目に映ったのは見知らぬ天井だった。

 

驚きは無い。知っていたから

 

右手の中に在るモノが話しかけてきた

 

<目を覚まされましたか、衛宮士郎>

 

やはり驚きは無かった。彼女とは既に会っている

 

「あっ・・・・・・き・・・・」

 

声を出そうとしたが喉が渇きすぎて出ない。更に血が足りない、体中の筋組織がボロボロすぎて動く事も出来ない。

 

<声が出ないのは当たり前です。念話に切り替えなさい>

 

<これで良いか?>

 

彼女は満足したように言う

 

<上出来です。ですが覚えていますか?>

 

<・・・ああ、覚えている。君の名を呼ぼう。君の目的も達成しよう。>

 

夢の中、彼女の存在意義を理解した。

 

夢の中、彼女の危険性を理解した

 

俺は彼女に恩があり、彼女は俺を必要としている。

 

<ええ、そうでなければ彼方を助けた意味がありません。しかし、私が言っているのは彼女達の事です>

 

胸が・・・心が痛んだ

 

<如何やら覚えている様ですね。安心しました。契約は後でで結構です。今は体を休めてください。声帯周りの方は回復し始めていますので、ゆっくりと喋ってください・・・My,master

 

彼女が引っ込んだのは、人が近づいて来ているからだろう。そう思い首を何とか入り口の方に向けて

 

「おはよう御座います。それと、ありがとう御座います」

 

と入ってきた二人に挨拶とお礼を言った。

 

 

Side 士郎(父)

 

扉に手を掛けた瞬間に聞いたのは「おはよう御座います。それと、ありがとう御座います」という声だった。俺は扉を開け少年が目を開けているのを見て、ほっとした。桃子も笑顔で少年を見つめている。

とりあえず、自己紹介から始めるとしよう。名前を知らないと互いに呼びづらい。

 

「おはよう。俺の名前は高町士郎、君を発見して此処まで連れてきた者だ。隣にいるのが妻の桃子、それで君の名前は?」

 

「俺の名前は・・・・衛宮士郎です。字は武士の『士』に新郎の『郎』で士郎です」

 

驚いた・・・まさか同じ名前とは

 

「それで衛宮君、君は「すみません、出来れば名前の方で」そうか、名前で呼ぶ次いでにそれは何故かな?」

 

士郎君は辛そうに言った

 

「『衛宮』の性は貰った物で、今は・・・・・・名乗る資格が在るのかが解からないんです。本当に『衛宮』を背負っても良いのかが・・・」

 

「士郎君、喋るのがキツそうね・・・・はい、お水」

 

何時の間に水を汲みに行ったのだろうか? 士郎君はコップを受け取ろうとしたのだろう、布団の中が微かに動いたがそれだけだった。

 

「士郎君、まさか・・・」

 

士郎君は苦笑しながら言った。

 

「神経などに異常が在るんじゃないですよ。チョット度が過ぎる筋肉痛です。」

 

「そうか・・・それじゃあ聞かせてくれるかな? 君が如何いう存在なのかをっと、その前に」

 

俺は成るべく体に負担を掛けないように、士郎君の上体を起こし水を飲ませる。士郎君の体に触って解かったが、彼の体が筋肉痛だというのは本当だった。士郎君が水を飲み終わると、俺はゆっくりと彼を横に寝かせた。

 

「・・・・・・荒唐無稽な話になりますけど・・・宜しいですか?」

 

「何、君の話が荒唐無稽でも信じられるさ。君は空間を裂いて出てきたんだ、君が凄腕の暗殺者や、魔法使いでも信じられるよ」

 

「魔法使いだったら素敵だわ〜」

 

士郎君は俺と桃子を凝視して少し笑って言った

 

「俺は魔法使いじゃなくて魔術使いですけど・・・そこら辺も含めてお話します」

 

 

 

 

 

彼の口から紡がれたのは如何使用も無く純粋で、愚かで、歪だからこそ真っ直ぐな理想を目指し、自分以外の全てを亡くした。

 

正義の味方を目指した愚かな男の物語だった。

 

最初に記憶と心を焼き尽くされた、終わりと始まり

 

次に新しい心と家族をくれた、憧れとの出会い。そして永遠の別れ

 

新しい家族・・・妹分との出会い

 

巻き込まれた外道達との戦争

 

そこで気付いた妹分への思い

 

理想と思いの狭間での葛藤の末、理想を選んだ事

 

戦争の協力者の従者が彼自身に教えた秘密、それ故にその従者を打ち破れた事

 

己が正義を貫く為に殺した少女

 

打ち砕かれ、故に気付いた己の過ち

 

その少女と義理の姉とも呼べる二人の魔法使いがくれたチャンス

 

彼は涙無き泣き顔で語った。まるで懺悔するように

 

 

 

部屋に沈黙が満ちた。最初にその沈黙を破ったのは妻だった。

 

桃子は優しく士郎君を抱き起こし、涙を流しながら言った

 

「辛かったわね・・・悲しかったわね・・・私に士郎君の気持ちは全部理解できないけど、もう良いのよ? 彼方は泣いて良いのよ。」

 

たぶんソレが、その言葉が限界だったんだろう。

 

