カタリと畳の上に小箱が置かれた。

早すぎるのではないか? と思う自分が居る。

小箱に手を伸ばすと、手が震えているのが解った。

目の前で正座をする彼は、真っ直ぐ俺を見ている。俺は小箱を手に取り自分の横に置いた。



「ソレは、時が来るまで開く事は在りません。」



彼の言う言葉の意味が分かってしまう。当たり前だ、之は俺の我儘で頼んだ事だから・・・・だって、そうじゃないと哀しすぎる。



「・・・・速すぎないか? シロ君。」



「速すぎるかも知れません。しかし、遅すぎる訳でもない。」



「それでも・・・」



「士郎さん・・・俺の我儘に付き合ってくれて、ありがとう御座います」



そう言って頭を下げたシロ君は、ゆっくりと部屋を出て行った。



「そうじゃない・・・・そうじゃないんだ」



俺と彼しか知らない秘密。彼は出来すぎた『奇跡』のツケが来たと言ったが、そんなのは認めたくない。彼の語った過去を思えば、妥当なのかもしれない。それでも、之は残酷すぎるのではないか・・・・

彼は『俺達』の為に戦い、命を縮める。俺はソレを黙認している。本当はしたくない。しかし、俺が戦場に・・・彼の隣に立とうとした時、彼は妨害する。

「桃子さん達を護るのは貴方の役目だ」

こう言われた。だが、彼も俺の家族なのだ。俺がどんな言葉で説得しようとしても、彼は頷かない。俺にも彼の様に生きた時間が在った、だから解ってしまうのだ。彼の気持ちが、俺達に向けられる愛情が・・・・



「頼む・・・頼む、なのは・・・・彼をシロ君を止めてくれ・・・彼に負けないでくれ」



情けない、娘が争い事に自分から首を突っ込んで居る事はシロ君から聞いている。その流れ上、娘と彼が敵対関係に成って居る事も教えられた。敵対関係に在る事は娘も知らないだろう。

彼と敵対している事が解かった時、娘は困惑するだろう、悩むだろう、裏切られたとすら思ってしまうかもしれない。だから、ソレのフォローをするのは俺の役目だ。

情けない事に、俺は十歳にも成っていない愛娘に希望を託さねばならない。









俺は・・・無力だ



















怪我をして一週間程経った朝、衛宮士郎は体の調子を確かめるように柔軟を始めた。朝日も昇りきらない時間に起きて身体を動かすのは健康的だが・・・少し早すぎる時間だ。

柔軟が終わると、予め用意しておいた夫婦剣を手に取り構える。相手も居ない戦闘訓練。仮想の敵は自分の可能性の一つ。只、打ち合う。

最初の夫婦剣は十合で破綻した

次は、二十五合で骨子が歪んだ

三度目に投影した夫婦剣は未だ健在。

其の侭打ち続けながら、意識を同調させる。如何に振るえば良いのか、如何に防げば隙を作れるのか、ひたすらに吸収し学ぶ。ソコに今の自分が使える技術を加える。「徹」と「貫」自分が使えるのは唯一この二つの基礎のみ。

他の技は見た事も在る。高町士郎の愛刀を『解析』した事も在るが・・・今の衛宮士郎では負担が大きすぎるし適正が殆ど無い。



(魔術、武術、両方共に過程に無駄が多すぎる・・・・)



口の端が僅かに上がり、苦笑が出た。そんな自分を戒めながら衛宮士郎は、剣を振るう。只ひたすらに剣を振るう



その姿を眺めていたフェイト・テスタロッサは、衛宮士郎が剣を止めるのを確認してから、声を掛けた。



「もう、良いの?」



「問題ない。・・・フェイト、心配しすぎだ。確かにこの間の事は予想外だったが、骨自体は二日ほど前に繋がったと言っただろう?」



「それでも・・・士郎は無茶する人だから・・・・」



「フェイト、一つ良い事を教えておこう。」



「良い事?」



「無理は我慢してする事だが・・・無茶は楽しんでする事ということだ」



「・・・・・・・・それは、無茶苦茶だよぉ」



「そうかもな・・・・さて、朝飯にしよう。」



衛宮士郎はそう言って部屋に向かった。屋上から見える景色に太陽の光が、広がり始めた。士郎はその景色を美しいと思った。その美しい景色の中で彼女達が笑っていられるなら・・・



