合同企画第2弾

ドタバタコメディー(?)

  なのはとフェイトの戦 ――気づけよ鈍感兄貴ども!―― 6

 

作:ペルソナ&FLANKER     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服屋を出た4人はそのままウィンドウショッピングなどを楽しむ。

 ただちょっと、服屋の辺りから恭也と蒼牙がおかしいままなのだが……。

 

「あ、このぬいぐるみ、可愛い! 猫みたいだけどちょっと大きいなあ……この世界の動物かな?」

「これなんか、アルフにそっくりだよ」

「欲しいのか、なのは、フェイト?」

「う〜ん、欲しいような別にいいような……」

「遠慮はいらへんで。もはや買いまくれ。金を気にして女の買い物に付き合えるかっちゅうねん」

「に、兄さん、喋り方おかしくないですか? はやてみたいになってますけど……」

「そないか? 俺はこれが地やぞ? なあ、恭也」

「うむ、関西人なら関西弁を喋ってこそ関西人。そもそも今まで蒼牙が関西弁で話さないほうがおかしいのだ。エセ関西人め」

「オイコラ、恭也。真の関西人たる俺にエセとは何や、エセとは?」

 

 もはや蒼牙は関西弁が常に出ている状態。まあある意味で彼の地が出ていると言うことではあるのだが。

 そして恭也もまたいやに会話へのノリがいい。

 

「あ、ストリートダンスやってる」

「あれ、頭痛くないのかな……?」

 

 今度は路上でダンスをやっている若者の集団。頭を地につけて回転するパフォーマンスを見せている。

 ちょっと人が多くて見えないなと思っていると、恭也と蒼牙が2人をそれぞれ肩に乗せる。

 

「わ、わっ!」

「に、兄さん?」

「見えないんだろう?」

「ん? まだ見えへんか?」

 

 異様に気がつく。その上、人前で公然と。

 この兄ども、精神が少しおかしいくらいの方が兄らしく在れるのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ふう、やれやれ……まだ少し腹が痛いな。笑いすぎたわ。にしても何だ、いやにほのぼのしてると思ったら……」

 

 レンの介抱もあってやっと悶えから回復した蛍火。再び式神を通して4人を観察中。

 どうも恭也と蒼牙の様子がおかしいようだが……まあ、後遺症だろう。

 

「あれだけ振り回されたんだからな。もうちょっと何かしたいところだが、さすがにあの娘たちが可哀想か。

 ふむ。なら詫び代わりに1つ、兄妹の仲を取り持ってやろう」

 

 というわけで今度は善意だけで考えたことを実行。式神を飛ばす。

 

 

 

 

 

 ちょっとよろしいですかと声をかけてきた女性にカメラを持っている男性。

 

「雑誌関係の者なんですが……」

 

 どうも街中を回って見つけた、スタイルやら服装やらがいい人を見つけて写真など取っているらしく、

 恭也と蒼牙、なのはとフェイトを見てもってこいと思ったらしい。

 

「ええ、わ、私たちが雑誌に、ですか?」

「はい。御兄妹とも揃っていい絵になりますよ」

「え、え〜と、私たちは構いませんけど、お兄ちゃんたちは……」

 

 恭也も蒼牙も、そういう目立つ行為は好まないタチだから嫌がるのではと思ったなのはとフェイトだが、当の本人たちは……。

 

「ふっ、お目が高い。うちのなのはの可愛さならそちらの雑誌の表紙すら飾れますよ」

「我が妹の迸る健気さと可憐さがあれば、もはやそれだけで事足りるで」

「お、お兄ちゃんがおかしい……」

「に、兄さんが兄さんじゃない……」

 

 などとむしろ乗り気。

 

「ありがとうございます。できればお兄様方にもお願いしたいのですが」

「ぬ、よかろう。では少々髪を整えてきたいのだが」

「蒼牙、櫛を貸せ」

「んなモン、持っとらん。手櫛でやれ」

「使えん」

「やかましいわ、阿呆。そもそもいちいち整えるような髪でもあるまいに。どうせならオールバックにでもしておけ。くっくっく」

「む、それは俺のナイスガイぶりへの挑戦か? ならばお前も関西人らしくウケでも狙って七三分けにしておけ」

「今時七三分けかよ。昨今のボンボンの成金息子でもおらんわ、そんな奴。古っ! お前は古すぎるっちゅうねん!」

「着流しが似合うお前に言われたくないわ!」

 

