合同企画第2弾
ドタバタコメディー
なのはとフェイトの戦 ――気づけよ鈍感兄貴ども!―― 3
作:ペルソナ&FLANKER
「ふむ、なるほど。爆発するかと思ったら中々に爆発しないな。
しかし、本屋か…………まさか大河や未亜で遊ぶ為に作った本がこんな所で役に立つとはな。
人生何処で何が役に立つか分からんな」
蛍火はほくそ笑みながら、式神でこれからフェイトが向かう本屋の店主に向けて、ある二冊の本を送った。
「えっと、本屋さん……ですね」
「あぁ、本屋……だな」
恭也とフェイトの前に現れたのは微妙に怪しげな本屋。
本屋とアヴァターの文字で書かれているのだが、かなり怪しい。
何と言うか、おどろおどろしい雰囲気を纏った、一見、不吉な感じが拭えない……そんな店。
入りたくなどないのだが、蒼牙の眼もある。今は彼の視界からとにかく離れたい。気を静めないと。
フェイトは意志を固めて、意を決して扉を開ける。
…………中は意外とファンシーだった。
「……ファンシーだな……」
「……はい、ファンシーです……」
外見とのギャップについていけない2人。
そんな彼らを遠くから眺めている御仁は爆笑していたりする。
「フェ、フェイト。どんな本に興味があるんだ?」(←フェイトを警戒中
「そっ、そうですね。この世界の魔道書でも見てみます」
「そうか……」
魔道書はからっきし駄目な恭也はフェイトについて行っていいのか悩んだ。
と、そこで視界の端に映った、ある一冊の帯紙が眼についた。
『これで貴方も盆栽救世主!!』
盆栽の救世主となれるのか、盆栽が救世主になるのか全く謎な帯紙である。
「すまん、フェイト。少し気になる本が見つかった」(←気になったのかよ……
その本にいたく興味を示した恭也。なにやら眼が逝っている気がしないでもない。
ちなみに著者の場所には新城蛍火とか書いてあったりする。(←ゑ?
「あ、はい。別にいいですよ?」
フェイトとしても恭也に気になる本が見つかったのなら問題はなかった。
蒼牙の目を逸らすために少しは時間をおきたかった。
時間を置きすぎると蒼牙たちを監視できなくなるが、恭也が熱中しすぎてフェイトを無視するはずもない。
なので問題はなかった。
「それにしても盆栽救世主とは……そこまでこの世界の盆栽文化は危機なのか? 由々しき事態だな。(←……そうか?
盆栽ほど精神統一にピッタリなものなどないと思うのだが……」(←そりゃお前はね
盆栽救世主に引き寄せられる恭也。
それは放置して魔導書に向かうフェイト。
だが、そこでふと目に付いた。新刊なのか、目立つように棚ではなく表に出して目に入りやすく置かれていたそれは……
『兄、妹の心を知る大全!! 〜これで相手の心は丸裸!! 態度で相手に想いを伝えやすくなる!!〜』
などなど、かなり怪しいことが書いてある。いや、かなりどころか怪しすぎる。
怪しいが……しかし、気になった。
こうなった元々の原因が兄にあることもあり、態度で気付いてもらえるようになったら…………。
(話ができなくても、兄さんとコミュニケーションが取れるかな……)
フェイトは一冊しかない本を手に取り、中を見る。
………熟読中………
「……このページは妹の心の方が書いてあるから違う……『兄の心を揺さぶる方法』。うん、これだ。
えっと……『話しかけるときは上目遣いが基本です』……?」
考えてみる。そう言えばなのはもよく恭也に頼み事をするときはちょっと俯き加減に恭也を見上げていた。
親友がすでに兄の心を揺さぶる方法を知っていることに感心する。(←しなくていいから
「そっか……なのはのあれって基本だったんだ」(←違うぞ!?
