『僕はプティスール!?』
第十話「そして始まる日々」
祐巳様が病院へ向かったのを見届けた夏樹は、薔薇の館へ戻った。そしてビスケットの扉の前に立ち・・・・・
そこで初めて自分が今日何をやったのかを自覚し、落ち込んだ。
(う、また流されてしまった・・・。)
あれほど避けていたスールの関係を結んだのだ。これからどうなるんだろうかと、今更ながら思う夏樹だった。
もちろん祐巳様とスールになったこと自体は後悔するつもりはない。あの時は本気だったのだから。
しかし考えればあの紅薔薇の蕾の妹になったのだ。普通のスールとはまったく違うのだ。
(つまり今日から僕は山百合会の一員になるんだ。)
「ごきげんよう、只今戻りました。」
何時までこうしてもしょうがない。祐巳様とのことを報告しなければならない。
「お疲れ様、夏樹ちゃん。」
令様が労いの言葉で迎えてくれる。
「祐巳さんまだ落ち込んでた?」
由乃様が心配そうに聞いてくる。この辺は流石に祐巳様の親友だけにその表情は真剣だ。
「はい、皆さんにご迷惑をお掛けして申し訳なかったと伝えてくれと。」
「相変わらず人の事ばかり心配してんだから祐巳さんは。」
志摩子様が、その端正なお顔を曇らせて言う。
「祐巳ちゃんらしいと言えばそうなんだけど・・・少しは自分を大切にしてほしいな私としては。」
苦笑いして令様が言う。
「本当に祐巳様らしいですね・・・夏樹さん?」
乃梨子さんがそう言った後、僕を見て眉をしかめる。
戻ってきた夏樹さんを迎えてほっとした雰囲気の中、彼女を見た私は妙な違和感を感じた。
何かが違うのだ先ほどとは。何が違うのだろう?その姿に変なところは無い・・・・・
ふと私はその違和感の正体に気付いた。あの彼女の首に掛かっている銀色の鎖。自分にもあるそれは・・・!
「夏樹さん、その首に掛かっている物ってもしかしてロザリオ?」
私の言葉に夏樹さんは微笑むと、座っている紅薔薇様の所に向かう。
どうやら間違いない。ということは夏樹さんは祐巳様と・・・・
他のメンバーも息を殺しその様子を見ている。誰も口を挟まない、あの由乃様さえも。
紅薔薇様の前に立った夏樹さんは胸元からロザリオを取り出す。
「紅薔薇様。僕は先ほど祐巳様の妹になりました。」
その言葉に紅薔薇様は優雅に微笑むと夏樹さんに頷いて見せる。
「ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそよろしくお願いするわ。・・・お互いあの子のことでは苦労するかもしれないけど。」
その言葉に夏樹さんは困った笑みを浮かべる。
「あ〜あ、祐巳さんに先越されちゃったな。私も妹作ろうかな。」
「ちょ、ちょっと由乃それって?」
由乃様の発言に令様が顔を青くして詰め寄っている。この姉妹は相変わらずである。
「冗談よ、令ちゃんの世話で妹どころじゃないって。」
「いやそれってあまり嬉しくないんだけど・・・・」
由乃様のあまりといえばあまりな言葉に落ち込む令様。
「これで夏樹ちゃんは正式な私達山百合会の一員ね、よかったじゃない乃梨子。」
志摩子さん・・お姉さまが私の肩に手を置いて微笑んでいる。
「それはそうですけど・・・」
嬉しくないと言ったら嘘になるが、今までの事を考えると複雑な気分だ。何が彼女を変えたのだろうか?