 普段自分の外見には無頓着な兄たちが、商店のガラスを鏡にして髪を整えつつ、漫才のようなやり取りをしている……。

 

「……お兄ちゃんがはっちゃけるとあんな感じなんだ……」

「……いつもの兄さんと今の兄さん、どっちが本当の兄さんなのかわからなくなってきちゃった……」

 

 いつももう少し軽くなってもいいんじゃないのかな〜と思うなのはとフェイトだが、今の兄たちは少々軽すぎる。

 最近の若者のような会話であるのだが、ヘタに親友である分、息が合っていて尚更かしましい。

 そして兄たちは満足いったのか、これでよし、と振り向いた…………が。

 

「「――ぶっ」」

 

 恭也はオールバック。蒼牙は……七三分け。

 さすがに吹いてしまうなのはとフェイトである。

 

「って、ホンマにオールバックかい!」(←ジェスチャー付きでツッコミいれる奴

「笑えん。笑えんぞ、蒼牙! 何だその時代錯誤な、これから見合いに行くとでも言いたげな髪形は!」

「ウケ狙え言うたんはお前やろうが!」

「本当にする奴があるか!」

「お前もやろ。まあ、フェイトとなのはちゃんの笑いを誘ったのは俺の方やけどな」

「むう……さすが関西人。恥よりも笑いを取ったか! 見事だ、親友」

「大したこっちゃない。これぞ関西人の体を張ってでも笑わせたいっちゅう芸人魂や。よう覚えとけ」

「師匠と呼ばせてくれ。The 七三分けマスター!」

「そっちかい! 芸人魂の方に惚れろや!」

「断る!」

「なんでや!?」

「何となくだ!」

「もうええわ!」

 

 周囲の道行く人々まで2人の漫才に笑っている。たまに「もっとやれ〜」なんて声も混じっている。

 

「もうやめてお兄ちゃん……お、お腹痛い……!」

「兄さん、髪をすぐに元に戻してください。わ、笑いが止まらない……!」

 

 とりあえず髪を元に戻した、なぜかとても満足げな恭也と蒼牙。

 

「はあ、はあ……や、やっぱり元のお兄ちゃんの方がいいかも」

「いつもこんなのだったら、私、兄さんに振り回されちゃうよ……」

 

 とは言いつつも楽しませようとしてくれたことには嬉しかったりするなのはとフェイトである。

 そして揃って写真撮影。1人ずつのパターンに、手を繋いで仲のいい兄妹そのもののパターンなどなど。

 その写真ももらってなのはとフェイトはご機嫌。

 

「それで、表紙はうちのなのはで?」

「いや、ここはフェイトやろ? 金髪赤眼、透けるほどの白い肌、表紙を飾るにこれほどのモデルはおらへん」

「む。何を言う、蒼牙。外見どうこうの問題ではない。重要なのは中身だ。なのはの笑顔。これほどの優しさ溢れる笑顔はない」

「ふっ、わかっとらへんな、恭也。外見に加えてフェイトが醸し出す初々しさと儚さ。外見+中身のマッチ。勝る者などおらへん」

「ほほう、なのはが2番目と?」

「なのはちゃんも可愛いが兄なら妹を推す。これは兄として当然のこっちゃ」

 

 妹の良さをどこまでも全面主張。隣で赤くなるなのはとフェイトだが、困っている雑誌関係者に、兄たちを止めようとする。

 

「お、お兄ちゃん、恥ずかしいからやめて! 嬉しいけど

「兄さん、もういいから! もう言わなくていいから! ちょっと言ってほしいけど

「なのはは黙っていろ。お前の良さを全国に示すいい機会なのだ」(←示すな

「フェイト、少し静かにしていろ。この兄が必ずお前を表紙のモデルにしてくれるさかいに」(←しなくていいから

 

 

 

 

 

