まえがき

  本作は『なのはとフェイトの戦 ――気づけよ鈍感兄貴ども!――』の続きとなる話です。

  そちらの最後の話の後が、本作となりますので、成り行きなどはそちらの方をご覧ください。

 

  本作はペルソナの『Schwarzes Anormales』を見ていない方は話が分からない可能性が高いです。

  レンと蛍火の関係を簡単に言うと、FLANKERの『リリなのプラアザ』の無印編での、蒼牙とフェイトみたいなものです。

  そのことを念頭に置いた上でお読み頂きたく思います。

 

  それでは。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、怪我しちゃったね……」

「兄さんもすぐには動けないって……」

 

 アヴァターの病院からとぼとぼと2人は歩き出てくる。

 さすがの人外指定を受けている兄たちも中距離空間殲滅合体魔法、"ブラストカラミティ"を受けては怪我ぐらい負う。

 むしろ、あれで無傷でいたなら本当に人かどうか疑わなければならないだろう。

 

「どうしよっか?」

「どうしよう?」

 

 妹の自分たちよりも先に、親友が兄からアクセサリーを受け取っていたと知ったあの時は確かに腹が立った。

 それで兄に八つ当たりもした。けれど、それはやっぱり八つ当たりでしかない。

 だから、2人はその攻撃で傷を受けてしまった2人の兄に顔向けが出来ずに病院を出てしまった。

 

――――ここで何故アースラや管理局に戻らないのかは聞いてはいけない。

――――ていうか言えないでしょ? 兄たちを"ブラストカラミティ"で吹き飛ばしました、なんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合同企画第3弾

ドタバタコメディー(?)

  妹たちと蛍火――阻止せよ兄貴どもとレン!―― 1

 

作:ペルソナ&FLANKER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、なのは〜、悪かった……」

「フェ、フェイト。すまん、許してくれ……」

 

 病院のベッドに括り付けられ夢に魘されながらもなのはとフェイトに謝っている馬鹿2人。

 

「まったく……謝るぐらいなら初めから気をつければいいものを」

 

 そんな魘されている2人の横には今回の事故の原因の一端を担う蛍火。

 というかこいつが扇動犯?

 

「しかし…………こいつらほどの猛者が全治1週間とは……あの魔法を受けてよくこれくらいで済んだと思えばいいのか、

 こいつらが可笑しいのかわからんな」

 

 蒼牙や恭也と同類の蛍火もあの魔法――中距離空間殲滅合体魔法、"ブラストカラミティ"は恐いらしい。

 人のいない林の中だったから人的被害は少なかったがそれでも一夜にして林が破壊されていては色々と面倒なことが起こる。

 その為、蛍火は意図的に嘘の情報を流し、起こった出来事を災害に変えてしまった。

後始末だけはきちんとしているから手に負えない。

 

「世界が違うと魔法の形態も違うものか……リリィや学園長が今回の事件を見ていたら…………良かった、もみ消しておいて」

 

 恐ろしい想像をして、それを事前に回避できた事に無常の喜びを表す。

 どんなに力を有していてもヒステリックな女性には男では勝てないのが法則だ。

 

 

 

「これでよしっ」

 

 魔術で恭也と蒼牙を今日中には動けるようにまで回復させる。

 

「純粋な剣士の恭也はある程度仕方が無いとしても……蒼牙よ。お前は回復系ぐらいもっと磨いておけ。

 そうでないと、あの娘達を悲しませるぞ。お前達は俺と違って取り返しが付くんだ。何があったとしても……」

 

 血色の良くなった蒼牙と恭也に羨ましそうな視線を向け……

 

「さて、落ち込んだあの娘達をお前達に代わって少し慰めておこう。さすがにこのまま放置しておくのは俺も責任を感じる。

何とか……面白可笑しく(・・・・・・)仲を取り持ってやろう。せいぜいあの娘達がお前達にヤキモチを妬いたようにお前達も妬くといい」

 

それはもう邪な笑みを浮かべて蛍火は病院を出て行った。

 

 

 

「フェイト、早まるな!!」

「なのは!? そいつは危険すぎる!!」

 

 

 

 未だ眠りにつきながらもこれからの事を予知し魘されている蒼牙と恭也だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当てもなくとぼとぼと歩き続けるなのはとフェイト。

 ただ申し訳なさと悲しさと、兄に嫌われているかもしれないという恐怖から逃げるように、当てもなく彷徨っていた。

 

「はう!?」

「おっと」

 

 俯き前を見ていなかった2人は人とぶつかる。

 言うまでもなく蛍火である。どこまでもこの4人を振り回す気だ。

 

――――どこまであくどい事をする気なんだ? 良心は痛まないのか? 

