彼は一番の友達で

 

彼は私の孤独を祓ってくれた恩人で

 

彼は私の料理の師匠で

 

彼は私が家族と思える人だった

 

私にはそんな彼が眩しく見えたけど、時折見せる・・・それでも数回しか見たことの無い横顔は何よりも儚く、脆かった。

だから私は心の中で否定しながらも、何時かこんな時が来るんだろうな〜と思っていた。彼から電話が在った時、嫌な予感がした。

 

「・・・・・・なんだか、会いとうないな。」

 

たぶん、それは・・・・私に・・・『八神はやて』にとってトテモ辛い事だから

 

十二話

 

 

夜も襲い時間、私は中々寝付けなかった。何かが起こる様な・・・何かが変わってしまう様な気がして、寝ようとしても寝る事が出来なかった。そんな時だ、私の友達・・・八神はやてを見てくれた友達から連絡が在ったのは

 

「もしもし、えみやん? こないな時間にどないしたん? 今から? うん、大丈夫やけど・・・アタシも中々寝付けんかったから、ちょうど良いで? うん。ほなら、待っとくわ」

 

何何やろ? と思いながら私は車椅子に乗った。勿論膝掛けも忘れずにや。女子は足腰を冷やしたらいけませんって、えみやんにキツク言われたしこの膝掛けはえみやんの手作りなんやもん。

 

そう思いながら私は、車椅子を動かした。

目的地はリビング。暗い部屋に明かりを付けてテレビのスイッチを入れる、大本から切らないと電気代が掛るのだ。一々付けたり消したりするのは面倒臭いけど、慣れた。適当にチャンネルを変え、私はキッチンに向かった。

鍋を取り出して、コップ二杯と半の量の牛乳を入れてホットミルクを作る。時間を掛けて、灰汁というか膜を取り砂糖を大匙一杯と半分いれてゆっくり掻き混ぜる。

師匠曰く、手間隙掛ければ掛ける程に料理という物は美味く生る。・・・らしい

私は、火を止めコップに作ったばかりのホットミルクを移してリビングに戻った。

リビングのテレビでは少し前まで夕方にやっていたアニメが映し出されていた。

 

「深夜枠に移ったんや〜・・・そういえば」

 

えみやんは、之がテレビに映る度に顔を引き攣らせて居た。何でだろうか?

 

「面白いんやけどな〜『魔砲少女本気狩るルビー』・・・あれ? これ第三期!? 題名も変わっとるやん!! しかも第一話!! 何々『魔法少女ホワイト・イリヤ』? この子チョイ役遣ったのに」

 

私はそう言いながら、ホットミルクを一口飲んだ

 

 

彼が来たのはそれから二十分位してからだ、何時もなら鍵を開けて声を掛ければ入ってくるのに彼は何時まで経っても入ってこなかった。

嫌な予感がした。

 

「はやて、そのままで良いから聴いてくれ」

 

彼の声からは何時もの優しさや、暖かさが感じられなかった。

 

「暫く・・・もしかするとかなり長い間、会えなくなる。」

 

「で、でもちょっとしたら会えるんやろ? いちいち言いにこんでも、ええんに。ほら、さっさと入り? 」

 

嘘吐き。

 

解ってしまう、今の彼の言葉から感じる隠れた物が・・・ソレは私に取って何よりも馴染みが在って。ソレは今も私の中に燻っている。

ソレの名前は、後悔。自分への怒り、ソレは自分の情けなさ、不甲斐無さ。

だからだ、彼の言う『長い間』は『ずっと』と同義。

否定したい。そんなのは嫌だ。独りはもう・・・

だから私は、ワザと車椅子から落ちた。

 

会えなくなるのは嫌だ。でもそれ以上に、友達に傷ついて欲しくない。私は言わなければ為らない事があるんだ

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

ガタンと何かが落ちる音と、声が聞こえた。俺は何の躊躇も無くドアを開け八神家に入った

 

「はやて!!」

 

「あはは、落ちてもうた」

 

何処かを打ったのだろう、少し涙目になっている。俺ははやてを抱えて車椅子の上に乗せようとした。でもはやてが腕を放してくれない。ふるふると体が震えて居るのが解った。

 

そうか、この子は・・・

 

「・・・・・・嫌や」

 

「・・・・・・はやて」

 

はやては、泣いていた。

 

「嫌や、なんで? なんでもう会えひんの? そんなの嫌や。友達が居なくなるのが嫌や、独りに為るのはもう嫌や。」

 

グシュっと音がした。首筋に涙が当たるのが解る。

 