(俺は・・・迷わない)



衛宮士郎はそう思い。屋上を後にした









鞄に荷物を入れ、マンションから出た衛宮士郎は左肩を大きく回してから歩き始めた。今日は、高町家では恒例と成っている温泉休暇の日なのだ。去年は諸事情で衛宮士郎と高町士郎は参加できなかったが、今年は全員参加の為か高町士郎が張り切っていたのを衛宮士郎は思い出した。



(こういう、楽しいと言える日に・・・・・か。)



背負った鞄の中でカタリと音が鳴ったのを聴くと、衛宮士郎は走り出した。一歩一歩、脚を踏みしめる度に、地面を蹴る度に、鞄の中で音がする。硬い物同士がぶつかり合う様な、カチリ、カタ、カタ、と音が鳴る。



(認めろ。衛宮士郎、今日が最高のタイミングなんだ。)



走り出したのは音を鳴らす為

音を鳴らすのは決意を固める為



今日、衛宮士郎は恩人に高町士郎に・・・一時の別れを伝えるのだ



護り、育む為に











朝食の時間、高町士郎は浮かれていた。その姿を見て家族全員が明るい気分になる。彼と衛宮士郎の関係を良く知っているからだ。自分達の前に唐突に現れた衛宮士郎と、家長である高町士郎は仲が良い。

自分達でも何故ソコまで仲が良いのかは理解できないが、二人で居る姿を見ていると見ている方まで楽しい気分になる。これから彼が来るのを待つ少しの時間、喜びを隠し切れないで居る父を見ているのも面白いと思いながら高町恭也はパンを齧った。



「恭ちゃん、なんだか楽しそうだね?」



「・・・そうか? 」



「そうだよ。ね、なのは」



「あむ・・・・むぐ・・・・うん。いつもより楽しそうだよ」



チャンと口の中の物を飲み込んでから話すあたり、礼儀正しいなぁ、と高町恭也は思いながら妹達に言われた事を自分の中で反芻する



自分は今、楽しいのだろうか?



何故、楽しいのだろうか?



少し考え込むようにして、コーヒーを一口飲み。直ぐに出てきた答えを口にした。



「シロ君と一緒に居るのは久しぶりだからな」



「ありゃ・・・大変だよ、なのは。恭ちゃんが素直だよ」



「あはは・・・・そこはノーコメントを通したいと思うのですが・・・」



「父さん、そろそろ新しい修練計画を立てようと思うんだが・・・如何だろう?」



「美由希の事はお前に一任してるからな、好きなようにしろ。・・・ただし、チャンと強くなれる様にな」



了解だ。と、言う高町恭也の声に高町美由希の抗議に声が上がった。





その姿を見ながら、ユーノ・スクライアは高町なのはの微妙な変化に気付いた。昨日の夜までは、笑顔でいながらも何処か暗い雰囲気が在った少女に今は無いのだ。まるで、最初に会った時のような周りを和ませる様な感じに成っているのだ。



(シロ君・・・か。僕は余り会ってないけど、いい人なんだろうなぁ)



自分を手伝ってくれている少女。高町なのはが信用し、信頼している少年。衛宮士郎に会ってみたいとユーノ・スクライアは思うように成っていた。彼が高町なのはに教えられた事を土台にして、衛宮士郎の人物像を想像する。



(なのはと同じ年で、身長は頭一つ分位高い。髪は銀髪で、料理とかが美味くて・・・・・)



カジカジと自分に出された食事を食べながら考えていると、会ってみたいという気持ちが強く成っていくのをユーノは感じた。



(楽しみだな・・・本当なら話してみたいけど・・・)



ユーノ・スクライアはそう思うと、自分用の食器の上に置いてある食べ物を掴み食べ始めた。











Side なのは



朝食が終わって十分位した頃に、シロ君が遣って来ました。久しぶり・・・と言うには短すぎるけど、私に取っては長い時間在っていなかったので喜びは倍です。それから五分ほど経ってから、すずかちゃん達が遣って来ました。