…………熟読中…………
「初級編その1。『お願いするときは胸の前で手を組んで涙目が有効です。どんなお兄さんもこれにはKO』……そうなんだ」
何とも懇切丁寧なことに、要所要所でのポイント解説付きの例まで載っている。(←無駄に完成度が高い……
フェイトはその例に自分と蒼牙を重ね合わせながら読む。
想像開始。(以下、矢印の後はポイント解説部分)
『あ、あの、兄さん……』(←『ちょっと俯き加減にするとGOOD!』らしい
『ん、何だ、フェイト?』
『あの、えっと……』(←『ここで涙目! そして言いにくそうにすること!』
『ど、どうした!? そんな、泣くほど言いにくいことか?』(←『兄はきっと気になってくるでしょう』と書いてある
『に、兄さんにしか、頼めなくて……』(←『さりげなく手を組んで胸の前に! 困った顔全開でだと、なおよし!』
『ぬ……そうか。任せておけ、フェイト。俺でできることなら何でもやってやる』
想像終了。
半ばポ〜ッとしながら虚空を見つめるフェイトだが……。
「……はっ! す、すごい。つい本当に兄さんと話してるみたいで……」
本の著者を本気ですごい人だと思いつつ、先を読み進めるフェイト。(←お〜い!
……………熟読中……………
「……あ、これ……中級編その3。『お兄さんといたいのに、恥ずかしくて言えない方にうってつけ』……」
私だ、とフェイトは思いつつ、しっかりと読む。(←戻ってきてえ〜……!
「えっと……『傍にいたいとき、いてほしいときは、構わずにお兄さんの裾を引っ張るのです』……そんなことでいいのかな?」
そんなこと、とは言うものの、フェイトはしたことがない。何となく触れることも躊躇ってしまうのだ……。
「……『妹であるあなたの、"行かないで"というそんな姿は間違いなくお兄さんに伝わるでしょう』……」
実は数日前のあの食事のとき、なのはが来て席を外した蒼牙を本当は引き止めたかったフェイト。
きっとなのはと2人でいたほうがいいと考えてくれたのだろうが、フェイトとしてはいてほしかったりした。
さてここでも、あのときを例にして想像開始。(←するなするな!
『あ、フェイトちゃん』(←食堂に入ってきたなのは
『なのは』
『ぬ……俺は下がるとしよう。また後でな、フェイト』
『あ……』(←ここで蒼牙の服をつい反射的に掴む。
『……フェイト、その……掴まれてると動けないのだが』
『あう……えっと、その……』
『……あ〜……俺もいればいいのか? だが俺がいてもつまらんぞ?』
『そ、そんなことないです……!』
『そうですよ、蒼牙さん。フェイトちゃんが一緒にいたがってるんですから、お兄さんならいてあげなきゃダメです』
『はは、そうか。わかった』(←フェイトの頭を撫でる蒼牙
想像終了。
「……………………」
顔を赤くしつつ、どこか幸せそうなフェイト。正直、最後の「頭を撫でる」のは載ってないので、彼女の願望に過ぎないが……。
「…………………………………………はっ!? ま、また全く違和感がなかった……す、すごいかも、この本……」
フェイトは本を閉じ、一言。
「買おう」
値段を見る事無く、レジに直行。
ついでにその本の著者にはまたしても『世紀の革命者――新城蛍火』の文字。(←またかよ!?
どこかで爆笑する声が聞こえるのは気のせいだ。
「お買い求めありがとうございます、とでも言っておくか。しかし……くははははは! くっ、な、何だ、この面白さは」
式神を通して、フェイトと恭也が2人揃って蛍火の書いた本を買い、本屋を出た所を見て爆笑する。
「というか、盆栽の方に引き寄せられるか、あの男。単にギャグを書いただけなんだが」(←いいのか、それは!?
