって花火のような火花が空中を彷徨い消える。

 その儚い幻想になのはとフェイトは元より近くで見ていた町の人たちも足を止める。

 

「蛍火さん、他には! 他には無いんですか!」

「えっと、他にも見たいです」

 

 眼をきらきらと輝かせながらさらにとせがむ2人。

 そんな2人の年相応の反応に苦笑(本心は微笑ましい)を浮かべながらさらに魔術を広げていく。

 

 

 

 

 

「私はしてもらった事ない、私は見せてもらった事ない、私は聞いた事すらない…………」

 

 蛍火の知らない一面を見て嬉しい反面、初めて見せた相手が自分ではないことにいたく不満なレン。

 

「……おい、蒼牙。お前はできないのか?」

「俺は必要と思えないものは習得してこうへんかったんや。悠華ならできるかもしれへんけどな」

「使えないな……」

「ならお前こそ魔法の1つくらい使えるようになれや! デバイスの支援なしには使えない奴に言われとうないわ!」

「む、だがどっちにしろミッドチルダやベルカの魔法ではあれはできん」

「そもそも『覇道』は氣道の中でも戦闘に特化した術なんや。それ以外にはあまり使い道がないねん」

「要するに2人とも戦闘以外じゃ使えないんでしょ」

「「……………………」」

 

 恭也と蒼牙が壁に両手をつきながら気落ちするさまを尻目に、蛍火たちを監視するレンであった。

 

「おい、恭也。俺たちは何か間違ってるのか?」

「いや、そんなことはないはずや……そんなことは」

「何か大道芸的な術を使えるようになった方がいいのか?」

「そんな都合のいい魔法がベルカ式にあるとは思えん」

「火の輪でもくぐるか?」

「俺たちはサーカスの獣か!?」

「う〜む、ならば水芸か?」

 

 言ってから想像。

 自分たちが火の輪をくぐったり水でいろいろと細工をして人を楽しませている姿を……姿を……。

 

「「…………想像できん…………」」

 

 そもそも自分たちは人を楽しませることができる類ではない。(←今のお前らの姿が面白いけどね

 しかも火の輪をくぐったりして、サーカスのようにポーズを決める姿は……。

 

「「…………恥だ…………」」

 

 想像しただけで悶えるほどに恥ずかしい。

 

「むう〜、人が集まってきて見えない……場所を移動するよ――って、ちょっと恭也、蒼牙?」

 

 振り向いたレンが見た2人は……それぞれ地に手をつき、何やら失意のどん底に堕ちているような姿だった。

 

 

 

 

 

 いつの間にか人が集まり、アンコールの声が上がる。

 

「やれやれ、さすがに下準備もなしでこれ以上は難しいんですけど」

「え〜、もう終わりなんですか?」

「もう少し、見たかったです」

 

 不満げな2人を見てちょっと気を変える蛍火君。

 甘すぎるぞ、蛍火。

 

(仕方ないだろう、何よりもフェイトは……レンに似ているんだから…………)

 

 すいませんでした。そでしたね。きちんと理由(本編参照)がありましたよね。

 

「では、次で最後で」

 

 そう言って蛍火はナイフを取り出し次々と宙に投げ放った。

 総数10本のナイフを巧みに扱いジャグリングをする。時に交わり、時に鋼の音が奏でられる。

 もはやこれはジャグリングではなくナイフを用いた演奏。

 鋼が舞い、鋼が奏でる大楽曲。

 幾度も繰り返され、一本が中に高く舞い上がった。重力にしたがってナイフは蛍火に向かって落ちて行く。

 それは蛍火の掌よりも後ろの方に落ちていき、背中の方を伝って地面に向かっていく。

 

「あっ……」

 

 観客の中から落胆の声が聞こえた。

 今まで失敗らしい失敗をしていなかったのにここにきての失敗……

 

「ふふ、なんちゃって、ですよ♪」

 

 と思われた。

 そのナイフは地面に落ちる寸前に蛍火の踵に弾かれてまた高く宙に舞う。

 身体全て使った演奏にして演舞。

 最後とばかりに全てのナイフが宙に高く舞い上がり、そして全てがポケットの中に吸い込まれていった。

 そして、最後とばかりに腰を深々と折って一礼。

 

 拍手喝采の中、おひねりが飛び交った後、観客は立ち去っていった。

 

「どうでした?」

「面白かったですよ! でも、ちょっと心配しました!」

 

 と少しばかり怒っているなのはとフェイト。

 怒る理由が見当たらない蛍火は首を捻って困っていた。

 

「ナイフを後ろに回したときはちょっと当たるかと思いました」

 

 そんな微笑ましい理由で怒られたことに蛍火はまたしても苦笑。

 

「むー! 心配したんですからね!!」

「本当に心配したんですよ!」

「ありがとう」

 

 そんな些細なことで心配してくれる小さな女性の頭に手を乗せ撫でる蛍火。

 しかも、ここ最近やっと自然と零れるようになったアルティメットスマイルが炸裂する!!

