『side『KYOUYA』番外編ennaVer.』








「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

――1人の男が逃げていた。

場所は、とある倉庫街。
彼は……否、彼等はそこである『取引』をしている最中だった。

その『取引』とは――密輸。

それが物であろうと、動物であろうと……例え、人であったとしても。彼等は相応の報酬さえあれば、それを運ぶのが仕事だった。

そして今回の仕事も、残すところは取引相手との接触、その後報酬と品物の交換……だけだったのだが。

相手と合流し、お互いの荷物の交換をしようとしていた、まさにその時――

「……時空管理局だ。貴様等の行為は時空犯罪に相当する。大人しく捕まれば良し、抵抗する場合は――容赦はしない」

――漆黒を纏いし、剣神がそこに現れた。

無論、彼等とてそのまま大人しく捕まるような連中ではない。
何の気配もなくこの場所までやって来たこの男がただ者でないことは理解するが、それでもこの人数――20人程度――をただの1人でどうにかしようとする……その暴挙を認めたくは無かったし、今の彼は不意を突くでもなく、尚且つ身分を明かし、男達の逮捕通告をする為に入口側に堂々と立っていた。それは、彼等から見れば恰好の的だったのだ。
何しろ――彼等は自衛の為、魔法を使う事が出来る者達ばかりだったのだから。

「――撃てぇ!」

誰かがそう言い放ったのを合図に、無数の炎や光が入口の男に殺到する。
もし、これがまともにあの男に当たれば……あの男の身体など簡単に吹き飛んでしまうであろう事は、容易に想像できた。

だが、男は一向に慌てた様子すら見せず、

「――白姫、カートリッジロード」

と、静かに呟いた。

その呟きと同時に、彼の白い刀――いや、今となってはデバイスと判る――から響く、力強いコッキング音。その音と共に、彼の刀にカートリッジが装填される。
更に、彼の足元から白い色の魔法陣が展開された。

そして、彼の目前に数多の光弾が迫った、まさにその時――

「白姫ッ!」

『イエス、マスター!絶対防御〈イージス〉展開!』

彼の叫びに、白姫と呼ばれた白のデバイスから発されたと思われる女性の声が応じ、彼の身体は白く巨大な防壁に覆われた。

「「「「なっ!?」」」」

複数の驚きの声の中、男達が打ち出した光弾はその白い壁にことごとく防がれる。

――立て続けに起こる爆発音。それと同時に爆煙も発生し、辺りが見えなくなる。

「くそっ、一体何がどうなった!?」

男達の中の1人が、苛立ったように叫ぶ。だが、その問いに答えようにも、未だ煙は晴れていない。確認の仕様が無いのだ。結局、無駄だとわかりつつも、煙に目を凝らす。

そんな中――

「――――剣の御名の元、集い」

不意に煙の中で、1人の男の声が聞こえる。これは……!

「気をつけろ!奴はまだ生きている!」

その声を聞いた男は、周りの仲間にそう叫び、注意を呼び掛けた。あの男は、何かをしようとしている――!

「我に仇成す敵を討て!」

「……?」

その言葉を聞き、男は煙に目をこらす。
何か……未だ晴れぬ煙の中から、何か黒い塊が近付いて来ているような……!?

「な――!」

こちらに剣が飛んで来た、と思った時には既に遅く。

男は、その剣の一撃を受け、意識を失った。

「がっ!」「ぐはっ!」「わあああぁ!」

その男が意識を失った後にも、複数の男の悲鳴が聞こえる。

――どうやら、襲撃者である管理局の人間はこの煙幕を逆に利用し、こちらを一網打尽にするつもりらしい。

こいつ、恐ろしく多数との戦闘に慣れている……!

運良くギリギリで剣の雨に曝されなかった男は戦慄する。
いくら管理局の人間といえども、こうまで自分達が翻弄されるとは思っていなかったのだ。

確かにこの商売柄、管理局に目を付けられ、今日のように逮捕されそうになる事など、一度や二度ではなかった。現場を包囲され、絶体絶命に陥った事だってあるのだ。
だが、今まで自分達は何とか逃げ切ってきた。それは、自分達の運のおかげであり、そして――

「くっ……」

男は煙の中、側面の壁際に走る。
そして懐に入っていた何かのスイッチを押すと――

ひとりでに壁が開く。
そう、もう一つの逃げ切れた理由。それは、地の利だった。
元々、この倉庫街は彼等の取引場所の一つであり、この倉庫にも隠し扉や通路など、万が一の為の備えがしてあったのだ。

――そして、場面は冒頭に遡る。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!」

男は必死に逃げている。
魔法で飛ぶような事はしない。管理局の人間が、あの男一人であると決まったわけではない。魔法で飛ぶ行為は、わざわざ自分の居場所を教えるようなものだ。
この倉庫街は入り組んだ作りをしており、その路地も、ある程度道を熟知している者でなければ迷わずに目的地に辿り着く事が出来ない。

――故に、もう追っ手は来ない。

男は充分な距離を走ったと判断した後、息を整えるために歩きながら目的の場所へと向かう。

「ハッ、ハァッ……それにしても、あの管理局の男……一体何者だ?」

荒い息を整えながら、男は先程までの戦闘を思い出す。

――いや、果たしてアレは戦闘と呼べるモノだっただろうか?