恭也というらしい青年はひとまず置いておいて、蛍火はフェイトのほうを見る。
本を読んで何かを想像していたらしく、そのときの名残か、顔がちょっと赤いままだ。
「ふ〜む、機嫌が直っているような感じだな。面白かったんだが、蒼牙を焦らせるには困るな、それは」
蛍火は再び何かいいネタはないかと放ちまくった式神たちから情報を探る探る。
「……おっ、何のイベントだ?……歌か? そう言えば大河やらメリッサがイベントがどうのこうの言ってたな」
人もそれなりに集まっている。
式神に近寄らせて確認すると、どうやらライブ形式の歌唱大会らしい。
ポクポクポク…………チーン。
「……くっくっく。いいな、これは。これでGOだ。そうと決まればさっそく式神をエントリーさせねばな」
――――もうやめて下さい、蛍火さん…………。
「やなこった♪」
ネックレス状のペンダントを片手で弄りながら、蒼牙の横を歩くなのは。
そのペンダントを蒼牙が買って贈るという形でなのはがつけており、
ちょっと背伸びをして大人っぽくなった気分に浸っているようだ。
蒼牙はそれに苦笑しつつ、なのはが人に当たらないよう、それとなく少し前を歩いて人を掻き分ける。
――――その気遣いをフェイトの前で発揮しろよ。
「何だか人が多くなってきたな」
「そうですね。あ、あれ。あれのせいかも」
「ん?……『第10回ストリートミュージックバトル』……道路音楽戦闘? 何のことだ?」
「まあ直訳したらそうなりますけど……要は歌を歌って競う大会ですよ。面白そうです。近くに行きましょう、蒼牙さん!」
「そうだな。いや、だから、そんなに急がなくてもアレは逃げやせんぞ?」
「ダメです! いい場所を取って聞かないと!」
「わかったわかった」
パンフレットのようなものをもらい、なのはと蒼牙は最前列とはいかないまでも、かなり見やすい場所を確保できた。
すでに大会は始まっていて、次から次にグループが歌っては代わっていく。
そしてまた次のグループ……女性2人による小さなグループ。
「で、次は何ていう歌かわかるか、なのはちゃん?」
「ええっとですね〜、『Red-Reduction Division』っていうらしいです」
「…………どういう意味だ?」
「う〜ん、『Reduction』は減少・分解、あ、あと征服って意味も。『Division』は分割・部門・相違、そんなとこですよ」
「……すごいな、横文字言語がわかるのか? いや、考えてみれば、君はデバイスと英語で話せていたな」
「よ、横文字って……そういえばさっきも道路音楽戦闘なんて言ってたけど、もしかして英語は全然ダメ……なんですか?」
「…………南蛮や西欧の横文字言語はさっぱりわからん」
「な、南蛮って……いつの時代の言葉ですか。蒼牙さん、古文とか漢文だとありえないくらい読み書きできてたのに……」
「日本の古文は素晴らしいからな。源氏物語や枕草子なら読み尽くしたが」
「…………普通、今の人は古文の方こそ嫌がるのに…………」(←なのは自身は文系課目の中でも超苦手
「漢文ならばやはり朱子や孔子、荀子だな。兵法の知識も得られるし一石二鳥だ。ぬ、だがやはり李白や杜甫も捨て難い」
きっと蒼牙は子供の頃、漫画の代わりに古典を読み、アニメの代わりに時代劇や大河ドラマでも見てたのだろうなと想像。
そばにスタンドライトではなく、燭台を置いて和服で書物を読み耽る蒼牙が自然と浮かぶ。
(…………全く違和感がないよ、蒼牙さん…………)
余談だが、蛍雪の功という言葉がある。これ以降、なのはの頭にはその蛍の光で勉強している人間が蒼牙になった。
だってピッタリなんだもん、とは後のなのはのセリフである。
「……何なんですか、このギャップは……蒼牙さん、レッスンってわかります?」