「ふははははは、どこまでイッてしまってるんだ、こいつら! お、面白い、まだこんな楽しみ方があったとは……!」

 

――――詫び代わりじゃないのかよ。

 

 なのはとフェイトの暴走が終わったと思えば、今度は恭也と蒼牙が暴走している。その新たなパターンに蛍火は爆笑。

 

『いいか、蒼牙。フェイトは確かに健気で儚く、可憐だ。しかしここはなのはの元気さ、真っ直ぐさ、そして優しさを推すべきだ』

『阿呆か、恭也。健気で儚く、可憐。ゆえにフェイトの優しさと真っ直ぐさがより映えるんやんけ』

『ふふふ、だが元気さならなのはの方が上だ。6つ全てを備える完全なるなのはの方がいいだろうに』

『完全でないとダメ? 甘いで。未完成ゆえの美しさっちゅうんは限りない未来を期待させてくれる。それがフェイトにはあるんや』

『はっきり言うぞ、蒼牙。お前は少々なのはを見る目がない』(←お前が言うか?

『ははは、俺の妹はフェイトやぞ。ゆえにフェイトを見る目があるならそれでええっちゅうねん』(←あるか?

『『……あ、ああう……あうあう……』』(←もはやゆでだこ状態のなのはとフェイト

『なのはこそ一番だ!』

『フェイトやと言うとるやろが!』

 

 もう「あ?」、などと睨み合う恭也と蒼牙である。(←一触即発!?

 

「くはははははは、ひいいいいい! い、いかん、またこのままでは悶え死ぬ! しかしやめられん!」(←やめろよ

 

 式神へ命令。

 

『それでは、何か綺麗な服でも着てもらって、それでより良い方を表紙にということでどうでしょうか?』

 

 それに反応する兄ども。

 

『む。ならば先ほどの服屋へ行き、シスター服あたりを……いや、色気も必要か?』

『ぬう、巫女服も捨て難いが、目立つためならば多少の過激さも致し方あらへんな。ここはチャイナドレスあたりで……』

 

 もはやイッているため、普段の倫理観などが飛んでおります。

 それを着る当の本人たるなのはとフェイトはもはや蚊帳の外。

 

『お、お兄ちゃん、勝手に決めないで! あ、あれはお兄ちゃんと蒼牙さんだけだったから着ただけで……!』

『そ、そうです! 私たちの言うことを聞いて下さい!』

『恭也、やはり同じ服やないと平等やあらへんやろ』(←もはや聞いてない

『うむ。なればチャイナで』(←同じく

『お兄ちゃん!』

『兄さん!』

『『よし、2人とも、さっきの服屋へ行くぞ! チャイナをもう一度――』』

『『絶対に嫌です!!』』

『む、しかしそれではお前の全国デビューが――』

『ぬ、だがお前の表紙ナンバーワンアイドルの座を獲得するにはやな――』

 

 

 

 

 

ていうかもう、お兄ちゃん、帰ってきてよーーーーーーーー!!

いつもの兄さんに戻って下さーーーーーーーーい!!

『『ぐはあっ!?』』

 

 

 

 

 

 

 乙女の正拳で吹き飛ぶイカレた兄ども。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜…………(パタリ)」(←とうとう悶えの限界を超えた蛍火

「ただいま、蛍火。お薬買ってきたよ――って、蛍火ーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、気絶していた恭也と蒼牙。2人を何とか公園のベンチまで運んだなのはとフェイトである。

 さすがに気づいた恭也と蒼牙はまともになっていた。

 

「はて、服屋から記憶がない……なのは、俺はどうしてこんな所で寝ていたのだ?」

「聞かない方がいいです。聞いたらお兄ちゃん、きっとしばらく口聞けなくなると思うから」

「ぬう、なぜか頬が痛い。殴られた記憶などないのだが……フェイト、俺に何があった?」

「き、気のせいです、兄さん」

 

 ちょっとだけもったいなかったなと思いつつ、なのはとフェイトはやっぱり自分の兄はこうでないとと笑う。

 時間も夕刻。空も夕焼けに染まりだす中で、なのはは恭也と、フェイトは蒼牙とそれぞれで少し離れたベンチに座って会話を。

 

