高町士郎は衛宮士郎に付いて考える

 

一週間ほど前に有った襲撃未遂事件の際に、その場で見た彼の戦闘能力は一級品なのは確かだ。

しかし、彼・・・衛宮士郎は本人が自分と桃子にだけ明かした。自分は「魔術師」と呼ばれる者だと。

 

つまり、彼はまだ自分が知らない『魔術』というスキルを持っている。自分は『強化』という魔術は知っている。毎日模擬戦をしているのだ、彼が使う特殊な歩法の出鱈目具合を知っている。『投影』という魔術も見た事も在る。前者は『強化』を行っていなければ無利なのだろうが、後者は模擬戦前に一度使うだけだ。

 

便利な物だと思うが、彼曰く「使い所が難しい」との事。

戦闘以外では余り役に立たないかも知れないが、便利な事には変わりないと思うのだが・・・使用者本人がそう言うのだから、そうなのだろう。

彼は双剣以外にも、二流程度でしかないが槍、戦槌、斧、など刃物なら大体の物は使える事も教えられている。まだ、双剣以外で戦った事はないが・・・むぅ、戦ってみたい。

 

戦闘から離れれば、普通・・・とはチョット違うが少年だ。中身は遥かに年上だが、彼の意識は十八歳程度の物。

家事に関しては、異常なほど旨い。

料理は桃子と同じぐらいだし、掃除に関しては桃子が時々質問している。

チョット無愛想な所があるが、恭也よりは大分マシ。金銭感覚なども確りとしているし、サバイバルの知識なども自分と同等位だ。無論、父として息子に負けるつもりは無い。

 

学力は、少なくとも恭也、美由希、なのは、よりは上。なのははよく宿題を見て貰っている。

なんていうか・・・完璧なのでは無いだろうか? お人好しな所も有るが、ソレは「優しい」という長所だし。

 

だが、それは「自分を顧みない」という事にも繋がる。俺は彼の人生を少しだけ知っている。そして、彼が焦り悩み苦しんでいたのも知っている。

あの夜、彼に言った事は本心だ。嘘偽りはない・・・だが、彼の戦闘能力を考え、彼の歩んだ軌跡を知っているが故に・・・護れるだろうかと思ってしまう。

肉体的には数年すれば無理になるが、心を護ってやれるだろうか? と思ってしまう。

 

故に、俺は「今」の彼の強さを知らなくてはならない。

 

故に、俺は彼に「恭也と戦ってくれないか」と頼んだ。

 

勿論、恭也が負けるとも勝つとも思っていない。彼は「自分は何をやらせても二流どまりの凡人」と言っていたが、それは違う。彼は一流の戦闘者で在ると確信できる物があるからだ。

 

故に・・・俺は一度だけ戻ろうかと思っている。桃子には心配と苦労を掛ける事に成るが、確かめる為に。

 

無論、今回の試合を見てからだが・・・恐らく、俺は戻る事に成るだろうと思う。奴らの動きも気になるし、奴らがドコで情報を仕入れたのかも気になるからだ。

 

「父さん、話というのは」

 

俺は部屋に入ってきた恭也の言葉で、現実に戻る。

 

「ん、明日の夕方にな・・・シロ君と試合するぞ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

恭也は無言で頷いて、部屋を出て行った。顔に張り付いた表情は笑み。・・・・こんな所まで昔の俺に似なくても良いのに。・・・・恭也は強い。それ故に戦いたいのだ、未知なる強者と・・・・武者修行に一人で行かないだけ、その気持ちを抑えられているのだろうけど

 

「シロ君には災難かもな・・・・」

 

 

 

 

 

 

カン

 

道場に木刀と木刀がぶつかり逢う音が響く

 

空に在った太陽も、地平線の向こうへと沈みかけ

目を凝らせば薄っすらと星が見える

 

この時間をどれだけ待った事か

 

高町恭也は、妹である美由希との訓練を止め。深く、深呼吸をして柔軟を始める。

体を冷やさない為、暴れだしそうな闘争本能を抑えるために。道場の入り口に視線を向ければ、父がいた。父の目は険しい物だった、自分が負けるかも知れないと思っているのだろうか? 確かに美由希は負けた。が、ソレはまだ『御神の剣士』として完成していないからである。