 

「「///」」

 

 ぼしゅうと頭から湯気をだしてフリーズするなのはとフェイト。

 うん、蛍火と蒼牙と恭也の笑みは世界(の女性)を殺す武器だ。

 

 

 

 

「……(怒怒怒)……」

 

 もはや、誰も声をかけられない状況になっているレンさん。

 そしてその横に倒れ付している蒼牙。

 

「蒼牙、無事か?」

「……無……事…………なわけ…………ない……やんけ……」

 

 怒りのあまり蒼牙に"寸掌"、"飛雲天砲"、絶招"浮月双雲覇"をコンボでレンは決めたのだ。

 

――――というかそれってレンはレンでも緑亀の方じゃ?

 

「レンであることに変わりは無い。なら私にも出来るはず」

 

――――むちゃくちゃですよ、レンさん!!

 

「コチョウノユメでも喰らいたい?」

 

――――レンさんの元ネタと成ったメルブラの白レンの攻撃だけは勘弁して下さい。

 

「なら黙ってる」

 

 

 

「なぁ、蒼牙。俺達はもしかして組む相手を間違えたのか?」

「……かもしれん」

 

 今更遅いよ、お前ら……。

 

 

 

 

 

「そう言えば蛍火さんって、何か本とか書いておられませんでした?」

「……あ〜、確かに書いてはいますが。ギャグですよ?」

「…………そうなんですか?」

 

 何となく忘れていた蛍火にフェイトが差し出した本は……あの本――『兄、妹の心を知る大全』だ。

 あのドタバタの最中に回収しておくのを忘れてしまった。

 

(何しろ面白すぎたからな……悶えていてすっかり忘れてたわ)

 

 ちょっとこれが蒼牙に知られるとやばいのでどう誤魔化すかを思案。

 

「うう、ギャグなら仕方ないですよね。兄さんが気づいてくれなかったのも……」

「あ〜、いや、いくらギャグとは言え、気づかない方もどうかと思いますけどねえ、あそこまでされたら」

「蒼牙さん、鈍いから」

「そう、兄さんって鈍いから……」

 

 その一言で済ませてしまうにはあまりに納得いかないのがなのはとフェイトである。

 

「でも恭也くんも蒼牙くんも探せば必ずいいところはあるんですよ。人というのはそういうものです」

 

 そこで一計を思いつく。

 明らかに恭也と蒼牙が自分たちを監視しているのだ。ならば話だって聞こえているはず。

 妹たちが兄を自慢に思っているところを聞かせてやればいい。それなら充分なフォローになる。

 

「ほら、妹である貴女たちなら、他の人にはわからないことでも知っているでしょう?」

「やっぱり昔、お父さんが入院して家族みんなが家にいなくて寂しかったんですけど、

 お兄ちゃんはいつもできる限り私と一緒にいようとしてくれました!」

 

 友人関係や学校もあるだろうに、桃子の店を手伝いながら恭也は鍛錬の時間も削ってなのはに時間を割いた。

 悪いなとは思っているが、それがとても嬉しかった。

 

「毎日家に誰もいない時間に帰ってきてたんですけど、

 なぜかお兄ちゃんがいて『お帰り』って言ってくれたときは、すごく嬉しかったです……」

 

 学校を早退してまでなのはにその言葉をかけるためだけにいた兄。思い出しつつ、なのはは微笑む。

 そんななのはに負けじというわけではないだろうが、フェイトもまだ少ない蒼牙との過去を振り返り……。

 

「いろいろなものをくれました。私を『人』にしてくれたし、言葉をくれたし……形にないものでも、一杯くれました」

 

 頭を撫でてくれた。自分のために怒ってくれた。料理を作り、教えてくれた。

 あの頃欲しかった『人』の温もりを、不器用ながらも蒼牙はフェイトに贈った。

 

「ちょっと複雑なんですけど……やっぱり命をかけてでも私を護ってくれたこともですね」

 

 フェイトの話を聞けば蒼牙は間違いなく1度死んだのだと言う。生き返るなどまず信じられないが……。

 

「そう言えばまだちゃんとありがとうって言えてなくて……。

 兄さん、そういうことにはなぜか鋭く見抜いて、先に『礼はいらない』って言うんですよ?」

「生き返れたのは貴女のおかげでしょうから、それでおあいこだと言いたいんでしょうね。まあ、恥ずかしいだけですよ。

 それにしてもそれだけ貴女がたのことを想っているお兄さんなんです。絶対に許してくれますよ」

 

 少しは恭也と蒼牙の話にも表情に笑顔が戻ってきている。まだ少し不安なのだろう。

 聞いておけよ、と蛍火は心中で恭也と蒼牙に言い置きながら彼女たちに尋ねる。答えなどわかっていても。

 