――――というかお前本当に主人公か? ここまで悪役が似合うキャラは普通は敵キャラだぞ。

 

(楽しまないと損だろう? 良心が痛むから仲を取り持とうと頑張っているのではないか。

 主人公? そもそも規格外の主人公を作ろうとしたのはペルソナ、貴様だろう。本編では敵キャラでもあるだろうが)

 

――――きっちりと内心で答えてくださってありがとうございます。

 

「すっ、すみません」

「ごめんなさい」

 

 礼儀正しい2人は丁寧に腰を折って謝罪の言葉を並べる。

 兄への罪悪感も重なってその謝罪はされている方にとって非常に心が痛む。

 むしろ、こっちが悪いことをしている気がするようになってしまうのは気のせいでは無いだろう。(←事実として悪いじゃん

 

「いえいえ、こちらも不注意だったようで。申し訳ありません。

 …………ん? もしかして昨日、街で注目の的になったお2人ですか?」

「はうっ」

「えっと」

 

 蛍火のストレートな物言いに言葉を詰らせる。

 昨日は兄ばかりに眼を向けていて周りのことなどちっとも気にしていなかった。

 

「ふむ、どうやら噂は本当のようですね。可愛らしい女の子がお兄さんとじゃれあっていたというのは……」

「「///」」

 

 事実を思いっきり曲解してわざとそんな事を言うのは詐欺師の証だ。

 そしてそんな詐欺師の『可愛い』という言葉に真っ赤になる純真ななのはとフェイト。

 この2人を黒い方向にだけは導かないで下さい。

 

「見た所、お2人だけのようですが…………お兄さん方は?」

 

 蛍火の言葉にしょんぼりとするなのはとフェイト。『可愛い』発言で持ち上がっていた心も一気にどん底だ。

 持ち上げておいて叩き落すなど明らかにSのする事だ。というか蛍火さん、仲を取り持つんじゃなかったんですか?

 

「えっと……」

「その……」

 

 なのはとフェイトの表情でなんとなく事が分かったかのような表情をする蛍火。

 何となくどころか一部始終知っているのだからとてつもなく演技が入っている。

 

「詳しく聞かせていただけますか? 解決のお手伝いが出来るかもしれませんから」

 

 にっこりと微笑み、2人に事の詳細を促す。

 兄のような優しい表情を真正面から受け、

 なのはとフェイトは蛍火が本能的に目の前の人物が兄達に近いことを感じ取り昨日の詳細を事細かく説明した。

 

 

 

 

 

「――――なるほど、お兄さんと仲直り出来たのにまた喧嘩をしてしまったと……」

 

 説明をしてさらに沈んでしまったなのはとフェイト。

 楽しい事もあったがそれを吹き飛ばすほどの最後の出来事。

 今も病院のベッドで眠る2人の姿が脳裏に浮かび、気持ちをさらに沈みこませる。

 

 

 

 あそこまでしてしまって本当に許してもらえるだろうか?

 

 

 

 それが2人の心の不安であり、2人の苦しみ。

 そんな、部外者からすれば悩む必要も無いことを悩んでいるなのはとフェイトを見て蛍火は自然と微笑む。

 

(あれほど凄い魔法を使えても心はやはり年相応の少女。まったく恭也も蒼牙ももう少ししっかりしろ。

 …………まあ、それは俺にも言えることか…………)

 

「大丈夫ですよ。きっとなのはちゃんとフェイトちゃんのお兄さんは怒ってませんよ」

「そうでしょうか?」

 

 不安な表情でなのはは蛍火を見上げる。

 なのはにしてみれば今まで色々なことをして怒られたが、それでも今回起こした事に比べれば軽い。

 一方でフェイトはそもそも蒼牙と喧嘩したことが少ない。その為、本当に怒っているのではないかと不安になる。

 

「大丈夫ですよ。きちんと謝ればお2人のお兄さんは許してくれますよ」

「でも…………」

「兄さんと会った時、兄さんの顔を見て謝れそうにないんです……」

 