勿論、自分が完成しているとは思っていない。在りし日に見た父の全盛期と戦えば負ける事の方が多いいだろう。

だが、今まで闇雲に剣を振り続けた訳ではない。父を超える為に、より強く成るために・・・『家族』を護る為に、愛する人を護る為に剣を振り続けた。

その為に常に上を目指した。そしてあの夜、心の中で歓喜し嫉妬し困惑した。そして、望んだ。彼との戦いを、新しい『家族』との戦いを。彼の決意に共感した。

 

『家族を護りたい』

 

ただそれだけの、誰もが持つ願い。その為なら血を被る事も厭わない、ソレを嫌悪することは無い。寧ろ、自分でもそうする。ある意味では彼が一番『御神』なのではと思う事もできる。

だからこそ、戦いたい。競いたい。

 

高町恭也は柔軟を止め。静かに息を吐き、目を瞑った。

 

「御神の剣士」に敗北は無い

 

そう思いながら。今から来る相手に勝つ為に、心を落ち着かせる。

 

 

 

Sideなのは

 

トントン

 

私は、シロ君の部屋のドアをノックした。なんでも、お兄ちゃんとシロ君が試合をするらしいです。私はそんなことして欲しくないのですが・・・・お父さん曰く「男には戦わねばならない時が在る」だそうです。

私にはあまり理解できません。お兄ちゃんが理不尽なまでに強い事を、私は知っています。過去、私が車に轢かれそうに成った時、お兄ちゃんは乗用車を一刀両断にしていました。・・・・たまに兄は本当に人なのかと、思ってしまうぐらいです。

そして、世間では大人と呼ばれても遜色ない年です。シロ君が怪我をするのは、目に見えてます。私はそう思いながらドアを開けました。

 

中に居たのは赤い外衣を身に纏い

 

その下に、黒い鎧を付けた同い年の少年

 

ソレを目にした時、私は悲しく成りました。何故かは分かりません。でもソレと同時に、この人が負ける事が想像できなくなりました。

 

彼は無言でした。何も言わずにバック片手に、私の横を通り過ぎました。私は彼の・・・シロ君の背中を見ながら、後に続きました。理由は有りません。理屈も有りません。

ただ、付いていかないといけない様な気がしただけで・・・近くに居ないと、置いていかれそうな気が・・・そんな気がしただけです。

 

そして、道場に着きました。

 

お父さんも、お姉ちゃんも、お兄ちゃんも無言です。私も、何も喋らずにお姉ちゃんの横に座りました。

お父さんが、「如何して?」と言いたそうな目で見てきましたが。私は、ただ真っ直ぐ目を見つめ返して「ここに居たい」と主張しました。お父さんは溜め息を付いて、シロ君達に言いました

 

「予想外の観客が来たが、気にするな。試合の審判は俺がする。ソレでは・・・構え!!」

 

お兄ちゃんとシロ君は、同時に木刀を構えました。

 

「始め!!」

 

勝負は一瞬よりは長い『一瞬』

 

私の隣でお姉ちゃんが「う・・・そ・・・」

と言いました。私もそう思いました・・・でも心の何処かでヤッパリとも思いました。

 

立っているのはシロ君

 

倒れているのはお兄ちゃん

 

シロ君の勝ちでした

 

 

 

Side恭也

 

始めの合図が聞こえた瞬間、俺は前に出るのではなく様子を見ることにした。

シロ君と美由希の試合を見た時に、シロ君は攻めるのが防ぐ事より劣っている事がわかっていたからだ・・・

彼もソレが解かっている事を、俺は理解している。彼はどちらかと言えばカウンタータイプだ。彼の防御は鉄壁の様で、隙がない。その中に隙を作り、相手を誘う。

そして、その攻撃に合わせて攻撃する。美由希はソレで負けた。

美由希の剣の技量が彼より下に有る訳ではない。むしろ上にある。彼の剣には才能を感じられない、感じられるのは努力。それも血の香りがする様な剣技。どれ程の血が滲めば良いのかが解らない程の・・・才能の無い物が愚直に振り続けた・・・そして、今も振り続ける剣。

 

