こっそりと家に戻った士郎の行動は、自分でも驚くほどに早かった。

まず、血塗れの少年を客間(今は使われていない)に寝かせ。妻である桃子に、もしかしたら近い内に親戚の子が来るかもしれないと伝え、息子が何か聞こうとしても煙に巻いた上で客間に近づかない様に釘を刺し、客間に寝かせた少年の体を拭き、血を取って布団に寝かせ(恭也の古着を着せて)何事も無かったかの用に食事・仕事を済ませた。

 

そして、異変はその夜に起こった。

 

士郎は寝る前に、名も知らぬ少年の様子を見に客間へと向かい。戸を開けた瞬間に異変を察知した。

 

その異変の名は血臭。

 

それも、まだ出たばかりのような新鮮な血の香り。

士郎は部屋を見回し、自分が察知できる範囲ギリギリまでの気配を探し不審者が居ない事確認すると、恐る恐る布団を捲った。

 

噎せ返る様な濃厚な血の臭い、血塗れのシーツ、塗れた事により光沢を見せる服、士郎は急いで脈を測り、呼吸の有無を確認し、体温を確認するために少年の額に手を当てた。

 

結果は正常

 

士郎は一旦台所に向かい鋏を持って客間に戻り、少年に着せた服を切って少年の体を見た。

そして、少年の体に何かしらの異変が起きているのを確認した。

少年の体には朝、体を拭いた時には確認できなかった傷痕が体中に在った。

ソレも、昨日今日に出来た物とは思えない様な古傷が体中に、何かの罰の様にそこかしこに在った。

 

「刀傷に弾痕・・・・・この細かいのは何かの破片で切れたのか・・・・」

 

士郎は口に出して、頭を振った。今はそんな事は関係ないと。そして、自分の背後に気配が在る事に気付き振り向いて後悔した。

 

「あなた、お話は後で聴きます。早くその子の手当てをしましょう」

 

真剣な面持ちで、妻・・・桃子が立っていたからである。

 

 

 

 

 

 

三十分ほどして士郎達、高町夫妻は少年を新しい布団に寝かせた。

 

「それで・・・この子の名前は?」

 

「解らない。桃子、最初に説明した通りにこの少年は朝からずっと眠ったままんだ」

 

士郎は桃子に少年を拾った経緯全てを話した。そう、全てを話した。少年が空間から出てきた事も、最初から血まみれだった事も

 

「恭也達には話したの?」

 

「いや、話してはいない。」

 

「どうして?」

 

士郎は桃子の質問に如何答えようか迷った。話さなかった理由を挙げるとすればソレは『勘』としか言い様がないし、その勘もこの少年に嫌な物を感じ取った為でもない。むしろ初めて見た少年に、親近感を感じている自分が居るのだ。

故に思った、自分ならばこうして欲しいと

 

「すまない・・・説明する言葉が見つからない」

 

桃子は微笑み、言った。

 

「それなら、仕方ないわね」

 

士郎・・・夫が自分達の事を思ってそうしたと解かっているからの微笑み。士郎はそれを見て敵わないなと思い、同時にこの人と一緒になれた幸福に感謝し、次に、妻の口から出た言葉に唖然とした

 

「でも、話して欲しかったわ。この子は家の子になるんですもの」

 

「えっ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!!」

 

そこからの妻は強かった。士郎もその考えは在ったが急すぎると説得したが、少年を拾った経緯を聞いた桃子は士郎の言葉をのらりくらりと避け、時に無駄に説得力のある言葉で撃退した。士郎は桃子に何とか喰らい付き「少年が起きた時に事情を聞いてから決める」と言う事で妥協してもらった。

 

二人は話も終わったので、一息ついてからもう一度少年の様子を見ようと話ながら部屋を出ようとして骨の折れる鈍い音を耳にし、振り向いた。

士郎は少年の額に油汗が浮かんでいるのを見ると、直ぐに布団を剥ぎ取り体に触った。

 

「折れてる」

 

桃子はその言葉を聴くと急いで包帯を取りに行った。

 

士郎は、少年の腕を触り折れている箇所を確かめる。しかし、少年の体から聞こえる音に焦り始めた。

 

二回目の音は脚・・・一緒に筋肉の切れる音がした

 

三回目の音は胸・・・少年の口から呻き声が聞こえた

 

四回目は肩・・・少年は苦しみながらも声を上げる事は無かった

 

五回目

 

六回目

 

 

 

 

 

桃子が戻ってくるまでに士郎は、八回音を聞いた。奪い取る様に包帯と添え木代わりの棒を腕に当てようとして、士郎の動きが止まった。

 

「・・・・・直ってる?」

 

士郎の言葉に桃子は少年の体を触り

 

「熱っ!!」

 

その異常な熱さに声を上げた。

 

士郎は、もう一度少年の体に触れ自分達は幻覚を見ているのだろうか? と思った。少年の体は熱かった。人の限界を超えていると確信できるほどに熱かった。

更に少年は汗を掻いていなかった。

 

「・・・ちが・・・おま・・・じゃない」

 

少年の声に二人は、少年の顔を覗き込んだ

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

夢を見続けている

 

その状況が理解できるのは、夢の中の自分は俺の知らない知識を持っているから

 

夢の中の自分は、俺の知らない技術を持っているから

 

夢の中の自分は、セイバーを愛していたから

 

夢の中の自分は、遠坂を愛していたから

 

夢の中の自分は、桜の隣にいたから

 

夢の中の自分は、ロンドンにいたから

 

夢の中の自分は、事務所にいたから

 