 恐くて仕方が無い状況で真正面から謝るのはとても難しいことだ。

 謝った上で嫌われるかもしれない。それは2人の少女にとって辛いこと。

 そんな2人を優しく見つめつつもやはり蛍火は微笑む。

 

「なら形で示しましょう。2人の為に何か買ってその時に一緒に言えばいいです。それだけすれば確実に許してくれます」

「形で……」

「示す……」

 

 形で示すというのはある意味卑怯な手段かもしれない。だが、それをきっかけとするのは有効な手段だ。

 その事を理解した2人は兄達の為に何か買う事を決める。

 

「でもどうしよう、フェイトちゃん。私達ここのお店の事全然知らないよ」

「私はなのはについてくるだけで精一杯だったから殆んど調べてこなかったし」

 

 だが2人はこの世界の住人ではない。兄達が喜びそうな代物は思い当たるのだがそれを売っている店を知らなくては意味が無い。

 また途方にくれそうになる2人であったのだが……

 

「それでは私がご案内しましょう」

 

 この男の存在がある。曲がりなりにも、一応フォローをする気がある蛍火ならばきちんと店を教えてくれるだろう。

 その過程が波乱に満ちている可能性はかなり高いが……。

 

――――高いのかよ!? いや、まあ、高くないとドタバタコメディーにならないんだけどさあ!(←FLANKERの叫び

 

「ご迷惑になりませんか?」

「相談にも乗ってもらったのにそこまでしてもらう訳には……」

「乗りかかった船ですしね。御気になさらず」

 

「でも……」

 

 出会ってすぐの人物に迷惑をかけるのは忍びない。

 なのはもフェイトも優しい娘だからこそ、悩んでしまう。

 

「ではこうしましょう。実は私には娘がいましてね。

 その娘がこの前私の為に初めて料理を作ってくれたお返しのための品を、一緒になって探してもらえませんか?

 ちょうど貴女方と同じ年頃でしてね。参考にさせてもらえませんか?」

 

 相手に気遣わせずにギブ&テイクの形にする事によって相手の罪悪感を減らす。

 交渉術に長けていると思えばいいのか、人の心を理解しつくしていると恐れればいいのか……。

 

「そういう事なら……」

「お願いします」

「はい、こちらこそお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はっ!?」」

 

 とてつもなく嫌な予感がした蒼牙と恭也はベッドから跳ね起きた。

 冷や汗までびっしょりとかいている具合から言って、相当悪いことを直感が示したのだろう。

 

――――そう、兄馬鹿的直感が!(←なんだそれは……

 

「ここは?」

「ぬぅ、フェイトとなのはちゃんの魔法を受けた辺りまでは覚えているのだが……」

 

 嫌な予感はひとまず置いておいて現状確認。

 周りの気配を探ったり色々な方法で確認していると、なのはとフェイトがいないことに気付く。

 

「なのはがいない!?」

「フェイトもいないだと!?」

「くっ、先ほどの嫌な予感の正体はこれか!?」

「何? 恭也もだと?…………これは深刻なことかもしれへんぞ」

「なのはとフェイトほど可愛い2人が見知らぬ世界でうろついているとなると……」

「あぁ、2人の可愛さに血迷った阿呆が襲いかかりかねんわ」

 

 なのはとフェイトがいないことに混乱し、間違った方向へ思考がいっている。

 管理外世界が必ずしも野蛮なわけではないし、人が必ずしも悪いことばかり考えるわけではないというのに。

 

――――え〜、どうやらこの2人、またも精神がちょっと"ブラストカラミティ"でおかしくなっております。(笑

 

「もしそんな阿呆な輩が2人の傍にいるとしたら排除しなけりゃならへんわなあ、恭也」

「ああ、くくくっ、久方ぶりに『八景』が血を欲しがっている……」

 

 かなり危険な表情を浮かべて笑っている恭也と蒼牙。

 きっと人がいれば確実に警察に通報しているだろう。それぐらいに恭也と蒼牙の表情は逝っている。(←誤字にあらず

 

「2人を何としても見つけ出すんや! 心の友よ!」

「あぁ、逝くぞ!!」(←再度言うが誤字にあらず

 

 先ほどまでベッドに括り付けられていたとは思えないほどの健脚ぶりで病院を後にする2人。

 