「ぬ、英語か……れっすん……あ〜……『聞く』か?」
「それは『リッスン(listen)』です! レッスンは『けいこ』とか『授業』を言うんです!」
「…………ええい、れっすんもりっすんも知らん! 俺も君も日本人なんだから、普段は必要ないだろう?」
「屁理屈です! 今は国際社会なんですよ!? 蒼牙さん、帰ったら英語のレッスンです!」
「な、なに!? よ、横文字言語など知らずとも、日常には困らん――」
「Shut up!」
「しゃ、しゃらっぷ……とは何だ?」
「……お兄ちゃん以下じゃないですか! もう決定です! なのはがみっちり教えてあげます!」
「…………」
蒼牙、諦観の図。
そうこうしていると、早速歌が始まる。
「「…………」」
その歌に、2人は引き寄せられるのだった。
その歌詞が……彼らを魅了したのだ。そして歌手もまた上手い。感情が歌詞に篭っており、切ないメロディーが観客を飲み込む。
歌が…………
「失う事を恐れる毎日(ひび) 叶う事ない私の願いは……♪」
…………終わる。
自然と2人は拍手をしていた。周囲もまた然り。
「うう……」
「…………」
なのはは涙を流している。観客の多くが同じように。そして蒼牙の裾を無意識に掴んで。
蒼牙もまた涙こそ流してはいないが、目を閉じ、こみ上がるものを抑えていた。
「い、いい歌でしたね……」
「ああ……まさかこのような場所でこれほどいい歌に会えるとは……わからんものだ」
「うう、涙が止まらないです……」
「ふふ……それでいいんだと思う。感動できるものに対し、素直に泣けるのは優しい証拠だ」
「えへへ…………でも、だったら蒼牙さんだって優しいですよ? だって目が赤いじゃないですか」
「ぬ……」
「あ、なんで横向くんですか! 私の泣き顔だけ見て自分は見せないなんてずるいです!」
照れ隠しになのはは蒼牙の体を軽く叩くのだった。
同じくフェイトと恭也もその歌に感動していた。
フェイトも涙を流し、恭也に頭を撫でられていたのだが……そこでなのはと蒼牙の姿を見つけるのだ。
なのはが涙目で蒼牙を見上げ、何かを話している。
「あの2人も聞いていたのか。どうやらフェイトと同じように、なのはも泣いたんだな」
「あう……」
「恥ずかしがることはないぞ、フェイト。フェイトは優しいし素直だ。その涙は恥ずべきものではない」
「はい、恭也さ――っ!?」
と、そこで目に入るなのはと蒼牙は……なんとなのはが蒼牙の服を掴み、何か言われたらしく、にこりと笑った。
――――『服を掴んで涙目で見上げて笑う』……それはまさに大全に書いてあった高等技の1つ。
上級編の奥義のページに書いてあったものだ。(←奥義かよ!?
それをなのはが使った。いやいや、それはいいとしておこう。問題はその後だ。
「……何でそこでそっぽ向くんですか、兄さん……!」
その本の続きには……『そうすれば、お兄さんはあなたに見惚れてしまうこと請け合い! 顔や目をそらしたらその証拠!』と。
つまり蒼牙は……なのはに『見惚れた』ことになる。(←本当は蒼牙はただ恥ずかしかっただけ
「……私が泣いてても顔や目をそらしたことなんてないのに……」
フェイトがそうしたとき、蒼牙は慌てていた。(←普通はこれでいいのだが……
――――というか、妹が泣いていて顔をそらしたりしてたら、そんな兄は問題ですよ、フェイトさん?
一方、恭也は……。
(だ、だから! なぜ! フェイトは怒り出す!? 俺は何も言ってない! 言ってないぞ!?)
殺気。またも殺気! 三度目の殺気!!
フェイトの視線を追えばそこにはなのはと蒼牙。なのはがそっぽを向いている蒼牙を可愛らしくポカポカと叩いている。
(2人とも照れ隠しなんだろうが……うおっ!? 余計に殺気が強くなった!)
