戦いの原初ともいえる闘争において、最も頼られたのは『力』である。

ソレは、腕力で在り、脚力で在り、知力で在り、速さで在り、勇猛さで在り、言葉にすれば十以上に並べられる。

単純な暴力は強力で、知略を巡らした暴力は残酷である。

そして、現代に在る闘争・・・戦いでも良いが肉体を使い命を賭ける闘争において、必ずといって良いほどに含まれるのは筋力。

筋力は人を裏切らない。個人差で付きにくい、付きやすいは在るものの鍛えれば鍛えるほど、酷使すれば酷使するほどに力は付く。だが、限界が在る。その限界を超える為に古代より使われた方法は、脳の抑制を外し百パーセントの力を発揮するという方法がある。

しかし、之は使えない。単純に人の体は、その人自身の全力に耐えられるようには出来ていないからだ。もし、耐える事が出来れば子供が単純な暴力・・・力で大人を容易く殺す事が出来る。

もし、その状態を肉体的ポテンシャルが人を超えるような生物が使えるとしたら?

結果は見えている。勝率を見れば九割九部九厘で人は負ける。

何が言いたいのかというと、今まさに衛宮士郎はその様な出鱈目と戦っているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、日も大分沈んだ時間に衛宮士郎は目を覚ました。彼は何時も通りに体中を濡らした嫌な汗を落とすために、シャワーを浴び軽い食事を取って柔軟を始めた。

 

(フィアッセさんのコンサートが始まるのは後・・・三十分後か・・・俺が動くのはコンサートの終わる二十一時、ソレまではあの人が護っていてくれる。)

 

それは彼にとってありがたい事であり、哀しい事である。

 

(全てが終わるまでは会えない・・・か。あの人も不器用だな)

 

そう、思ってから彼は柔軟を止め。自らの装備の点検を始めた。彼の相棒は自己メンテナンスの機能が有り、問題が在れば自分で何とかするので軽い点検ですませる。問題が無い事の最終確認の為『解析』を使い、状態の確認を終える。

次に蒼いシートを床に敷き、手袋を嵌めて彼の体には不釣合いな黒い大型拳銃を解体し磨く。

この大型拳銃は正式には売られていない。何故ならばこの拳銃は彼が始めて一から作った擬似概念兵器で有るからだ。形状はPfeifer Zeliska(パイファーツェリスカ)に近い回転式。全長560mm、全高220mm、最大幅75mm、銃身の長さが354mmで重さは弾丸を込めずとも7,2キロの重量を誇る、化物拳銃である。この拳銃は人が撃つ為に造られてはいない、撃てば手首が砕け、肩は抜けるし反動で後ろに転がる。(この兵器の詳細はまた違う機会にしよう。)を整備し終えた時にはコンサート終了の五十分前に成っていた。

衛宮士郎は紅い外衣と鉄と革で出来たボディアーマーを身に着けると、相棒の名を呼び部屋から消えた。

 

 

人気の無い雑木林の中、五百メートル以上離れている会場を身ながら眼球の強化を行う。衛宮士郎が純粋に強化できるのは今の所、眼球のみに限定される。純粋な身体強化までは至ってないのだ。後十年もすれば使えるかも知れないが、望み薄なので努力はしても期待はしない。

木の上に上り周りを見渡す。眼球を強化する事により水増しされた衛宮士郎の視力は、三キロ先の一軒屋の瓦を数えられる。

会場と一定の距離を保ちながら見回る。一回りして、時計を見るとコンサート終了十分前。アンコールなどに対応したとしても誤差は五分程だと思い、衛宮士郎は会場の関係者出入り口の方へ向かい・・・立ち止まった。

刺し貫くような殺気。完璧に挑発と捉えられる殺気を感じる。しかも断続的に放たれる殺気は、こちらに来いと誘われていると嫌でも解る。

だからこそ気に成る。そんな事をしなくても攻めてくれば戦う事に成るのだ、意味が無い。複数で要人を護衛するのは当たり前すぎる事だし、遠距離から攻撃・・・狙撃などされればその場で終わる可能性が高い。こちらにもその危険性は高いが、メリットが少なすぎる。

目を凝らす。一キロ程先の民家の上に男が見える、そこで目が遭った。その事実に驚きながらも、相手の出自に見当が付く。

 

(混血・・・顔つきからして西洋系・・・不味いな)

 

よく視ればその顔に見覚えが在った。そこで決断する。衛宮士郎は今時の携帯にしては大きい携帯を取り出し電話先の相手に伝えた。

 

