始めまして、ダンと言います
これが本当の名では無いのですが、愛称という奴です。
私は、デバイスと呼ばれるモノ。ソレも普通のモノでは在りません。存在が違いますし、使われている理論も違います。それが私。
本来ならば、私は主である衛宮士郎を止めなくてはなりません。
しかし、止める事が出来ません。然るときが来るまで私に出来るのはサポートのみ。
然るときが来てもソレは変わらないのでしょう。ただ、私が武器と成るだけ・・・
我が主は普通ではありません。私のマスターなのですから、普通では困りますしね。
既に、ボロボロの精神。
既に、ボロボロの魂。
入り混じる知識と別の記憶
私達は、主と従者では在りません。互いが互いを利用しているのです。限定的な時間を。
私達に残された時間は少ないのです。正確には彼の■■が・・・・
我が主は戦えば戦うほど磨り減ります。小競り合い程度ならば問題は在りませんが・・・今回は少し危険です。
私と主の見解では、大丈夫ですが・・・・肉体が持つか如何かは未知数です。
私に出来るのは、夜に回復魔法を掛け痛みを誤魔化すだけです。
それでは、Scaffold of Person condemn 外伝、VS恭也・・・・始まります
「始め!!」
緊迫した空気が満ちる道場に、開始の合図が響き渡った。
高町恭也は木刀を握り締め、眼前の敵に飛び出そうとした瞬間。動きを止めた。何故止まったのか? ソレは対戦者である衛宮士郎が、腕を前に突き出して『待った』を掛けたからである。
「如何したんだシロ君?」
高町士郎は衛宮士郎に声を掛けた。士郎は自分の握っていた木刀を見せ言う
「いや、木刀に皹が入ってしまいまして・・・自前のに変えても良いですか」
ソレを拒むような高町士郎ではないし、恭也でもない。高町士郎は一度頷き、恭也も構えを解いた。
衛宮士郎は自分の持ってきたバックの所まで歩き、中から普段使っている陰陽の双剣に酷似した木刀を取り出して、試合場まで戻ろうとして服を掴まれた。
「止めれない・・よね・・・」
服を掴んだ少女は言った。衛宮士郎は困った様な顔をして、少女・・・高町なのはを見た。
「ごめんね・・・でも、私は「なのは」・・・・」
「大丈夫だからさ、見ててくれ」
士郎は、なのはの頭をくしゃりと撫でて歩き出した。
高町なのはは士郎に撫でられた頭に手をやり、姉に言った
「お姉ちゃん・・・シロ君はズルイと思います。」
「そうかもね。」
高町美由希は妹の発言に小さく笑いながら、なのはの背中を軽く叩いた
「ほらほら、試合が始まるよ。シロ君が心配なら、怪我しないように応援しなきゃ」
「うん。シロ君、頑張ってー!!」
美由希は場所を変えたので、背中しか見えない弟を見て思った。
「(なんでかなぁ・・・シロ君の背中が遠く感じるよ)」
「シロ君頑張ってー!!」
なのはの声が聞こえた。
「(頑張って・・・か)」
その声援が嬉しくて
その言葉が嬉しくて
心が痛む
(俺に応援される資格は在るのだろうか)
『家族を護る』そう誓いを立てた。その誓いに嘘偽りは無い。しかし、何かが足らないのを感じる。
(それでも)
今は、眼前の敵に集中しよう。始まりの合図はまだ無い。しかし、試合は既に始まっている。自分の剣技では、高町恭也に届かない。ならば如何するか?