そこでフェイトが恭也を見る。かなり怖い。
「き、恭也さん……」
「な、何だ?」
「あ……う……い、いえ、その……」
フェイトは手をモジモジさせ、恭也の目を見てはそらし見てはそらしを繰り返す。
何かしたいのだろうが、まったくわからない。だがそこで恭也が行き着く答えは〜…………!
(モジモジして女性が恥ずかしげ……ト、トイレか?) (←なんでやねん!
――――はい、もうこれが恭也の限界。
わかる人にはわかる。フェイトはなのはと同じことがしたいだけである。
だが……
(き、恭也さんの目を見て、涙目で見上げて笑う……………………は、恥ずかしい!!)
そもそも恭也はとても真剣な目で自分を見ている。(←『トイレか?』と言うべきか言うべきでないかを思案中だから。
笑顔が苦手なのに、無理やりそれを作るのはあまりにフェイトにとって困難なものだった。
(だいたい恭也さんに見惚れてもらうのはそれはそれで嬉しいけど……今は兄さんじゃないと意味がないし……)
フェイト、諦観の図。(←いらんところで兄妹揃って……
そうこうしているうちに大会は優勝者を決める採点に入り、そして――
『優勝は、最後のグループ、『蛍火』のお2人に決定〜〜〜〜!』(←……蛍火じゃないですよ?
たったいま感動の歌を歌い上げた2人の女性にトロフィーが渡され、彼らにインタビューが行われる。
「ふふふ。俺の歌唱力もなかなかということだな」
蛍火は式神を通じて歌い上げ、なかなかに満足しながら様子を見続けていた。
――――え、歌ってたのは女性だろって?
――――そんなもん、蛍火が声色変えて歌ってたからに決まってるじゃないですか♪
『観客の皆さんがアンコールを希望されております! どうされますか!?』
司会者が式神に聞いている。式神が蛍火にどうするかを思念で尋ねてきた。
「もちろん、歌うに決まっている。さて……問題はどちらの娘をステージに上げるか……」
なのはという娘は……蒼牙といい感じだ。それは困る。蛍火的に。蒼牙たちには焦ってもらわなくては面白くない。
一方のフェイトという娘は……蒼牙たちを見て殺気を放ち、そして次に恭也という青年を見て顔を赤くした。
「……ふふふふふ、読めたぞ読めたぞ。嫉妬だ……嫉妬だな! いいぞいいぞ、ならばこれでいこう!」
蛍火は本にこう書いた。
それは――『お兄さんに振り向いて欲しいときは、少し目立つことをして気を引きましょう』。
「まあ、当たり前のことだがな。しかし今のあの金髪の娘は俺の本を完全に信じきっているしな……くくくくく」
そして蛍火は式神に命令を伝えるのだった。
『では最後にアンコールに答え、誰か1人、私たちと歌ってもらいたいと思います』
歌手が観衆を見回し、そして…………フェイトと目が合った。
『あ、じゃあ、そこの金髪の子!』
「え? わ、私ですか?」
『そうそう、あなたよ! ささ、こっち来て! 歌おう?』
「え、えっと……」
この観衆の前で歌うなどあまりに恥ずかしい。
チラリと見てみると、なのはと蒼牙が自分を見ていた。
そう……蒼牙が見ている。
(た、確か本にも目立つことをすれば気を引けるって……うう、恥ずかしい……でも兄さんに褒めてもらえるかも……)
『あ〜、恥ずかしいならそばの……お兄さん? 一緒にどうですか?』
「む、お、俺か? しかし俺は歌など……」
「き、恭也さん……ダメですか?」(←胸の前で手を組んで涙目で上目遣い
「ぐ…………わ、わかった」
フェイトは早速、本の通りの頼み方をしている。もちろん意識して。(←意外に策士ですか、フェイトさん?
恭也は妹or妹的存在(もちろん美由希を除く♪)の涙目の上目遣いに弱い。それには勝てない。(←哀れ美由希……合掌!