今回の温泉は、前回と違ってシロ君とお父さんも一緒なのでとても嬉しいです。



「それにしても・・・士郎。あんた学校休みすぎよ? 身内関係のゴタゴタが理由っていうのは聴いてるけど・・・もうチョット何とかならないの? あんたが居ない間、なのはが寂しがって大変なんだけど」



「そうだよ? なのはちゃん、シロ君が居ない時はボーっとしてる事が多いんだから。もうちょっと学校に来てくれないと」



「・・・こればかりはなぁ。出来るだけ早く片付けてるんだぞ? これでも」



「私、そんなに寂しがってないよ!!」



抗議の声を上げてみます。確かにシロ君が居ないと寂しいけど、そんなにボーっとはしてないです・・・・たぶん



「・・・・・・」



「・・・・・・」



あれ? なんで無言なの? なんで「こいつ、解ってないな〜」って目線で見るの!?



「如何なんだ? なのは。」



「ニャ?! えーと・・・アリサちゃん達が大げさに言いすぎなだけだよ? 本当だよ? 何も無いとこでコケたりとか、電柱にぶつかったりとかしてないよ?!」



あれ? ・・・・・もしかして、私



「自爆したわね」



「自爆したね」



「なのは、もうちょっと注意力を鍛えような」



残念賞だ。と飴をくれるシロ君を見ないようにして、飴を舐めました。

・ ・・・・・・・・飴が甘いな〜

あっ、それと今日のお母さんは安全運転です。お姉ちゃんが頑張ってくれてるから・・・







Side out



二台の車は進む。片方では子供達の笑い声を携えながら・・・・しかし、もう片方の車の中では少し重い空気が流れていた。



「・・・と、言う事で。氷室に関しては、もう心配は無いようです。」



月村忍は、今まで調べた事を高町士郎に報告した。話し終わった忍は、何処か肩の荷が無くなった様な感じが在り。心底安心したという雰囲気を出していた。それは、忍の隣に座っている高町恭也も同じような雰囲気を出している。

ソレを確認しながら、高町士郎は言った。



「そうか・・・と言っても、俺は知ってたんだけどな」



「「え?!」」



驚く二人を見て、「やはり、お似合いだな・・・早く結婚しないだろうか?」と思いながら高町士郎は口を開いた。



「驚くのは当たり前だと思うが、俺とシロ君がイギリスに行ったのは荒事方面の理由でだよ。勿論、最初はシロ君の親権をこの手に!! っと思って行ったんだが・・・」



ハンドルを回しながら、高町士郎は去年の七月の事を思い出しながら伝える事を選んだ。

最初は衛宮士郎の戸籍を受け取るためにイギリスに行った。これは本当の事だ。あの花見の夜、親友に頼んで少し無理をして貰い作ってもらったのだ。まさか、親権があっち持ちに成るとは思っても見なかったが・・・之は置いておく事にする。

イギリスに着いて親友の家に行った日の夜、親友の家の周りの彼方此方から殺気を感じたのが長期滞在の理由だ。親友が他人から命を狙われる理由は知っていたが、まさか未だに奴らから狙われているとは思わなかった。

そこから、自分も知らない事の方が多い。氷室を殺した事は、彼が帰国した時に聞いた。魔女の館の主と契約した事も聞いたが・・・・それだけだ。



(さて・・・取り合えず魔女の館の事は、控えた方が良いな)



高町士郎はそう思うと、サイドミラーで後続の車が離れていない事を確認しながら、口を開いた。









車が止まるとソコには少し老舗な感じを出している旅館があった。荷物を担いで外に出ると、何処かで視たような気がするなぁと。衛宮士郎は思った。自分の荷物を背負い、なのは達の荷物を抱える姿をみて他の人間はドコにそんな力が在るのだろう? と思いながら、高町士郎と桃子の後に続いて旅館に入った。途中、部屋が違うからと高町美由希と月村忍が衛宮士郎から荷物をヒョイと取って行った。