「お兄ちゃん、ごめんね?」

「いや、俺の方こそ最近なのはの傍にいられなくて悪かった。これからはなるべく時間を作るとしよう」

「にゃははっ、それは嬉しいな♪ 今日でお兄ちゃんはやっぱり私を見てくれてることがわかって嬉しいよ」

「当たり前だ。俺はなのはの兄だからな。どこにいようともお前の事を見ているさ」

「ありがと、お兄ちゃん」

 

 ヤキモチを焼いて振り回したことに謝るなのはだが、恭也も構ってやれていないことは自覚していた。

 

「今日は楽しかったか? 蒼牙もなかなか楽しんでいたようだが」

「うん、楽しかったよ。蒼牙さんのことも結構わかったし。あ、そうだ! 蒼牙さん、英語全然ダメだから帰ったらレッスン」

「ははは、蒼牙には災難だろうな。それとそのアクセサリー、買ってもらったのか?」

「似合うかな? 蒼牙さんは大人っぽくなったって言ってくれたけど」

「うむ。まだ早いと思ってはいたが、なのはは俺が思っていたより大人になっていたんだな」

「な、なんか今日はお兄ちゃんにも蒼牙さんにも褒められて変な気分だよ〜」

「なかなかにひどいことを言ってないか、妹よ?」

「お、お兄ちゃんの気のせいです」

 

 頭を撫で付けてくる恭也に、形だけやめて〜と言って恭也の手を掴むなのは。

 

 

 

 

 

「兄さん、ごめんなさい」

「いや、こちらこそすまかなった。任務任務とフェイトのことを全く見ていなかった。

まさかそこまで(露出の高い服を着るほどに)思いつめていたとは」

「兄さんがそうした理由は分かっているつもりだったんだけど、やっぱりちょっと……」

「あぁ、すまない。そしてありがとう、フェイト」

 

 己が定める『義』を裏切らぬ行為をしていたつもりだが、それ以上に大切なフェイトの兄としての行動を取れていなかった。

 蒼牙はこれからはなるべくフェイトとの時間を作る事を自らの心に誓った。

 

「ふむ、(かんざし)か。また風流な。恭也もなかなかいいものを選んだな。うむ、お前の良さを引き立てているぞ」

「あう、えっと……あ、ありがとうございます」

「それと歌だが、驚いたぞ。まさかお前にあのような才能があったとは。ぜひ今度聞かせてもらいたいものだ」

「え? そ、そんなによかったですか?」

「まあ主催者に直訴して決勝戦をやり直させるかどうかを悩んだくらいにはよかったな」

「そこまでしないで下さい! もう、兄さんはそうやっていつも私をからかう……」

「お前がからかいやすいからな。シグナムもそう言っているし」

「私、兄さんとシグナムさんのオモチャじゃないです!」

 

 ポカポカと叩くフェイトに、蒼牙は掌で受けつつ笑う。

 

 

 

 

 

 そろそろ帰ろうということになり、4人は一緒になって並んで歩く。

 恭也と蒼牙を端にして、なのはとフェイトが中に。兄妹で手を繋ぎ、なのはとフェイトも繋いで。

 まだ買い物などで賑わう街を抜け、4人は転送ポイントである人目のつかない林へ向かう。

 

「フェイトちゃん、今日は楽しかったねー」

「そうだね、思いっきり歌えたし」

「いろんな服も着れたしね」

「…………私は別に…………」

 

 真っ赤になりながら服については否定を示すフェイト。

 冷静になった今ではかなり恥ずかしかったのだ。主に応援服とか、レースクイーンの服とか露出の高い服が。

 

「え〜、私は楽しかったよ? フェイトちゃんだってノリノリだったじゃない」

「わっ、私は雰囲気に流されて」

「え〜、ほんとに〜?」

「ほんとだよ?」

「嘘ついてない?」

「ついてないよ」

 

 繰り返される押し問答。だが、それを二人とも楽しんでいる節がある。

 

「こらっ、フェイトちゃん。正直に言いなさい!」

「はっ、恥ずかしかったよ!」

 