そしてフェイトは本の通りにいったことで、尚更、本の内容を信じきってしまうわけだが……。(←悪循環……
(これなら兄さんにも見てもらえるよね)
そしてフェイトと恭也はステージに立ち、フェイトが知っている曲を弾いてもらい、歌い始めるのだった。
――――なぜこの世界でフェイトの知る歌があるのかはツッコまないこと! いいね!?
音楽が流れ出す。静かなピアノの旋律が他の楽器と混ざってリズム感のあるものになり、そして……
「……手と手の温もりが 僕を強くする〜♪ 積み重ねた想い 空を駆け抜けて〜♪」
フェイトの綺麗な声がスピーカーを介して聴衆の耳に伝わる。
それはとても9歳とは思えない歌唱力。
聴衆は皆呆然としていたが、次第に手拍子が入ってくる。
「きっと終わりは始まりの歌〜♪ 羽ばたいた鳥の歌〜♪」
一番盛り上がる辺りになると、聴衆は手を挙げたり口笛を混ぜたりしてフェイトの歌についてきている。
先ほどの感動の歌とは違って、大きな歓声と共にフェイトは歌っている。心なし顔が赤いものの、とても楽しそうだ。
「今は 共に燃やした炎を〜♪ 明日への灯火にして〜♪ 震えてもいいから♪ ぐっと前を見よう♪」
本能的に聞き惚れるような、フェイトの声と音楽。しかも歌詞がまたフェイトらしいといえばらしい。
なのはと蒼牙は微笑みながら、フェイトの歌に耳を傾け、手拍子を取る。
「フェイトちゃん、やっぱり上手〜い!」
「ぬう……これは隠れた才能だな。エントリーしてれば優勝した者たちと張り合えたんじゃないのか。至極もったいない……」
「本当です〜。フェイトちゃんとなら私も歌いたかったなあ〜」
「こないになってもうた以上、大会主催者に直訴っちゅーか、もはや脅してやり直しにさせなあかんのとちゃうか?」(←兄心全開気味?
――――関西弁なのは素の蒼牙が出ている証拠?
「そ、蒼牙さん?」
「冗談だ」(←なのはをからかって楽しんでる。
「もう〜……でもお兄ちゃんが立つ瀬ないですね……」
「飲まれてるのはむしろ恭也だな。くっくっく、面白い。これはあとであいつをからかういいネタになりそうだ」
そこで恭也が蒼牙の視線に気づいたようだ。というか、むしろ蒼牙はそのつもりでやっている。
『……何を笑っている、蒼牙?』
『注目の的だな、親友』
『黙れ』
『これで笑うなというほうが無理だぞ』
『だから俺は歌などできんと言ったんだ……』
『今更だ』
『他人事だと思ってるな、お前……』
『実際、他人事だからな』
『帰ったら叩きのめしてやる』
『ほほう……?』
ちなみに念話ではなく、アイコンタクトである。さすが親友同士(?)。
蒼牙はニヤリと笑ってなのはに話しかける。
「実にもったいない……あとで『アースラ』の方にも見せたいな」(←それとなく誘導
「あ、そうですね。それいいです! お兄ちゃんは恥ずかしがるかな? でもこれでお兄ちゃんも懲りるかもね。
じゃあ、レイジングハート、記録できる?」
『OK.Leave recording to me.』(←苦笑してる。
なのはがレイジングハートを手のひらに乗せ、レイジングハートに記録させる。
それを見て恭也は殺気放出開始。
『……蒼牙、いい度胸だな……』
『さて? 俺は単に見せたいなと願望を述べただけだ。なのはちゃんもやはりお前に罰を与えるつもりのようだしな』
『くっ、なのはよ。あまりにもひどいのではないか……?』
『妹を怒らせているお前が悪い』
『お前が言うか? フェイトはさっきからお前を見て怒っていたんだぞ? どれだけ俺が苦労していると思っている!?』
『それなら同じだろう。なのはちゃんも機嫌が悪くなったりするが、お前を見てだぞ?』