「・・・貴女がフォローしてあげなさい、彼女はこれからが大変でしょうから。」
そうだ、問題はこれからなんだ。あの紅薔薇の蕾の妹に彼女はなったのだ。風当たりも今以上になるはずだ。
「分かってますお姉さま。彼女は私の・・・親友なんですから。」
私の言葉にお姉さまは満足した笑みを浮かべ頷く。がんばりなさいと言うように。
部屋に入って来た夏樹ちゃんを見て、私は確信した。あの二人に何があったのかが。
「紅薔薇様。僕は先ほど祐巳様の妹になりました。」
そう、ようやくあの子を受け入れてくれたのね。貴女ならそうしてくれると信じていたわ。
「・・・お互いあの子のことでは苦労するかもしれないけど。」
私のその言葉に困った表情を浮かべる彼女。でも貴女も私と同じでそんな苦労なんか苦労とも思わないでしょうね。
貴方達はどんなスールの形を見せてくれるのかしら?ふふ、これからがとても楽しみね。
由乃様が中心の質問攻めが終わった時には、時間も無くなっていたこともあり、今日の活動は終了することになった。
祐巳様の容態の方は、病院に送った保健の先生が戻って来られて、知らせてくれた。
1日ほど検査の為に入院する必要はあるが、足も含め、大した怪我はなかったそうで、一同ほっと胸をなでおろした。
僕は乃梨子さんと館の片づけを終え、二人揃ってマリア様の像の前までやって来た。そこで乃梨子さんが歩みを止め、僕を見る。
「夏樹さん・・・これで良かったの?」
ややあって乃梨子さんが聞いてくる。彼女にして見れば、僕がわざわざ厄介事に足を突っ込んで来るように思えたのだろう。
「うん、いいと思ってる・・・自分でも意外だと思っているけど。乃梨子さんは反対かな?」
「そんな事は無いわ。私は嬉しいと思ってるもの・・・ただ紅薔薇の蕾の妹になること、それは多くのものを背負うことになる。」
僕の言葉に首を振って乃梨子さんは答える。そして真剣な表情で僕を見つめて言ってくる。
「そうだね・・・・でも祐巳様とならやっていけるんじゃないかなって思う。・・・・恐ろしく楽観的な予想だけどね。」
乃梨子さんの目を見ながら僕は真剣に答える。正直いって自信はない、不安の方が大きいだろう。でも後悔はしていない。
しばし真剣な表情で僕を見つめていた乃梨子さんが、ふと笑みをこぼし言う。
「夏樹さんらしいかな、流石はあの祐巳様の妹ね。」
「うーん、それって褒められているのかな?」
二人はそう言って笑い合うと、マリア様に向かい祈る。
(出来るだけ穏やかに過ごせ・・・ないだろうなこれからは。でも僕達を見守ってほしい。)
僕はそう祈った。
祐巳と夏樹。
スールになった二人がこれから歩む姿を、マリア様が見ている。
あとがき
ここでようやくこの話に区切りができました。
書き始めた時はどうなるかと思ったのですが。我ながら無謀なことをしたものです。
ともかく二人の物語はここで一旦終わります。続編については、色々考えているので、そのうち形にしたいと思ってます。
それから、発表する場を提供させて頂いた浩さんには深く感謝いたします。ありがとうございました。
追伸
美姫様、できればお手柔らかに・・・・いえ、そのうち浩さんが消滅してしまうんじゃないかとマジで心配で(笑)。
それでは。
お疲れさまでした。
美姫 「お疲れさま〜」
物語はここで一応の区切りが付いたけれど。
美姫 「祐巳と夏樹のお話は、まだまだこれからね」
続編が形になるのを楽しみしてます。
美姫 「そして、こちらこそ、こんなに面白い作品を投稿して頂き、ありがとうございました」
ました。
美姫 「そして、そして。浩の待遇については、浩次第です」
な、なして!?
美姫 「いや、アンタがさっさとSSを書けば、私だって優しくなるわよ。
例えば、一日十本書くとか」
いや、絶対に無理だろう、それ。
それに、もし、実際にやったとしても、何だかんだと言って、殴りそうだし。
美姫 「そんなの当たり前じゃない」
……いや、せめて誤魔化そうとか思わないのか。
美姫 「全然♪」
シクシクシク。
美姫 「とりあえず、この辺で」
シクシクシク。
美姫 「あーもう、鬱陶しいわね」
ぐげっ!