 

 

 

 

 言うまでもなく病院の治療費などは蛍火がすでに支払い済みである。

 どこまで先を読んでいるんだ、蛍火。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火さんって優しいんですね」

「そうでしょうか? どちらかという非情な人間なんですが」

「そんな事無いよね〜、フェイトちゃん」

「うん、蛍火さんは優しいと思う」

 

 ある程度時間も経ち、蛍火に打ち解けてきたなのはとフェイト。

 蛍火が恭也や蒼牙という2人が良く知る兄達と似ている事もあって話しかける言葉が日常で使うものになっていく。

 

「そんな事ないと思うんですが……」

「蛍火さんは嘘つきだね」

「蛍火さんは嘘つきだと思います」

 

 優しさを否定する蛍火をなのはとフェイトがくすくすと可笑しそうに笑う。

 そんな2人にばつが悪そうな顔をして、照れ隠しか頭をかく蛍火。

 さっきまでの悪役っぷりは何処へ行った?

 

 

 

「へっ、へぇ……恭也君は釣りと盆栽が趣味で、蒼牙君は俳句と刀の鑑賞が趣味ですか……」

 

 

 

 若干引きつった笑顔で2人の兄の趣味を纏める蛍火。

 さすがに人として論外な蛍火でもあの2人の趣味については少し疑問に思ってしまった。

 

(盆栽と俳句とは……変人な俺でもそれほど古臭い趣味は持ち合わせていないぞ……)

 

 既知外の蛍火ですら拒否反応を示す恭也や蒼牙の趣味。

 やはり2人の趣味は何処に行ったとしても受け入れられにくいらしい。

 

「ちょっと若者らしくないですよね?」

「兄さんは多趣味な人なんですけど、一番の趣味がそういうので……もう少し普通の趣味を一番にすればいいのに。あ、そう言えば」

「お、他にありましたか?」

「えっと、剣舞がとても綺麗で……」

「……剣舞……ダンスならまだしも剣舞……ま、まあ趣味は人それぞれだと思いますよ?」

 

 せめてダンスにしとけと思った蛍火である。どうやら蒼牙は蛍火の予想をはるかに上回る古風……っつか古臭い人間らしい。

 微妙にフォローになっていない言葉になのはとフェイトはやっぱり笑う。

 兄達へしたことを忘れてなどいないが、それでも楽しくて笑ってしまう。

 

「え〜、じゃあ蛍火さんの趣味はなんですか?」

「珈琲と、人をからかうぐらいでしょうか?」

「珈琲はともかく人をからかうのは兄さんと恭也さんと一緒だ」

「!? マジっすか……」

 

 あの2人と同じと言われて微妙に凹んでいる姿はとても情けない。

 そんな姿にフェイトは可愛いとか言っているが、幸いなことに蛍火には聞こえなかった。

 きっと聞こえていたらさらに凹んでいたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンはその時、不詳ながら喫茶店の近所の子供達と遊んでいた。

 出来れば蛍火のそばにずっといたいのだが、蛍火の計らいや誘ってくれる子達にも悪いと思い不詳ながらも一緒に遊んでいる。

 中身はその年代らしい鬼ごっこ。

 

 

 

 鬼から逃げていたときに見えてしまった。自分と同じぐらいの年代の見知らぬ女の子と楽しそうに微笑んでいる蛍火を……。

 

 

 

「…………蛍火…………」

 

 愕然とした表情を浮かべてその蛍火と2人の少女を見ていた。

 実に、実に楽しそうに話し合っている。

 

(その笑顔は私だけしか向けた事無いのに、私だけしか向けないのに……私だけなのに!!)

 

 ふつふつと沸いて来る怒り。

 用事があるとか言ってどこかに行ったのに……自分を放っておいて同年代の子と話しこんでいるなんて。

 とてもではないが許せなかった。

 

「……お、おい、誰かレンちゃんに声かけろよ」

「お前がかけろ」

「お、俺に死ねって言うのかよ!?」

 

 レンが鬼気を放っていることを本能的に察知した友達はレンを放置する事を決定した。

 髪の毛がゆらゆらと風も無いのに動いて、蒼い眼が不気味に光り輝いていたら誰だって逃げ出す。

 

――――少年、少女よ。その判断はとても賢明だ。

 

 この反応は浮気をしている事に気付いた妻に近い。

 

――――レン、君は設定では年齢一桁代だろ? なんでそんな年に似合わない反応をする? 年齢を偽ったりしてないだろうな?