 なのはの追求を交わすためにフェイトは逃げ出した。

 そしてそれを追いかけるなのは。

 その年頃特有の笑顔を浮かべて二人は追いかけっこをしていた。

 今日の証である、簪とペンダントを輝かせながら…………。

 

「来て良かったな」

「あぁ、フェイトに誘われた時は驚いたが、それでも来てよかったよ」

「俺は『義』を守るあまりフェイトをないがしろにしていたよ」

「俺もだ。少しでもあの娘達を『護る』為にと力を求めていたが、それがなのはを苦しめるとはな」

「あのままだったら兄失格かもしれんな」

 

 2人して苦笑する。

 分かっているのだ。兄失格かもしれないが2人は兄を辞めるつもりはない。

 何よりも自らを兄と慕ってくれるなのはとフェイトの為に…………。

 よりなのはとフェイトの兄らしくある為に、2人を護れる兄となる為に……。

 

「も、もう! いい加減にしてよ、なのは!」

「あはははは! ごめんなさいごめんなさい!」

 

 いつの間にかフェイトがなのはを追いかけていた。

 本当に微笑ましい。

 

「……?」

 

 そこで、なのはを追いかけているフェイトはある事に気付いてしまった。

 

――――なのはの胸で輝く桜色のペンダントを!!

 

「……なのは、そのペンダントはどうしたの?」

 

 ある程度は予測は付いているだろう。

 フェイトは誰よりもなのはの親友だ。だとしたらなのはが所持しているアクセサリーを知っていても可笑しくない。

 そしてフェイトが脳内検索をかけた結果、なのはは桜色のペンダントなど持っていなかったはずという結果が出てきた。

 

(そう言えば……最初に兄さんといたときにアクセサリーをつけたりしてたよね)

 

 思考を巡らす、思考を巡らす。

 そして辿り着く――――蒼牙がなのはにプレゼントした事を!!

 あの鈍感の名をほしいままにしている蒼牙がプレゼントした事を!!

 

「はにゃ? えっと〜、こ、これはねっ」

 

 フェイトの表情から危険な物を感じ取ったなのはは言葉を探すが見つからない。

 どんなに探しても見つからない。

 

「……兄さんから貰ったんだね……?」

「ふぇっ、フェイトちゃん? お顔がすっごく恐いんだけど……」

「なのは、正直に答えて?」

 

 もはや恐怖の臨界に近いなのは。

 いやだって、フェイトの顔が真っ黒に染まってて赤い瞳が瞳孔だけ輝いたら誰だって恐怖を感じますよ。

 

「蒼牙さんに買ってもらいました」

 

 恐怖に負けて思わず親友に敬語で答えてしまう。

 この恐怖には誰も打ち勝てない!!

 

「私は……兄さんにアクセサリー買ってもらったことないのに……そもそも何かを買ってもらったこと自体ほとんどないのに!!」

 

 もちろんそこにはフェイトが買ってほしいとか言わない、むしろ遠慮しがちなことも理由になるのだが、

 今の乙女心全開のフェイトにそんな細かいことは頭にない。

 ただ羨ましくて、悔しくて、八つ当たり気味な怒り。

 つかみ掛からんとするフェイトに、なのはは本気で逃げようとした。

 

――――しかしその時、なのはの眼にフェイトの髪が映った。その輝く金色の髪に添えられた簪。

 

「そう言うフェイトちゃんこそ、その簪はナニかな?」

 

 先ほどまで追い詰められていたとは思えないほどの暗い声。

 なのはの態度にフェイトは身をすくませてしまう。

 きっとバインド+SLBの時の記憶が蘇ってしまったのだ。

 

「きょっ、恭也さんに買ってもらったんだ」

 

 恐怖には勝てない。それが管理局の白い悪魔が出す恐怖には尚更!!