「取り合えず。部屋に荷物を置いてから、風呂に行くか・・・」









処代わり、フェイト・テスタロッサとその使い魔であるアルフは困惑していた。協力者である衛宮士郎とは、例外を除いて基本的に別行動を取るという事で合意しお互いが得た情報を共有しているのだが・・・・



「今回のは例外にはいるのかなぁ? 」



「いや、入ると思っても良いんじゃないのかいフェイト。だいたい、士郎とは互いの利益が合致しているんだから言えば手伝ってくれると思うよ?」



使い魔であるアルフにそう言われ、フェイトは少し考えて言った。



「うん。士郎は手伝ってくれると思う。でも・・・あの子はジェルシードが起きたら来ちゃうでしょ? 」



「それは・・・そうだけど。でも、士郎は言ったじゃないか。『必要な事だ』って」



「そうだけど・・・でも、それはやっぱり哀しすぎるよ」



「そうだけどさ・・・」



優しすぎる少女にアルフは同意するが、それはソレだと割り切り。主である少女、フェイトに言った。



「でもさ、しょうがないよ。私達は、ジェルシードを持って帰らないといけない。之は、フェイトに取って譲れない事じゃないか。それに、士郎はジェルシードをこの世界から排除っていうか・・・取り合えずこの世界の外に出したい。士郎に取って、之は譲れない事らしいし・・・」