自分達がまともに行えた戦闘行為は、せいぜい最初の一斉攻撃のみ。しかもそれは、全くと言っていいほど効果が無かった。いや、むしろあの男の手助けにすらなっていたのだ。

――あの戦闘は、全てがあの男の手中にあった――

今となってはそうとしか考える事が出来ない。
最初の宣告も。こちらの攻撃を利用した煙幕も。それを目くらましにして使用した、剣の雨も。

全ては最初から決まっていたかのように動き、そして帰結した――まるで、あの男の掌中で自分達が躍らされていたかのように。

(何を馬鹿な事を……)

そこまで考えて、男は自らの考えを否定するかのように首を振る。
今更、終わった事を言っても仕方が無い。今はここから早く抜け出し、安全な場所まで退避しなければ……!

そう判断し、再び走り出そうと――

「……どこへ行く気だ?貴様の行き着く先は、生憎一つしかないが」

――した矢先、聞きたく無かったその声に呼び止められる。

その声と同時に、上空から漆黒の男が舞い降りた。
両手に刀のようなデバイス、漆黒のジャケット、そして全てを射抜く鋭い眼――

――紛れも無く、先程の男だった。

「……バカ、な。何故お前が……!?」

そこから先は、声にならなかった。

確かにこの男は、あの倉庫内で自分達と戦っていた。
だが、自分が逃げ出したのはまだ戦いの最中だった筈――そもそもあの煙の中、誰が逃げ出したのかを見る事などは不可能だ。

だからこそ、ありえない。

今この目の前に、この男がいる現実が――!

「……さて、な。その理由を言うつもりも無いし、何より――」

そこまで呟いた後、男は刀を構えながら、

「――そんな事を気にする余裕が、貴様にあるのか?」

と、淡々と言い放つ。

「…………っ!」

その言葉に、慌てて自らのデバイスたる杖を構え直す。
確かに、この男の言う通りだ。自分は、何としてでも逃げなければならない。
だが、眼前の男はそれを許す筈がない。
ならば、選択肢はたった一つしか残されていない。

――すなわち、戦う事。

しかし……全員で一斉に放った魔法の攻撃ですらあの男には効かなかったのだ。自分一人で攻撃したところで、たかが知れている。
一体どうすれば……そこまで考えたところで、あの男が動いた。

「くっ――!」

咄嗟にデバイスを構え、魔法を放つ。

ただし――

目の前の男に向けてではなく、更にその手前の地面に向かって。

「む……!」

地面に着弾し、連続した爆発音と共に発生する、煙。
姿は見えなくなったが、その爆発で男の動きが止まったのを証明するかのように、まだ正面で声が聞こえた。

(先程は煙を利用された。ならば今度は、それをこちらが利用する……!)

そこまで考えた後に飛行魔法を詠唱、全力で逃亡する。

――これで逃げる事が出来る。

彼は、そう安心していた。

だが、勿論。

――彼の漆黒の剣神は、そんなに甘くはない。

「黒姫――カートリッジロード」

彼は、逃げ去ろうとしている男の気配を明確に感じ取っていた。

急速に遠くに消えていこうとしている気配。

それを感じながら、彼は静かな声で己のデバイスに命令を出す。
力強いコッキング音の響きと共に――先程とは逆の、黒姫と呼ばれた黒いデバイスに、紫電の光が纏わり付く。

『障壁貫通〈シールドスルー〉、展開終了――いつでもいけます、主』

紫色の刃が形成された後、その黒姫から声が響き、彼はそれに頷く。

そして――

『加速〈ヘイスト〉』

白姫から再び放たれたその声が辺りに響いた、と思った瞬間……彼の姿は、既にそこに無かった。

逃げる、逃げる、逃げる、逃げる――――

ただ、一目散に逃げる。

恥も外聞も考えず、こちらを滅ぼそうとする、死神にも似たあの漆黒から必死で逃げる。

自分で出せる全速力。

幸い、運良く周囲に管理局員は見当たらない。

このままならば、自分は――

「……今一度言うが。貴様の行き着く先は、一つだ」

「なっ――!?」

唐突に、声。
驚いて振り返ってみれば……そこには、再び現れし漆黒の剣神。

しかも今度は。

――既にデバイスたる刀で、こちらを攻撃しようとしている――!

「くぅっ……!」

咄嗟にデバイスを掲げ、障壁を作り出す。何とか、ギリギリのタイミングで間に合った……そう思っていた。

確かに、障壁は間に合った。あの男の剣撃に、自分の障壁は立ち塞がったのだ。それでも。

「――貫通衝撃波〈インパルス〉」

あの男がそう言葉を告げた瞬間、事態は有り得ない方向へと変化した。

自分を守っていた筈の魔法障壁が――粉々に砕け散ったのだ。まるで、ガラスが割れるかのように。

「あ――――」

この今の状態に、愕然とする。
見れば、あの男は既に次の技への体勢に入っていた。

(何故だ、何故こんな事に……?)