故に、あの時から彼と戦いたいと思い始めた。

 

恐らく、剣に見惚れたのはアレが始めてかも知れない

 

ソレほどまでに愚直、ソレほどまでに無骨、故に、全ての人間が辿り着ける努力の剣は、何よりも美しく、何よりも貴さを感じさせた。

之は観客として見たからこそ、より一層そう思えた。

ならば、戦いの中では如何だ? そう思った時には、彼との戦いを心が望んでいた。

この試合は楽しいと確信できる。

だから、俺はシロ君の行動が理解できなかった。

 

木刀が投擲される

 

俺はソレを弾く

 

最初の木刀の影に隠れるように、二本目の木刀が俺に向かっていた

 

俺はソレを弾いたと同時に、木刀を正面に戻し振るう。

 

斬ったのは紅い残影

 

頭上からタンと音が聞こえた瞬間

 

俺は首に攻撃を貰い、意識を刈り取られた

 

 

 

 

意識が回復したのは、俺が気絶して五分も立たない短い時間だった。

俺の横には父さんが、シロ君は試合が始まった時に立っていた場所に座っていた。

 

「無くなったか? 恭也」

 

父さんの言葉が、数瞬理解できなかった。それでも思う所があった

 

「そうか・・・俺は・・・」

 

慢心していたのか

 

なんて未熟!! なんという傲慢!!

そうだ、俺は常勝無敗ではない。到らなければ負ける。隙を作れば負ける。鍛錬を怠れば負ける。

 

俺は立ち上がり、シロ君に頭を下げ非礼を詫びた。

 

「すまない・・・俺は知らない内に驕っていた。」

 

「そうか・・・恭也、ならば構えろ。元々一回目は、気付かない内にできたソレを取る為の物だ」

 

俺はその言葉に感謝した。同時に父の大きさを再認した。

シロ君は既に構えている。

ならば、俺も構えなくては・・・高町恭也の全てと『御神の剣士』としての全てを賭けて。

 

「二人とも全力で戦ってくれ。恭也は『御神の剣士』として、シロ君は『衛宮士郎』として」

 

父さんは壁際まで下がり言った

 

「始め!!」

 

 

既に体が悲鳴を上げていた

 

リミッターを一瞬だけ外したからだろう。急な加速をした為に、体の内側が軋んでいる。恭也さんから放たれる闘志は力に満ちていて、俺にはとても眩しい物に見えた。

 

衛宮士郎は高町恭也に劣っている。ソレは事実だ。

 

されど勝てない訳ではない。

 

俺は負けられない・・・一度でも負けてしまえば・・・・・失ってしまう

 

それは、彼の勘違い。彼は自分の間違えに気付けない

 

勝つ為に、勝てる状況を作り出そう

 

勝つ為に、相手の心を掻き乱そう

 

勝つ為に、相手の弱みを攻めよう

 

勝つ為に、相手を圧倒する自身を投影しよう

 

全ては勝つ為に・・・・失わないために

 

 

彼は既に世界に囚われている事を知らない

 

阿頼耶識・・・・人の普遍的無意識領域からの干渉に気付ける「人」など居ないから

 

それでも、彼は気付きながらもその隠された事実を探そうとはしない。

 

彼は「答え」を持っていない。故に勝ち続け、己を縛り保ち続けなくてはならない。

 

哀しい事に、彼は生きながらに磨耗しているのだ。

 

肉体も思いも魂さえも・・・

 

それ故に、彼は勝ち続けなければいけないという強迫観念に襲われている。

 

彼は、取って代わられる訳にはいかないのだ。

 

 

 

 

世界は何時も厳しいねぇ。そう思わないか?

 

閲覧者さん

 

 

 


あとがき(後悔と懺悔と泣き言)

内定貰ませんでした。BINです。

 

私、バトルが・・・・というか、戦闘描写が苦手です。

既に、体が軋みを上げている士郎は恭也に勝てるのだろうか?!





仕切りなおしという事みたいだな。
美姫 「みたいね。慢心していても勝負は勝負なんだけれどね」
まあ、士郎には何か考えがあるみたいだしな。
美姫 「シロはどう戦うのか楽しみね」
うんうん。次回も待ってます。



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