 

「私は時間流の違う世界にいって公式では一桁でも実年齢は十代半ばなんてことはない」

 

――――どうしてそんな詳しく知っているんでしょうか? というかなんでモノローグに突っ込んでるんですか?

 

「ドタバタギャグコメディだから…………」

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

「ぬお!?」

「どうしたんですか? 蛍火さん」

「何か今、とてつもなく嫌な予感が……」

「兄さんもたまに言うよね? その後はだいたい良くない事が起こってるし。

シャマルさんの料理とか、美由希さんの料理とか…………」

「的中率凄いもんね」

 

(どの世界でも料理には苦労するのか…………恭也、蒼牙、黙祷だけは捧げておいてやる)

 

 自らも被害を受けたため、料理はかなり鬼門だと理解している。

 たかが料理と侮るなかれ。モノによっては死を覚悟しなければならないのだから……

 

「ま、まあ、気のせいでしょう。では最初に恭也くんへのものから見てみましょうか」

「はい、お願いします」

「え〜と、盆栽、ですか。それならこっちの店に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の恭也と蒼牙。

 

「おい、まだか、蒼牙!?」

「うるさい、集中してんねん。少し黙ってろっちゅうに」

 

――――もはや関西弁が普通になってしまっている蒼牙。

 

 さすがに気配に鋭い恭也と蒼牙と言えど、街全体からなのはとフェイトの気配だけを見つけるのは難しい。

 よって現在は蒼牙の『覇道』による、探索・索敵術を使っている。

 

「お前、もう少し補法を鍛えろ。悠華だってそう言っていたろうに」

「やかましいわ。魔法はラピスに頼りきりのお前に言われとうないっちゅうねん。そもそも『月衛』なしでは空も飛べんとは……」

「俺はどこまでも剣士なのだ」

「理由になるか、阿呆」

「まだか!? 早くしろ、蒼牙!」

「『八景』を抜くな! 突きつけるな! 余計に集中が乱れるやんけ!」

「この間にもなのはの身に何かあったら……俺はお前を許さん!」

「だったら静かにしてろ! お前の邪魔でフェイトがとんでもない事態に巻き込まれてしもうてたら、"牙突"でお前を突くぞ!」

 

 もはや仲間割れ。醜いな、おい……。

 

「……ぬ!? 見つけたぞ!」

「――行くぞーーーーーーーー!!」

「おいこら待て! 飛び出すな、恭也! 逆だ、逆!」

「ええい、早く先導しろ、蒼牙!」

「偉そうだな、オイ!?」

 

 言い合いながらも走り出す2人。人の間を縫う、蒼と黒の影。人々は巻き起こる風にキャーキャー。

 彼ら2人は"神速"も"瞬移"も使用していない。なのにその速さ。

 

――――お前ら、本当に人外だろ?

 

「なのはのためなら鬼にでも悪魔にでもなるわあ!」

「人外結構! フェイトが兄と慕ってくれるのならば神でも世界でも叩っ斬ってくれるわ!」

 

――――ダメだこりゃ。精神が完全におかしい……。

 

 高速移動のため、方向転換にも大変。しかし蒼牙は地を蹴り、飛び上がって壁を蹴って急転換。

 壁に亀裂が入ってしまっているが気にしない。(←住人のことを考えろよ

 恭也もまた地を踏みしめて急旋回。タイルの床、踏みしめられた辺りが爆砕。(←めっちゃ迷惑

 

「な、なんだ!?」

「おいおい、いったいなんなんだ!?」

 

 街の人たちは彼らの姿が早すぎて見えない。

 そんな感じで街に被害を出しつつ、兄たちは奔走。

 

「にしてもあの気配……もしやあの男なのか……」

「どうした、蒼牙?」

「いや、さっき術で気配を探ったのだが、そのときにフェイトとなのはちゃんのそばにいる気配に覚えがあってな……」

「なに!? もうなのはとフェイトに近づく輩がいたか!? くっ、蒼牙、ノロノロしてられんぞ!」

「わかってるっちゅうねん! ただその気配、本当に奴だとしたら……最悪だ……」

「どんな奴だ!?」

「……1度戦ったが……負けた」

「なに!? お前が負けた!?」

 