「すみません、これから戦闘に入ります。・・・交代は無し、その代わりに魔女の館に連絡を・・・奴らは手を結んだと・・・・・・はい、はい・・・問題無いですよ。今から奴らの出鼻を挫きます、奴を消せばある程度行動を制限出来る。・・・ソレでは」

 

携帯は仕舞わずに砕く、足は残さない。衛宮士郎は一目散に男の居る方へ向かった。

 

 

 

二分も掛らない時間で辿り着いた場所に居た男は、衛宮士郎を見ると嬉しそうに笑い。口を開いた。

 

「始めましてだ、『魔術師』。俺はお前を探してた」

 

「『魔術師』とは・・・大層な二つ名を付けられた物だな・・・ジャイロ・K・ホーエン。緋の一族の党首が次男・・・武闘派のNO2だったかな?」

 

男・・・ジャイロは笑みを深め言う

 

「良く調べてるじゃねーか。嬉しいぜ魔術師殿・・・姿無き殺し屋、馬鹿げた距離から狙撃を得意とし、何も無い所か幾つ物刃物を取り出す。俺達とは違う、馬鹿げた化物。」

 

お互い動かない。二人とも世間話する様に話している癖に隙がない。

 

「正直、俺はアンタを尊敬してるぜ・・・ソレが餓鬼でもだ。あんな事されちゃぁ、化物の血を引いてたって死ぬわな。・・・どうやった? 気付かれづに頚椎を折るなんて芸当。」

 

「さて・・・敵に手の内を明かすようなバカでは無いのでね。」

 

ククっとジャイロは笑って、表情を変えた

 

「そうだろうさ、アンタはバカじゃない。だからこそ聴きてぇ・・・ありゃ、技を掛けた対象の自重で折れてる。投げ技だと思ったんだが・・・納得がいかねぇ。見るからに怪力を持っているようには見えないし・・・俺等に近づこうとすれば臭いで解る筈だ。」

 

「だから、手の内を明かす様なバカではないと言っただろう? この戯けが」

 

「ソレもそうだ!!」

 

戦いの合図は無い。ただお互いが略同時に駆け出した。

衛宮士郎は予め投影して腰に差しておいた夫婦剣を振るい。

ジャイロは鋭く伸びた爪を振るった。

 

夫婦剣は宝具と呼ばれる神秘である。Cランクであるがそこらに在る刃物より切れる。刃自体は普通の刀剣類より、少し切れ味が良い位だが刀よりは堕ちる。怖ろしいのは『斬る』という『概念の重さ』だ。

結果、一刀目であっさりと爪を切断した。続く二刀目は後ろに跳ばれ避けられたが、そこで得た情報は衛宮士郎に精神的安定を与える。

 

「は、ははは、アハハハハハハハハハ!! 良いねぇ、良いぞ。それで良い!! 

    ・・・・・・・次は使って行くぞ?」

 

そう言ったジャイロは構えを取った。ソコから放れた拳は最短で放たれ、刃に触れる前に戻され、衛宮士郎は吹っ飛んだ。

刃に拳をぶつける様な愚は冒さない。ソレは当たり前の考え、ソレをフェイントにして蹴りを叩き込んだ・・・が

 

「防いだか・・・感触が硬すぎたな・・・だがソレで良い。なあぁ、そう思うだろう?」

 

「ぐっ・・・戦闘狂め」

 

ジャイロは笑う、笑いながら拳を振るい、蹴りを放つ。士郎はソレを払い、受け流す・・・決して防ごうとはしない。

まず、速さ違う。膂力が違う。ソレを含めて何よりも使い方を知っているのが、士郎に取っては厄介だった。

移動しながらの攻防は、精神を削る。既にリミッターは解除済みで三十秒は経つ。

故に、肉を切らせて骨を絶つ。

衛宮士郎は文字の如く必殺の拳に、身を晒す。

だが、ジャイロも馬鹿ではない。戦闘経験もあるだろう。それよりも本能から来る直感が、結果的に双方を救った。

ジャイロは拳の軌道を無理やり変え、衛宮士郎はその拳を受ける事は無かった。

ジャイロの代償は、軌道を変えるために自らの腕を空いていた拳で折った骨折と手首から先を持っていかれた事による激痛。

衛宮士郎の代償は、精神疲労と心的隙と切り裂いたジャイロの手首から流れ出た血液が顔に掛かり視界を塞がれた事による、視界減退と微弱な痛み。

 

互いの動きが止まり、沈黙が降りる。その沈黙を破ったのはジャイロの、本当に嬉しそうな笑い声だった

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 初めてだ!! この痛み!! 屈辱!! 何よりもこの心の昂ぶり!! 最高だ、最高だぞ魔術師!! あの化物を殺しただけの事は有る。でもな、俺は負けるのが大嫌いなんだ。」

