私は御神の理念を否定する。

――護るための刄など、何の役にも立ちはしない――

私は不破の理念を否定する。

――護るために奪った結果がこれなのか――

故に、私は決意する。

――ただ奪うためだけに、私は刄を振るおうと――

とらハ3SS
〜鴉・起源(ケツイ)〜

ソレは、小さな分岐点。
けれど、決定的な分岐点になった。

私――御神美沙斗――の義姉である御神琴絵。その結婚式の最中。
めでたい席ではあったのだが……生憎と体調を崩し、寝込んでしまっている娘の美由希の看病に向かうため、私は一時的に席を外した。
――ああ、それこそが私を生かし、彼等を殺した分岐点。
私が席を外して後……彼等はある凶事に飲み込まれ、全てが死に至った。

――忌まわしき、爆弾テロの手によって――

その場に居た全てのヒトが、例外なく死んでいた。

――母も、弟も、義姉も、夫すらも――

例外的に生き残ったのは、たったの四人。

旅費が尽きて式場まで来る事が出来なかった兄と甥、そして寝込んで動きようの無かった娘と、その看病に向かった、私――

それを幸運と、他人は呼ぶのだろうか?

確かに、そうかもしれない。実際に私達は――命を、拾ったのだから。

けれど……けれど。

私は愛する者達の死に、気が狂いそうになっていた。

――それは、理不尽な死に対する怒りであり。

――それは、死に行く者達に対する悲しみであり。

――それは、死を与えた者達への憎しみであった。

いっそ、そのまま気が狂えば良かったのかもしれないが――ソレを許さない『声』が私には聞こえた。

――我等の仇を。我等に仇為す愚かな者に、鮮血の返礼を――

今の私にとっては、ソレが幻聴でも構わなかった。

その声が示した事は、私の為したいことと同じだったのだから――

御神の理念は、護るための刄。

――けれど、今回のテロには何の役にも立ちはしなかった。

不破の理念は護るために奪う刄。

――けれど、その報いが今回のテロに繋がったのかもしれない。

ならば。こんな刄に存在する理由などない。

――復讐の為だけにただ奪う汚れた刄――

我等の刄など、その程度のモノなのだ。

奪うだけ奪い、復讐を成し遂げた後は……静かに消えればそれでいいのだろう。
――私が歩む道は決まった。

私は、復讐の為に闇に進む事にした。
非合法に報いを受けさせるには、それしかないと思ったからだ。

娘は、兄に預ける事にした。
兄は私とは違う道に行ってくれたから……安心して預ける事が出来る。

もはや迷う事もない。後はただ――

――全てを奪う修羅に、私はなろう――

私は御神の理念を否定する。

――護るための刄など、何の役にも立ちはしない――

私は不破の理念を否定する。

――護るために奪った結果がこれなのか――

故に、私は決意する。

――ただ奪うためだけに、私は刄を振るおうと――




美沙斗が修羅へと落ち行く瞬間。
美姫 「悲しき修羅の誕生ね」
うん。ennaさん、投稿ありがとうございます。
美姫 「本当に、投稿の難しい環境下、ありがとうございますね〜」



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