答えは簡単。
『高町恭也に全力を出させない』
その為に口を開く、相手の脆い・・・または弱い部分を突く
「ああ、なのは。別に倒してしまっても構わんのだろう?」
口調を変える。自己暗示の為に、敵を挑発する為に
笑みを浮かべる。それは嘲笑と呼ばれる物。敵の誇りを、名誉を傷つける為に
何処までも不器用な自分だから
何処までいっても凡人でしか無い自分だから
衛宮士郎の全てを使い、敵を打倒する。
高町恭也は衛宮士郎の、変わりように訝しみながらも緊張を高める。
あの言葉は挑発・・・さっきまでの自分なら逆上していただろう
あの笑みも挑発・・・さっきまでの自分なら心が荒れ、動きが雑に成っていただろう。
だが、今は違う。慢心は無い。驕りも無い。今なら、俺は全力でいける
衛宮士郎は此方を見ながら目を瞑って、言った
「士郎さん、出来ればなのはの前に立ってやってください。彼女には厳しすぎる。」
高町士郎は合図も告げずになのはの前に立つ。その隣では、美由希が膝立ちで構えていた。
「(まさか!!)」
恭也の驚愕と共に、空気が何倍にも重くなった。彼は目を瞑ったまま言う
「さぁ、始めようか御神の剣士。戦の準備は十分か?」
衛宮士郎が目を開いた瞬間から、高町恭也は分かった事がある。彼は自分よりも上にいる。技術で劣っているとは思はない、それでも彼は自分より先に立っている。
ガチガチと歯が鳴りそうなのを絶える
背中には冷たい汗が流れっぱなしで、体温が下がっているのが解る
その原因は殺気
あの夜に感じたモノとは違う。自分自身に限定して放たれる殺気。
怖気がする、目眩がする、喉元に剣を突きつけられている様な錯覚を覚える
それでも、その全てを飲み込み。高町恭也は気合を入れて、前に進んだ。
木刀が打ち合う音が連続する。
唐竹
袈裟斬
右薙
右斬上
逆風
左斬上
左薙
防げば次が
防がれれば次を
まるで、鏡に向かい合っているかのように木刀がぶつかる。
衛宮士郎が鉄壁とするならば、高町恭也は連激。互いの剣が打ち合わされる。前者は受け流し、打ち払う。後者は、打ちつけ、切りつける。
高町恭也の剣を例えるならば、それは「美」
衛宮士郎の剣は例えるならば、それは「生」
一方は、長い歴史にの裏に「戦えば、負けることは無い」と言われた「技の剣」
一方は、戦場で見に付けたかのような泥臭い・・・言い換えれば、生き汚い。生き残る為の剣・・・ソコに技などなく、手段として使われるただの「技術」としての剣
道場に響くのは絶え間ない打ち合いの音。例えるならば剣戟協奏曲
その剣と剣の打ち合いの中、衛宮士郎は己の計算違いを悔やんでいた。
「(まだ速く成るのか!?)」
一週間観察した。
高町士郎や、美由希にも聞いた。
その動きを模倣し、癖を理解した。
それでも自分が予測したよりも、恭也の剣速が速く。その速さが未だに上がっているからだ。そこで、再び思い知らされる。才能の差という物を・・・模倣したのだ、恭也の努力を知っている。バカにする事は無い。嫉妬することも無い。士郎の頭に在るのは「戦いの中で、より成長する。命の遣り取りをするのならば、初見で殺さなければならない極めて厄介な剣士」という冷静な判断。
俺は・・・何時からこんなにも冷静に闘えたのだろうか
焦りがある。自分という「衛宮士郎」を侵す「エミヤシロウ」の力に
今も衛宮士郎が戦えているのは、恭也が神速を使用していないからだ。「貫」と「徹」は筋肉の動きを「解析」しているから分かるが、恭也の連激から抜け出せない。隙を作っても其処に攻撃がこない為、連激を止められない。
「(分が悪いが・・・之しかない)」
隙を二つ作る。ソレと同時にリミッターを外し「強化」を使って出来損ないの身体強化を行った。
思考回路一番。剣筋を限定する事を推奨
二番回路。一番に同意。心眼による擬似直感より、一〜四位を選択
三番回路。武装確認。木刀以外は使用を規制。使い時ではない。
「貰った!!」
恭也の声と共に、後ろに跳んだ。前髪と胴に恭也の木刀が掠った
抑制の外れた身体中の筋肉は、軽々と視認するのも難しい速度をだす。
ギチリと膝と足首から嫌な音が聞こえる
そして士郎は、後ろに跳ぶ瞬間。恭也の振り下ろした木刀に、自分の木刀を投げ付けた。
バキィ
と恭也の木刀は砕かれ、中に入っていた鉄芯は曲がった。
周りの人間は、恭也も含め唖然とする。木刀の投擲、只それだけで鉄心入りの木刀が砕かれた。
その事実が心と精神に隙を作る。
この場ですぐに動けたのは三人。士郎と模擬戦を毎日行っている高町士郎と、士郎の投擲術を目の辺りにした事の有る高町美由希。それと士郎自身である。
ここで、少し説明に入ろう。