 

ジャイロはそう言うと、自らの上着を破り捨て碧色の宝石の付いたネックレスを飲み込んだ。

 

「この宝石はよ、一昨日喰った餓鬼が大事そうに持ってたんだ。綺麗だったから付けてたんだがよ・・・驚いたぜ。付けた瞬間に『力』が湧いてきた、夢想した、憧れた、嫉妬した、あの男が持っていた『力』と同じ物を感じた!! 自分自身からだ!! 付けているだけであの男・・・氷室と同等位の力が手に入った。この身に直接取り入れたら如何成るかなんて想像できねぇ!!」

 

衛宮士郎に取ってジャイロがした行為は最悪だった。ジャイロが飲み込んだ宝石の名はジェルシードという、あの歪んだ願望機に似た機能を持つロストロギアと呼ばれる物だ。

人の願望とは人に制御できる物ではない。これは断言できる。もし、ジェルシードに意思と呼べる物が在れば制御できるかもしれないが、そんな物は付いていない。

あの研究所では残留思念と少年の意志が発動させていた。己を護るために、少年を護るために、その場に居た全ての人を殺して

それから二日ほどして、海底の底に有った宝石はソレを取り込んだ魚を巨大化させた。近場の魚を全滅させて、取り込んだ魚さえも崩れていた

ジャイロは死ぬだろう。アレは正しい使い方をしなければ破滅を与える。だがその前に、今この地域居る人は全滅するだろう。

そこまで考えるのに約三秒。衛宮士郎は全力で殺しに行った、同時に自分の失策に気付く。仕切り直しの為に距離を取った事が仇に成ってしまったからだ

 

一秒

 

ジャイロの肉体が倍に膨らみ縮小した

 

二秒

 

体毛が伸び、輪郭が歪んだ

 

三秒

 

衛宮士郎の刃がジャイロの首に接触する瞬間に止められた。

瞬間、衛宮士郎は危険を感じて身を捻り錐揉みしながら吹き飛んだ。

 

GiGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

 

其れは歓喜の咆哮か、痛みの咆哮か、誰にも解らない。化物に成ったジャイロは既にジャイロ・C・ホーエンではないのだから

 

 

 

吹き飛ばされた衛宮士郎は、混濁した思考を纏めようとしていた

 

(なんだ、なにをされた?)

 

相棒であるデバイス・・・ダンが戦闘補助として地面までの落下速度を遅くさせてくれているので、体勢を整えながら考え着地する

 

「ぐっ・・・八番と七番を持っていかれたか・・・」

 

体を解析し、実際に触って確認を取ると馬鹿な、と思ってしまいそうになる思考を跳ね除け、納得する。

 

「完全に化物に成ったか・・・ジャイロ。」

 

距離はは目算で五百と四十。途中、意識が数秒跳んだでいたのを思い出し相棒に聞く

 

「ダン・・・大丈夫か? 修復率は九割前だった筈だが」

 

(問題有りません。彼方の意識が跳んでいる時に使ったので、例外が適用されましたから・・・それよりも、戦闘補助の許可を)

 

「駄目だ。万全ではない状態で使えば、また破損する。それでは間に合わなく成る可能性が出てくる」

 

(しかし)

 

「此方も問題なしだ。念の為に補強の方を頼む。流石に動く度に激痛が奔れば、精度が落ちる。」

 

そう言いながら、衛宮士郎は腰ではなく脚に取り付けた銃をカバー事引き抜いた。

 

同調開始(トレース・オン)、――――同調終了(トレース・オフ)

 

(マスター、今の状態では二発です。)

 

「了解、相棒」

 

魔力が奔る。二十七の撃鉄が全て落ち、大型拳銃に魔力が満ちる。刻まれた術式が薄く光、稼動する。

込める弾丸は二発の銀弾。何の加工もされていないが純銀製というだけで、之は魔弾となる。

古来より、吸血鬼、狼男と呼ばれる怪異は銀に弱いとされる。それは、事実で有り。事実では無い。しかし、人々がそう信じている。伝承されている。故にこの銀弾は在る条件を満たせば、魔弾となる。

この世界において、神秘を知りそれを操る者は只一人で在るが故に満たせる条件。

元の世界に住む魔術師達が羨むだろう状況に居るのだ。衛宮士郎は、この世界での魔術効率が上がる。神秘を独占しているからだ。独占しているが故に衛宮士郎が知る魔術基盤は、存在してしまう。それが聞きかじりの物でも、教会の物でも・・・・

 

「私が殺す、私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない我が目の届かぬ者は一人もいない。」

 