 

「私だってお兄ちゃんにアクセサリーは早いって言われて買ってもらったことなかったんだよ?」

 

 暗い声。

 普通なら逆らえない。しかし、今のフェイトは違う。

 

「なのははいいじゃない!! 今まで恭也さんに色々買ってもらってるだろうから!」

「いいわけないよ!! アクセサリーと他の物じゃ全っ然違うんだよ!?」

「そんなの欲張りだよ!」

「よ、欲張りなんかじゃないもん! いつもいつも欲しいって言ってるわけじゃないんだから!」

 

 なのはの買ってもらったものは生活用品だったり、雑貨だったり。

 つまり妹にという以外の理由はなく、女の子という意識を大きく持って贈るようなものではなかった。

 ゆえにその意識が大きくなるアクセサリー、それを先にもらったのがフェイトだったことが、なのはには気に入らなかった。

 

「そ、そんなの言うんだったら、兄さんと先に手を繋いだのはなのはじゃない!」

「それはいつでもできるのにしなかったフェイトちゃんが悪いんだよ!」

「に、兄さんは恭也さんと違ってそんなに軽々としてくれないの!」

「フェイトちゃんがそう思ってるだけだよ! 蒼牙さんはフェイトちゃんが思ってるほど冷たい人じゃないし!」

「な、なのはに兄さんの何がわかるの!?」

「わかるもん! 今日だけで英語はダメだし、地は関西弁だし、女の人をこれでもかってくらい引きつけてるのに自覚ないし!」

 

――――いいとこなしじゃねえか……。

 

「…………」

「蒼牙、あれは別に悪気があってのことではない……と思うぞ?」

「まあ事実だから仕方ないが、最後のだけは違うだろう……」(←やっぱ自覚ない奴

 

 しかしそんな蒼牙を無視して言い合いは続く。

 

「兄さんの精神統一してる時の横顔は、ちょ、ちょっとカッコよかったりするんだよ!?」

「お兄ちゃんだって一心に剣を振ってる時の顔はすごく頼もしいもん!」

「でも恭也さんは兄さんと違って趣味が少ないし、なのはだって年寄り臭いって言ってるよね?」

 

 フェイトにすらついに言われてしまった恭也。

 

「……盆栽と釣りはそんなにダメなのか?」

「まあ……昨今の俺たちの年代の奴に釣りはともかく、盆栽はそうそういないだろう」

 

 そのままなのはとフェイトは兄自慢か兄をこき下ろしているのかわからない言い合いを。

 

「蒼牙さんだって俳句とか刀の鑑賞とか、年寄り臭いのあるじゃない!」

「で、でも兄さんは語学以外は頭いいし、勉強だって見てくれるし、色々なこと教えてくれるんだから!」

「お兄ちゃんは私が危ない時は必ず来て助けてくれるよ!」

「な、なら、今日はどうして兄さんを誘ったの!? 恭也さんを誘えばいいのに!」

「ふ、普段いてくれないお兄ちゃんをちょっと懲らしめたかったの!」

「勝手だよ! 私だって兄さんを誘おうと思ってたのに! なのはが兄さんと出かけるから誘えなかったんだよ!?」

「でも今日すっごく楽しそうだったじゃない! お兄ちゃんと、か、カップルジュース飲むなんて!」

「なのはだって飲んでたじゃない! それどころかアーンまでしてた!」

「フェイトちゃんだってしたでしょ! さらに色仕掛けまで!」

「い、色仕掛けなんてしてないよ! なのはが勝手に誤解しただけ!」

 

 どこまでもヒートアップするなのはとフェイト。

 一方で恭也と蒼牙は思い出してしまい、それぞれ恥との葛藤を。(←忘れようとしてた

 さすがにこれ以上はまずいだろうと(自分たちのためにも)、なのはとフェイトを止めようとする。

 

「あ〜、な、なのは、もうそこまでに……」

「フェイト、と、とにかく落ち着け……」

 

 が。

 

「「それもこれも……」」

 

 なのはとフェイトはキッと顔をそれぞれの兄の方に向け――

 

 

 

 

 

お兄ちゃんが悪いの!!

兄さんが悪いんです!!

「「そう来るか!?」」

 

 

 

 

 

 暴走は連鎖するものなのか、再びなのはとフェイトが怒りで暴走を。

 いったい、君たちは兄をどうしたいのか?