「・・・うん。そう、だね。」



「あの子と士郎の事は本人達に任せるしかないよ。」



沈黙が下りた。アルフはその長い沈黙に耐えられなくなり、先の話題に上がった二人が居る旅館に目を向けて言った。



「あっ士郎が出てきたよ」



「だ、駄目だよアルフ。覗いたら」



「いや、良く見えないから大丈夫だよ? 」



「それでも、駄目だよ」



そこで、アルフは主の悩みを解決出来るかも知れない方法を思いついた。



「そうだフェイト!! あたしがあの子に釘を刺してくるよ!!」



「あっ、アルフ?! ちょっと待って?!」



アルフは、一目散に旅館へと向かった。ポツンと残されたフェイトは、オロオロとしていたが自身のデバイスであるバルディッシュが、言った事にそうしようと決めた。



「マスター、衛宮がフォローするでしょうから大丈夫だと思われます。衛宮への負担が増えますが、あの男なら大丈夫でしょう。後で謝罪すれば、許してくれると思いますが」



「・・・そうするよ。ありがとう、バルディッシュ」



お気遣いの紳士バルディッシュ。彼は自分が主と同じ語源を話せる様に成ってから、以前より喋るようになった。



処変わって、旅館のとある部屋では



「良い恭也。手はず道理にね」



「構わないんだが・・・・」



「なら、一緒に来る?」



「大丈夫だ!! 手はず通りにだな!!」



「そんなに、力強く言わなくてもいいじゃない・・・・・・・・バカ」





Side 衛宮士郎



ザァっと身体に付いた泡を流す。隣でも同じ音が聞こえ、「そろそろ入るか?」と言われたので「そうですね」と返し温泉に浸かった

じわ〜っと身体にお湯が沁みるような、少しくすぐったい感覚が広がり溜め息が出た



「・・・・気持ちが良いな・・・・なぁ、シロ君」



「・・・・そうですね・・・恭也さん。本当に・・・気持ちが良い」



カコーンという幻聴が聞こえそうな程に、ゆったりとした空間が心地良い。ソレは恭也さんも同じだったようで、何時もより顔がふやけている。



「シロ君・・・ありがとう」



「はい? 何がですか?」



「言いたくないのら、ソレで良いさ。ただ、日頃の感謝を言っただけだよ。・・・しかし」



「はい?」



「傷、増えたな」



恐らく肩の事だろう。如何視ても之は目立つ・・・



「ちょっと野暮用が在りまして・・・・」



「そうか・・・・」



恭也さんと俺の距離感は心地良い。別に、士郎さんやなのは達との関係が嫌なわけじゃないが。この付かず離れずの距離はやりやすいのだ、俺に取って。

ゆったりと湯船に使っていると、ポチャンと音が鳴った。ソレも連続して、何事かと思い当たりを見回しても特に異常は無い。

恭也さんが心無しかそわそわしている位だ、念のために立ち上がってみても特に何も無い。ソレが間違いだと気付いたのは、恭也さんに抱えられた瞬間だった。



「すまん、シロ君」



「ちょ、何を!!」



俺は、投げ飛ばされ。なんだか柔らかい物に埋没した





Side out



月村忍は高町恭也が手はず通りに動いた事を察知しニヤリと笑った。流石にあのポーカーフェイスも慌てふためくだろうと。ちょっとした悪戯心が疼いたから思いついたこの計画。無論、衛宮士郎に感謝しているのは嘘ではない。正直な所、感謝してもしきれない。そこで考え付いたのが女湯にご招待という、ちょっとオヤジ臭い発想なプレゼントである。



「お、きたきた」

そう言い、綺麗な放物線を描いて落ちてきた衛宮士郎を受け止めようとして・・・・・こけた。



ザパンと湯船の中でこけた忍は、慌てて自分の従者であるノエル・綺堂・エーアリヒカイトに「お願い!!」と声を上げた。ノエルは少しだけ驚いたが、直ぐに両手を広げて衛宮士郎を受け止めた。ビタンと痛い音が聞こえたがノエルが士郎を受け止めたと分かったので、忍は安心した・・・・が



パンパンパン



「ちょっと、ノエル!! 放して!! シロ君放して!!」



「へ? あ!! 大丈夫ですか士郎様!!」



昼の温泉での悲劇!! 胸に挟まれ窒息死?!



嫌なテロップが忍の頭に過ぎったが、如何やら大丈夫だったようだ。



「大丈夫ですか?」



「な・・・なんとか・・・」



「あは・・あははは・・・・ごめんね?」



ピキっと衛宮士郎のコメカミに青筋が浮かぶ。之はやばいと思った忍は、衛宮士郎が口を開く前に言った。



「それで・・・ノエルの胸は如何だった?」



キシシシと笑いながら言った忍に対して、衛宮士郎の反応は冷たかった



「・・・・・・ハァ」



「ありゃ?」



「大変ですねノエルさん」



「いえ、元気すぎる位がちょうど良いという物ですよ。士郎様。」



二人はなんだか分かり合っている。忍はちょっと泣きそうに成った。



「・・・・・コホン。実はねシロ君にいろいろとお礼をしようと思って、恭也に投げ込んでもらったのですが・・・役得でしょ?」



「もういいです。・・・俺からしたら何のお礼かも解らないんですから、そこら辺を話してくれないと解りませんよ」



三人とも、肩まで湯に浸かり喋る。忍の話を補足するかのようにノエルが単刀直入に言う



「氷室遊の事です。」



士郎は目を瞑り、ゆっくりと息を吐いてから言った



「アレは、偶然でした。遭遇したのも倒す事が出来たのも・・・だからお礼はいりません。詳細は桜さんと士郎さんに話しています。」



「ええ、それは知っているわ。だからこそよ」



「・・・・・・・」



忍は一旦言葉を切り、目を瞑ると士郎の目を見て言った



「私は月村忍。『夜の一族』を纏める党首なの・・・私達一族は、去年在ったすずかの事を含めて貴方に大きな借りがある。氷室の事もそう。貴方なら解っているはずよ? 氷室に関しては一族で決着を付けなければ成らなかった。」



「だから言ったでしょう? あれは偶然だったと。氷室の事は一族で解決しなければ成らなかったのなら、そういう事にすれば良い。いや、そうしなければならない。氷室の事を知っているのはこの場に居る数人と綺堂桜だけだ、貴方が今しなければならない事はなんですか?」



「・・・・・・そうね。解ってるわ。でも、貴方も悪いのよ?」



忍の言葉に士郎は困惑した。



「貴方は暗躍しすぎなのよ。私達が関わっている事だけでアリサちゃんの時のを含めて三件、ソレに月に約十日は国外。氷室の事を狙ってやったんじゃないかって疑ってしまうわよ。」