「ねぇ、なんで? アタシ何も悪い事してへんのに、独りに成らなアカンの? えみやん、アタシ何かしたんかなぁ。気付かん内に何かしてもうたんかなぁ。何ともならんのかなぁ。世界に独りはもう嫌や。そんな世界なら、アタシ事無くなってしまえばええのに・・・・・」

 

呪った。彼女は世界を呪っていた。自分を独りにする世界を、独りに成ってしまう自分自身を・・・・・

俺という存在が・・・衛宮士郎という友達が、はやての絶望を増徴させているのが解った。虫唾が奔る。自分自身に・・・

 

「・・・はやて、世界はな。とても綺麗なんだ」

 

「・・・・・・・」

 

「そして、とても醜い。この世に在る全てがそうだ。だからこそ変わらない事が在る。今と未来は変わる。今は気の持ちようで、未来は今の行動で。でも過去は変わらない。思い出は変わらないんだ。些細な違いは在るかも知れないけど、大体の事は在っている。ソレと同じ様に・・・・」

 

偽善だ。自分をも騙しきれない綺麗事だ。

 

「俺とはやては友達だ。それは変わらない。ずっとだ。俺にソレを証明する事が出来ないけど、俺は君の事を・・・八神はやての事を仲の良い親友だと思っている。」

 

俺は腕に力を込めた。

 

 

 

どれ位経っただろうか? 三十分は経っていない筈だが、はやての小さな鳴き声が感覚を狂わせる。

 

「なぁ、えみやん」

 

「なんだ、はやて」

 

「未来は今の行動で変えられるんやったな。」

 

「あぁ、今が無ければ未来は無いからな」

 

「でもな、えみやんは往くんやろ?」

 

「・・・・・・・あぁ」

 

「だったらな、一つだけ我儘言っても・・・ええか?」

 

はやては、俺の首に回していた手を離して俺の顔を見ながら言った

 

「今日だけ・・・今だけでええから・・・一緒に・・・・」

 

俺は何も言わずにはやてを抱えた。

 

「わっ、ちょ」

 

「一緒に居るんだろ?」

 

「!? うん!!」

 

俺は、はやてを車椅子に座り直させてから車椅子を押してリビングに向かった

 

 

Side 八神はやて

 

えみやんに車椅子を押して貰ってリビングに行く。ソレまでテレビでやっていたアニメの事を言うと、ヤッパリ表情を引き攣らせていた。之は前からの疑問だったから、思い切って聴いてみたところ。

 

「出る人出る人がな・・・ピンポイントで似すぎているんだよ・・・しかも、否定できそうも無い所とかが特に」

 

何も言う事は無い。いや、もう本当に御免なさいというしか無かった。

本当に御免な、えみやん。

それから直ぐに、と言っても三十分位してから「遅いからもう寝よう」という事になった。勿論、約束道理にえみやんも一緒に。

脚は動かせへんからえみやんの左腕に抱きついた儘、私は目を瞑った。

自分の心臓の音が早くなっているのが分かる。

自分の顔が熱くなってるのも分かる

今日だけ、今日限りの本当に今だ許された私の我儘。

こっそりと、薄目を開けてえみやんの顔を見ると。私と違い、涼しげな顔をして目を瞑っているえみやんの顔が在った。之は如何いうことだろうか? 

 

(私が恥ずかしくて、顔あが赤くなっているちゅうんに!!)

 

でも、之が私の知っている衛宮士郎なのだと思ってしまった。顔の熱も下がって来ているのも分かった。それでも・・・暖かい。

彼に触れている部分が・・・

彼が一緒に居るというこの状況に胸が、心が、温かかった。

 

「本当はなぁ、ずっと一緒に居てほしいんよ?」

 

でも、私では引き止められない

 

「ズルイやんか・・・初めて好きになった。初めての親友にあんな目させれんやん」

 

彼の心には、既に知らない誰かが居る

 

「止められる訳無いやん。この阿呆、馬鹿、女誑し。」

 

あの目は昔の私が持っていた物だ。ソコから救い上げてくれた恩人に、そんな目はさせられない。

 

「ばか、馬鹿馬鹿馬鹿。大好きやアホォ」

 

友達に成ってくれた彼が、暇を見ては家に来てくれる彼が、料理を教えてくれる彼が大好きだ。

友達として、家族として、一人の男の子として・・・

 

「絶対に、脚を直して追いかけたるからな。覚悟しといてや・・・・えみやん。それと・・・・往ってらっしゃい。」

 

決めた。今、決めた。彼が来れないのなら、自分が行く。ポンコツな両足を直して、探し出してその時に私の思いという名の爆弾を突き出すのだ。

私はそう決めて、彼の心臓の音を聞きながら目を瞑った。

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

「・・・・・・ごめんな、はやて。何も出来なくて、御免な」

 