「なのはちゃんにとって恭也くんは、フェイトちゃんにとって蒼牙くんは、それぞれ自慢のお兄さんでしょう?」

「「――はい!」」

 

 

 

 

 

「「……………………」」

「へえ、恭也も蒼牙も結構お兄さんしてるんだ」

 

 レンが珍しく恭也と蒼牙を褒める。

 いや、レンとて人を褒める時は褒める。ただ先ほどまでの恭也と蒼牙は褒めるに値しなかっただけだ。

 

――――そりゃあんだけシスコンに狂ってた人間は褒めるに値しないだろうしねえ。

 

「なのは……ふっ、気にするな。お前のためならば学校なんぞサボったところで痛くも痒くもないのだ」(←それはそれでどうよ?

「礼などいらへん。俺が今こうしてここに『人』として在るんはお前のおかげなんやからな、フェイト」(←空を見上げる奴

 

 恭也と蒼牙は目を閉じ、それぞれそっぽを向きつつ呟く。

 

「なに恥ずかしがってるのよ。素直に嬉しいって言いなさいよ」

「「…………自慢の妹だ…………」」

 

 それだけ言うのが精一杯の兄たち。

 

 

 

「まあ、こんなことしてたらその自慢の妹さんに嫌われかねない?」

「「!?」」

 

 

 

――――ちょーーーー!? せっかくのいいところに何を爆弾投下してるの、レン!?

 

「いかん、このようなことはやめないとならんぞ、蒼牙!」

「はっ!? 俺たちは今まで何を? また記憶が曖昧だ……これではストーカーまがいではないか」

「誰がストーカーよ!」

 

離空紅流・秘奥義・桜花閃神斬』

 

「「がっ!?」」

 

――――恭也、蒼牙!? ちょい待ってください! なぜそんな技を使えるんですか、貴女は!?

 

「後日談で使ってたから」

 

――――あ、あれアリなんだ……ていうかもう、追いかけてる内に蒼牙のほうは先に死ぬんじゃないの?

 

「耐えてこそ兄」

 

――――無茶苦茶な理由だ。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  F「え〜、2話目を出すことになった私たちですが……恭也と蒼牙が面白いわ〜。あ、FLANKERです」(←遅いわ

  ペ「どうも、ペルソナです。もう壊れまくっている恭也と蒼牙。書いていて楽しいです♪」

  F「てか蒼牙にホモ疑惑!?」(笑

  ペ「それに反応する方も反応する方だけどねw というか元凶は相変わらず黒いw」

  F「いや〜蛍火くんはとても紳士的だよ? 恭也と蒼牙は本気で見習えって」

  ペ「私はあの実直な二人を蛍火に見習って欲しいけど……そしてレンもかなり暴走をorz」

  F「被害者はほぼ蒼牙だしね。一番振り回されてるのは蒼牙か?w」

  ペ「前回は恭也が振り回されてたけど今回は蒼牙が最も振り回されてる。でもやっぱりフォローだけはするんですよね、蛍火」

  F「最後の方はとてもいいフォローしてるんだよねえ。で、恭也と蒼牙が元に戻りかけるんだけども。そうは問屋が卸すかとw」

  ペ「レンがすでにもう私が泣きたいぐらいに壊れて(涙」

  F「何とか彼女のフォローをしないといかんのだが……それができる蛍火くんは彼女に気づいてないし」

  ペ「あの阿呆め。まぁそれが今回の蛍火の最大の落ち度なんですがw」

  F「まあしかしなのはとフェイトの心は綺麗だね〜。他がアレだからとても美しく見えるw」

  ペ「レンも本来はフェイトとなのはと同じぐらいに綺麗なのに……ヤンデレが進んじゃってるのかな〜?(涙)」

  F「もうどうなるやら……とりあえず今回は恭也蒼牙なのはフェイトの方の心境がでてきたわけですが、

    次回は蛍火くんとレンですね〜」

  ペ「もうちょっと先ですけどねw 本編では見れない蛍火の本心が次回で!」

  F「次回からはぜひともSAを読んでおられる方は読んでおいた方がいいでしょう!」

  ペ「暇があって心に余裕があったらで構いませんので〜」

  F「それでは今回はここいらで〜」

  ペ「では、また次話でお会いいたしましょう」





蒼牙、この話が終わる頃には再び入院とかならないと良いけど。
美姫 「大丈夫よ、きっと。妹思う兄の心はちょっとやそっとの怪我ぐらい」
ちょっとやそっとで済むと良いな。と言うか、何か見慣れた技が出てたような……。
美姫 「そこは気にしたら駄目よ♪」
さてさて、一旦は収まったかと思ったけれど、兄二人の暴走はまだまだ続きそう。
美姫 「黒化しているレンもいるし、どんな事態が次回も起こるのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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