唱える聖句は怖ろしい程に早口で有るのに、その言葉が一つ一つはっきりと聞こえる。

今や本能を剥き出しにしているジャイロは、危険を察知したのか動き出した。

瓦が弾け、アスファルトが凹み抉れる。驚くのも馬鹿らしくなる様な力を発揮するジャイロを見ながら言葉を紡ぎ・・・引き金を引く。音はしない。銃に付けたままにしているカバーは、『防音』の術式を掘り込んでいる一回きりのサイレンサーだからだ。

眼前に迫った爪ごと吹き飛ぶジャイロ、之で終わったと銃を再び脚に取り付ける。

 

「馬鹿みたいな玩具だな、魔術師・・・・」

 

顔を上げると化物が嗤っていた。

 

(あの距離で外された!?)

 

無傷ではない左膝は皮で繋がっている、出血もしている。しかし、その瞳には理性が戻っている。

 

「再生が遅いか・・・お前は間違いなく『魔術師』だな・・・だけど、俺の勝ちだ。」

 

放たれる必殺は、人では無い体に成ってしまった為に外れる。筋肉・骨格が変われば使い方も変わるからだ。跳び引いた衛宮士郎に掠るだけ終わる。しかし、それは必殺。掠めただけで衛宮士郎は、塵屑の様に吹き飛んだ。

 

ガシャン

 

瓦が割れる

 

ブチン

 

電線が千切れる。

 

ザッ、ザッ

 

アスファルトに擦れる。

 

止まった体が痛みを訴え、意識がはっきりとする。

眼前に迫る死は、再び狂気に支配された瞳を爛々と輝かせていた。

 

「治りが遅い・・・腹が減る。・・・・栄養が足りないか・・・・魔術師、少し待っていろ腹を満たしてから・・・確実に殺してやる。この上からいい臭いがするしなぁ」

 

衛宮士郎にそう言って化物は飛び上がった。

 

「奴の本能に救われたか・・・ダン、奴は何処に」

 

(マンションの上の階に・・・一つ捕捉するならば、彼方の住むマンションです。装備を整え直すのも手かと)

 

「愚問だな・・・」

 

(彼方ならそう言うと思いました・・・骨格補強は持って二分です。それを過ぎれば使用者の生命維持の為に強制転移・治療を始めます。それと・・・飛ぶ位はさせて貰います)

 

「すまないな・・・ダン。飛行魔法、許可。一分でケリを付ける。」

(了解、マスター)

 

そう言い、衛宮士郎は空に飛んだ

 

 

 

Side フェイト・テスタロッサ

 

「お疲れ様、フェイト」

 

「うん、アルフもお疲れ様」

 

私は、アルフの言葉にそう返した。それにしても、今日は疲れた

 

「それにしても何なんだい、この結界はさ。」

 

そうだ、この突然現れた結界は何なのだろうか? 知らない術式に理論、全てが理解できない。この世界には魔法文明がない筈なのに、この結界は町を丸々一個包み込んでいる。お陰で広域探索魔法の効きが悪い、その所為か何時もより多く魔力を使った。母さんの為に一刻も早くジェルシードを集めなきゃ成らないのに。

そう思いながらソファーに座った時だった。最初に気付いたのはアルフで私は呆けていた。

 

「フェイト!!」

 

「えっ?」

 

急にベランダの方に飛び出したアルフに驚く私、そして窓ガラスの割れる音と共にアルフが吹き飛んだ。

 

「アル「おっと、動くなよ御譲ちゃん。綺麗に食べれないだろう」な、何?!」

 

私の目の前にいたのは、狼と人を合体させたような生物。

それは、私を食べると言った。有り得ない、こんな生物がいるなんて教えられてはいない。私は混乱しながらもバルディッシュに手を伸ばそうとして、無い事に気付いた。視線を下に向ければ化物の向こう側に在った。取りに行きたくても動けない。漠然と、私はこれから死ぬんだなぁと思った。

アルフは大丈夫だろうか? 出来れば生き延びて欲しい。

お母さん、御免なさい。私はもう駄目みたいです

ああ、でも・・・やっぱり最後にお母さんの笑顔をもう一度・・・

 

「見たかったなぁ」

 

生暖かい湿った息が迫る。

その時、私は見た。

薄紅色の魔力光を纏って、月の光に反射する鈍い銀色の髪と紅い外衣を付けた人を

 

でも、私はソコで目を瞑った。私の死からは逃れられない。獣の牙は眼前に迫っていたし、その人も幻覚だと思ったから。次の瞬間、私の顔に生暖かい液体が掛かった。

 