 砂漠での戦闘。歪んだ者同士で相争ったときのことを、蒼牙は苦々しげに話す。

 

「ますますやばいではないか!? このままではなのはが……"神速"ーーーー!!」

「だからお前が先に行ってどうするんやーーーー!? ええい、世話の焼ける! "瞬移"ーーーー!!」

 

 土煙を巻き上げつつ、2人はなおも疾走。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さっきの何らかの魔法か術の気配、覚えがあるな。というか、蒼牙以外にないな)

 

 すでに術の気配を察していた蛍火。さらにしばらくして感じる2つの気配。

 

「もう起きたのか、あいつら……さらに高速でこちらに……さっきのは索敵用の術か何かだな」

 

 おそらくは自分たちを見つけたのだろうと推測。

 気配はどんどん接近。

 

「……? 何か、街が騒がしいですね」

「ていうか、あれ……竜巻?」

「……あ〜、まあ、ちょっと土煙が舞い上がってるだけでしょう」

 

 店の中からでも少し離れた街中で、高い建物よりも高く舞い上がる土煙が見える。

 

(……バカか、あいつら。なんという騒ぎを起こしてるんだ)

 

 ため息を吐きつつ、数々の盆栽を前にどれがいいのかなんてわかるはずもないなのはにアドバイスを。

 枝の長さだとか、太さだとか。

 

「これはいいもの……なんでしょうか?」

「う〜ん、そうですね。これは確かにいいでしょうけど、結構育ってしまってますから、

 貴女の話からして恭也くんは育てるのが好きみたいですし、やめておいた方がいいかもしれませんね」

「う〜ん、難しいです……」

 

 なのはが口に手をやって天井を振り仰ぐ。そこで何かを思い出したように手を叩き、キョロキョロと。

 

「どうかしましたか? それが気に入って?」

「えっと、お兄ちゃんが持ってる盆栽を思い出して。少し前にお兄ちゃんの盆栽が4つほど壊れちゃって」

 

――――『リリカルなのは プラス OTHERS A‘s編 第20話 "終穏"』を参照のこと。

 

「それはそれは、彼にとっては不幸なことで」

「お姉ちゃんが壊しちゃったんですけど……あ、う……」

「ど、どうしました?」

「な、なのは? 震えてるよ?」

 

 いきなり顔を青ざめさせてガタガタと震えだすなのは。

 

「お、お兄ちゃんが……キレて、お姉ちゃんを、その……ああああ……」

「……半殺しにでもしましたか?」

「……八分殺しだって、お兄ちゃんが……はう、お兄ちゃん、もうそこまでに――いえ、何でもないです……」

「な、なのは、しっかり! 戻ってきて〜〜〜〜!!」

 

 どうやら恐怖の記憶が蘇えったらしい。フェイトが肩を揺らして少々危ない目をしているなのはに声を。

 さすがに見ていられないため、蛍火は彼女の目の前で氣を篭めて手を叩く。

 

「――はっ!?」

 

 戻ってこれたらしい。

 

「大丈夫ですか?」(←頭を撫でる

「…………あ、ありがとうございます…………」(←青かった顔が途端に赤く

「あれ、今度は赤く? いけませんね、熱は……ないようですが」

 

――――そりゃアンタ、顔が近いのよ。

 

 蛍火とてその顔は特上の男前。整った表情で紳士的。なのはが何も思わないはずがない。彼女とて女の子だから。

 

「とりあえず安心しまし――うっ!?」

「ど、どうしたんですか、蛍火さん?」

「いえ、ちょっと……悪寒が」

 

 すごい殺気だ。誰だろうか。

 恭也と蒼牙の気配はまだ遠い。まあ、相当な速度で近づいているが。

 

(あ〜、蒼牙もあのときはこんな感じだったのか……)

 

 フェイトを見る。彼女は見つめられて照れたように顔を背けるのだが、さらに殺気が!

 

(待て、マジで誰だ?)