彼は、士郎君は泣いた。

 

ごめん、ごめん桜・・・と

 

十分ぐらいだろうか、士郎君も桃子も落ち着き。俺は士郎君に聞く

 

「それで・・・これから如何する積もりだい?」

 

「探します。俺に取っての一を」

 

彼の意思は固い、まるで鉄の様に。だからこそ聞く

 

「君には此方でのコネも戸籍も持っていないんだよ?」

 

俺がそう言うと彼は当たり前のように言った

 

「地下に篭りますよ。どの世界でも地下に行けば、戸籍もコネも何とか為りますから」

 

如何しよう・・・本当なら彼がそこで言葉に詰まって、俺が家の子に成らないか? と聴き済し崩し的に家の子にしようと思ったのに・・・・

 

「そんな事しなくて良いわ。だって家の子に成れば万事OKですもの」

 

救いの手は身近な所から差し出された。

 

「いえ・・・其処まで迷惑を掛けられませんし」

 

「迷惑なんかじゃないわ、寧ろ有難い事よ? ね、あなた」

 

「その通りだ。もう一人位子供が欲しかったしな。」

 

その後も何かと遠慮する士郎君を桃子丸め込み、士郎君を家の子にする事が決定した。

 

なのは達に士郎君を紹介するのは体がちゃんと動く様になってから、という事も決まった

 

序に士郎君の事をシロ君と呼ぶ事にした。というより決定した。

妻には逆らえない。その時のシロ君の目は同情に満ちていた。彼とはトテモ仲良く成れそうだ。

 

此処からは日記形式でお送りします

 

 

次の日、恭也に魔術云々の事は省いて話した。恭也は溜め息を付いて、「俺からは何も言えないよ、母さんが決めたんだろ?」と言われた。

当たり前の事だが、恭也も妻には勝てない。だって俺の息子だもの・・・

シロ君はまだ自力では動けないようだ

 

二日目、シロ君に食事を届けに行くと恭也とシロ君が話し込んでいた。何時の間に仲良くなったのだろうか? 食事の序に聞いてみるとシロ君の男としての尊厳を恭也が護ったらしい。桃子さん、恭也には話してないけどシロ君は元十八歳だよ? 外見は子供でも中身は青年だよ。お風呂に入れようとするのは勘弁してあげてくれ。

 

三日目、士郎君曰く少しずつ精神が肉体に引っ張られて一年内には年相応になってしまうらしい。ぶっちゃけ、桃子さんを止めてくれと言われた。

ごめん無理。ここは、恭也に頑張って貰うしかない。シロ君は自力で起き上がれる様になった。

 

四日目、朝の鍛錬の後、シロ君と一緒に風呂に入った。シロ君と風呂に入るのは、俺の日課に成りつつある。驚いた事に筋肉の付き方が戦闘者として理想的な付き方をしていた。

何でも、記憶の追加経験が体に現れているとの事だ。少々羨ましいと思ったがシロ君に「知らない筈の人との夜の経験まで刻み込まれたいですか?」と言われた。ソレを考えると、かなり無神経な事を考えてしまったと反省した。

シロ君はギコチナクだが、少し歩けるように成った。

 

五日目、美由希にバレタ。恭也がなのはに伝わるのは防いだ様だ。え? 何でなのはに言わないのかって? サプライズの方が面白いし、初対面が布団の中というのも第一印象としては微妙だからだ。取り合えず美由希の訓練メニューを追加する事にした。恭也にも了承ずみである。

シロ君の体の回復具合は良好だ。完全回復したら模擬戦をしようと思う。

 

六日目、部屋に入るとシロ君が瞑想していた。とても深い処で集中しているようだ。途中恭也も来たので、一緒に見学をする事にした。恭也が居なくなった後、シロ君に聞いたが魔術の鍛錬をしていたそうだ。是非見てみたい。

 

七日目、なのははデビットの家に止まりに行っていないので、シロ君を朝の鍛錬に恭也が誘った。

美由希と模擬戦をして貰った。かなり苦戦していたがシロ君が勝った。恭也も試合をしたそうにしていたが却下する。御神の技を知らないシロ君が御神の技を使う美由希に勝ったという事実が、少し信じられないが久しく血が滾るのを感じた。

シロ君に御神流を教えるのも面白いかもしれない。

 

昼食をシロ君に作ってもらったが美味かった。美由希は凹んでいた。

シロ君と話し合い、学校は来年から通う事が決った。

恭也と話し合い、シロ君が望めば御神流を伝授する事が決った。というより、恭也は只、シロ君と戦いたいだけではないのだろうか? シスコンの上にバトルジャンキーな息子の将来が不安になった。

 

明日から俺がシロ君と稽古する事にする。彼の体作りに協力する形でだ。あの子は少々危うい、そして焦っている。たぶん一を探しているのだろう、彼にとっての一を。俺はそう思い布団に潜る、明日の朝はなのはとシロ君が初めて会う日だ。





ようやく回復した士郎。
美姫 「いよいよ次回はなのはとご対面なのね」
果たして、士郎は一を見つけ出せるのか。
美姫 「うーん、次回の展開も目が離せないわね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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