あれ・・・痛くない。そっと目を開けると人が居た。頭一つ分位背の高い男の人が・・・私の顔に付いたのは何だろう? 手で触るとそれは赤い色をしていた。

私の血ではない、それじゃ誰のだろう? 考えが追いつかない。目の前の人は肩から爪が飛び出しているのに、痛くないのだろうか? 全然関係ない事を考えてしまう。男の人は、前を向いたまま言った

 

「ごめんな」

 

私はなんで謝られたのかが、少し解らなかった

 

 

Side out

 

「馬鹿じゃねのか? 折角後回しにしてやったのに」

 

ジャイロが言う。それは、自分の絶対有利を確信しているからである。ジャイロの爪は衛宮士郎の左肩を貫通している。出血量も馬鹿に成らないしこのまま腕に力を込め、引き裂けば衛宮士郎は即死するからだ。

そんな絶対といえる確信を、衛宮士郎は言葉と共に右手を振るって否定した

 

投影開始(トレース・オン)

 

右手に現れた曲剣を振るう。己の肩を貫いた爪を腕ごと左腕で固定して

左肩は砕けている。左腕を動かせたのは相棒の骨格補強と、痛みへの慣れが在るからだ。

 

ブシュッ

 

とジャイロの右腕を切断する。「あ?」と気の抜けたジャイロの声が印象的だと、衛宮士郎は思い。反す手で投影した曲剣・ハルペーを投げ付けた。

距離が近すぎた為に、ハルペーを避けきれないと判断したジャイロは左腕を盾に、大口を開き衛宮士郎に噛み衝こうとする。噛まれればその部位が飲み込まれるだろうその口に、衛宮士郎は握りこんだ拳ごと腕を突っ込んだ。

気管を圧迫する腕の所為で、口が閉じれない。

握った拳が食堂と気道を圧迫し、それが原因で起きる嘔吐感が口を閉じる事を許さない。

そして、勝ちを宣言する

 

「さようならだ、ジャイロ。Wake Up DAN

 

衛宮士郎の策は、少女を庇い左肩を貫かれた瞬間から念話でダンに教えられていた。

まず、左肩と腕を犠牲にジャイロの右腕を殺す為の準備をする。

次に、ハルペーの投影と同時に腕を切断する。ハルペーを選んだのは屈折延命の効果が在るからである。

反す刃を投擲に使ったのは、ジャイロの行動を限定する為。離れれば銃弾で、接近するのならば攻撃手段を限定する為。

人狼・・・狼という因子を内包するのならば噛み付きをしてくる場合の方が高いと、予測したからだ。

口の中に腕を突っ込んだのは、ジェルシードの封印をバレない様に行う為というのも在るが。庇った少女が異界の住人の可能性が高かったからだ。

周囲の索敵、情報収集は戦闘の基本で在り。生き残る為に必要な行動。

故に、衛宮士郎は黄金色をした金属辺を発見しており。相棒のダンもソレが何なのかを教えている。

その結果の判断である。ロストロギアが在るのならばソレを回収する事を目的とした管理局とは別の魔導士がいる。自分がソレを数個確保して居る事は凶とは成っても、吉とはならない。

衛宮士郎は別に少女を庇わなくても良かったのだが、年端もいかない少女見殺しにするという行為は許容できない。それがトラウマに近い心的障害だと衛宮士郎は気付いていないのだが・・・いまは関係ないので置いておく。

 

(封印準備完了。マスター何時でもいけます)

 

Seal(スィール) Punishmet(パニッシュメント)

 

粘つく器官の中で指に力を込める。放たれた薄紅色の閃光は対象を封印し、回収する。

ソレと同時に相棒を待機状態に戻し、体内に突っ込んだ腕を起点に黒鍵・・・土葬式典と風葬式典を投影する。何もしなくても自重により体内に刺さる黒鍵は、ジャイロに体を石化し風化させる。

割れたガラスの隙間を通り抜けて吹いた風に、ソレは流され消えていった。

 

後に残ったのは、呆然とする少女と腹を押さえてよろけながら起き上がった女性。

それと今にも倒れそうな、重症を負った少年の三人だけだった。

 

 

 

 

運命は交差し始める

 

 

 

 


あとがき

 

バトルとシリアスは俺のキャラじゃねぇ・・・BINです。

相変わらず下手だなぁと目に涙・・・才能が欲しい。

 

さて、出会いがしらで退場寸前な状態ですが。やっとこさ、本編始動といった感じです。

この三人は如何要った関係になるのか?





士郎とフェイトが出会う。
美姫 「この出会いは何をもたらすかしらね」
いやー、またしても次回が楽しみでなりません。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます!



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