『む……』
『というか、ラピスに任せればいいものを』
『それを早く言え!』
『俺に怒るな、阿呆。気づかないお前が悪い』
全てアイコンタクトにございます。
そうこうしているうちに、フェイトの歌は終わる…………。
「くっ……まさか俺が感動してしまうとは……」
式神を通して歌を聴いていた蛍火も、フェイトの歌に半ば反射的にリズムを取ってしまっていた。
「何となく蒼牙が人に戻ったのもわからんでもないな。あの娘ならできてもおかしくない」
大したものではあるが、今はそれよりもやることがある。
そう、フェイトが蒼牙を気にし始めるときだからだ。
「拍手喝采で顔が真っ赤だな。お?」
恥ずかしくて俯いているフェイトを恭也が近づいて撫でてやっている。観客はその微笑ましい光景に尚更ヒートアップだ。
しかしある一部だけ……そう、至極一部だけ、そうにはいかないらしい。
「くくくくく、やはり嫉妬するか、そこで。くははははは! 何でこいつらはこうも思ったとおりに動いてくれるんだ!」
そう、爆笑する蛍火が見たもの――フェイトを撫でている恭也を見て頬を膨らませ、きつい視線を放つなのは。
そしていきなり機嫌の悪くなった彼女に、明らかに混乱している蒼牙だった。
「くははははは! こ、これは何とも形容しがたい面白さだ……! "ブラコン大戦"とでも名付けるか?」
そして蛍火命名――"ブラコン大戦"は、さらになのはと蒼牙を見た(もちろん蒼牙が気になっている)フェイトの反応により、
ますます激化するのであった。
――――あの〜、本当にやめてほしいんですけど……?
「ええい、何やら聞こえるが、こんないいところで止められるか! 読者が次を望んでいるわ!」(←次元を超えた発言
(む〜〜〜〜! お兄ちゃん、こんな大勢の人の前で頭を撫でて……しかも笑顔まで……!)
その笑顔にまた歓声が送られているのだが(全員女性)、恭也はフェイトへのものだと思っているのだろう。
しかもなんと。レイジングハートはその光景すら録画してしまっている。
「レイジングハート……録画を止めて」(←魔王降臨寸前
『Y……yes,master』(←自動的に今の辺りを消去しておくことを忘れない
そして優勝した歌手たちが何とフェイトたちにそのトロフィーを渡した。
さすがに遠慮しているフェイトだが、歌手や観客はそれに納得している。
そして写真を取られているのだが、それには当然、恭也も入っているわけで……。
「……お兄ちゃんとのツーショット……」
フェイトの顔が赤いのは歓声のせいもあるだろうが、間違いなく恭也が屈んで顔が近いこともあるはず……。(←女のカン
「……フェイトちゃんもどうしてお兄ちゃんに……!」
「あ〜……な、なのはちゃん。その……」
「何ですか?」(←一語一語をやけにはっきりと
「……いや、何というかだな……」
実は裾を握っていた手が思いっきり蒼牙の手首をも締めつけており…………痛いのだ。
「あ〜、何だ。そろそろ飯の時間だが、な、なのはちゃん。どこかに食べに行くというのはどうだろう?」
ちなみに蒼牙は何となく恭也が悪いのだろうなというのはわかっていた。
恭也に構ってもらえず拗ねているのは知っていたし。(←自分が同じ理由でフェイトを怒らせていることには気づいてない……
とにかく今は恭也から離すことが重要と判断する蒼牙。
「そうですね……さ、行きましょう、蒼牙さん! あんなお兄ちゃんはもう放っといていいです!」
「あ、ああ……やれやれ、頼むからなのはちゃんを刺激しないでくれ、恭也……」(←お前が言うか?
(兄さん……何で見てくれないの……?)