 

 気配を探りたいのだがそれができない。なぜか? 恭也と蒼牙の気配がますます大きくなっているから。

 混ざって分かりにくいのだ。

 

「え、えっとですね、お兄ちゃんの盆栽なんですけど、壊れたものに似ているんです、これが」

「あ、ああ、それで……」

「名前は確か……"神楽"だったような……」

「な、名前ですか?」

「はい。他のは確か……"雪華"に"月天"、あとは……あ、"花翁"だったと思います。お兄ちゃん、"雪月花姉妹"って呼んでました」

「…………凝りすぎ…………」

 

 隣であははとフェイトが苦笑している。

 蛍火、さらに訂正。恭也の盆栽への愛着度は趣味程度ではないと。もはや娘を育てる父親レベルだと。

 

「ではとりあえず、これとあと1つくらい見繕いましょう」

「はい!」

 

 

 

 

 

「蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿、蛍火の馬鹿」

 

 目の前で繰り広げられる光景にレンは瞳に涙を溜めながら見つめていた。

 自分だけに見せてくれるはずの優しい表情が見たことも無い少女に奪われている。

 赤茶色の髪の子の頭を撫でる蛍火に、レンの怒りはもう沸騰を通り越して、悲しかった。

 

「あの笑顔は私だけにしか向けてくれなかったのに。大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言ったのに!」

 

――――いや、あくまでもそれは返事を後延ばしにしただけでその時、お嫁さんにするとは言ってないよ?

 

「今度はFLANKER? 邪魔。黙ってて。この前作った料理食べさせるよ?」

 

――――イ、イエス・マム!

 

「ううう、どうしたらいいの? 何か手を考えないと……ってもう、さっきからこの風が鬱陶しい。

 あう、土煙まで……ゴホゴホ!」

 

 目に入るゴミに涙を流しつつ、そのまま身を屈めて目を手で覆う。

 

「ここか!」

「フェイト、やっと見つけたで! くっ、やはりあの男か!」

 

 風が収まり、土煙も消えていく中、反対の建物の影に2人の青年が。

 どうもレンと同じく蛍火たちを見て騒ぎつつ、押し合いながら今にも飛び出しそうな勢い。

 

「…………」

 

 まあ、それなりにカッコいい顔をしているが、蛍火には勝らない(レン視点)。

 ちょっとレンは勝ち誇った顔をしつつも、しばらく彼らを観察。

 

「な、なのは!? 顔が赤い! いかん、熱でもあるのか!?」

「あ、阿呆! 待て! いま飛び出したら気づかれるやろうが!」(←すでに気づかれてるって

「なぜ止めるか、蒼牙!? なのはの容態がやばいかもしれんのだぞ!?」

「恭也、よく見ろ! もう落ち着いてきとる!」

 

 黒尽くめの服の青年――キョウヤと言うらしい――がそれで止まり、

 蒼色を基調とした服の青年――こちらはソウガ――がやれやれとため息を。

 

「とりあえず今は様子を見るんや。いきなり飛び出したらあの男が何をするかわからへん」

「そうだな。む、フェイトの顔が赤くなったぞ?」

「何やとコラア! フェイトに何してくれたんや、貴様ーーーー!」

「待て待て、蒼牙! 様子を見るって言ったばかりだろうが!」

「たわけ〜! 妹の危機に助けに行かぬ兄がどこにおるっちゅうんじゃーーーー!」

「いいから落ち着けえ〜〜〜〜!!」

 

 うるさい。

 その一言で事足りる青年たち。どうも話からして蛍火のそばにいる子たちの兄らしい。

 

(蛍火を悪く言うのは許せないけど、使えそう)

 

――――蛍火の読みの深さがいつの間にかレンに!?

 

「ねえ」

「む?」

「あ!?」

 

 ちょっと蒼牙のほうがやばいが、恭也のほうが普通に応対してくれる。

 

「貴方達、あの子たちのお兄さん?」

「む、まあそうなんだが」

「私、蛍火のお嫁さん」(←待て待て待て待て!!

「嫁!? 君がか!?」

 

 レンの小ささ、どう見ても10歳あるかどうかくらいの妻に、恭也と蒼牙も目を丸くする。

 ありえないなと、きっと蛍火に憧れでも持つ子が言ってるだけと思うだろう、普通は。

 

 

 

 そう、普通は。

 

 

 

 だが今の恭也と蒼牙は普通でない。精神がおかしい状態なのだ。

 さらにレンはなのはとフェイトとあんまり変わらない年頃。

 つまり…………

 

「まさか、なのはまで己が手中に入れようというのか、あの男!? そうはならん! 俺がなのはを護る!!」

「フェイトを貴様などにやるかあーーーー! それも二股どころか三股!? 殺す! 『義』の名の下にーーーー!!」

 

 こうなるわけである♪

 

「煩い。蛍火に聞こえる」

「む、すまない」

「ぬう……」

「とりあえず、私もあの2人を蛍火から離したい。手伝ってくれるよね?」

「……なかなか黒いことを言うんだな、君は……」

「ふん、蛍火がそばにいればそうもなるか――ぐふっ!?」

「そ、蒼牙!?」

 

 鳩尾にレンのストレートが。倒れこむ蒼牙。

 

――――ちょっ、戦う力が一切無いはずの設定ですよね!?