男は自分に問い掛ける。
何でもない仕事だった筈だ。後は、荷物の交換だけで済んでいた。
いつもなら、既に仕事を終えて、祝杯を挙げている筈なのだ。
だが、現実はこうだ。

もはや、自分の命運も尽きようとしていた。
――たった一人で現れた、この男の手によって。

(……あぁ、そうか)

妙に落ち着いた気分で、男は思った。全ては、あの漆黒のせいなのだと。

あの漆黒が現れ、自分達の前に立ち塞がった時点で。

――既に、自分達の命運は尽きていたのだ。

(あー、畜生……よりにもよって、ツイてねぇ)

漆黒の男から、双剣の刃が迫っていた。その刃が近付いて来ているのは「見えて」はいたが、体の動きが付いてこない。
その現象がまるで走馬灯のようだと思い至った時――男は、思わず苦笑した。

(全く……ホントに心底、ツイてねぇ……)

その愚痴のような思いを最後に。
四度の打撃を喰らった男の意識は、途切れて消えた――








「――――ふぅ」

気を失った男を片手に、漆黒の男はやれやれと溜め息をついた。

『逃亡した犯人もこれで確保。ご苦労様でした、マスター』

白姫と呼ばれたデバイスから、労いの言葉が投げ掛けられる。

「あぁ……白姫と黒姫も、ご苦労だった」

『我等は主の為に尽くすもの。これ位は当然の事です』

漆黒の男からの感謝の言葉に、今度は黒姫と呼ばれたデバイスが応えた。

「さて……と。逃亡者も確保した事だし、提督に連絡を入れておかないとな」

『そうですね。倉庫内の連中は、はやてちゃんとベルカの守護騎士達が確保するでしょうし』

『そろそろ意識が回復する者も出て来るでしょうが……彼の者達ならば大丈夫かと。こちらはこちらのやるべき事をやりましょう』

これからの方針を考えていた男の呟きに、白と黒の姫君が答えた。

――あの時、倉庫内の人間をあらかた倒し、いざ確保しようとしたのだが。
運悪く逃亡者が出てしまい、自分はそれを追う為に倉庫を飛び出してしまった。
そのため、現在後方で待機する予定だったはやてとシグナム、ヴィータ、ザフィーラの四人は倉庫内に突入し、犯人の確保を急いでいる。
後始末を任せてしまうのは心苦しいのだが……犯人の搬送が優先と気持ちを切り替え、男は連絡を取り始めた。

「――こちら特別捜査官補佐、高町恭也。犯人を確保しました。指示を願います」




――――さて。今更ではあるのだが、彼の紹介をしておこう。

彼は、時空管理局特別捜査官補佐、高町恭也。

後に『特別教導隊隊長』となり、『切り裂く二刀(ソードオブソード)』と呼ばれる程の実力者となる彼の――

――これは、とある日常の姿を描いたものである。






あとがき

……はい、と言う訳でこん〇〇は、ennaです。
むう、その場のノリもあったとは言え、こんな大それた事してよかったのかしら?w

元々のきっかけは、メールのやり取りのなか、ふと漏らした言葉で。
それにお互いに乗り気になったが故に、今に至る、と。

……いや、本来はバトル無し、日常のほのぼの会話だけで終わらせようと思っていたんですが。

「折角魔法がある世界、魔法を使わないと損だろ!」

みたいなノリで出来たのが、このバトル編ですw
や、鴉では魔法なんて使えないですからねw

……さて、この話。また無謀な事に、続きを作ります。
今度は、本来予定していた「日常編」。
とはいえ、日常の舞台は海鳴ってわけではなく、管理局内なんですがw

とにかく、やれるだけ突っ走ります……えぇ、暴走の一歩手前位まで(何

ではでは、最後にクレさんからのコメントをもってバトル編の終焉と致します。クレさん、コメントありがとうございました!

次は日常編にて相見えましょー。



クレさんからのコメント

もはや何も言うまい……有り難う御座います(DOGEZA)
事の発端はいつだったか、お互いSS関係の話をしてた時

ennaさん「鴉とか書いてみませんか?」

私「じゃあ、私の作品のもやってくれません?お互いでお互いの作品の書くとかー」


ennaさん「へぇー、いいですよ。おもしろそうですねソレw」(ニヤソ)

私「Σ(゜д゜;)エッ、マジデ」

ということがあったしだいでした。
こうして改めて形になったのをみると、なんとも感無量であります。
ennaさん、本当に有り難う御座いました。





互いの作品を交換してのお話。
美姫 「ennaさんによる、sideKYOUYA番外編ね」
投稿ありがとうございます。
美姫 「クレさんの本編とは少し違う時間軸でのお話って感じなのかしら」
かな。どちらにしても、恭也が格好いいですな。
美姫 「うんうん。今回のバトル編だけじゃなくて日常編もあるみたいだし」
そちらも楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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