俺はそう言い、起き上がった。ゆっくりと引き抜いた左腕にはまだ、はやての温もりが残っていた。俺はソレを振り払うようにして相棒を起こした。

 

(・・・本当なら、之が起きる時まで時間が有ったんですけどねぇ)

 

(仕方ないさ。今までが旨く行き過ぎて居たんだ・・・)

 

(・・・・ですが・・・ハァ・・・世界というのは本当に優しく無いですね。マスター)

 

(・・・・・・ダン。そろそろヤるぞ、変えろ

 

Yes. My,master.端子隊列変換開始。どうぞ、マスター。いつでも録音できますよ)

 

「先に謝罪しておく。之が聞こえているという事は、俺が既に・・・・・・」

 

 

俺は、俺の言いたい事を、自分勝手な言葉を録音しソレを植えつけた。起動すれば確実に不愉快に思うだろうが、しかたがない。無理に起こす事も出来ないのだから・・・・

 

後ろを振り向けばはやてが静かに寝息を立てている。

 

(マスター・・・何、微笑ましそうに見ているんですか?)

 

(なに・・・あの人達が笑って過ごせれば良いと思って、独善で動いている男が赤の他人の為に行動しているという事実にな・・・・まだ、衛宮士郎が残っていると思うとバカらしくてな)

 

(なに言っているんですか? マスターは私が出会った時からマスターでしたよ。貴方はまだ衛宮士郎です。『エミヤシロウ』でも『理想に砕けた男』でもない。貴方が正しく、人間・衛宮士郎ですよ。それに、八神はやては赤の他人では無く・・・)

 

(他人では無く?)

 

(友人ですよ? )

 

(そう・・・だな。俺ははやての友人だったな。そうだ・・・俺ははやての友人だ)

 

(ダン。B−2を転送しろ。)

 

(ですがマスター。)

 

(何事にも保険は必要だ)

 

(・・・分かりました。術式展開します。)

 

 

 

 

Side 八神はやて

 

朝起きると、私の隣には誰も居なかった。胸が切なく成った。それでも、私は泣かなかった。目が熱くなってもグッと堪えた。この程度で泣いていたら先が思いやられるのだ、まだ歩ける見込みも無いが歩くためのリハビリはキツイ物になると分かっている。伊達に通院はしていない。だから・・・・・・こんなのは卑怯ではないだろうか

 

「卑怯や、バカ。えみやんのバカぁ」

 

車椅子の座席が光っていた。カーテンの隙間から漏れる光が当たって、キラリと光っていた。

 

私は這いずりながら車椅子の上に在る物を手に取った。ソコに在るのは、剣が四つくっ付いた様な十字架とメモ。メモには綺麗な字でこう書かれていた

 

いってきます。

 

ぽろぽろと涙が出てきた。でも之は哀しいからじゃない。

だって、彼は「いってきます」と書き残したのだ。

なら、私は悲しくない。

「いってらっしゃい」の次に「いってきます」が在るように

 

「いってきます」の後には

 

 

ただいまが残っているのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ、久しぶりだね。今回は絶望に浸った少女が前を向いて歩き始めた様だよ。でも・・・それだけだ。

彼が死ねば全てが元どおりに成るかもしれないしねぇ。彼は彼女達のキーだ。それが+にいくかマイナスにいくかは彼女達しだいだけどねぇ

面白いだろ? 彼が死んでも何も変わらない。生きているからこそ何かが変わる。

彼と彼女が関係する物語は二つ存在するからね。それのどちらも・・・・・如何やら此処までの様だ。久しぶりなのにねぇ。

 

 

 

 


あとがき!!

今回はやたらテンションの高いBINでお送りします!!

今回は只一言。

死亡フラグ?

 

アリサ「主人公を殺すなぁ!!」

いや、冗談ですよ。

アリサ「なら、良いわ。それにしても・・・・はやて、良い女」

そうですね。いいこですねぇ・・・育てばお笑いが表面に出ますけど。

アリサ「・・・それはアンタ次第でしょ?」

そうですけど。まぁ今回はアレですね

アリサ「?」

士郎は『ただいま』をいえるのか!!

アリサ「たぶんラストで分かります」

次回も宜しくお願いします!!

アリサ「それでは〜」

 

 

 

でも今回は書いてて士郎をポアしてしまおうかと思っちゃたんだ!!

アリサ「だから殺すなぁ!」

オゴォ!!




士郎は無事に戻ってこれるのかな。
美姫 「何か危ないフラグが立っているっぽいけれどね」
さてさて、どうなる、どうなる。
美姫 「次回も待ち遠しいわね」
ああ。次回も首を長くして待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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