 

「好きな人を護るためなら女は強くなれる」

 

 惚れ惚れとするほどの格好良さで宣言するレン。

 その光景にはさしもの恭也も呆然としてしまった。

 

「蛍火を悪く言うのは許さない」

「……わかった。だが君もなのはとフェイトを同じように言うのはやめてくれ」

「分かった。契約成立。大丈夫、蒼い人?」

「…………(ピクピク)…………」(←"ブラストカラミティ"でやられた箇所を突かれたために虫の息

 

 こうして恭也・蒼牙とレンの、『なのは・フェイトと蛍火のデート阻止』という目的の下に同盟が成ったのであった。

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 


あとがき

  ペ「さて、始まってしまった『妹たちと蛍火――阻止せよ兄貴どもとレン!――』!」

  F「さあ、これより本編! この合同作の一番のストーリー開始ですよ!」

  ペ「といっても『リリなのプラアザ』だけを見ている人にとっては蛇足にしかなりませんがね」

  F「ていうか、これまでの話がうちよりな話だったし、これでいいと思いますよ?」

  ペ「読む人によってそれは違いますからねw まぁ、そんな事は置いておいて、フェイトとなのはに接触してしまった蛍火!」

  F「おいおい、やばいだろ!? 何がって、そりゃなのはとフェイトもだけど、すでに恭也と蒼牙が!」w

  ペ「すでに爆走状態の恭也と蒼牙w そして見事蛍火の手中に捕まってしまったなのはとフェイト!」

  F「手中ってのが怖いな(笑)。そして出てくるのはSA側のヒロイン!」

  ペ「うちの萌えキャラですw まぁ、前回からチラホラと出てきてはいたんですがね」

  F「これからは彼女こそがメインとなります。恭也と蒼牙は彼女の引き立て役」(←マテマテ

  ペ「完全にそうという訳ではないですが……果たして兄達は妹を蛍火の魔手から救い出せるのか!?

    そして最後まで無事で居られるのか!? 主に蒼牙」

  F「ああ、うちの蒼牙はどこ行った!? 蒼牙、帰ってきて!」(泣

  ペ「レンにさえぶちのめされる蒼牙はもはや蒼牙ではないかも?w」

  F「まあ、壊れるならトコトン壊れてくれた方がいいかもね。ヘタに蒼牙らしさが残ってると余計イメージ壊れるし」w

  ペ「すでに前回でボロボロだと思うけど」

  F「あっはっは。もういっそ蒼牙像をぶち壊してしまえ〜」(←マテマテマテマテ!

  ペ「まぁ、そんなこんなで元のキャラの面影が少ししか残っていない今回」

  F「今回はまだ序の口(爆)。次回以降も壊れた恭也蒼牙のテンテコ舞と、蛍火くんの見事な企みぶりが!」

  ペ「そんな蛍火に嫉妬全開のレンがっ! 何も知らずに兄との仲直りしようと努力する妹達が爆走する!」

  F「暴走する兄たちと爆走する妹たち。見事に操るは蛍火くん。しかしそんな彼も知らないうちにレンが嫉妬に狂走!

    そんな次回以降をお待ちくださいな」w

  ペ「では、次話でお会いいたしましょう」

  F「ではでは〜」





今度はレンが色々と画策する事になるのかな。
美姫 「だとすれば、蛍火がどの時点で気付くのか楽しみよね」
ある意味、策略の師弟対決か。
美姫 「にしても、恭也も蒼牙もちょっと暴走してるわね」
まあ、後遺症だろう、うん。にしても、盆栽の雪月花姉妹は良かったな。
美姫 「本当に。妙にはまってしまったわ」
うんうん、次回以降、どんなドタバタが起こるのか楽しみです。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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