「それは・・・確かに俺の責「なのはー、早くしないと先に入るわよ?!」・・・・・・・・逃げていいですか?」



聞こえた声に、引きつった笑顔を浮かべて衛宮士郎は忍に問いかけた。

問われた忍も、引きつった笑顔で衛宮士郎に答えた。



「いいわよ?」



二人の考えはこうだ。士郎は自分が女湯に居るという、紛れも無い事実から巻き起こる騒動(精神的疲労&肉体的疲労)の後で(高確率で)来る(桃子&士郎からの)追求。そして最悪な事に恭也の暴走から逃げられないだろうという未来が待っているために、イロイロと先手を打ちたい・・・誰の所為で俺は女湯に居るのだろう



忍も似た様な事を考えた。ソコまでなら良かったのだ、ソコまでなら・・・・・。何故なら衛宮士郎をからかえるから、自分に不利益は無い。筈なのだ。だが、忍は考えてしまった。ソレが終わった後に報復が来たら如何しようと・・・・

一気に笑顔が引きつるのを自分で認識すると、忍は高速で頭を回転させた。



(シロ君を女湯に招待しようとしたのは私、でも実行したのは恭也。この時点で私達は同罪で共犯者。そうだ、この時点でだけ共犯者なのよ。なら・・・私がすることは決ってる!! ごめんね、恭也)



ソレと同時に士郎も考えを纏めていた



(くっ、自分の現状を考えれば非難を浴びる事は必至。それは如何でも良いが・・・その後に来るであろう桃子さん達の追及が精神的に痛い!! しかも、なのはが居る時点で恭也さんの暴走は目に見えているじゃないか!! そもそも、忍さんがこんな計画を立てなければ・・・いや、恭也さんが抵抗してくれれば!! そうだ、此処はなのはが居る事と温泉に混浴の場所が在る事を利用して・・・・)



奇しくもこの瞬間二人は同時に同じ結論を導き出し。たった一秒足らずの時間目を合わせるだけで、分かり合った。この時二人が出した結論はこうである



(恭也さん(恭也)を差し出せば良いじゃないか(良いじゃない)!!)



なんとも外道なチームが出来上がった瞬間である。この後の事は言うまでも無い。衛宮士郎は無事、男湯に逃亡し。月村忍は高町恭也を捕獲し。高町恭也は衛宮士郎の言葉に騙されたと思いながらも、混浴場で愛する人とイチャついた。



ちょっと納得がいかない、それでもチョット幸せな終わり方をしたのでした。









そして日が沈み、夜が来る。旅館に泊まっての夜、それも親しい友人知人が多いという事ならば当たり前のように酒が振舞われる。成人メンバーがアルコールを摂取している時、未成年メンバーはジュースを飲みながら談笑をしていた。

内容は同じクラスの○○ちゃんが隣のクラスの○○君に恋してる等の、少女達位の年頃なら殆どの女性が気になり、大好きな恋話。



その姿を少し離れて視ていた衛宮士郎はオヤッと思った。友人の一人であるアリサ・バニングスの顔が赤い。話に熱中しているうちに興奮したとしてもその赤さは、少し度が過ぎる。大人達が酒を飲ましたのか? と思ったがそれは無い。一番の危険人物であろう高町士郎は、妻である高町桃子とまるで新婚さんの様にくっついて息子と(将来の)娘と喋ってる。もう一度アリサ達が飲んでいる物を視認したがアルコールとは思えない。



アリサが持っているのは鮮やかな黄色にオレンジが少し混じった様な、オレンジジュース。

すずかが持っているのは麦茶か烏龍茶

なのはが持っているのはグレープジュースだ



そうやって、目で確認していると目が合った。



(なんか、ヤバイ)



士郎と目が合ったのはアリサだ。その目つきは悪い。というより、坐っている。



(あー・・・逃げられそうに無いな・・・この状況)



「だいたいからねぇ・・・アンタはフラグ立てすぎにゃのよ!!」



「アリサちゃん落ち着こう!! ねっ? ねっ?」



「私もそう思うなぁ〜」



「すずかちゃん?!」



ゆらりと立ち上がり、此方に歩いてくる二人。その二人を宥め様と頑張るなのは。



(ああ、俺の味方はなのはだけか・・・・)