士郎が投擲の前に使ったのは、『分割思考』と『高速思考』という物である。二つとも名の通りの物であり、前者は才能が無くても最高三つまでなら常人にでも出来るという技能。そして、士郎が行使した投擲術の名は『鉄鋼作用』という此処ではない世界の、教会の裏組織。埋葬機関の司祭・代行者達が使用する『人の技』である。熟練者になれば、木々の一、二本は砕く技である。
しかし、それだけでは自分の木刀も砕ける。それを防ぐのが『強化魔術』である。
卑怯と言う無かれ。高町士郎は「衛宮士郎として全力で戦ってくれ」と言っている。悪く言えば之が「衛宮士郎が人を殺さずに行使できる全力」なのだ。
全ては、「エミヤシロウ」の記憶と知識に在るものであり、他の技能を含めこれら全てを使っても一流にはなれないという、悲しい現実
視点を、二人に戻そう。
自分の武器を破壊された高町恭也は、一瞬呆けてしまった自分を内心罵倒しながらも横に全力で跳んだ。本能に従った行動が体を動かしたのである
体勢を整えた時には、自分の体を褒めたいくらいだった。先ほどまで自分の首が在った場所には、木刀が在り。衛宮士郎は宙に居た。
勝機と思い身体を前に出そうとした瞬間、脚に当たらないギリギリの位置に飛針が突き刺さった。否、道場の床を貫通し破壊した。勿論、外郭は木で出来ており中に鉄心が入った物で「強化」済みの物である。
「ちっ、体に救われたか・・・もう半歩前に出ていれば、終わったものを」
高町恭也は理解した。自分と衛宮士郎の行う『しあい』の違いに。
自分の行う『しあい』は『試合』である。互いの技を競い、さらに高める鍛錬の延長に有るもの
衛宮士郎の『しあい』は『死合い』である。今回は例外の『ただ殺さない』だけの死線の延長に有るもの。
それを理解した恭也の動きは早かった。すぐさま『神速』に入ろうとする。
だが、士郎はソレを許さない。飛針が放たれる。飛針は常に動けば当たるギリギリの場所を正確に射抜く。しかし、飛針にも限りがある。何れは無くなると思い恭也は神速に入る素振りをする。
都合五回、計二十本。
飛針は投げられなくなった。恭也は好機と見て、攻勢に出ようとする。
ヒュンっと視界の隅で飛針が舞った。
「鋼糸?!」
飛針の幾つかには鋼糸が巻きついており、その鋼糸は衛宮士郎の腕の中へと続いていた。
「驚くのは構わないが・・・良いのかね? 今避ければ、後ろに当たるぞ?」
そこで、恭也は気付いた。お互いの立ち位置が変わって居る事に・・・・恭也の後ろには、家族がおり。そして、衛宮士郎は手加減はしない。木刀を砕いた投擲術を行使してくるだろうと。
恭也は、怒りよりもその戦い方に関心した。
巧い
自分は彼の書いたシナリオの通りに動かされた。
自分の木刀を砕いたのは、この為の布石
床を砕いたのも、この為の布石
自分に掛けた言葉も、この為の布石
今言った言葉も、この為の布石
そして、恐らく・・・今放たれた投針すらも布石
彼は、彼の全てを使って戦っている。ならば答えよう。高町恭也の全てを賭けて
奥義の歩法・神速
景色がモノクロに変わる。放たれた飛針が減速したように見える。その空間の中で、高町恭也は切った。飛針に繋がれた鋼糸を残らず。
鋼糸を切られた飛針は、鋼糸を切る瞬間の撓みで的を外す軌道に変わる。
その後、飛針の間を縫うようにして突き進んでくる木刀の柄を握ろうと左手を伸ばし即座に叩き落とした。之が本命だと思っていたが、それは違った。
もう一本の木刀が確実に進んで居たのだ。それも、確実になのはに当たる軌道で。振り向けば父も妹も気付いていない。左手の感覚は無い。
ならば、自分の木刀で叩き落とすしかない。一瞬だけ士郎を見た。
彼は笑っていた。口元を歪めて少しだけ笑っていた。
「(糞っ!! 之が本命か!!)」
高町恭也に選択肢は無かった。恭也最後の木刀を叩き落として、自身の武器を失った。
左手には感覚が無く、右腕は衝撃で痺れている。右肩には鈍い痛みが奔っている。
目の前には腕を突き出した衛宮士郎。彼の指は自分の額に触れている。
両腕を失った剣士は、自分の未熟を悟り
「俺の・・・負けだ」
敗北した。
あとがき
士郎が悪党になっちまった!! BINです
怒られる事当たり前。士郎も確信無けりゃこんな事しません。
次回のエピローグ? でネタバレ的な事もするぜ!!
出来れば怒らないで欲しい。神速出されたら、勝つ手段が無さ過ぎる。
勝つためには、使わせないか、使えない状態にするか、使われても問題ない状態or状況にする位しか思いつかないです。
本当に、デタラメ
士郎の勝利〜。
美姫 「上手い戦い方ね」
うんうん。見事に虚を付き、隙を付き、弱みを付く。
戦術だって立派な戦い方の一つだよ。
美姫 「今回のお話はまだ続くみたいね」
次回はどんなのかな。
美姫 「それではこの辺で」