 

「ま、待て、なのは! レイジングハートを起動して何を!?」

「いや、フェイト! 確かに悪かったが、謝ったろう! お前も納得してくれたではないか!」

「「問答無用!!」」

「「なんという理不尽!?」」

 

 もはや魔法攻撃を連発するなのはにフェイト。

 なのはの"アクセルシューター"が、フェイトの"プラズマランサー"が。

 

「くそっ、今は刀なんぞ持っていないんだぞ、俺は!?」

「いちおう『八景』はあるが、なのはとフェイトに斬りかかるにもいかん!」

「つまりなんだ!? 俺たちはこのまま回避するしかないのか!?――おおっ!?」

「うおおっ、危なかった!」

 

 高速弾丸を避ける避ける避ける避ける。

 

「な、なんで生身でそうやって避けられるんですか、お兄ちゃんの人外!」

「言うに事欠いてそれか、なのは!?」

「兄さん、先読みしすぎです!」

「待てコラ! 弾速を上げるな!」

 

 なのはやフェイトとてちょっと痛い目に、という程度で終わらせるつもりだった。(←すでにちょっと痛いではすまないが……

 要は恭也と蒼牙が恥ずかしかったように、なのはとフェイトも言い合っていながら恥ずかしくなったわけで、

 それを兄のせいにして終わらせるつもりだったのだ。

 

「くっ! 何のこれしき……!」

「おおっと! まだまだ"瞬移"を使わずとも、先読みすれば……!」

 

 が、忘れていた。兄どもは常人でない。高速弾を"神速"や"瞬移"なしで避けているのだから。

 そう、当たらないから終わらない。兄たちにすれば当たったらたまったものじゃないのだから。

 ゆえになのはとフェイトはやめられない。始めてしまったらオチがつかないと己の中の恥ずかしさを払拭できない。

 さらに言えば妹たちは兄たちに負けず劣らずの「負けず嫌い」。

 

「む〜、フェイトちゃん!」

「任せて、なのは!」

 

 なのはが"アクセルシューター"で兄たちを牽制しているうちにフェイトはその後ろで詠唱。

 大きな魔法陣が生まれ、フェイトはバルディッシュを立てて目を閉じる。

 

「待てーーーー! フェイト、お前、正気か!?」

 

 蒼牙の声も聞こえない。(←無視してるフェイト

 

"フォトンランサー・ファランクスシフト"!

「「うおおおおおお!?」」

 

 さすがに"神速"と"瞬移"を発動して逃げ回る恭也と蒼牙。

 

「何で一発も当たらないんですか!?」

「「当たってたまるか!!」」

 

 しかしそこにチャージ完了のなのはが。

 

「なのは、いくら俺たちでもそれは死ぬぞ!?」

「ええい、恭也、『八景』を貸せ!」

 

 容赦なし(いちおう非殺傷ですよ?)の一撃。回避などできないほどの野太い砲撃。

 

"スターライトブレイカー"!」

城崎流 『斬撃』奥義 "斬界"!」

 

 蒼牙の"斬界"により何とか生き残る恭也と蒼牙である。

 

「全力全開だったのに!」

「「殺す気か!?」」

 

 白い悪魔と呼ばれる所以を恭也と蒼牙は納得。兄にも容赦ないのだ。もはや異論なし。

 

「もらいました、兄さん、恭也さん!」

「「って、おお!?」

 

 突然バインドに捕らわれる兄たち。フェイトに続き、なのはも。2人のバインドで逃れられない恭也と蒼牙。

 

「っていうか、待て! いつから戦闘訓練になった!?」

「今回はギャグとほのぼのに溢れたドタバタコメディーじゃないのか!?」

 

――――次元を超えた発言をするな、お前ら。

 

「おっきいのいきます!」(←エクセリオンモード

「いつでもいいよ、なのは!」(←ザンバーフォーム

 

――――君たち、喧嘩してたんじゃないのか?