夢の中の自分は、教会にいたから

 

全部俺であって、俺じゃない

 

俺という衛宮士郎は、桜という少女を愛し・・・・・見殺しにしたから

 

俺という衛宮士郎は、遠坂凛という少女を自分の意思で殺したから

 

違うのだ。だから入ってくるな

 

抵抗しながらも刻まれる傷痕

 

刻まれる知識・技術

 

そして、受け入れたくない・・・知りもしない記憶

 

それらが刻まれなくなった頃・・・俺は出会った

 

宝石と呼ぶには無骨すぎて、けれど強き意志を持ったモノに

 

そして、知った。自分の今の状況、彼女達が行使した魔法。

 

全ては起きなければ始まらない。

 

起きなければ全ては始まらない

 

少ししか共に入れなかった、仲間の力に癒されながら

 

無数の衛宮士郎が入り込んできた自分を保ち、排除しながら

 

俺は言わなくてはならない。名前も知らない少女に、見知らぬ自分に声を掛け続けてくれた優しい少女に

 

『      』と

 

 

Sideなのは

 

私は二日ほど前からおかしな夢をみます

 

その夢というのが悪夢なのか如何かはわかりません。

 

それでも忘れる事が出来ないので、お父さんとお母さんに相談すると物凄く詳しく聞かれた上に、夢に出てくる人が男の人だという事を当てられてしまいました。

 

アリサちゃんやすずかちゃんに相談すると、心配されました。ちょっと反省です。

 

お兄ちゃんにも相談しようと思ったのですが・・・二日ほど前からピリピリしてて話し辛かったので、お姉ちゃんに相談しました。

お姉ちゃんは「運命の人かもよ?」と言いましたが、銀髪の人など身近に居ないのでソレはないな〜と思いました。

 

そして、三日目の今日見た夢は今までの夢とは違いました。今までの夢では私はその人に話す事が出来ませんでした。声を出しても聞こえず、見て居る事しか出来ず動く事も出来ませんでした。

 

今日見た夢では話しかける事ができたのです!! その男の人は銀色の髪をしていて、紅い服を着ていました。最初に見た時は苦しんでいました。次に見た時は何かを後悔していたと思います。今日見た夢では目を瞑って立っていました。だからでしょうか? 私は此処三日の中で一番心配になりました。今まで心配しない事は無かったけど、一番心配になりました。まるで死んでしまっているように見えたからかも知れません。だから「大丈夫ですか」と言いました。

今までの夢とは違い、声が自分にも聞こえたので私はビックリしました。男の人は私に言いました

 

「・・・そうか・・・・君はずっと声をかけていてくれたね。ずっと聞こえていたよ。心配を掛けてしまった様ですまない」

 

男の人はそう言うと、ゆっくりと近づいてきました。身長からしてお姉ちゃんと同い年位かな〜と考えてしまったのは、私が混乱しているからでしょうか? 

男の人は私の頭を撫でて言いました

 

「でも、もう大丈夫だから・・・俺はもう立てるから・・・君が苦しむ事も悲しむ事も無いんだ。だから・・・■■■■■」

 

私は男の人の目を見ました。鉛色をした強い目でした。でも・・・とても寂しい目でした。だから私は余計に悲しくなりました。この人は嘘を言ってないけどでも嘘を言っていると漠然と解かりました。だってこの人は立っているだけで、進めてないんです。独りなんです。私はソレを教えてあげたいのに、この人の事を知りたいのに、言葉が出なくてとても嫌でした。

 

最後の言葉は聞こえませんでした。私が夢から覚めたからです、そして夢から覚める瞬間私が見たのは

 

無限に広がる荒野と

 

数える事も馬鹿らしくなる位に、大地に突き刺さった剣でした

 

 

 

 

 

Side士郎

 

朝食の時、末娘のなのはが目を真っ赤にして降りてきたので息子が暴走した

忍さんという彼女がいるのに、このシスコンっぷりは如何したものだろうか?

桃子は「あらあら」と言った後、息子を沈黙させ朝食を食べながらゆっくりとなのはに事情を聴き始めた。なのはもゆっくりと話し始めた。

なのはは言った。悲しい夢を見たと、それを聴いた瞬間、俺は・・・たぶん桃子も昨日相談された事だと思いつけた。なのはは感受性が豊かな子だ、恐らくあの少年の事を感じ取っているのだろう。

そして、話を聞いている内に解かった。あの少年は俺や桃子が想像できない程の物を抱えていると。

なのはは話が終わると時計を見て「遅刻だぁ!!」と叫び家を飛び出していった。途中、ガン!! っという音と「ニャァー!!」と言う声が聞こえた・・・・・・大丈夫だろうか?

 

 

 

時は少し戻る

 

場所はある一家の客間

 

布団の中にいた少年が目を開けた

 

少年の名は衛宮士郎

 

愛した少女を切り捨てた青年で在った者

 

共に闘った少女を己が正義の名の元に殺した者

 

 

運命は此処から狂いだす

 

在り得なかった歯車が加わり廻り始めた

 

正史では在り得なかった出会い

 

正史では起きなかった危機

 

それら全てが始まった

 

 


 あとがき

 

なのはの喋り方というか語り方? はこれで大丈夫だろうか? と思うBINです。

リリカル、とらハ、やり直しor見直したんですけど・・・

ここ違うんじゃね? という所が有ったら指摘してください。

宜しく、お願いします。





いよいよ士郎が目を覚ますのか。
美姫 「どうなっていくのかしらね」
楽しみだな。
美姫 「本当よね。次回も待ってますね」
待ってます!



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