衛宮士郎は少し遠い目をしながら、そんな事を思った。



その後、アリサ・バニングスが電池が切れた玩具のようにコテンと眠りに落ちるまで衛宮士郎は正座し続けた。



因みに、アリサが飲んでいたのはカシスオレンジ。ぶっちゃけカクテルだった









Side 衛宮士郎



まだ少しだけ痺れの残る両足を進めながら、俺はなのは達の部屋の戸を開けた。すずかとなのはは先に部屋に戻っていたが、今はすずかしかいない。静かな寝息が聞こえる。最初から敷かれていたのであろう布団の右側に、ゆっくりとアリサを横たえて布団を掛けた。



「まったく・・・さっきまで文句を言っていたと思えないな」



俺はそう言った後、部屋を出た。自分の部屋に戻る最中に之から如何動くかを具体的に考えながら歩いていると、俺の部屋の前に酒瓶片手に恭也さんが居た。



「シロ君、ちょっと付き合ってくれないか」



断る理由は無かった。フェイトから連絡が来たが、俺という存在を明かすにはまだ早いと判断したからだ。



「良いですよ。」



時々ギシっと床が軋む音を聞きながら俺と恭也さんは、旅館の中庭が見える縁側で腰を下ろした。ずいっと御猪口を渡された。恭也さんが酒を注ぐ。互いに何も言わずに乾杯をした。一気に飲むとすっきりとした辛さが口に広がった。



「なぁ、君は・・・シロ君は・・・何故戦うんだ」



ぽつりと恭也さんは俺に言った。



「・・・最初は、理想の為でした。でもソレが壊れた後は家族の為に成りました。そして、今は・・・」



「今は?」



「笑顔の為・・・ですかね。」



「そうか・・・笑顔か」



「はい・・・恭也さんだって忍さんには笑顔で居て欲しいでしょ?」



「確かに・・・あいつは笑ってないとアイツらしくない。」



「怒られますよ?」



「何、シロ君が黙っててくれれば問題ないさ」



それもそうですねと笑った。俺は今の情景を目に焼き付けた、無くさない為に。

その後、数回だけ杯を重ね部屋に戻って今日持ってきた物を抱えて士郎さんの部屋に向かった。予め時間を伝えておいたので、桃子さんは今頃美由希さんや忍さん達と一緒に居るだろう。

抱えている小箱の中身は、八影をベースにして作った小太刀。名は無い。士郎さんの部屋に向かう途中、ジュルシードを確保したと連絡が入った。



Side out



その日の夜。日付が変わるか変わらないかという曖昧な時間帯に、衛宮士郎は姿を消した。



「・・・・もしもし? 今から大丈夫か?」





男だった少年は、最悪を回避する為に動き続ける。それが誰にとっての最悪なのか? 

昔の彼ならば、誰かの為と答えただろう。

しかし、今の彼ならば・・・・・

それが報われるのか、報われないのか。誰も知らない。





あとがき



そして冒頭に戻る。BINです。まだ生きています。

待っていてくれた方、遅くなって御免なさい。



「擦れ違ってるわね」

はい。擦れ違っております。なのでアリサさん。

「なに?」

その振り上げた拳を収めてください。

「ふん!!」

おふっ!!・・・・・・・さすが・・・・

「それで? どうなるの」

いや、特に変わりませんよ? ただ、士郎が明確に敵対するだけであります。

「矛盾は?」

その為のすれ違いです。マム!!

「ふ〜ん」



・ ・

・ ・・

・ ・・・

「あれ?おまけは?」

ないですけど? 何故に?

「いや、二度あることは三度あるって言うし」

あ〜、ないです。ソレよりもぐだぐだに成っているのでこの辺で!!

「また見てください」

それでは



二人の士郎の冒頭のやり取り。
小箱が気になりつつも、士郎の苦悩が。
美姫 「シロは既に何かを決断しているみたいだしね」
一体、この先どうなっていくのか。
美姫 「なのはにとっては辛いかもしれないけれどね」
どんな展開が待っているのか、次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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