 

「おい、シャレにならんぞ!? ば、バルディッシュ、聞こえているだろう! いくら何でも止めるべきだろうに!」

『…………』(←何も言えないバルディッシュ

「レイジングハート! なのはの暴走を止めるのが相棒たるお前の役割だろう!?」

『……Sorry, Mr.Kyoya……』(←同情心満載

 

 もはや止められない♪

 

「「中距離空間殲滅合体魔法、"ブラストカラミティ"、行きます!」」

「「やめんかああああああああ!!」」

「お兄ちゃんの……」

「兄さんの……」

 

 

 

 

 

「「バカーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 

 

 

 

 

「「八つ当たりで殺されてたまるかああああぁぁぁぁ――――!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やりすぎたな」

 

 恭也と蒼牙が恐ろしい魔力攻撃の本流に飲み込まれる姿を眺めながら、蛍火は驚いて部屋に飛び込んできたレンと2人、

 爆発音と揺れが響く店の中でお茶など飲んでいるのだった。

 

 

 

 

 

――了?――

 

 

 

 


あとがき

 F「お待たせしました〜。6話目を出せてほっとしてます、FLANKERで〜す!」

 ペ「遅れてしまって本当に申し訳ありません。駄作者のペルソナです」

 F「今回に題名つけるならやはり! 『兄の暴走!?』だな♪」

 ペ「ですね。いくところまで行ってしまった2人! でもそんな2人に胸キュン(?)な妹達!」

 F「書いててな〜、『やっぱりあの2人は少しおかしいくらいの方がいい兄やれるんじゃね?』ってマジで思ったw」

 ペ「いや、さすがにそれは嫌だと思いますが……。

   まぁ、なのはとフェイトにとっては何時もよりももう少し気遣ってくれる2人はいい存在だと思いますね」

 F「いきすぎて吹っ飛ばされてたけどね。正気に戻って仲直り。その上で喧嘩されて八つ当たりされて被害者w」

 ペ「そして、さらにそれを楽しむ蛍火。どこまでも悪役が似合いすぎだ。最後はちょっぴり反省してたけどw」

 F「そんなわけでなのフェイの戦はこれにて終了です。ですが……この話には続きがある!」

 ペ「これまで本来、この後をする為の前振りでした。私の我が侭から始まりましたからね(苦笑」

 F「ペルソナさん提案、そこに私がこのなのフェイの戦を加えたんですよね〜。だからこれが前フリ。以降の方が本編w」

 ペ「となるわけですが、こちらは私の作品『Schwarzes Anormales』をメインとしています。

   またこれから始まる部分は私の作品を準拠としているので、そちらを見ていないと何も分かりません」

 F「恭也と蒼牙に関しては私の本編『リリなのプラアザ』見てる方は目を丸くすること請け合い!

   何でってそりゃああーた……この2人、おかしすぎるからw」

 ペ「そして、私の本編を見ている方も普段は見れないレンを見て目を丸くしてしまうと思います」

 F「蛍火くん、まだまだ画策するし。ほんっと、恭也と蒼牙はもうちょっと学べってw」

 ペ「私としては、恭也や蒼牙のような真っ直ぐさを2人か学べといいたいですがね(苦笑」

 F「互いに学んでくれるといいんだけども、それができるわけないしね〜。特に蒼牙が。あの戦があったからね〜」

 ペ「蛍火も他人から学べるほど柔軟という訳ではないですからねw」

 F「てなわけで! 次回から『妹たちと蛍火――阻止せよ兄貴どもとレン!――』と題を変えて続きます!」

 ペ「今までと違ってシリアスが増えたりしてしまって笑えない部分が多々あると思いますが続けさせていただきます!」

 F「笑えるトコも多いので私的にはよしです! というわけで、次回をお待ちください!」

 ペ「では、次話でお会いいたしましょう」





ひとまず、なのはとフェイトの戦いは一段落っぽいな。
美姫 「しかし、恭也と蒼牙は災難だったわね」
あはははは。よくよく考えてみたら、恭也はなのはと蒼牙が出掛けるからフェイトに誘われて、
更には蒼牙と蛍火に接点がある所からこの事態に発展したから、完全に巻き込まれた形だな。
美姫 「まあ意味、妹をほったらかしにしていた所為というのもあるけれどね」
にしても、最後は流石に可哀想だったかな。
美姫 「まあ、無事にオチも着いたし良いじゃない」
良いのか?
美姫 「次回からはどんなのになるのかしらね」
そちらも楽しみにしてます。



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