恭也とのツーショットを撮り終わり、その写真をもらったフェイトだが、そこでやっと解放されて蒼牙を見てみれば、
蒼牙はなのはに付きっきりで何かをしている。
なのはは何となく頬を膨らませている……怒っている彼女を必死に蒼牙が宥めているというところだろうか。
「……私よりなのはのほうが優先なんだ……」
なのはが何を怒っているのか知らないが、多分蒼牙が怒らせたんだろう。(←違うよ?
それを必死に謝っているのかもしれないが……その「必死」が気に入らない。
「私だって恥ずかしいのを我慢して必死に歌ったのに……!」
本に書いてあったことが通用しない。(←鈍い蒼牙だから、普通の手では効かないとは思い至らない
つまりそれはフェイトの「必死」は蒼牙の「兄の心」を揺さぶるものではなかったと。(←充分、揺さぶっていたのだが……
「……じゃあ何をしたら兄さんは私を見てくれるんですか……!」
「あ〜、フェイト……その……せっかくのトロフィーがだな……」
「え?……ああ!? ま、曲がってる……?」
「だ、大丈夫だ…………俺の握力なら何とかできるだろうからな」
「す、すいません……」
真っ赤になるフェイトからトロフィーを渡され、少し曲がったそれを見つつ、恭也はちょっと握力を篭めてみる。
(むうう……くっ、なかなかに固いな…………というか、どうやって曲げたんだ、フェイトは?)
フェイトの顔はまたなのはと蒼牙のほうに向けられている。彼らは彼らでここから離れていくようだ。
蒼牙がなのはの手を握り……というより、なのはが蒼牙を引っ張って行っている。
「……何か知らんが、頼むからフェイトをこれ以上刺激しないでくれ、蒼牙……」(←だからお前らが言うな!
――続く――
あとがき
ペ「久しぶりに投稿できたわけですが……」
F「え〜、どうにもこうにも、書いてて暴走しがちな私、FLANKERです」
ペ「またしても暴走してしまったFLANEKRさん。まぁ、助長したのは私ですがね」(w
F「発案はほとんどペルソナさんでしたけどね」
ペ「人に擦り付ける気ですか!?」
F「いやいや、もはや私は書く役ですので〜」(知らんぷり
ペ「はぁ……まぁ、いいか。それで蛍火の暗躍によって暴走してしまったフェイト」
F「ついにはなのはもプッツンです! オウ、悪魔降臨!?」
ペ「徐々に追い詰められていく兄達。そして徐々に包囲網を敷いていく蛍火!!」
F「兄は兄で、蒼牙など英語ができないという新たな設定ができるし」(笑
ペ「恭也はもはや女心を壊滅的に理解できていないどころか……」(w
F「ステージに上がっていながら立っているだけと言う惨めさ」(爆笑
ペ「蒼牙は恭也がつっ立っているところをアースラに晒すという非道さ」(w
F「なのはは蒼牙の手首を締め付け、フェイトは優勝カップを曲げてしまうという凶行に!」(ガクガクブルブル
ペ「この凶行は次回にどんな影響を与えてしまうのか!?」
F「そう、次回はレストラン編! 私とペルソナさんがさらに力を入れた一品!」
ペ「"漢"の夢に溢れたレストラン編!! 存分に悶えてくれると嬉しかったりします」
F「むしろ悶えなきゃ嘘だ〜〜〜〜! ってことでそろそろ失礼をば……」
ペ「では、次話でお会いいたしましょう」
F「例のアレはもちっとだけ待って下さいな」
いやいやいや、妹たちが寧ろ憐れというか。
美姫 「流石にこの兄たちは親友だけあって、変な所が似てるわね」
うんうん。
美姫 「このまま、なのはとフェイトの怒りは増長していくのかしら」
いやー、どうなることやら。
美姫 「続きがとっても気になります」
アレも楽しみにしつつ、次回も楽しみに待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」